※このコラムは『子宮恋愛』12話までのネタバレを含んでいます。
■毒を片手に厨二病ムーブを始める恭一
まき(松井愛莉)と山手(大貫勇輔)の関係を探偵経由で知った恭一(沢村玲)。さらには教え子の里菜(濵尾咲綺)が山手の娘だということも知り、進路指導を口実に家まで呼び出します。
そこからの恭一が、まぁー自己中サイコパス野郎でした。「進路のことで話があるっていうのは嘘。中島さんに見せたいものがあるっているのは本当なんです」と、毒を見せびらかします。「これで致死量あります。でも心配しないでくださいね。苦しむ時間はほんの僅かなので」と、山手とまきへの怒りを『里菜への殺意』として向けてきたのかと思いきや、「見ててくれませんか。僕がここで死ぬ姿を」と、思ってたんと違う形での歪んだ復讐を始めます。
これじゃあまるで厨二病に冒された痛い大人ですが、どうやら恭一は、寄島(吉本美憂)との約束がきっかけでこの自殺を企てたようなのです。
■めちゃくちゃ価値のあった恭一の童貞
学生時代、病気により子宮を全摘出することになった寄島からの、「子どもを作らないでほしい」という突拍子もない提案。それに対して、童貞を捧げた勢いで、二つ返事で永遠の契りを交わした恭一。
寄島への愛からか、なぜかその約束にだけは忠実で、どんなに妻・まきをぞんざいに扱おうとも、そこだけは守り切ろうとしていました。ところが、怒りに任せて恭一がまきを襲ったことで、まきがまさかの妊娠。結果として恭一は寄島の約束を破ることになってしまいました。
そこで交わしていたもう一つの約束「嘘をついたら死んで償うよ」が発動します。
愛する人に童貞を捧げたくらいで、ここまで一生を賭けるほどの約束を交わす理由が全く理解できないのですが、恭一の童貞にはそれだけの価値があったようです。
寄島には「ごめん。俺大事な約束破っちゃったみたい。でもちゃんと償うよ」と自殺を仄めかす連絡を入れたため、寄島が大慌てで駆けつけます。死なれても寄島も「責任取れねーわ!」って感じでしょうし、死ぬなら里菜を巻き込まずに1人でやれよですし、なんやかんやどこまでも臆病で自己中心的な男です。
■里菜が不憫でならないアラサー達のカオス
切腹で罪を償う侍のような、江戸時代的思考で贖罪をしようとする恭一でしたが、すんでのところでまきと寄島が駆けつけ、演技といえどもめちゃくちゃ痛そうなまきのビンタがクリーンヒット。メガネも激しく吹っ飛びます。
「バカじゃないの!?」というまきの説教と共に恭一は思いとどまるのですが、そこに山手の娘・里菜も同席していたため、恭一が「説明できんのかよ。自分と彼女の父親の関係!」と、自分が騒動の中心だったはずなのに、突如矛先をまきに向けます。
絶対にここは一旦解散して、また後日、とすべきカオスすぎる場ですが、まきが馬鹿正直に「あなたのお父さんと私は真剣にお付き合いしています。ごめんなさい」と、挨拶もそこそこに里菜に告白を始めます。
里菜にとっちゃあ、突然担任が目の前で服毒自殺始めるわ、と思ったら嫁登場してビンタかますわ、その嫁が自分の父と不倫してますと告白始めるわで情報量多すぎて脳みそ爆発しそうになります。
■アラサー達の無秩序を収めた冷静で大人な17歳
しかし里菜は一切動揺などせず「聞いてました。もしかしてとは思ってたけど、本当にそうだったんだ」と、落ち着き払って全てを受け入れています。
まきと恭一の関係を表すかのように、枯れているチューリップを見て、「球根が生きていれば多分また芽が出てきますよ。根っこって意外と丈夫だから」と、またみんな1からやり直せることを暗喩するような言葉と、「先生の授業結構面白いからできれば死なないでほしいかな」という言葉を残して、里菜は去っていきました。
無秩序なアラサー達のカオスな状況を収めたのは、冷静で大人な対応をした17歳という……。里菜が状況を受け入れられず発狂していてもおかしくないというのに。里菜に感謝しかありません。
■この物語の元凶は歪んだ寄島の上昇志向
まきは自分の考え方が大きく変化したことを恭一に伝えます。人のせいにして、嫌なことから逃げて消去法で決めていた自分を改め、「だから恭一も逃げないで」と、未来に向けて恭一と腹を据えて向き合うことを宣言します。
そして、「いい加減恭一の呪縛解いてあげてください」と、寄島にも声かけします。
すでに寄島から「約束は忘れて」と言われていたにも関わらず、勝手に引きずって約束を有効にしていたのは恭一なので、寄島も被害者ではあるのですが。
「新しい約束しよう」と寄島は恭一へ、お互いが別々の道で幸せになることを提案します。「子宮がなくなった後も、ずっと恭一のことが好きだったの。私の子宮恋愛は恭一だった」と、最後の告白。寄島の子宮なき今、この言葉に様々な思いを感じてしまいます。
しかしこの物語、全ては寄島の歪んだ上昇志向が生んだ悲しきストーリーな気がしますね。寄島がお金に執着せず、自分の気持ち、いや子宮に従い恭一とそのまま結ばれていたら、恭一が世間体のためにまきと結婚することも、モラハラも、この自殺騒動もなかったわけですから。
■全員が新たなスタートを切った気持ちが表れている、隠れた演出達
山手は妻と無事離婚しましたが、残念ながら2人が一緒になることはなく、まきは自分1人で子どもを育てていくことを決意します。
夢に見ていた自分の子どもを自らの手で幸せにするのだと、まきの表情は希望に満ち溢れていました。最後は、2人の関係が始まったゲームセンターで、あの時と同じように、いや、それ以上に晴れやかな気持ちであのゲームを楽しみ、爽やかなお別れを。
恭一は自分できちんと家事をこなし、自立しているようです。チューリップはきちんと水やりをしているようで、新たな芽を出していました。彼が生まれ変わった証なのでしょう。
寄島は道ゆく子どもに傘を褒められ、「あげる」と、それをその子どもに託していました。あれはおそらく、あの日恭一に貸した赤い傘。その思い出の傘を手放すことが、恭一との決別を表していたのでしょう。
それぞれが執着や惰性から卒業し、自分の新たな道を歩むラストとなりました。全員が新たな幸せを歩んでいくことは間違いないのでしょう。
(やまとなでし子)
※『子宮恋愛』はTver、FODにて配信中