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「好きだったものを嫌いになりそうになる瞬間もあった」アニメプロデューサー・黒﨑静佳さんの自分らしい“選択”

12月5日より公開の映画『Fate/Grand Order -神聖円卓領域キャメロット- 前編 Wandering; Agateram』。『ソードアート・オンライン』や『鬼滅の刃』など、数多くの人気アニメを手がけるアニプレックスによる注目作だ。

今回は本作の公開を記念して、プロデューサーを務める黒﨑静佳さんにインタビュー。最新作の『キャメロット』は「働く女性にも共感してもらえる“選択”がちりばめられた作品」と話す黒﨑さんに、制作の裏側や作品の見どころ、さらにプロデューサーとしての働き方などを伺った。

プロデューサーの仕事は「なんでも屋」

Fate/Grand Order -神聖円卓領域キャメロット-』は、全世界累計ダウンロード数5,700万を突破した人気スマートフォン向けRPG『Fate/Grand Order』(以下、『FGO』)の第六章にあたるエピソード。西暦1273年のエルサレムを舞台に、『Fate』シリーズの生みの親である奈須きのこさんが紡いだ壮大な物語を、前後編の劇場版で展開する。

黒﨑さんはプロデューサーとして2019年に放送されたTVアニメ『Fate/Grand Order -絶対魔獣戦線バビロニア-』も並行して担当していたため、両作品のコンセプトを常に意識していたそう。

「『FGO』はTVシリーズと劇場版という複数のメディアで展開しているので、最初から明確にコンセプトの違いを共有していました。ひとつ指針を決めておかないと、大事な決断もできない。作品のテーマやコンセプトに沿って制作を進めるよう、常に心がけています」

アニメプロデューサーの仕事は交渉や資金調達など多岐に渡り、作品によっても任される範囲が違う。そんな仕事を、黒﨑さんは「なんでも屋」だと表現する。

「トラブルを解決したり、制作に必要なお金を集めたりすることもプロデューサーの大事な仕事です。アニメーション制作に関しては制作会社のプロデューサーさんがメインで動いてくれるので、私の役割はクリエイターさんのやりたいことが実現可能かジャッジすること。ビジネスとして正しいか、原作者さんや作品の意図に反していないか、ユーザーの皆さんの需要と齟齬がないかの3点を軸に判断しています」

手段は違っても、求められる結果は同じ

『キャメロット』は『FGO』屈指の長編エピソード。だからこそ、方向性の決定やシナリオ制作には特に時間をかけたという。

「映画はTVアニメとは違い、没入感のある場所で体感してもらう媒体です。映画館で集中して観るに値する内容かどうか、なおかつ初見の方でも理解できる方向性かどうか熟考し、かなり時間がかかってしまいました。

映像表現や物語の展開方法も、メディアの特性によって異なります。原作はスマホのアプリゲームですが、映画はアニメーション。原作で人気のあるシーンを、アニメならではの演出でどのように魅せるかなど、各分野のプロが意見を出し合いながら決めていきました。

ただ、ゲームをプレイし終えたたときと映画を観終わった後の体感に齟齬があってはいけない。手段は違っても、求められる結果は同じなんです。キャラクターたちに対して「おつかれさま」、「ありがとう」と思えるラスト。彼らの選択が報われてよかったという気持ちを、劇場版を観たときにも感じてもらえるよう作り込んでいきました」

シナリオは何度も推敲を繰り返し、途中で白紙に戻したこともあった。切り口を模索していたときにヒントとなった作品が、2017年に公演された舞台『Fate/Grand Order THE STAGE -神聖円卓領域キャメロット-』だったという。

「長編エピソードを約3時間で描き切った舞台版の実績には助けられました。舞台は円卓の騎士の一人・ベディヴィエールの目線で物語を描いているので、非常にまとまりがあります。観劇後の気持ちもゲームの読後感と同じだったので、この方法しかないと思いました」

「あの選択は正しかったのか」と考えさせられる作品

『キャメロット』には『アーサー王伝説』でおなじみの円卓の騎士が登場する。王のため、ときに反発し、ときに手を取り合いながら生きた騎士たち。その姿は、マイナビウーマン読者のような働く女性にも通じる部分があると黒﨑さんは語る。

「ベディヴィエールをはじめ、本作のキャラクターたちはみんなが選択を繰り返しているんです。ベディヴィエールは王の最期を看取った騎士で、自分の行いが正しかったのかずっと思いを巡らせています。

現実世界に生きていても、「あの時の選択は本当に正しかったのか」と考える瞬間はあるのではないかと思うんです。会社員であれば、自分の本心とは異なる選択を迫られる機会もありますよね。ベディヴィエールたちの選択とその是非は、『マイナビウーマン』読者のような働く女性にも共感してもらえるポイントではないかなと思います」

「前編と後編を通してベディヴィエールの選択とその先の景色が描かれているので、ぜひ見届けてほしい」と話す黒﨑さん

「『Fate』シリーズをまったく知らないスタッフがたまたまダビング中の映像を観て『おもしろかった!』と言っていたので、初めての方でも十分楽しめると思います。あとはイケメンなキャラクターもたくさん登場するので、そこも満足してもらえるかと(笑)」

注目シーンを伺うと、「前編のラストシーンです」との回答。原作ファンも驚くような演出が用意されているという。

「本作は前後編ですが、どちらも1本の映画として成立させる必要がありました。“こんな視点で描くこともできるのか”と意外性のあるエンディングになっているので、原作ファンも楽しみにしていてください。ラストシーンの後、坂本真綾さんの主題歌が流れる頃には、きっと放心状態になっていると思います。坂本真綾さんもとても作品への思い入れを持ってくれている方なので、素敵な主題歌を作ってくださいました。ぜひお客様には、泣いて混乱して(笑)劇場から出てきてほしいです」

アニメの可能性を感じてプロデューサーに

黒﨑さん自身、人生でさまざまな選択をしてきた。アニメプロデューサーになろうと決めたのも、とある作品との出会いがきっかけだったという。

「大学では映画について学んでいたので、将来は映画の制作会社に就職したいと考えていました。ただ、私が好きだったジャンルは、時代劇といった、現代とは異なる世界を描いた作品。実写映画の会社に入っても、きっと需要は少ないだろうと思っていました」

「そんなとき、アニプレックスの前身であるSPE・ビジュアルワークスが手がけたOVA『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚- 追憶編』を観たんです。そして、アニメで時代劇を描いていることに感動しました。アニメであれば、時代や世界にとらわれず物語を描ける。そんな可能性に魅力を感じ、アニメ業界を目指しました。また、これからはアニメ市場がどんどん大きくなるだろうと思ったことも決め手です。頑張った結果が数値化されることにやりがいを感じるので、仕事をするからにはそういう将来性のある分野に関りたいなと」

入社後は営業を約1年半、プロモーターを約1年半担当。すぐにアニメ制作に携われずもどかしさを感じたものの、今では「経験してよかった」と実感している。

「プロデューサーの仕事を始めて約8年が経ちます。私は入社当初からアニメを作りたいと言い続けていましたが、最初に任されたのは営業とプロモーター。当時のアニプレックスには、営業経験のあるプロデューサーがいなかったんです」

「おかげで今ではほかの部署の仕事内容も分かり、コミュニケーションが円滑になりました。こちらから出せばいい指示も分かりますし、アイデアも提案できるのでありがたいです。

ただ、プロモーターをしていたときは辛い時期もありました。営業やプロデューサーは頑張りが売り上げに表れるのでモチベーションが保てますが、プロモーターは成果が見えにくい。暗中模索しつつもプロデューサーをやりたいと言い続けていたところ、たまたま『Fate』シリーズなど私の好きなTYPE-MOON作品の新企画が立ち上がったので、担当として抜てきしてもらえました」

大切なのは「選択肢を増やすこと」

アニメプロデューサーは多忙な仕事だからこそ、プライベートの時間も大切。オンオフの切り替えを意識しているか尋ねたところ、意外にも「切り替えるのが苦手なんです」と黒﨑さんは語った。

「私はオンオフの切り替えが苦手なので、無理に切り替えなくてもいいかと開き直りました。プロデューサーはプライベートの経験と仕事が結びついているので、簡単に切り離せないんです。シナリオの打ち合わせのときに、昨日見たドラマの表現がすごく良かったから参考にしようと提案することもあります。

アニメやゲーム業界で働く方には、もともとアニメなどが好きな人が多いです。つまり好きなことを仕事にしているので、自分の主観を活かしたジャッジができます。むしろオンオフを切り替えると作品に対してドライになってしまいそうで。好きなこと以外はまったく興味が持てない性格なので、もうこのままでいいか、と思っています」

好きなことを仕事にしている黒﨑さん。仕事へのやりがいはもちろん感じているものの、「選択肢を増やすことは大事」だと念頭に置いている。

「好きなことを仕事にしているからこそ、失敗したときのダメージも大きい。ときには好きだったものを嫌いになりそうになる瞬間もありました」

「だからこそ自分の“好き”を守るために、プライベートでは別のメディアの作品に触れ、違う価値観や方法を能動的に取り入れています。考え方がひとつだけだと否定されたときに道がなくなってしまいますが、別の考えがあれば心の余裕になる。選択肢を増やすことは大事だと感じています」

2020年は『キャメロット』でデトックスを

最後に『FGO』ファンやマイナビウーマン読者に向けて、メッセージを伺った。

「『キャメロット』は前後編の2本立てなので、前編の段階ではカットされたシーンが気になる原作ファンもいるかもしれません。ただ、後編と併せてきちんと成立するように作っているのでご安心ください」

「初めて『FGO』を知る方は、エンディングで驚かせてしまうかもしれません。ラストは衝撃的だと思いますが、諦めないでほしいです。後編では数々の伏線が回収されますし、想像していた以上のエンディングをお見せできると思います。

また、2020年は外出自粛などでかなり抑圧された1年だったと思うので、年末は『キャメロット』を見てデトックスをしてみては。手に汗握って、泣いて、心を解放してください」

大好きな作品だからこそ、多くの人に魅力を届けたい。黒﨑さんの言葉の端々からは、そんな真摯な姿勢が伝わってきた。ちなみに黒﨑さんのお気に入りキャラクターはベディヴィエール。18歳の頃プレイしたPCゲーム『Fate/stay night』の頃から思い入れがあったため、『FGO』に実装されるとすぐにレベル、スキルなどをマックスまで解放した。好きなものへの情熱は、これからも留まるところを知らない。

Fate/Grand Order -神聖円卓領域キャメロット-』は仕事やプライベートなど、さまざまな場面で迫られる選択を後押ししてくれる作品。物語から、そしてキャラクターの生き様から感じた気持ちを、心のよりどころにしてほしい。

提供:アニプレックス

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