大人がメンブレした時の処方薬『がんばらないことをがんばるって決めた。』書評
仕事、結婚、からだのこと、趣味、お金……アラサーの女性には悩みがつきもの。人生の岐路に立つ今、全部をひとりじゃ決め切れない。誰かアドバイスをちょうだい! そんな時にそっと寄り添ってくれる「人生の参考書」を紹介。今回は、SNSやインターネットに疲れてしまった人の処方薬『がんばらないことをがんばるって決めた。(考えるOL著/KADOKAWA)』を、ライターのミクニシオリさんが書評します
私たちの生活にインターネットとSNSは欠かせない存在となったけど、たまにものすごい「ネット疲れ」を感じてしまうことがある。
部屋の中で一人じっとしていても、とめどなく入ってくる情報。特にSNSは、知りたくもない凄惨なニュースや人の不幸、マウント、主張の激しい誰かの自撮り、上から目線の恋愛ハックなどがごちゃまぜで頭の中に入ってくる。「うるせ〜!」とスマホを放り出したくなる時もあるのに、スマホを見るくらいしかやれることがない自分が嫌になる。
SNSには、やさしい言葉だけが転がっているわけじゃない。本当はそういう時に本を読むべきなのかもしれないけど、頭の容量がいっぱいの時はそれすらつらくなる。そんな時に手に取る本には、深い教訓なんていらない。頭をそっと休めてデトックスしたい時は、誰かの人生をちょっと借りるのが一番いいのだ。
【この本を読んでできるようになったこと】
・「SNS疲れ」「スマホ依存」からの卒業
・学生の頃のような、たまに本を読む習慣
・他人の目を気にしすぎず、少しだけ楽に生きること
SNSで見るよりも、疲れない言葉が身に染みる
それなら映画を見るのでもいいじゃん、と思うのだけど、スマホで映画を見ようとするとどうしても通知が気になる。こういう時はベッドから出ないで済む範囲で、なんとか夜まで「休脳」させて寝ちゃうのが一番いいのだ。
『がんばらないことをがんばるって決めた。(考えるOL著/KADOKAWA)』は、私のことをよく知る友人が「読み終わったから、あげるよ」と言ってくれたものだった。真面目で責任感が強い長女タイプの私は、そのタイトルを見て「それができたら苦労しませんがな」と本を開いていなかったのだけど、模様替えをする元気すらもなかったのでなんとなく本を読み始めた。
著者の考えるOLさんは、匿名・顔出しなしで活動するインフルエンサーだ。企業で営業職として働いている20代の女性のようだが、柔らかくやさしいことばがSNSで反響を呼び、現在はエッセイストとしても活動しているそう。
本には彼女の柔らかいツイートが「書かれるに至った経緯」とも言えるような、考えるOLさんが日常で感じたことが書かれている。名前にもあるようにOLで、社会人である彼女が日々感じる疲れや生きにくさはとてもリアル。どのページを開いても「分かる〜」でしかない。
考えるOLさんはSNSでも発信しているけれど、同じようなことを伝える言葉も、本で見るのと、SNSで見るのでは印象が違うように感じた。前述したようにSNSでは有象無象の言葉が流れてくるので、あたたかい文章に触れたとしても、次の誰かの言葉にかき消されることがよくある。
情報もコスメや服と同じで、ありすぎると逆に疲れてしまうことがよくある。選択肢が多すぎると一つを吟味できないし、全部本気で好きになれずに終わってしまう。でも本なら、一人の人間の言葉しか入ってこない。
SNSで「どっちの意見」も聞いていると頭がすごく疲れるけど、自分と近い人の話をずっと聞いているだけなら疲れない。そうか、本ってこういう時のためにあるんだなあ。SNSは自分にも発言や思想の自由があるはずなのに、相手もこの広いインターネットのどこかにいると思うと、どこか落ち着かないのだ。
考えるOLさんの日々は、何者でもない自分の日々と似ている。仕事で関わるクライアントの対応で仕事が嫌になったり、友人の生活が羨ましくてモヤモヤしちゃったり。そういうことを感じるのは自分だけではない、とこんなに安心できるのは、自分をモヤモヤさせる可能性のある人間がここにいない、と確信できるから。
自分の気持ちを大事にしたくなる
この本は、インターネットでよく見かける「改善メソッド」に疲れている人にもぴったりだ。いわゆるメソッド本ではないので、本を読んだら何かが分かるわけではない。だからこそ、この本は読んだ人がどんな感想を持つのかが大切だと思う。その感想こそが、その人が本を読んで分かったことなのだ。
私の場合は、1日の終わりに残るライフポイントが、今までより10ポイント高くなった。文字数も多くないので、嫌なことがあった日はこの本を手にとって読み返す。そうすると次の日、少しだけ肩の力を抜いて行動できる。どうでもいい言い間違いとかちょっとしたミスをしてしまった自分を責めずに済んだ日もあった。
私が特に参考になったのは、第4章の「自分と他人の見つめ方」だ。考えるOLさんは、決して「幸せになるためにはこうするべき」というような、mustで終わる構文を使わない。ただ、彼女は自分の人生と感性を通して、自身の失敗の経験や、気づいたことを本に書いているだけ。押し付けられないからこそ、自分の心にもすっと入ってくる。
私たちは今、常に人の目にさらされている。嫌なことがあっても街なかで叫ばないのは「ヤバいやついたなうw」と動画つきで拡散されないようにでもある。
いつの間にか、自分にどんどん制限がかかっていたことに気づく。スマホ警察はそこらじゅうにいるので、外にいる時間はどんな感情を抱えていても、穏便で無害な生物を演じるしかないのだ。
本の最後の方に「自分を大事にしてくれない人とは距離を取ろう」という言葉があった。面識のないスマホ警察も、対して仲良くないけどSNSだけつながっている人も、自分の人生とは関係ない。そう考えられるようになった人が救われていく日々が、この本の中で語られているからだ。
「こうしろ」と言われるより、ロールモデルを知る方が変わるのは早い
この本を手に取ってから、昔のように本を手に取る習慣が戻ってきた。これまでの私は、あまりにも便利すぎて、スマホばかり眺めていた。スマホを置いて本を手に取り、SNSを眺める時間よりも好きな人との楽しい時間を大切にできるようになるようになった。
多分『スマホ・SNS依存から脱する方法』とかをタイトルにつけている本よりもずっといい。方法を語られるのではなく、そうではない生き方をする人に憧れて共感する方が、私の生活を変えるのは早かった。
(ミクニシオリ)
※この記事は2023年05月21日に公開されたものです