お使いのOS・ブラウザでは、本サイトを適切に閲覧できない可能性があります。最新のブラウザをご利用ください。

ハイブリッドじゃないのに!常識を覆して世界一の圧縮比を実現したマツダのエンジン!

マツダのSKYACTIV

クルマを購入する人が「燃費」を重視するようになっています。ガソリン、軽油が高くなっていますので、少しでも燃料代が安く済む自動車に注目が集まるのは当然のことですね。燃費といえば「ハイブリッド?」なんて思いがちですが、ちょっと待ってください。

【ネットでよくある疑問―「ハイブリッド車の電池って交換するの?」】

ハイブリッドじゃなくてもすごい燃費を達成しているクルマがあります。

なぜこんな燃費を達成できる!?

マツダ株式会社のクルマは、普通のガソリン車、ディーゼル車なのに、走りが良いだけでなく、「ハイブリッド?」と思うような燃費を達成しています。

例えば、先ごろお目見えした新型『デミオ』は、『SKYACTIV-D』(スカイアクティブ・ディー)というディーゼルエンジンを搭載し、パワフルな走りだけでなく、なんとJC08モード「30.0km/L」(MT車)を実現しているのです。

「普通」ではこんな数字は出ません。
これは『SKYACTIV』(スカイアクティブ)が「普通ではない」からです。

この『SKYACTIV』とはどのようなエンジンで、従来のエンジンとどんな点が違っているのでしょうか。『SKYACTIV』には、ディーゼルエンジン『SKYACTIV-D』(スカイアクティブ・ディー)とガソリンエンジン『SKYACTIV-G』(スカイアクティブ・ジー)があるのですが、まずはディーゼルエンジンから見てみましょう。

ディーゼルエンジンの問題点とは!?

クルマなどに搭載されているエンジン・内燃機関というものは、どんなものであれ、基本的には、「エンジンの燃焼室(シリンダー)に燃料を噴射して空気と混ぜ、それを瞬間的に爆発させ、そのエネルギーを運動エネルギーに変える」という作業を行います。

ディーゼルエンジンの場合は「軽油」が燃料です。空気を高圧縮したところに軽油を噴射すると、燃料が自然着火するため、ディーゼルエンジンの場合はいわゆる「点火プラグ」がありません。また空気を高圧縮するのが特徴です。

ただし、高圧縮を実現するためにエンジンの造りを頑丈にしなければなりません。また燃料が着火する際に高圧、高温状態になっているので、噴射した軽油が混ざる前に着火し、偏った燃焼が起こりやすく、結果「すす」や「NOx」(ノックス・窒素酸化物のこと)などが発生してしまいます。

そのため、ディーゼルエンジンの場合には、高価な触媒装置などを付けて、NOxなどを取り除かなければなりません。

ディーゼルエンジンは、「トルクフル」でありながらも「汚い」「重い」「うるさい」「高回転が苦手」といったデメリットが挙げられてきたのです。

『SKYACTIV-D』のブレイクスルー

では、ディーゼルエンジンの長所を生かしながら、問題点を克服するにはどうしたら良いのでしょうか。キーファクターは「高圧縮」。これをより「低圧縮」で燃料を均質に燃やすことができたら……。マツダの技術陣はこの難題に挑んだわけです。

言うのは簡単ですが、「ディーゼルエンジンの場合には寒い時に低圧縮では着火できない」というのが常識で、「やれるものならもうやってる!」という問題でした。しかし、シミュレーション実験による検証を繰り返し、試作機による実証を何度も行った結果、その常識を覆すことに成功したのです。

従来のディーゼルエンジンが圧縮比「15-16」のところを、2.2リットルの『SKYACTIV -D』は「14.0」という「低圧縮」比を達成したのです。

●……圧縮比とは、エンジンのシリンダー内容積が、最も大きくなるときの容量と、最も容積が小さくなるときの容量の比率です。例えば、圧縮比「14.0」の場合は、14.0の容積を1の容積まで圧縮することになります。

エンジンが軽くなると……いいことずくめ!

『SKYACTIV-D』の低圧縮比達成はまさにブレイクスルーでした。

その結果、エンジンの造りを頑丈にしなくてもよくなったので、動く部品も軽く作れて、スムーズに回るようにもできました。そして、噴射した軽油が混ざってから着火するため、より均質に燃料を燃やすことができるようになり、燃焼効率は向上し、すすやNOxの発生を抑えることができるようになりました。

つまり、エンジンは軽く造れるようになり、NOxなどを処理するための高価後処理装置も不要にすることができたのです。

ディーゼルエンジンが軽くなる

排気がきれいになったことで従来の高価で重い触媒装置が要らなくなる

車体を軽くできる

さらに燃費も良くなる

という好循環が達成されたのです。
初めて『SKYACTIV-D』が登場した際には業界に激震が走りました。そりゃそうでしょう、「できない」とされていたことに成功したのですから!

ガソリンエンジンの場合は逆に圧縮比を上げたかった!

次に『SKYACTIV-G』というガソリンエンジンです。面白いことに、こちらは従来では考えられない「高」圧縮を成功させたのです。

ガソリンエンジンの場合は、「燃料の圧縮比を上げれば効率が良くなる」ことは分かっていても「それはできない」とされていたのです。

というのは、ガソリンエンジンの場合には、燃料と空気をエンジンの燃焼室内で混ぜて、着火し爆発させるわけですが、あまり圧縮比を上げ過ぎると、その圧縮のあまりに着火による火炎が拡がる前に自動着火が起こり異常燃焼するのです。

これを「ノッキング」といいます。燃焼の制御が大変難しく、そのためガソリンエンジンの圧縮比は「10程度」というのがこれまでの常識でした。

ところが、マツダの技術陣はまたしてもその常識を覆すことに成功しました。『SKYACTIV-G』は脅威の高圧縮比「14.0」を達成したのです。

今までできなかった高圧縮比を可能にした主要な技術は、新しい「排気システム」にあります。エンジンの燃焼室から燃焼の終わった残留ガスを速やかに出してしまうことが、ノッキングを起こさせないキーファクターだったのです。

そこで、従来よりも長い排気経路を造って残留ガスの逆流を防ぎ、残留ガスを燃焼室に残さない仕組みにしました。これが「4-2-1排気システム」と呼ばれるものです。

燃料と空気の混ぜ方や、吸気の吸い込み方や吐き出し方、抵抗低減など、さまざまな工夫が凝らされた2.0リットル『SKYACTIV-G』は、「燃費と低中速トルクを従来比で15%改善した」世界でも類を見ないガソリンエンジンとなりました。

開発困難だった点は……!?

『SKYACTIV』エンジンの開発に携わった、マツダ株式会社 パワートレイン開発本部 走行・環境性能開発部 部長の中井英二さんにお話を伺いました。

――まずディーゼルの『SKYACTIV-D』について伺いたいのですが、開発に当たって、どんな点が最も困難でしたか?

中井部長 ディーゼルエンジンでは高圧縮比というのが常識だったのです。常識になるからにはそれなりの理由があるわけでして(笑)。ですので、「それを低圧縮比でも大丈夫です」「皆さんが心配するようなことは起こりません」と説得しないといけない。

実証して説得する。これが一つ困難でしたね。

――エンジン開発の方向性についてみんなをまとめるわけですね。

中井部長 もちろん技術者の集まりですので、方向性とかデータが共有できればOKなんですが。低圧縮で、普通にやったら火がつかないわけですよ。そこをさまざまな工夫をしてクリアしないといけない。マイナス25度の状態では火がつくのか?

とか、燃料の吹き付け方を工夫したりとか、いろんなことをしましたね(笑)。

――エンジンの開発企画が立ち上がってから実際に完成するまでどのくらいの時間がかかりましたか?

中井部長 6-7年というところです。最初は「低圧縮比にして本当にいいことが起こっているのか」も分かりませんでしたし、それを実証してデータが出るところまでもけっこう時間がかかりました。

――基礎データの積み上げに相当時間がかかったということでしょうか。

中井部長 基本的にはCAE(Computer Aided Engineering)、コンピューターシミュレーションを使って検討を行いました。燃料と空気がどのように混ざるかを3Dシミュレーションで見ることができるのです。

それをうまく使って、実機を造る前に「こうすればうまく混ざるよね」といったことを何度も行いました。

もしCAEの補助がなければ、このような短期間で造り上げることができなかったのではないでしょうか。アイデアが浮かんで実機の試作品を造ってということをやっていますと、要らないノイズといいますか、思ってもみないことが起こって、そちらに手を取られたりするんですよ。

今回、「理想状態の燃焼」に向かって開発を進めたのですが、その理想状態になっているかどうかを「実際の物」を使って評価していると、かえって分からなくなっちゃうことも多いのです。シミュレーションの結果を使って求めたことが、短期間で求めていたものにたどり着いた理由ではないでしょうか。

●……CAEは、Computer Aided Engineeringの略で、コンピューターを用いて製品の設計や製造の検討を行うことです。それに使うツールなどもCAEと呼ばれることがあります。

――ガソリンエンジンの『SKYACTIV-G』の方はいかがだったのでしょうか。

中井部長 ガソリンエンジンの場合は、燃料と空気を圧縮して火をつけるんですが、高圧縮にすれば効率がいいことはみんな知っているわけです。でも、あまりに高圧縮にするとあっちこっちで勝手に火がついちゃうんですよ。

それで思いどおりのところで燃焼させるのがうまくいかない。これをコントロールするのは非常に難しい技術といわれていまして、本にもそう書いてあるわけです(笑)。

――なるほど。

中井部長 でもですね、「本当にそうなのか?」というわけで、(常務執行役員の)人見(光夫)のリードもあって「確かめてみようよ」となったのです。そこで、圧縮比を13、14、15と上げてみたら、思ったほど出力が落ちてはこなかった。

全然出力が出せないエンジンになるかと思っていたのですが、そうはならなかった。これをきっかけに、緩やかに熱が発生する「低温酸化反応」というものを見つけられて、それをうまく使えばコントロールできるんじゃないか?

となったのです。

そこから圧縮比を14、15に上げてもうまく燃焼させる工夫をすることができるようになりました。空気が冷えれば燃焼をコントロールしやすいですから、燃焼ガスを追い出して(新しく吸い込んだ空気を)早く冷やしてやる。

その工夫をしてやればいいんじゃないのかとか。量産化するために、みんなでアイデアをいろいろ出して、それでできたのが「4-2-1排気システム」です。

――『SKYACTIV』が世に出たときに業界の人は驚きませんでしたか?

中井部長 発表したときには、皆さん半信半疑で聴いていたそうです(笑)。「本当にそんなことできるの?」と思われたのでしょうね。

――これからどのようなエンジンを造ろうと思われますか?

中井部長 ハイブリッドや電気自動車、燃料電池車もありますが、自動車のパワートレインというのはこれからも内燃機関に頼っていくものだと私たちは考えています。2020年になっても9割の自動車はやはり内燃機関を搭載しているでしょう。

ハイブリッド車だって内燃機関を搭載しているわけですから。

ですので、私たちはこれからも低燃費で、かつしっかりとしたパワーを出せる内燃機関を開発していく責務があると思っています。私たちは「理想の内燃機関」「究極の内燃機関」を目指しています。

そこに向けて3ステップほどで到達できると思っているのですが、セカンドステップでは、さらなる進化を、ファイナルステップではその「究極の内燃機関」を皆さまにお見せして、さらに驚いていただけるようにしたいと思います。

――ありがとうございました。

圧縮比がくしくも同じになった!

驚くべきことに理想的なエンジンを追求した結果、「ディーゼルエンジン」と「ガソリンエンジン」の圧縮比は「14.0」と同じになったのです。

「なせば成る」。確かにそのとおりでしょう。しかし、今まで「できない」とされていたことを「成す」ためには不断の努力、たゆまぬ研究心、そしてその開発に乗り出すという決断が必要です。世界一の圧縮比を成し遂げた『SKYACTIV』エンジンは、その結晶といえるのではないでしょうか。

マツダ恐るべし!

(高橋モータース@dcp)

※この記事は2014年11月08日に公開されたものです

SHARE