夕方に「夕焼け小焼け」が放送されるのはなぜ?―無線設備の「試験放送」
多くのまちで夕方に放送される「夕焼け小焼け」。暗くなる前に子どもの帰宅をうながし、事故を防ぐためと思われがちだが、目的は放送設備の点検で、はやく帰りましょう的なアナウンスは「ついで」に過ぎないのだ。
点検のついでに「帰りましょう」
まちで流れる放送は「市町村防災行政無線」が正式名称で、その名の通り市町村や区が運営/管理をおこなっている。地震や異常気象はもちろんのこと、幹線道路沿いでは、強い日差しで光化学スモッグが発生した際にも「注意報」がアナウンスされる。
自然が豊かな地域ではクマやイノシシへの注意が呼びかけられるなど、住民のために多目的に利用されているのだ。
公園などで見かけるスピーカー付きの塔は「無線放送塔」と呼ばれ、以前はケーブルを使った有線式だったが、現在は無線が主流のため「行政無線」の名となった。このスピーカーを介して住民へいっせいに報じられるシステムを「同報系」と呼び、全国で導入されている割合をあらわす整備率は、1984年は31.0%に過ぎなかったが、
・1990年 … 48.2%
・2000年 … 65.3%
・2010年 … 76.3%
・2013年 … 77.1%
と、着実に増えている。なかでも千葉/静岡/和歌山の3県は、今年3月末時点で、同報整備率100%を誇り、防災意識も高まりつつあるのだ。
夕方に「夕焼け小焼け」が流れるのはなぜか? じつは子どもためではなく、設備が正常かどうかの「動作確認」が目的なのだ。
防災無線の性質から、いざというときに作動しないのでは話にならない。そのため、なるべく頻繁にテストしたいのだが、サイレンを鳴らすとうるさいし「何かあったのでは?」と誤解を招きやすい。そこで夕方に帰宅をうながす形で、設備が正常かを確認しているのだ。
筆者の住む練馬区では、夏は17:30、日の短い冬は16:30に放送が流れ、なんとも健全なことだと思っていたが、ちびっ子たちが「ついで」だと知ったら、どんなに嘆くことだろう。
フリーダイヤル始めました
なぜ「夕焼け小焼け」なのか? これも決まりはなく、自治体マターで好きな曲を放送できる。時刻も同様に朝でも昼でも構わないのだ。
毎日の試験放送は「定時放送」「定時チャイム」などと呼ばれ、音もタイミングも自由だ。ただし誤解が生じないようにチャイムや曲が用いられ、うるさい!と苦情が出にくい昼~夕方が多い。この2点を考慮すると、夕方に「夕焼け小焼け」で帰宅をうながすのが、もっとも自然だと言えよう。
「夕焼け小焼け」以外も、
・宮城県多賀城(たがじょう)市 … 恋は水色
・愛媛県伊予(いよ)市 … 牧場の朝
など、決して少なくはない。なかには福島県須賀川(すかがわ)市のように、M78星雲からやって来て地球を救うファミリーを描いたTV番組の主題歌が、AM7時に流れるまちもあるのだ。
デュアッ!
同報系の弱点は、「なにを言っているか聞き取れない」点だ。これは無線放送塔が多い住宅地で起きやすく、離れた放送塔との時間差でアナウンスがダブってしまうからだ。
音は1秒で約340m進み、時速になおすと1,200kmと高速だが、340mはさほど苦もなく歩けるし、放送塔の音も十分に届く距離だ。これが災いし、1秒遅れのエコーがかかった状態となり、放送内容が聞き取りにくくなってしまうのだ。
もし1.7km先に放送塔があると5秒前の音まで重なってしまうので、マンションの上層階で正確に聞き取るのは至難のわざだ。そのためフリーダイヤルを用意し、定時放送「以外」を確認できる自治体も多いのだが、電話をかけて聞くのであれば、防災放送が根底からくつがえされてしまう。
どの場所でも均等に聞こえる技術が登場するのを期待しよう。
まとめ
・まちに流れる放送の正体は、市町村防災行政無線
・「夕焼け小焼け」は子どものためよりも、無線設備の「試験放送」
・巨大変身ヒーローの主題歌が放送されるまちもある
早朝にラジオ体操を流せば一石二鳥な気もするが、寝不足は困るのでやめておこう。
(関口 寿/ガリレオワークス)
※この記事は2014年08月13日に公開されたものです