※本コラムは『人事の人見』第8話までのネタバレを含みます。
■「マミートラック」に悩む女性社員 vs 体育会系のワンマン社長
現在、女性の社会進出はまさに過渡期を迎えています。男性が外で働き、女性が家事や育児を担う――。いま話題沸騰中のドラマ『波うららかに、めおと日和』(フジテレビ系)の舞台となっている昭和初期は、そんな夫婦の在り方が当たり前とされていました。
しかし、今はその“当たり前”は大きく揺らぎ、多くの人が新しい形を模索しています。企業側のサポート体制も、まだまだ十分だとは言えません。人見くん(松田元太)が働く『日の出鉛筆』のように、「男性中心で硬直している」と言われる企業では、なおのこと。長年のやり方を変えることに、戸惑いや抵抗を覚える社員も少なくないのが実情です。
そんななか、『日の出鉛筆』人事部は、「日の出鉛筆子育て支援策」の草案をまとめることにしました。里井常務(小日向文世)が社長以外の取締役の賛同を取り付けてくれたのですが……この会社、なんと言っても社長が手強い! というのも、小笠原社長(小野武彦)はゴリゴリの体育会系育ちなんですよね。50歳で社長に就任してから、30年間もワンマン経営を続けてきてしまった。今さら、「価値観のアップデートをしてほしい」と言われても、なかなか受け入れられないのも無理ありません。
ただ、困っている社員がたくさんいるのは事実。わたしのまわりでも、育休を終えて社会復帰したはいいものの、「子どもが熱を出して帰らなきゃいけなくなった時、まわりの視線が痛い……」「どうしても休めない時はシッターを頼んだりするんだけど、時給よりもシッター代の方が高い気がする」「明らかに出世コースから外されているのが分かる」と悩みを抱えている友人がいます。
『人事の人見』第8話にも、わたしの友人と同じような悩みを抱えている女性が登場しました。調達部の川戸さん(大塚千弘)が、人事部の平田部長(鈴木保奈美)に相談していた「マミートラック」とは、女性社員が産休や育休明けに仕事内容の変更などを命じられ、キャリア形成に支障が生じてしまうこと。川戸さんの場合は上司に訴えて改善してもらうことができたものの、同僚にフォローをしてもらう機会が増えてしまい、悩んでいました。
この問題、誰も悪くないからこそむずかしいですよね。今の時代、子育てをしながら働ける環境を作るのはマストだと思います。ただ、「子どもの用事で頻繁に早退したり休みを取ったりする社員に、重要なポストを任せられるのか?」と問われたら、「う〜ん」と悩んでしまう。川戸さんも、責任ある仕事を任されすぎたら、心身ともに疲弊してしまうはずです。
現在放送中のドラマ『対岸の家事〜これが、私の生きる道!〜』(TBS系)でも、同じような問題が描かれていましたよね。子どもを産む前と同じように、バリバリ仕事をこなしたい! と思っているのに、“保育園の洗礼”(=初めて集団生活を経験する子どもが、さまざまな感染症に罹患してしまうこと)により、早退を余儀なくされてしまう。そんな“働く母”のリアルが、多くの視聴者の共感を集めていました。
多様な生き方が認められるようになった今、わたしたちは自分たちで取捨選択することが求められています。専業主婦、ワーママ、独身貴族……どんな生き方を選んだとしても、“隣の芝生が青く見える”ことはある。それなら、自分がいちばん失いたくないもの、守っていきたいものはなにか? と、とことん考える時間を設けてみるのがいい気がします。
その結果、川戸さんのように「出世も育児も諦めたくない!」と思う人もいるだろうし、経済的な理由から働かなければ生活ができない人もいる。そういう人たちをサポートしてあげられる会社は、どんどん求められていくはずなんです。というか、できない会社は淘汰されてしまう気が。
過渡期に混乱はつきものですが、わたしたちが目指すのは、もっと優しくて自由な社会。だからこそ、まずは企業が意識を変えていかなければならないのかな……なんてことを、第8話を通して考えさせられました。
■“オールフォーワン”な企業を作るために必要な制度
小笠原社長の古い価値観を、どうにかしてアップデートできないものか……と人事部で考えた結果、小笠原社長がハマっている“ラグビー”で気を惹くことに。社内レクリエーションで、子どもとの交流をするために開催したタグラグビー。一方のチームには子どもが参加して、もう一方のチームは大人だけ。すると、小笠原社長が「こっちは面倒見なきゃいけない子どもがいて、そっちは普通にプレイができるなんて、不公平だろ! 不公平以外のなにものでもない!」と言い出したんです。これこそが、社長に気付いてほしかったこと……!
すかさず平田部長が「ですが、社長。それが、子育てをしながら働く社員です」と言ってアピール! 友人の話を聞くかぎり、幼い子どもを育てながら正社員として働くのはかなり大変だと思います。でも、働きたいと願う人も、働かなければならない人もいる。
そして、忘れてはいけないのが、そういう人たちをサポートしている社員がいること。同僚が熱を出して早退をしなければならない時には仕事を代わり、急な休みにも対応しなければならない。だからこそ、カバー手当(=子育てなどで抜けた社員の業務をカバーする社員に手当をつける制度)などがあれば、両者の分断を防ぐことができる。「オールフォーワン」と平田は言っていたけれど、“ひとりはみんなのために、ひとりはみんなのために”と思えるようになるためには、それなりの制度が必要だと思うんです。
結果的に、子育て支援策の推進を認めた小笠原社長。取材を受けたあとに部下に褒められて、「うるさい。ただ言わされただけだ」と照れ隠しをするあたり、「かわいいとこあるじゃん」と思いました(笑)。
さてさて、次週はついに里井常務が人見くんをこの会社に呼んだ本当の理由が明かされるそうです。すべてをオープンにしているように見えて、実はだいぶ謎めいている人見くん。過去にどんなことがあったのか気になります。
ではでは、また次週の放送でお会いしましょう♡
(菜本かな)