【医師監修】妊娠初期に重いものは厳禁⁉ 危険な理由とリスクとは

【医師監修】妊娠初期に重いものは厳禁⁉ 危険な理由とリスクとは

まだ見た目にはあまり変化のない妊娠初期ですが、体の中では大きな変化が進んでいます。妊娠初期であっても妊婦さんは「重いもの」を持たないほうが良いのですが、その理由や注意すべきポイント、気になる流産との関係などを紹介します。


この記事の監修ドクター
Fika Ladies‘ Clinic フィーカレディースクリニック(東京都中央区日本橋)副院長。順天堂大学医学部附属浦安病院非常勤助教。東京女子医科大学卒業後、順天堂大学医学部附属順天堂医院、順天堂大学医学部附属静岡病院などを経て、2009年に順天堂大学大学院医学研究科を卒業、博士号を取得。医学博士、日本産科婦人科学会専門医、日本抗加齢医学会専門医、日本医師会認定健康スポーツ医、日本スポーツ協会公認スポーツドクター、日本障がい者スポーツ協会公認障がい者スポーツ医、女性のヘルスケアアドバイザー。

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妊婦が重いものを持たない方が良い理由

妊娠中は、まだお腹の目立たない妊娠初期であっても、重たいものを持つのは避けた方がよいとされています。その理由は以下の通りです。

腰を痛めやすくなっているから

重たいものを持つと腰に負荷がかかります。じつはこの腰への負荷が、妊娠中の体には非妊娠時よりも負担となりやすいのです。

ホルモン分泌や子宮サイズの変化による影響

妊娠すると妊娠初期から「リラキシン」というホルモンが分泌されますが、このホルモンには関節を緩める働きがあります。これは妊娠中、子宮が大きくなっていくことや出産のために必要な変化ですが、リラキシンの影響で、妊娠8~10週ごろから骨盤の前方にある恥骨結合は拡がり始めると言われています[*1]。

また、骨盤の背中側にある仙腸関節も同様に緩んでくるので、妊娠していない時に比べ、骨盤は妊娠初期からすでに不安定な状態になり始めます。

さらに、妊娠初期から後期にかけて、子宮は急激に大きくなっていきます。妊娠初期には10mLだった子宮の容量は妊娠後期にはそのおよそ500倍、約5Lにまで増加します。この子宮の変化は妊娠初期にも始まっており、妊娠前はニワトリの卵ほどだったものが妊娠初期の後半には新生児の頭くらいにまで大きくなります[*2]。

骨盤が不安定になったり、子宮が大きくなったりすると、腰や背中の筋肉への負担は通常時よりも増えます。つまり、妊娠中は重いものを持たなくても、もともと腰痛を起こしやすい状態になっています。

筋力低下と姿勢の変化による影響

さらに、妊娠中は、非妊娠時と比べて筋力が低下するという報告もあります。妊娠初期~中期の妊婦さんと非妊婦との握力、背筋力、膝の伸展筋の筋力を比較した研究では、妊婦さんのグループに背筋と、太ももの前側の筋肉である大腿四頭筋の筋力の低下が見られています[*3]。

また、妊婦さんはお腹が大きくなるに従って、それを支えるためにお腹を突き出すような姿勢をとるようになっていきますが、このことによっても腰に負荷がかかりやすくなっています。例えば非妊娠時に4.5kgの荷物を持つ時、腰にかかる力学的ストレス、つまり負荷は29.5kgですが、妊娠時は同じ4.5kgの荷物を持っていても腰にかかる負荷は68kgと倍以上になるとも言われています[*4]。

つまり、妊娠前はなんなく持ち上げられたものでも妊娠時はより重く感じるし、持ち上げることで腰にかかる負担も大きくなっているということです。これらの理由から、腰を痛めるリスクが高まるので、妊娠中は重いものを持つことはできるだけ避けたほうがよいのです。

骨盤底筋にさらにダメージを与える可能性

また、重いものを持つことは「骨盤底筋」にダメージを与える可能性もあります。

「骨盤底筋(骨盤底筋群)」とは、骨盤の底にある筋肉群の総称です。通常、骨盤底筋は膀胱や子宮などの臓器が適切な位置から下がらないよう、ハンモックのように支えていますが、なんらかの原因でその機能が低下すると、下記のようなトラブルを生じることがあります。

骨盤底筋の機能低下により起こりやすいトラブルの例

・尿もれ・便もれ

・骨盤内臓器脱

(骨盤内にある子宮、膀胱、直腸などの臓器が下がり、腟から体外に出てしまうこと)

・腰痛・股関節痛

骨盤底筋の機能低下に影響を与えるおもな要因には、妊娠、出産、肥満、便秘、加齢、ホルモンバランスの変化などがありますが、そのほか日常生活の中で腹圧がかかることが多い動作も骨盤底筋群に負荷をかけ、ダメージを与える可能性があります。

例えば、長時間の立ちっぱなし、重い荷物を頻繁に持つ、便秘のため排便時に強くいきむ、咳喘息などの持病でよく咳き込むといった行為です。

骨盤底筋は妊娠しただけでダメージを受け、産後にさまざまなマイナートラブルを引き起します。妊娠中に重いものを持つことで、骨盤底筋にさらに負担をかけるのはお勧めできません。

適度な運動はしたほうが良い

ただし、だからと言って「妊娠中は動かずに安静にしていましょう」ということではありません。

体に過度な負担がかかる運動はNGですが、ストレッチや体操などで適度に体を動かすのは問題ありませんし、むしろ行ったほうがよいとされています。詳しくは下記の記事を参照してください。

【医師監修】 妊娠中に腹筋はOK? 運動のメリットと注意点、妊娠中にもできる体幹ストレッチ・体操

https://woman.mynavi.jp/kosodate/articles/7198

妊娠中でも体調や妊娠経過に問題がなければ、適度な運動はおすすめです。でも妊娠中に「腹筋」もしていいのでしょうか? まず妊婦さんが運動をする際、守って欲しいルールや注意点を解説、妊娠中でもできる体幹ストレッチ・体操の方法も紹介します。

また、ケーゲル体操やフランス発のトレーニング「ガスケアプローチ」のような運動で、妊娠中に骨盤底筋群を鍛えるのもよいと言われています。ケーゲル体操については、下記の記事で詳しく説明しています。

【医師監修】骨盤底筋を鍛えて尿もれを予防「ケーゲル体操」について知りたい!

https://woman.mynavi.jp/kosodate/articles/7315

妊娠・出産により思わぬトラブルが体に生じることもあります。たとえば産後の尿もれ(尿失禁) もそのひとつ。ケーゲル体操は、そうした尿もれトラブルを改善する方法のひとつです。ケーゲル体操の概要や、やり方を解説します。

気になる流産との関係は?

腰を痛めやすいことや骨盤底筋に負担をかけることから、妊娠中に重いものを持つのは避けた方が良いと説明しましたが、「流産」とは関係しないのでしょうか。

重いものを持つと流産するの?

中には「重いものを持つと、流産になるのではないか」と心配する人もいるでしょう。

実は、重たいものを持つことが流産を引き起こすという科学的根拠はありません。仮に重たいものを持って腹圧がかかったとしても、赤ちゃんは子宮と羊水で守られているので、大きな影響は受けないと考えられます。

むしろ妊婦さんが何もしていなくても、流産になるときはなります。多くの流産の原因は、染色体など、もともと赤ちゃんのほうに問題があることで、この場合、妊婦さんの行動は関係ないからです。

日常生活を送っていれば、それなりに重たいものを持たざるを得ない場合もありますよね。上の子がいる人は抱っこをせがまれることもあるはずです。ここまでで説明した通り、妊娠中に重いものを持つのはできるだけ避けて欲しいのですが、もし持ってしまったとしても、それによって流産になると心配する必要はほとんどありません。

流産リスクの高い人は要注意

ただし切迫流産などで安静を指示されている人は、重たいものを持つことで流産のリスクがさらに高まることもあります。重たいものを持つことはもちろん、運動も控えるなど、かかりつけ医の指示に従いましょう。

切迫流産は流産になるリスクが高いということですが、この状態から流産になるのを確実に止める薬などはいまのところなく、「無理な運動や身体への負担を避ける」以外に効果的な方法はとくにありません。

安静の度合いも人によってそれぞれ異なる場合があるので、切迫流産など、流産リスクが高いと診断された人は、どの程度の安静が必要なのか、かかりつけ医とよく相談した上で、妊娠生活を過ごしてください。

どうしても重いものを持つ必要があるときは

さて、とはいえ、妊娠中にどうしても重いものを持たなければならなくなったとき、どんなことに注意すればよいのでしょうか。

くれぐれも無理はしない

上の子がいるなど、妊婦さんであっても、どうしても重いものを持ち上げなければいけないシーンは日常のそこかしこにあるはず。でも、くれぐれも無理はしないようにしてください。

重いものを持つと、上記で説明したリスクのほかに、転倒のリスクも高まります。妊婦が転倒する確率は70歳以上の高齢者と同程度とする報告もあり、さらに同じ報告では転倒の際の状況として、子供や物を抱えているときの割合が高くなっているとされています[*5]。

重いものを持ち上げるときは腰痛と同じくらい、転倒にも注意しておきましょう。

職場には配慮を求めて良い

また、仕事で重いものを持たなければいけないときは、職場に相談してみましょう。

じつは妊婦が重いものを持ってはいけないというのは、法律に定められています。労働基準法 第 64 条の3項には「危険有害業務の就業制限」として以下のような記載があります。

「使用者は、妊娠中の女性及び産後1年を経過しない女性(以下「妊産婦」という。)を、重量物を取り扱う業務、有害ガスを発散する場所における業務その他妊産婦の妊娠、出産、哺育等に有害な業務に就かせてはならない。」

厚生労働省が進める妊娠中の労働管理(母性健康管理)でも、医師から指導があれば負担の大きい作業への従事をやめ、負担を軽減することが望ましいとされています。負担の大きい作業の中には、重量物を扱う作業も含まれており、「継続作業の場合は6~kg以上、断続作業の場合は10kg以上」というように、具体的な重さも定められています。

「ほかの人の負担になるから」と、作業の軽減を遠慮してしまう人もいるかもしれませんが、何かあってから後悔することのないよう、職場とよく話し合ってみましょう。

体に異変を感じたらすぐに安静にして

重いものを持ったあと、もしも体調がすぐれなくなったときは、ゆっくり安静にして身体を休めましょう。それでもなかなか回復しないときは医療機関を受診しましょう。

受診の目安

下記のような症状の有無は受診の目安になります。いつもと違う症状があったり、それが続くときはあまり我慢せず、受診するようにしてください。

・安静にしていても、治まらない継続する腹痛

・ズキズキする強い痛み

・生理より多い出血を伴う腹痛

・いつもと違う痛み(妊娠してから初めての痛み)

・規則的な痛み

まとめ

妻をいたわる夫のイメージ

Photo by Cody Black on Unsplash

妊娠中の身体は、妊娠初期であっても、見えないところで変化が生じています。非妊娠時と同じようなつもりで重いものを持ち上げると、思わぬトラブルを引き起こしてしまうかもしれません。あまり無理はせず、身体の状態に気を配りながら日々を過ごしていきましょう。

(文:山本尚恵/監修:窪麻由美先生)

※画像はイメージです

参考文献
[*1]平元奈津子:妊産婦に対するウィメンズヘルス理学療法, 理学療法の臨床と研究 27:15-20,2018.
[*2]病気がみえるvol.10 産科編, 2018.
[*3]「Health Management for Female Athletes Special Version」東京大学医学部付属病院
[*4]「産前産後の母に関わる医療従事者のための入門ブック Ver.1」マザーヘルス協会&産後リハビリテーション研究会
[*5]「妊娠・出産期の理学療法」理学療法―臨床・研究・教育 26:11-15,2019

※この記事は、マイナビ子育て編集部の企画編集により制作し、医師の監修を経た上で掲載しました

※本記事は子育て中に役立つ情報の提供を目的としているものであり、診療行為ではありません。必要な場合はご自身の判断により適切な医療機関を受診し、主治医に相談、確認してください。本記事により生じたいかなる損害に関しても、当社は責任を負いかねます

※本記事は公開時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください。

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