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「イジると笑いがとれる時代」はもう終わらせたい理由

アルテイシア

仕事、恋愛、人間関係……さまざまな問題に苦しめられて「もう無理! 助けて~」と息も絶え絶えな女子も多いことでしょう。当企画では「女子を救う言葉」が詰まったエンタメ作品を紹介します。

みんなー、息してますかー!!!

ジェンダーギャップ指数121位のヘルジャパンで、女子はみんな息してるだけで偉いのだ。

この度はそんな女子をエンパワメントする作品を紹介したい。また、作中から女子を救う言葉や印象的なセリフを紹介したいと思う。

しかしながら、私は推しについて語る時「めっちゃいい」「最高」と語彙が死ぬタイプなので、作品の魅力を伝えられるか不安だ。皆さんもハラハラしながら見守ってほしい。

というわけで、私がご紹介するのは『夢で逢えたら』吉川トリコ(文春文庫)。

「私、殴られんのはもう無理」女芸人がこぼした一言

『笑っていいとも!』レギュラー出演を夢見ていた女芸人・真亜子と、「将来の夢はお嫁さん♡」だった女子アナ・佑里香。まるで違うように見える2人の出会いは、化学反応を起こし、新しい笑いが生まれていく――という痛快シスターフッド小説である。

真亜子は女芸人コンビとして活動していたが、容姿イジリに疲れた元相方の引退によって、ピン芸人になる。

「私、殴られんのはもう無理」。元相方が言い残したこの言葉に、女のあらゆる地獄が詰まっている。

一方、局アナだった佑里香は大御所芸人に枕を要求されて、それを断ったことで仕事が流れる。しかも後任に抜擢されたのは、親友だと思っていた同期の女子アナ・しず江だった。

その件で絶望してフリーになった経緯も地獄だが、本書にはテレビ業界、特にお笑い界のヘルみが詰まっている。

セクハラ、容姿イジリや非モテイジリ、「女芸人らしさ」などの役割の押しつけ……等。

そんな地獄のアンハッピーセットに、一般社会で生きる女子も「分かる!」と涙目で膝パーカッションするだろう。

にもかかわらず、この小説はしんどくないのだ。

『82年生まれ、キム・ジヨン』などは「読むのがしんどすぎて吐いた」という女子が多かった(それだけ女の生きづらさをリアルに描いた名作と言える)。

「男前」が褒め言葉で「女々しい」が悪口になる社会

本書にも吐き気をもよおす邪悪なセクハラ野郎などが出てくるが、テンポのよい軽快な文章で書かれているため、笑いながら一気に読める。

佑里香に枕を要求したのは、「蝦(えび)やん」というシーフードの名をもつ大御所芸人だ。

この蝦やんが男らしさの呪いをじっくりコトコト煮込んだタイプで、「こんな人、いるいる!」と女子は膝パーするだろう。

以下、若干のネタバレを含むので、避けたい方は薄目でスクロールしてほしい。

ストーリーの後半、真亜子・佑里香・しず江の3人が、蝦やんのトーク番組で顔を揃える場面がある。

生放送で破天荒な行動をした真亜子に対して、蝦やんは「ほんでも正味な話、おれなんか端で見とって、むしろ男らしいと思ったけどな? こいつやりおったわ、勇ましいなあって」とコメントする。

それに「は? どっからどう見ても女ですけど?」と真亜子はガチギレして、「あー、はいはい、いますよね~。かっこよく自己主張している女性を見ると、すぐ“男前”だとかって言うおじさん。なんでかんでも男の手柄にしようとして浅ましいったらない」と、しず江がすかさずフォローを入れる。

“男前”“男らしい”が褒め言葉として使われて、“女々しい”“女の腐ったような”が悪口として使われる。私もそれに憤っていたので、このセリフに「よくぞ言ってくれました!」と拳を突き上げた。

そして3人は強大な権力をもつ大御所芸人を、拳じゃなく言葉でノックアウトするのだ。

「やーん、こわーいそうやってすぐ怒るー」
「これだから男はやなのよね」
「感情的で扱いづらくて困っちゃう」
「男は睾丸でものを考えるっていうぐらいだし」
「ほんと、男の更年期ってたち悪い」

これらは女が男から言われ続けてきた言葉でもある。

女にステレオタイプを押しつけて、女の実力を正当に評価せず、「ここは男の世界だ、女は入ってくるな」と排除するのは、お笑い界に限った話ではないだろう。

蝦やんの番組への出演を決めた時、かつて彼のセクハラで仕事を奪われた佑里香は、心にこう誓う。

「今すぐには世界を引っくり返せなくても、これ以上は許さない、いつまでも男たちの好きにはさせておかないと意思表示することならできる。(略)今度は私たちが日本中の女の子たちにテレビを通して示す番だ。これからの女のあり方を――女の子が女の子であることをすこやかに誇れるような未来のために」

こうして決意できたのは、かつて友情を裏切られたと思っていた、しず江のサポートがあったからだ。

「私、もう男なんかなんにも怖くないの」電話を切る直前に、ぽつんとしず江が漏らした。「それより、女たちからそっぽを向かれる方がずっと怖い」(略)それでようやく佑里香は理解した。目覚めたのだ、しず江も。

本書は、女たちのフェミニズムへの目覚めを描いている。

もともと3人とも「オッス、おらフェミニスト!」というタイプでは全然ない。真亜子はお笑いにしか興味がなかったし、佑里香は「将来の夢はお嫁さん♡」だったし、しず江は「女を武器にした方が得でしょ?」系の女子だった。

フェミニズムに興味がなかったり、むしろ反感を抱いていたり……そんな彼女らが三者三様に目覚めていく姿が、すこぶるリアルで胸を打つ。

そう、みんなアップデートの途中なのだ。

私自身、若い頃は性差別やセクハラに鈍感だった。鈍感になった方が楽だったし、感覚を麻痺させないと生きられなかった。そうして無自覚に「男社会にとって都合のいい女」を演じていた。

でもそれだと性差別やセクハラを黙認して、加担する側になってしまう。

かつての私は性差別やセクハラの被害者でもあり、加害者でもあった。当時を思い出すと縦長に穴を掘って首まで埋まりたくなるが、そのままカーズ様(※)のように沈黙して、思考停止するわけにはいかない。

※カーズ様/マンガ『ジョジョの奇妙な冒険』の登場人物

過去の自分を反省しているからこそ、声を上げなきゃと思うのだ。

本書には「考え方や立場の違う女同士でも手を取り合える」「一度壊れたかに見えた友情が復活することもある」という希望が描かれている。ヘルジャパンで絶望している女子を元気にしてくれる、シスターフッド小説だ。

元お笑い大好き少女として

以下は、元お笑い大好き少女として思うところを書きたい。

本書のタイトルを見て、伝説のお笑い番組を連想した人は、我(45歳)と同世代かもしれない。

『夢で逢えたら』は1988~91年まで放送された、ダウンタウン、ウッチャンナンチャン、清水ミチコ、野沢直子が出演していた番組である。

ガララニョロロ(※)と言われても「ケロロ軍曹の新キャラかな?」と若い人は首をひねるだろうが、中学生の私は「本官は小悪魔ニョロよ」とモノマネをして、「先週の夢逢え、見た?」と同級生と夢中で話していた。

※ガララニョロロ/『夢で逢えたら』の番組内で松本人志が扮していたキャラクター

76年神戸生まれのアルテイシアは、小学生の時『4時ですよ~だ』に熱中して、中学生になると二丁目劇場に通いつめた、お笑い大好き少女だった。

だがここ数年は、お笑いを見るのがしんどくなった。

4年前、とんねるずの番組で保毛尾田保毛男が炎上した時に「まだこれがオッケーだと思ってるんだ……!」と衝撃を受けた。

保毛尾田保毛男が流行った30年前、中学生の私は「おもしろオカマキャラ」のモノマネをして同級生と笑っていたが、それは私が無知な子どもだったからだ。

当時は「この教室の中にもセクシャリティに悩む人がいるかもしれない」と想像できるだけの知識がなかった。それで無自覚に差別する側になっていたことを反省している。

「今はすぐネットで叩かれる」とボヤく芸人がいるが、「叩いているのはどっちだ?」と聞きたい。私はもう人を殴りつけるような笑いは見たくない。

セクハラや性差別を受けても怒らず、笑顔でかわすのが賢い女、そうしなきゃ男社会で生き残れない。まさに一般社会で女子が受けている抑圧であり、そんなものをテレビで見せられてもしんどいだけだ。

「イジると笑いがとれる」以外の手段もある

お笑いには「容姿イジリや非モテイジリをして、やられた側が自虐で返す」という古典的な型がある。それを見た子どもたちは「人をイジると笑いがとれる」「イジられたら自虐で返すのが正解」と刷り込まれるだろう。

若い頃、私も容姿イジリをされるたび自虐で返していたが、自虐すればするほど「こいつには何言ってもオッケー」とナメられて、扱いがひどくなった。それで自尊心を削られ続けた結果、過食嘔吐するようになった。

イジリの厄介な点は、イジメや差別やハラスメントを「笑い」というオブラートで隠してしまうことだ。

昨今は若手芸人が「そういうネタは古すぎて笑えない」と意見したり、女芸人が「(自分をブスと言うような)自虐ネタはやめることにした」と発言したりしている。

鋭いジェンダー意識を持つ、アップデートした笑いを提供する芸人が注目されたりもしている。

とはいえ、いまだトップにいるのは「元号が令和になったことに気づいてないのかな?」という、昭和なセンスの大御所芸人たちだ。

そんな彼らを周りがヨイショして笑ってくれるから、本人はダンゴムシ師匠になってしまったことに気づけない。

くさやダンゴムシ師匠は『ダウンタウンのごっつええ感じ』に出てきた、時代遅れのオワコンだけど、それに気づいていない大御所芸人キャラである。

若手にドヤ顔で説教する姿は裸の王様そのもので、かつての私はそれを見て爆笑していた。

ダンゴムシ師匠たちも、内心は気づいているんじゃないか。「コーンフレークか否か」というネタで爆笑をとる若手を見て、人を殴って傷つける笑いはもう古い。ジェンダー意識や人権感覚をアップデートしないと、もう誰も本気で笑ってくれないと。

私が少女の頃に好きだった芸人たちは中年どころか、ぼちぼち老年の域である。それでも「男はガキだから」と言い続ける彼らに伝えたい。そうやって無知な子どものままでいようとせず、ちゃんと学んで考えてくださいと。

「今はすぐ性差別だと叩かれる、だったらルールを決めてくれ」と某大御所芸人が言っていたが、それは「何も考えず思考停止していたい」ということだろう。

そうじゃなく、性差別やジェンダーについて学んで、自分の頭でしっかり考えてほしい。それをしないと、また同じような発言を繰り返してしまうから。

そして私自身、無意識に他人を殴ってないか、差別に加担していないかをチェックして、アップデートを心がけたい。

「我も!」と共感した方は『夢で逢えたら』をぜひ読んでほしい。この作品めっちゃいいし、最高だから。

(文:アルテイシア、イラスト:後藤恵)

※この記事は2021年03月04日に公開されたものです

アルテイシア

作家。神戸生まれ。著書『離婚しそうな私が結婚を続けている29の理由』『40歳を過ぎたら生きるのがラクになった 』『アルテイシアの夜の女子会』『オクテ女子のための恋愛基礎講座』『恋愛とセックスで幸せになる 官能女子養成講座』『59番目のプロポーズ』ほか、多数。

●Twitter:@artesia59

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オタク格闘家と友情結婚した後も、母の変死、父の自殺、弟の失踪、借金騒動、子宮摘出と波乱だらけ。でも変人だけどタフで優しい夫のおかげで、毒親の呪いから脱出。楽しく生きられるようになった著者による、不謹慎だけど大爆笑の人生賛歌エッセイ!

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