ホームセンターで仕入れた資材のみ―重機も使わず自宅を建築した男「岡啓輔」の話
東京都に、ホームセンターに売られている資材のみで自分の家を建てている男がいるという。もちろん、ユンボのような重機を使うこともなく、例えば階下の部屋をこしらえる際にはスコップを使っている。そのため遅々としてしか進まないのか、2005年に着工したもののいまだ作業続行中だという。
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一体どんな建物が造られているのだろう?
早速、噂の現場に向かったところ、見えてきたのはマンション脇に建つ鉄骨むき出しの奇妙な建物。
近づいてみると、「建物名 蟻鱒鳶ル(アリマストンビル)」と記された建築基準法による確認済表示と、それに並ぶ形で、『タモリ倶楽部』出演時の動画がネットにアップされている旨を知らせる落書きのような告知があることに気付く。
ヒルトン、シェラトンにあやかろう!
建築主・施工主として記されているのは、一級建築士の岡啓輔さん。
見学当日、建物内で作業中だったので、ひとまずこのユニークなビル名の由来を伺ってみた。すると、「“ありません”じゃなくて“あります”っていう肯定的な響きがいいなと思ったんですよね」とぽつり。さらに、「動物の漢字をいれたい」との考えから候補にあがったのが、とび職にも通じる「鳶」。
「じゃあ鳶に“ル”をつけて“ビル”で〆よう。ヒルトンとかシェラトンとか、“トン”が付くと繁盛してるホテルみたいでいいし、ってみんなで話して盛り上がりました。そこから、蟻、鱒と漢字をあてて陸海空そろった名前を友人が捻りだしてくれたんです」
本人いわく、どれもぱっとしない生き物であるところが、自分たちらしくて気にいっているのだとか。「鳶って捕獲能力がないらしいんですよね~」と笑うが、陸海空を生きる動物の名前がそろったことで、蟻鱒鳶ルはがぜん、岡さんの子どものころからの憧れであるバベルの塔のように見えてきたに違いない。
概算で完成まで約12年
それにしても、このビル、一体いつ完成するのだろう? 「地下を掘るのに1年半かかってて、1階から3階までの施工に7年かかってるんですが、概算で残り2~3年ですかね。完成した暁には3.5階建てになります」。
あっけらかんと話す岡さんだが、これまでの9年の間にもいろんなことがあった。
まず、ビルが建つ土地は再開発区域にかかっているため、数年前から立ち退きを迫られている。しかし、頑として譲らない岡さんは、業者との話し合いを重ねるうち、周囲の多くの友人に支えられていることを再確認したり、はたまた、対立サイドの一部との絆を深めたりする。
このあたりについては、岡さん自身が運営する[蟻鱒鳶ル保存会 ブログ](http://arimasutonbi.blogspot.jp/)で、日々、進捗を確認できるのでぜひご一読いただきたい。
ちなみにこの「蟻鱒鳶ル」、なんとほぼ即興でデザインしながら作業を進めているというのだから驚きだ。「その場のノリで、ダンスするように建築物を造ってみたかった」らしいのだが、それができるのは、一級建築士としての確かな知識と技術があるからに他ならない。
さて、気になる建物内部だが、こちらは写真メインで紹介しよう。
(観月陸)
※この記事は2014年05月20日に公開されたものです