【File.01】メイクさんの怪談話
少し肌寒い日が続いていますが、まだまだホラーを楽しみませんか? 連載「お仕事怪談」では、霊視芸人・シークエンスはやともさんに、さまざまな職業にまつわる怪談話を紹介してもらいます。今回は「メイクさん」の体験談です。信じるか、信じないかはあなた次第……!?
※本記事では、怪談話をご紹介します。ホラーが苦手な方はお控えください。
お会いしたメイクさんから聞いた話です。同業者のAさんがある体験をしたということで、お話を聞かせてもらいました。
Aさんはその日、ヘアメイクの仕事のために、どのスタッフよりも先にスタジオに入っていました。準備も滞りなく済ませ、他のスタッフが来るのを待っていたそうです。だけど、おかしい。待てど暮らせど、誰も来ないんです。
「もう入り時間だし、だいたいのスタッフは来るはずなんだけどなぁ……」と、思いながらも他のスタッフを待っていました。
人がいないスタジオは静かです。Aさんはある音に気づきました。
「スーッ」
「スーッ」
Aさんはその音を聞いた時、お風呂場の換気扇の音かな? と思ったそうです。そのスタジオのメイクルームの形は少し特殊で、縦長の作りなんですね。入口付近にはメイクのための鏡があって、奥にお風呂場がある。
メイクルームになぜお風呂場があるかというと、メイクを落とすのはもちろん、白塗りメイクなどを落とすのにも必要だからです。
音のもとを探ると、やはり奥のお風呂場から聞こえてきます。「スーッ」「スーッ」という規則的な音。しかし、よく聞いていると変化がありました。
「スッスッスッ」と音がしたり「スゥゥゥ……」とゆっくりになったり。とにかく不規則にその「スーッ」という音がしていました。
換気扇の調子でも悪いのか、と考えていた時です。
――トントンティントントンティン。と、Aさんのスマートフォンが鳴りました。画面を見ると、同僚からの着信でした。
電話に出ようとしたら「ドンッ」という大きな音が響きました。その音は確実に部屋の奥……お風呂場の方からしていました。Aさんはあまりに大きな音にびっくりしつつも、恐る恐るお風呂場を見に行ったそうです。
そうしたら、ゆっくりと……真っ赤な手が浴槽から出てきたそうです。血みどろの手が、ぬらりと、浴槽のヘリを掴みました。ホラー映画でしか見たことのないような血みどろの手。Aさんは、その手が女性の手のように感じたそうです。
怖いですよね。Aさんは恐怖のあまりに叫び、外に逃げようとしましたが、腰がぬけちゃったみたいで歩けませんでした。それでもどうにか、這いつくばるようにして逃げたそうです。
外に出ることができたタイミングで、再度同僚から着信がありました。Aさんが急いで電話に出たら「あんたスタジオにいつ来るの!?」と、同僚から怒られました。どうやらAさんは、入るスタジオを勘違いしていたそうです。
Aさんは同僚に「今オバケ見た」とあったことを話しつつも、正しい現場に合流をして、収録もなんとか済ませました。
後日、Aさんがニュースを見ていたら、あの「間違えて入ったスタジオ」が映されていました。ニュースでは、「あのスタジオで女性が亡くなっていたこと」が報じられていました。
Aさんはその時、気づいちゃったんですね。あの時見た女性らしきオバケは……あの音は……。
今はもう、その仕事を辞められたそうです。
(監修:シークエンスはやとも、文:蜂賀三月)