「これを読む者は一度は精神に異常を来す」という本を知ってますか?
「奇書」と呼ばれる本があります。中国三大奇書といえば『水滸伝』『三国志演義』『西遊記』ですが(『水滸伝』『西遊記』『金瓶梅』の説もあり)、日本にも有名な「奇書」があります。それは「これを読む者は一度は精神に異常を来す」と呼ばれるもので……。
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日本探偵小説の三大奇書の一つ!
「これを読む者は一度は精神に異常を来す」と評された小説、それが1935年(昭和10年)に出版された『ドグラ・マグラ』です。一応探偵小説となっていますが、その枠には入り切らない心理小説であり、メタフィクショナルな小説です。
日本探偵小説の三大奇書の一つとなっています。
作者は夢野久作。『瓶詰の地獄』などの代表作を持つ作家で、怪奇幻想的な作風で知られています。ペンネームは、自分の書いた小説を「夢の久作の書いたごたる小説じゃねー」(夢の久作が書いたような小説だなあ)と父親に評されたことから付けられました。
「夢の久作」とは九州地方の方言で「夢想家」「夢ばかり見ている変わった人」といった意味です。ちなみに、俳優の嶋田久作さんの芸名は、この夢野久作から取られています。
何が恐ろしいのか!?
「胎児よ 胎児よ 何故躍る 母親の心がわかって おそろしいのか」という巻頭歌、「…………ブウウ――――ンンン――――ンンンン…………」という時計の音から物語は始まります。
主人公「私」は病室で目覚めますが、一切の記憶をなくしていて、顔を見ても自分とは思えないのです。隣の病室には、自分の許婚(いいなずけ)だという美少女が眠っていますが、それも覚えていません。
過去に起こった事件について2人の医師が私に語り始めるのですが……というお話です。一応、探偵小説の骨格を持っているのに、その筋を追っているだけでは済まないという点にこの『ドグラ・マグラ』という小説の奇書たるゆえんがあります。
小説の中に『ドグラ・マグラ』という書物が登場し、メタフィクション的な展開を見せるかと思えば、「胎児の夢」という論文が登場するなど、読者の足元をぐらぐら揺さぶるような仕掛けがいくつも用意されているのです。
一度読んだだけでは、何を読んだのか分からないような小説で、悪い夢を見た後のような読後感を与えてくれるのです。「もしかしたら読者の平衡感覚を失わせるためだけに、この小説は書かれたのかも」、そんな感想を持つほどです。
夢野久作は、この小説を10年かけて書いたそうです。彼が練り上げたこの『ドグラ・マグラ』は今も読者を幻惑させる力を失っていません。「これを読む者は一度は精神に異常を来す」という評が本当かどうか、一度手に取ってみませんか?
●……日本探偵小説の三大奇書の残り二つは、『黒死館殺人事件』(小栗虫太郎)、『虚無への供物』(中井英夫)といわれています。
(高橋モータース@dcp)