妊娠 妊娠
2022年12月13日 18:15 更新

同じ経験をした人だから聞きたい話がある――出生前検査の不安を聞く「ピアコーディネーター」という存在

NPO法人 親子の未来を支える会が運営する「胎児ホットライン」では、おなかの赤ちゃんの健康にさまざまな不安を抱える妊婦さんや家族の相談を受けています。前回に続いて今回は、自らの経験を相談者に話すピアサポーターの方に話を聞きました。

出生前検査の不安を話せる胎児ホットライン

-1歳からの命に向き合う手伝いをしているNPO法人 親子の未来を支える会が運営する胎児ホットラインでは、出生前検査や妊婦健診でおなかの赤ちゃんに病気の疑いがあることがわかり、ひとりで不安を抱えている妊婦さんやご家族の相談を受けています。

出生前検査とは

血液のみで赤ちゃんの染色体異常を調べられる「NIPT(エヌ・アイ・ピー・ティー)」や、おなかに刺した針で羊水を採取し、そこに浮かぶ胎児の細胞を解析して染色体異常の確定診断をする「羊水検査」、超音波検査(エコー)で胎児の様子を確認し、健康状態を調べる「胎児超音波検査」など、おなかの赤ちゃんの健康状態を調べる検査のことを出生前検査といいます。

出生前検査には、赤ちゃんが生まれる前から病気の有無を知っておけることで、おなかにいるうちから必要な医療の準備ができて、赤ちゃんの命を救える可能性が高まるというメリットがあります。一方で、予想もしていなかった問題が見つかり、妊婦さんやそのご家族が戸惑ってしまうということもあります。

そのため、日本ではNIPTを受ける際には、遺伝カウンセリングという専門家によるカウンセリングを受けることが不可欠とされています。
---------------------------
出生前検査について詳しくは以下の記事をご覧ください。
▶︎宋美玄先生取材|NIPTってどんなもの? 出生前検査について妊婦さんが知っておきたいこと
▶︎中村靖先生取材|「出生前検査」では何がわかる? なぜ必要?

遺伝カウンセリングで解消しきれない悩み

ですが、遺伝カウンセリングを受けても、それだけでは疑問が払しょくされなかったり、不安な気持ちが解消されることがなかったりすることが少なくありません。また、遠慮して自分の選択を遺伝カウンセリングで伝えることができず、悩んでしまう人もいます。

そこで、検査実施機関でもなく当事者団体でもない、安心して相談しやすい窓口として開設されたのが「胎児ホットライン」です。

前回は、医療専門職として勤務しながら、胎児ホットラインでも相談員として活動している方にお話を伺いました。今回は「同じような経験がある人の話を聞きたい」という相談者と当事者などをつなぐ「ピアコーディネーター」に話を聞きました。
---------------------------
前回の記事
▶︎出生前検査の不安はどこで相談できる? 妊婦と家族の気持ち受け止める「胎児ホットライン」とは

無言の圧力にならないよう、必要な人とだけつながるピアサポーター

ピアサポートの「ピア(peer)」とは英語で「仲間・対等」といった意味を持ちます。

胎児ホットラインでは、相談予約が入ると、まずは医療専門職の資格をもつ相談員が2名1組で相談を受けます。そのときに、
「同じような経験をした人に話を聞きたい」
「産みたい、継続したいけれど実際に育てていけるのかが不安」

といった声があった場合には、ピアコーディネーターやサポーターが話を聞くことがあるそうです。

なぜ最初からピアコーディネーターが話を聞かないのか――そう質問すると、親子の未来を支える会の理事でもある水戸川真由美さんはこう答えてくれました。

水戸川真由美さん:NPO法人親子の未来を支える会理事/一般社団法人ドゥーラ協会認定 産後ドゥーラ/公益財団法人日本ダウン症協会理事。脳性麻痺の長女とダウン症の長男を含む3人の母。「こころのボーダーをなくそう」をコンセプトに活きかた表現を拡散中。

「私たちは、中立な立場であることをモットーにしています。当会のピアコーディネーターやサポーターには、『おなかの赤ちゃんに病気が見つかって妊娠を継続した人』と『継続しなかった人』の両方がいます。
もしも相談者が『妊娠の継続について悩んでいる』という相談をしたかったにもかかわらず、相談者が選んだ枠のピアサポーターが妊娠を継続した人たちだった場合、相談者の話したいことが話せなくなるかもしれません。それでは中立な立場とはいえなくなってしまいます。なので、はじめからピアコーディネーターやサポーターにつなげることはしていません。
まずは医療従事者が話を聞き、必要な人だけをつなぐというかたちをとっています」
(水戸川さん)

「相談者にはざっくばらんに本音を語ってほしい」

実は水戸川さんは、この界隈では著明な方。脳性麻痺の娘さんとダウン症候群の息子さんを含む3人の子育てをされていて、親子の未来を支える会の理事のほか、日本ダウン症協会の理事も務めています。しかし、中立性を保つために、相談を受ける際にもご自身のことは積極的に話さないようにしているそうです。

「私の情報を先に与えてしまうと、相談者の方が本当に相談したかったことを話さなくなってしまうかもしれないからです。
相談者の方が調べていて、ご存じの場合もありますが、その場合でも『気を遣わないで、なんでも言ってください』と伝えています。それでも最初のうちは遠慮して、なかなか言いたいことを言ってはくれないことが多いです。ですが、何度か面談を重ねていくと、相談者が私への遠慮をコロッと忘れて、本音を話してくれることがあります。その本音がたとえネガティブな内容であったとしても、相手が話してくれるようになることこそが重要だと思っています」
(水戸川さん)

水戸川さんはそう、あっけらかんと話してくれました。

「障がいがある・ない」の前に「みんな一人の子ども」

ピアコーディネーターやサポーターとの対話を希望するのは、障がいのある子を育てることに不安を持つ相談者が多いそうです。

相談では、必ずと言っていいほど聞かれることが二つあるといいます。まずは障がいや病気の概要について。もうひとつは、障がいのある子どもたちはどのような生活をするのかについてです。この時、水戸川さんは質問に加えて伝えている話題があるそうです。

「相談を受ける際は『相談者から聞かれたことに答える』『継続するかしないかの選択に口を出さない』ことが鉄則ですが、子育ての基本の話は、私から積極的にしています。

はじめての妊娠・出産の場合はとくに、障がいの有無にかかわらず、子育てをするということ自体、どんなことなのかがわからないですよね。例えば新生児って言葉が話せず、なんでも泣くことで訴えるしかないので、『なんで泣いてるんだろう? おむつかな? ミルクかな?』と、親が推測して対応するしかないわけです。なのでコミュニケーション自体は非言語で行われますが、たとえ赤ちゃんが理解していなくても声をかけるなど、言語を使ったコミュニケーションも行いますよね?

そうした子どもとの基本的なコミュニケーションって、病気や障がいがあってもなくても同じだと思うんです。みんな、病気や障がいのことばかりが気になっているので、『体の状態がどうであっても、子育ての基本は変わらないんだよ』という話は、私から積極的に伝えるようにしています。そう伝えると、相談者の皆さんも心なしか、子育てのイメージがつきやすくなるようです」
(水戸川さん)

投げかけたい疑問「子どもを産むってどういうことだろう」

出生前検査のことを考えるとき、私たちはたしかに、赤ちゃんの病気や障がいにだけ目を向けてしまいがちかもしれません。ですが、障がいのある・なし以前に、どんな子も一人の子どもであることに変わりないのです。

「どんな赤ちゃんにも普遍的で共通する話をきっかけに、『子どもを産むってどういうことだろう』というところまで深く考えてもらえるといいなと思っています。

私たちは、生まれる前の赤ちゃんの健康について悩みを抱える人たちに向けたブックレットをつくっています。妊娠初期の方に向けた『たね編』の中で訴えている、『生まれる前の赤ちゃんを知るということ』という内容がこの話がつながるので、機会があればぜひブックレットも読んでいただきたいです。ちょうど、出生前検査を受けるかどうか悩んでいる人向けの内容になっています。

出生前検査を受ける人の中には『検査をして障がいや病気がわかるなら、事前に知って避けておきたい』という感覚を持つ人が少なくありません。そのこと自体、悪いことではないですが、『避けておきたい』とは思っていても、実際に選択の必要にかられると、やはり皆さん葛藤されます。その時に後悔しない選択をするには、障がいというフィルターを通さずに、おなかの赤ちゃんに向き合うことが大切なのだと思います。これは、私が障がいのある子を産んだからこそわかったことでもあります」
(水戸川さん)

「生まれる前の赤ちゃんを知るということ たね編」(胎児ホットラインHPより)
妊娠初期に選べる検査が増える昨今、「赤ちゃんについて知るってどういうこと?」についても紹介し、検査のことだけでなく、新たな家族が増えることについて想いを馳せるきっかけとなるブックレット。HP上でダウンロードや送付依頼ができる。

継続しない・できない人も相談してほしい

こうした話を聞くと、水戸川さんはおなかの子に障がいがあっても妊娠を継続すべきと考えているように聞こえるかもしれませんが、そうではありません。

「相談者の方が考え抜いて、本当に満足のいく結論を出すためのお手伝いをするのが、ピアコーディネーターやサポーターの意義だと私は思っています。結論はどんなものでもいいんです。妊娠の継続であっても中断であっても、よく考えて出した結論であれば、私たちはそれを尊重します」(水戸川さん)

また、妊娠を継続しないと決めた人も、ぜひ親子の未来を支える会に相談してほしいと水戸川さんは話します。

「継続しないと決めた人や継続が難しい人が相談してくれたなら、赤ちゃんとお別れする際のお見送りのケア=グリーフケアについてお伝えすることもできるからです。

グリーフケアをきちんとできるかどうかは、その後の妊婦さんやご家族のお気持ちにもかかわってきます。医療機関では患者さんが『継続しない』という結論を出した後でないと、グリーフケアについて伝えることができません。でも、私たちピアサポートなら、まだ迷っている段階からお話ししておくことが可能です。だから、きちんと準備を整えて、お別れに備えることもできます。

なかには『命にかかわる話をされるのがつらい』という人もいるかもしれません。ですが、長年携わっていると、きちんとお別れをしておくのがいかに大切なことか、身にしみています。だからこそ、グリーフケアについてもきちんとお伝えしておきたいのです」
(水戸川さん)

納得ができないままでは、出生前検査を受けることも受けないこともリスク

最後に水戸川さんに、出生前検査を受けるかどうか不安に思っている人へのメッセージを伺いました。

「出生前検査を受ける場合、妊娠10週前後で、まだつわりがあるなど妊婦さんの体調が安定しないなか、決断していかなければならないことが多々あります。それはなかなかに大変ですし、つらいこともあると思います。

ですが、それでも全力を尽くして、ご自身が納得できる結論を考え抜いてほしいです。

ご自身が納得できていないままだと、出生前検査を受けないまま出産して、赤ちゃんに病気があることがわかった場合、『なんで検査を受けなかったんだろう。受ければよかった』となるし、受けた結果、病気がわかったら『なんで検査を受けたんだろう。受けていなかったら、病気があることを知らずにいられたのに』という気持ちになるはずです。『担当医が受けなくていいといったから受けなかったんだ。言うことを聞かなければよかった!』と、自分以外の誰かのせいにしてしまうこともあるでしょう。受けた場合でも同じようなことを思うはずです。

納得のいく結論が出せないままでは、出生前検査を受けないこともリスクだし、受けることもリスクになってしまいます。
だから皆さん、大変かもしれませんが考えて、考えて、考え抜いてほしいです。大変なのも、つらいのも当然です。だって新しい家族のことなんだから。『生まれる前の赤ちゃんを知る』とはどういうことか、時間の許される限り、納得いくまで考えてみてください」
(水戸川さん)

(取材・文:山本尚恵)

※この記事は、マイナビウーマン子育て編集部の企画編集により制作し、専門家の監修を経た上で掲載しました

※本記事は子育て中に役立つ情報の提供を目的としているものであり、診療行為ではありません。必要な場合はご自身の判断により適切な医療機関を受診し、主治医に相談、確認してください。本記事により生じたいかなる損害に関しても、当社は責任を負いかねます

PICK UP -PR-

関連記事 RELATED ARTICLE

新着記事 LATEST ARTICLE

PICK UP -PR-