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2021年09月18日 16:30 更新

家族全員が「得意」を活かす。パパ・ママではなく親というチームに 南田夫妻の場合 #共働き夫婦のセブンルール

世の共働き夫婦は、どう家事を分担して、どんな方針で育児をしているんだろう。うまくこなしている夫婦にインタビューして、その秘訣を探りたい。そんな想いから、今回の企画はスタートした。それぞれの家庭のルールやこだわりを7つにまとめ、その夫婦の価値観を紐解いていく。第8回目は5歳の男の子がいる南田夫妻のお話。

【左】南田良平さん(仮名/35歳/ヘアメイクアップアーティスト) 【右】南田琴美さん(仮名/37歳/広告プランナー)

テレビドラマのヘアメイクを担当する優しそうな良平さんと、ショートヘアが似合う、かわいらしい琴美さん。仕事では広告プランナーとしてマルチタスクをこなす琴美さんだが、「実は、家ではすごいポンコツなんですよ。だから家事はほとんど夫です」と笑う。

5歳のひとり息子は、2秒とじっとしていられないやんちゃなタイプで、子育てのモットーは「ケガは日常茶飯事。とにかく、死なせなければいい」。

だが、そんな息子も「体操」と出合い、よい指導者にも恵まれ、強化選手として小学生に混ざってぐんぐん成長しているそうだ。

夫婦の形、家族のあり方は本当に人それぞれだ。「うちの例は破天荒すぎて役に立たないかも(笑)」と言いつつ、南田夫婦が話してくれたセブンルールは、とても参考になるものだった。

7ルール-1 料理は絶対に妻が作る

「え、妻ばっかりなんて不公平じゃない?」と思うようなルールだが、南田家の場合は少し違う。

「家事が苦手だから、夫が長期出張に出ているとき以外は、洗濯や片付け、シャンプーの詰め替えとかの『名もなき家事(※)』まで全部、夫が担っています。でも、料理を作るのは私のほうが得意だから、料理だけは絶対に私が作ることで、家の中での存在感をアピールしています(笑)」(琴美さん)

今はコロナ禍であまり機会がないが、以前は南田家にママ友家族や琴美さんの同僚など、いろいろな人たちが遊びに来ていたそう。「そんなときは、みんなで楽しく食べれる大皿料理でおもてなしすることが多いです」(琴美さん)

その他の家事・育児は良平さんがメイン。乳児期は、おむつ替えやミルクも良平さんが率先して担っていたからか、息子は大のパパっ子だ。「パパがいい!」という息子を、琴美さんは「そうかそうか、じゃあパパにやってもらおうね」と見守っている。

ただし、良平さんは仕事柄、月単位でロケに同行するために家を空けることがしばしばあり、そういうときは琴美さんのワンオペになる。そのため、年間では夫と妻の家事育児の負担が7対3程度になるという。

良平さんのほうはそれでいいのかと聞くと、「僕のほうが細かいので、家事に対して『もっとこうしてほしい』というのはありますが、結婚前から何百回も言ってきたのに直らないので、もうあきらめているかな……(苦笑)。息子には、あきらめずに何度でも言いますけどね」と良平さん。

一方で、明るく社交的な琴美さんは、家族の中で渉外担当を務めている。

「息子が園でお友だちを叩いたりとか、いろいろやらかしてくるので、保育園の先生やママ友に謝ることが多くて。仲のいいママ友たちからは、『謝罪の王さま』と呼ばれています。夫は友だちが少ないほうで、コミュニケーションベタ。ご近所さんとか保育園とか、外部とのコミュニケーションはもっぱら私の役割ですね」(琴美さん)

“お友だちの親への謝罪”というとヘビー案件だが、琴美さんの明るさに救われているところは大いにありそうだ。今回、琴美さんを紹介してくれた知人によると、素直で上司や同僚からもかわいがられる、人の懐に入るのが上手なタイプだという琴美さんだからこそ、謝罪した親とも信頼関係が築ける。子ども同士のいさかいは、よっぽどでない限りどちらかだけが完全に悪いということはないからだ。

南田夫婦がうまく生活を回していけるのは、お互いにタイプが違うことを理解し、役割分担がはっきりしているということだろう。

7ルール-2 家計のことはすべて夫

もうひとつ、南田家で明確な役割分担となっているのが家計について。

「妻はお金があると全部使ってしまうんです。僕は通帳を眺めてニヤニヤするのが好きということもあり(笑)、お金は僕がすべて管理していて、妻はキャッシュカードも持っていません」と良平さん。

キャッシュカードも持っていない!? 琴美さんの毎日のランチ代や雑費は、どうしているんだろう?

「毎日、妻に2,000円を渡すようにしているのですが、それもきれいに使い切ってきます。家族の貯金箱として使っている赤い缶があるのですが、それに10万円を入れておいてなくなったら補充する、というやり方をしていた時期もあったのですが、それもすぐに使い切ってしまうので、今の形になりました」(良平さん)

以前に家族の貯金箱として使っていた赤い缶。今は主に500円玉貯金用として使用しているそう。良平さんが見せてくれた通帳は、なんと4冊も! 琴美さんの給料も管理しているそう。

琴美さんは物欲が強いというわけではない。夫の仕事柄、ヘアカットも夫にしてもらい、メイク用品も夫のものを使用しているため、ヘアメイクにお金がかからない。ただ、仕事でもママ友でも友人が多く、食事などに使っているうちにあっという間になくなってしまうという。

もちろん、琴美さんも今のスタイルは納得している。

「結婚前に夫と貯金を見せ合って、『なんでこんなことになるの?』と愕然とされてから、さすがに自分でもこれじゃいけないと思い、夫に任せるようになりました(笑)」(琴美さん)

服を買うときなどは別途、良平さんに申請するか、唯一持っているという1枚のクレジットカードで決済。他人から見ると少し窮屈にも感じるが、南田夫妻には「一番わかりやすくていい」という。

7ルール-3 2人で同じスポーツを楽しむ

取材中もにこやかで楽しそうなふたりには、サッカーという共通の趣味がある。学生時代にサッカー部だった良平さんが地域の子ども向けサッカーチームでコーチをするようになり、琴美さんもその保護者で結成したママさんチームでサッカーをするようになった。もちろん、息子も一緒だ。

「同じグラウンドでサッカーをしているので、夫からいろいろとアドバイスをもらっています。お互いの試合も必ず見に行くことにしていますね。お金もかからないし、健康的だし、家族で共通の会話が生まれるのでいいことばかりですね」(琴美さん)

良平さんがダイエットのために始めたランニングも、今では夫婦共通の趣味になっている。

「息子を保育園に預けている間に走るのですが、ランニングも共通の話題になりますし、体が軽くなるのでいいですよ」(良平さん)

近所をランニングする2人。琴美さんはゆったりマイペースに、体力のある良平さんは先にグングン走っていくのだそう。

2人が楽しそうに見えるのは、スポーツで鍛えているから、心身に余裕があるせいかもしれない。子どもが小さいころの共働きでは、体力が何より重要。特に南田家の場合、「2秒としてじっとしていられない」という息子のお世話をするには、親として子どもに負けない体力は絶対に必須だ。息子が大きくなった今も継続して続けられるのは、夫婦共通の趣味であることと、お互いに身体を動かすのが好きだからなのだろう。

7ルール-4 徹底した子ども中心の生活

夫婦の趣味も楽しんでいるとはいえ、 南田家の中心はやはり子ども。一人息子が産まれてから、気を抜けない日々が続いている。

「赤ちゃんのころからハイハイが高這いで、すごいスピードだったんですよね。ダダダーッと『もののけ姫』とかに出てきそうな勢いで移動しているのを見て、『これは大変になりそうだな』と思っていました(笑)。歩き出してからは、目を離した一瞬の隙に川に落ちたり、すんでのところで車にひかれそうになったり。言ってもきかないし、2秒もじっとしていられないので、苦労しています」(琴美さん)

園の先生からも、「体力があり余っているようなので、何かやらせたほうがいい」と言われ、サッカーのほかに始めたのが体操だ。教わったわけでもないのに、4歳のときから見よう見まねでくるくると逆上がりをするようになり、「これは」と思ったのもきっかけだったそう。

「体操教室でもいい先生に出会えて、やさしくじっくり教えてくださって。クラブチームの強化選手にも選んでいただいて、息子はすごく成長しています」(琴美さん)

体操以外でも、子どもが興味を持ったものは見逃さずに、一緒に楽しむ。

「ヒーローものが好きといえば、ヒーローショーを探して見に行ったり、お祭りを楽しんでいるようだと思ったら、各地のお祭りを探して出かけたり。息子がベーゴマに夢中になったときには、 “日本ベイゴマ協会”というところに問い合わせて、息子が気に入ったベーゴマを取り寄せたりもしました(笑)。そういう情報を集めたりするのは私ですが、夫はベーゴマを回す台をバケツと革で自作したりもしましたね」(琴美さん)

遊びに行くときや外食でも、子どもが喜びそうなところを選ぶという。

夫婦の子どもへの向き合い方で共通しているのは、「子どもの意思を尊重する」ということだ。幼くても、子どもが本当に興味のあることをサポートする。夫婦が得意なことを担当する家事分担のあり方が、「得意を伸ばす」教育方針にもつながっているようだ。

7ルール-5 お互いを「パパ・ママ」と呼ばない

ちなみに我が家の夫婦間の呼び名は「お父さん」「お母さん」だ。甘さもへったくれもなく、3人の子どもの前で話すのにラクだからそうしている。もっといえば、私はシャイなので、結婚前から夫を名前で呼んだことがない。

ただし、シャイだからこそ知っている。「名前を呼ぶ」という行為は、お互いの壁を超え、体温を感じるための非常に重要な第一歩なのだ。

南田夫婦は、それを知ってか知らずか(お話をしていると、琴美さんがコミュニケーションの達人に感じるので、おそらく無意識に気づいていると思われる)、今もお互いを「りょうくん」「ことちゃん」と呼び合っている。

取材中も、「りょうちゃんはさー」「ことちゃんもだよね」と楽しそうに話をしていたお2人。2人の関係にフィットした呼び名だということがよく伝わった。

「男の人に『おまえ』って呼ばれたくないんですよね。ケンカしたときも、『ことちゃんさ~』と言われたほうが、ずっとマイルドになると思いません? だからウチではずっと名前呼びで、呼び捨てでもなくあだ名です。もっと年を重ねたらそれもどうなのかな、とは思いつつ(笑)」(琴美さん)

夫妻の関係が今も良好なのは、この「あだ名呼び」も大いに影響しているようだ。

ちなみに我が家の夫婦関係も悪くはないので、重要なのはお互いが相手にどう呼ばれたいかを理解して、それを実践することでもあるかもしれない。

7ルール-6 【夫】家庭で性別の区別をつけない

現代の共働きでは、男性も女性も家事育児をして当然だ。とはいえ、それが心から当然になるのは今の子どもたちの世代のことで、今、親をしている世代の男性には、まだどこかに「家事は女性がやるもの」という親の代から刷り込まれてきた風景が残っているかもしれない。

だからこそ、良平さんは「家庭で男性女性という区別をしない」ということをルールとして肝に銘じている。

「洗濯も掃除も、家事は率先してやります。『男性だから』というプライドも意地もありません。結婚前からそうしてきたから、今は当たり前だと思えますね」(良平さん)

もちろん、息子にもそういう大人に育ってほしいから、自分が家事をする姿を見せている。

取材でご自宅にお邪魔したこの日は、良平さんの仕事がお休みの日。在宅ワークをする琴美さんの奥で、良平さんはキッチンに立って食器を洗ったり、果物を切っていたりと、テキパキと家事をこなしていた。

琴美さんも、「うちは本当にジェンダーレス。保護者会も行ける人が行くので、夫が行って男性ひとりだった、ということもあれば、コロナ前は夫婦で一緒に行くこともありました」と頷く。

「男性・女性ではなく、親同士というチームだと思っています。ママとして、パパとして、ではなく、チームとしての成果を考えるから、得意なほうがやるし、補い合えます」(琴美さん)

確かに、目標がチームとしての成果であれば、性別よりもスキルに合わせて担当を割り振り、効率的に進めていくのも当然だろう。

7ルール-7 【妻】 息子の一番のファンでいる!

「誰が何と言おうと、体操を始めた息子の1番のファンでいつづけると決めています」と琴美さん。

その思いは夫婦共通。休みの日にはトランポリンがしたいという息子のために神奈川県の環境の整った施設までドライブし、「2時間、息子がトランポリンを飛ぶのを夫婦でじっと見ていました」という。

千葉県にある大型公園に行ったときの一コマ。「周囲を見渡しても、こんなに高く飛んでるのは、息子だけでした(笑)」(良平さん)

良平さんは、息子さんの体操教室を毎回見に行くほど。

「仕事が入っていなければ、週2回の2時間半、仕事で受け取った台本を読んだりしながらずっと見学しています。先生の教え方が本当に上手で、勉強になるんです」(良平さん)

「私たちは息子のファンクラブ1号、2号なんです」と笑う琴美さん。両親にこれだけ応援されたお子さんの今後の成長が楽しみだ。

彼らの7ルールを一言で言うと……?

南田家では、大人も子どもも「得意」を伸ばし、活かしている。

その背景に、違いを認め合う多様性やジェンダーレスがある。現代社会が目指すひとつの形が、南田家で実践されているようだ。

「得意を活かす」と、それぞれに「やりたいことだけをやる」とは、似ているようで少し違う。やりたいことだけをやっていては、両立はうまくいかないだろうし、どちらかの負担が増え、それがストレスになることもあるだろう。

南田家の場合は、たとえば妻はお金の管理ができないし、夫は謝罪などのコミュニケーションが苦手。それをお互いが理解しているから、納得して補い合える。シンプルだから、細かくルールを決めなくてもうまくいく。

ここまで極端に自分たちを捉える夫婦も珍しく、多くの場合は「夫婦どちらも家事が苦手というわけじゃないけど忙しい」と押し付け合う、あるいはどちらかが「苦手ではない」と言いつつ、実は苦手だから同じことをやっても負担が大きい、というように、なんとなくごちゃごちゃしてしまう。

南田家の話を聞いて、家事育児を分担するとき、まず自分は「これは好きだけどこれは苦手」ということを自覚して、夫婦がお互いに理解し合い、補い合うことの大切さを改めて実感した。

長く一緒にいればそういうことも自然にわかってくるが、子どもが産まれて心身ともに余裕のないタイミングでお互いの得意不得意を探り合うのは効率的じゃない。できれば結婚前、もしくは妊娠中、せめて子どもが小さいうちに話し合い、ルールを決めておければ揉めごとも少なく、スムーズに回るだろう。

我が家にも結婚8年目にして、最近ようやく気づいたことがある。「夫よ、ほかの何をしてもいいけれど、お皿洗いはどうしても嫌いなんだね」ということだ。最初からそれがわかっていれば、「どうしてやってくれないの」とイライラすることもなかったのに――。そういうことだ。

(取材・文:中島 理恵、撮影:梅沢 香織、イラスト:二階堂 ちはる)

※「名もなき家事」「家事シェアハウス」は大和ハウス工業株式会社の登録商標です

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