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2023年10月08日 08:01 更新

しぼり出した10mlの母乳をこぼし「絶望」 アメリカで経験した産後うつ/森理世さんインタビュー【3】

2007年、日本人として48年ぶり2人目のミス・ユニバースに輝いた森理世さんは、コロナ禍のアメリカで出産をしました。そんな中、突然訪れた産後うつの症状。誰にも頼ることができなかった森さんの心を溶かした、ある言葉とは。

しぼり出した10mlの母乳をこぼし「絶望」

森理世(以下、森) コロナ禍でしたが、分娩には夫も立ち会うことができました。分娩室に入ってからは、無痛分娩の麻酔が入って久しぶりにリラックスできた時間でしたが、驚いたことに、無事赤ちゃんを出産したと同時に妊娠6週目から産む直前までずっと続いていたつわりの吐き気が消えました!

ーー産後の心身の調子はいかがでしたか? アメリカは産後2日ほどで病院から帰宅を促されますよね。

森理世(以下、森) 私も産後2日目に帰宅しましたが、無痛分娩だったからか体はとても元気な一方、その日は雨が降っていて「新生児が雨に濡れてしまったらどうしよう!」と心配するところからスタートしましたね。
 日本では病院で教えてもらってから退院ですが、私は沐浴の仕方やおむつの替え方など、わからないことがたくさんあるまま退院したのでてんやわんやでした。コロナ禍だったので母親学級もなく、助産師さんに「YouTubeを見ておいてね!」と言われましたね。

ーー自分で動画を見てなんとかしてね、と。

 そうなんです。アメリカって育児に限らずわりとなんでも「動画でチェックしておいて」で済ませるところがあります(笑)。
 生まれて2日以内に小児科に予約を取って赤ちゃんの健診に連れていかなければなりませんし、無痛分娩だったとはいえ、なかなか削られました。女性ホルモンの影響や睡眠不足、そして私は母乳の出が悪かったことが重なり、日に日に心がしんどくなっていって……。
 特に、母乳については本当に大変でしたね。頻回授乳しているのですが、足りなくてお腹が空くのか娘はとにかくよく泣いていました。遠方まで車を走らせて、大きな病院で診てもらったこともあります。

ーー授乳の苦労があったのですね。

 なかなか軌道にのらなかったんですね。搾乳もしていたのですが、がんばってやっとのことでしぼり出した10mlの母乳をこぼしてしまったときは……もうね、絶望感がいっぱいになって泣いてしまったほどです。
 そういったことが重なり、産後1ヶ月間、手伝いにきてくれていた義理の母が帰ったあと、限界が来てしまったんです。

夕日を見つめ、涙を流して「怖くて、悲しくて」

 10月に出産してから約1ヶ月。カリフォルニアの秋は日が沈むのが早くて、5時くらいには外が暗くなります。夕日を見ているとすごく寂しくて、怖くて、涙が流れてしまって……。
 そのときは日本にもう2年間ほど帰っていないし、夫も息子もいるけれど日中「初めての育児」に向き合うのは自分だし、ひとりぼっちの孤独を感じました。「日本の家族がいてくれたら……。私はいつ帰れるんだろう」と思うと、悲しくなってしまったんです。

ーー抑うつ症状が出ていたんですね。

 後になって思えば、そうなんです。お風呂に入ることさえ面倒になっていたほどでした。この胸が詰まるような気持ちを誰に言えばいいんだろうと、うつうつとしながら、病院へ子どもの健診に行きました。

 母親用のアンケートがあって何気なく回答を記入したのですが、その結果を見て小児科の先生が「Are you ok?」と一言、聞いてくださいました。それは産後うつに関するアンケートだったんですね。
 私はいつも、心配されても「大丈夫」と言っていたけれど、そのとき初めて「私は大丈夫じゃありません」と号泣しました。泣きながら、ああ、私は産後うつだったのか、とわかったんです。先生の「Are you ok?」というセリフが、深く胸に響きましたね。

ーー小児科の先生が、母親も見てくれるんですね。

 そうなんです。母親が心身ともに健康でないと、子どもに影響があるからでしょうか。だから、ママがハッピーかどうかをすごく聞いてくれるんです。

「なんでそんな抱き方をするの!?」些細なことが気になった時期

ーー産後、パートナーとの接し方は変わりましたか。

 今はそんなことはないのですが、当時の私は、彼が赤ちゃんと接することについて、すごく心配性になっていました。
 たとえば、彼がしたことに対して「なんでそんな抱き方をしているの!?」「こんなにキツくおむつを止めたら、息ができないかもしれない!」などとすぐに怒ってしまい、結局いつも「私が全部やりたい!」となってしまって。
 そんなふうに一時期、私が些細なことで傷ついたり怒ったり、いろんなことに敏感になっていたので、彼はなるべく触れないように静かにしていました(苦笑)。

ーー息子さんはいかがでしたか?

 妹ができたことをすごく喜んでくれました! 「僕はお世話できるぜ!」という姿を見せたくて抱っこをしてくれるんですが、やっぱり私は怖くて(笑)。でも、パパには怒れるけど彼には怒れない。だから、落っことさないように手を添えて常に追いかけていましたね(笑)。
 少し経ってようやく客観的になれたころ、「このときの私、ちょっと大変だったな」と気付くことができました。

ーーそう思えるようになってからは、生活に変化はありましたか?

 同じタイミングで、運動が解禁になって、今まで通りの生活に戻ることへのOKが出たので、バレエのレッスンを再開しました。体を動かしはじめて、家族以外の外で会う人に「Hello!」と声をかけてもらって……うつ状態から徐々に脱し、元気なっていきました。
 そうすると、それまで食欲も落ちていたのに、美味しいものを食べて「美味しい」と言えるようになり、それだけでなんてありがたいんだろうと実感しましたね。

森理世さん/モデル、ダンス アーティスティック・ディレクター

1986年12月24日生まれ、静岡県出身。4歳からジャズダンスを始め、高校生のときに留学先のカナダでバレエ学校に入学し、ハイスクールと両立して卒業。2007年、ミス・ユニバースジャパンとしてメキシコで開催されたMISS UNIVERSE 2007世界大会へ出場。満場一致の得票で優勝。第56代MISS UNIVERSEに就任した。現在はチャリティ活動、モデル活動を継続する一方、母とともに「I.R.M.ダンスアカデミー」で講師を務める。2021年にアメリカで第一子を出産。

(取材・文:有山千春 撮影:天田輔)

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