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2022年05月21日 21:01 更新

ワンオペが多い妻、でも夫への不満が少ない理由とは? 家族の平和のために作ったルール 古谷夫妻の場合 #共働き夫婦のセブンルール

世の共働き夫婦は、どう家事を分担して、どんな方針で育児をしているんだろう。うまくこなしている夫婦にインタビューして、その秘訣を探りたい。そんな想いから、スタートした企画。それぞれの家庭のルールやこだわりを7つにまとめ、その夫婦の価値観を紐解いていきます。

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【左】古谷晶子さん(仮名/41歳/人材/企画管理) 【右】古谷友和さん(仮名/41歳/建設/営業)

お互いによく行っていたバーのマスターに紹介され、1年も経たずに結婚。4年後に生まれた長男は現在5歳で、保育園に通っている。

晶子さんは1年半の育産休後、時短勤務で復職し、子どもが年少となったタイミングでフルタイムに。友和さんは建設業で支店長として働く多忙の日々だ。

平日は友和さんの帰りが遅いため、晶子さんが家事育児の多くを担っているが、友和さんも週に2回は保育園の迎えに行く。園帰りの公園では、面倒見がよく、優しい友和さんのまわりに他の子どもたちも集まってくる。

そんな友和さんを、ママ友たちは感謝を込めて「園長」と呼ぶ。

「だから、ママ友に夫の文句を言っても共感されないんです(笑)」とぼやきつつ、朗らかに笑う晶子さん。古谷家が平和に回っているのは、夫婦が築き上げたセブンルールがあるからだ。

7ルール-1 記念日には旅行に行く

古谷家では家族それぞれの誕生日と結婚記念日の年4回、家族旅行をする。「たとえばどこへ?」と聞くと、隣にいた息子さんが「踊り子号に乗って熱海とか、ロマンスカーで箱根。はやぶさに乗って函館にも行ったよ!」と教えてくれた。さすがは電車好き。実際に乗ったことで、行先もリンクして覚えているようだ。

大人の記念日には、温泉旅館や会津の料亭など、大人が行きたいところに行く。「○○に行ってみたいな」という家族の声をもとに、友和さんがすべてプランニングするという。

こう聞くと単純に微笑ましいが、このルールには歴史がある。

晶子さんの育休中、友和さんは仕事が忙しく、出張で家を空けることもあった。初めての育児でいっぱいっぱいだった晶子さんはふさぎ込み、産後うつ病のようになってしまったという。実家に行こうとしたが、両親からは「帰ってきてくれるのはいいけど、大雪で動けないよ」と残念そうな声。

そこで、晶子さんは1歳4ヶ月の息子さんを連れて、セブ島に3週間のプチ留学をした。

「向こうでは停電があったり、コンドミニアムにアリが入ってきたりして大変なこともありましたが、現地の人たちが明るくて、息子に『かわいいね』『抱っこさせて』とたくさん愛情を注いでくれました。本当にありがたかったですね」(晶子さん)

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セブ島でのプチ留学の一コマ。1歳過ぎの子どもを連れて海外(しかも語学留学)に行くという行動力には、驚かされた

日中は息子さんをベビーシッターに見てもらったり、児童教室に参加させたりして、晶子さんは英語のレッスンを受けた。勉強に打ち込み、さまざまな人と触れ合うことで、出産・育児で張り詰めていた心がほぐれていったという。

「子ども連れで大変でも、絶対に行ったほうがいい! と実感しました。もともと旅行が好きなので、一番リフレッシュできるんですよね」と晶子さん。

友和さんも、このときの晶子さんの変化を見て、「旅行は家族にとって必要なもの」だと感じたようだ。

7ルール-2 お金の管理はパパが担当

「お互いの給料がどれくらいか知らない」という古谷夫婦。特に晶子さんはお金の管理が苦手なので、家のお金は友和さんに任せている。

「妻は計画的に見通せないタイプで、服やブランド品にもどのくらいかけているのかわからない。子どもが産まれてからはそれでは不安だと思い、僕が管理するようになりました」(友和さん)

日々の食材費や日用品代は晶子さんが出し、外食費や携帯電話代などは友和さん。共通の通帳を作り、お互いに月いくら、と決めて入金する。学資保険など子どもの教育費は別に用意している。

「透明性を持たせるために、毎年クリスマスに、Excelでサクッと資料をつくり収支報告をしています」(友和さん)

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取材後、友和さんが送ってくれた収支報告書

株や会社の年金制度を利用して将来にも備えているという。お金の管理をきっちりしてこそ、安心して家族旅行にもお金をかけることができている。

7ルール-3 平日夜はがんばり過ぎず、子どもと一緒に寝る

共働き家庭ならわかるだろうが、平日17時、18時まで保育園に預けた場合、帰宅してから園の荷物を整理し、食事、入浴、歯磨き、片付け、寝かしつけ……と、めちゃくちゃ忙しい。21時までに子どもを布団に入れようと思ったら、親は座る暇もない。子どもにも「早くしなさい」と言い続けなくてはならない。

「週末に作り置きをしても、夫も夜遅い日が続くと食べ切れなかったりして、結局私ばっかり食べるはめになるんですよね……」とため息をつく晶子さん。保育園の帰りに子どもが公園で遊びたがるため、帰宅が18時半を過ぎることもしょっちゅうだ。

がんばり過ぎて疲労困憊すると、そこから体調を立て直すのが難しい。仕事も育児も持久戦だからだ。

そこで、「平日はがんばり過ぎない」と決めた。

「夕食はスーパーのお惣菜や外食、コンビニに助けられています。冷凍の惣菜も活用していますよ。気仙沼のお魚を調理したものを通信販売で取り寄せることもあって、探すと便利でおいしいお惣菜が結構あるんです」(晶子さん)

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平日が忙しいぶん、週末には現在5歳になる息子さんと一緒に料理をすることも

日中、がんばっているのは子どもも同じ。保育園ではしっかり先生のお話が聞けるように、「夜更かしにならない程度に好きなことをさせてあげて、夜は一緒に寝ています」と晶子さん。

以前は子どもが寝たあとにドラマを観たりしていが、それをすると疲れが抜けないことに気づいた。そこで、夜は一緒に寝てしまい、朝は少し早めの5時半に起きる。

「起きたらベッドの横にセットしてあるクイックルワイパーで、準備運動代わりにすーっと掃除します。その後は洗濯をしながら夕食の野菜の下ごしらえをすることもありますね」(晶子さん)

朝食も簡単に、晶子さんがパンと飲み物、ヨーグルト、ごはんならおにぎりなどを出して、子どもの身支度と皿洗いは友和さんが担当する。そして、7時半から45分には出勤。

これだけでも毎日続けようと思えば大変だ。どちらかがパンクするまでがんばり過ぎないこと。その上限ラインを見極めることは、育児中の共働き家庭では死活問題だと思う。

7ルール-4 人と比較しない

古谷家が大切にしているのは、「親も子どもも、ひとりの人格として尊重すること」だ。

だから、家事育児も「人がここまでやっているから」やらなければいけない、という決め方はしない。そして、誰かが「やりたい」と思うことには家族で協力する。

「子どもにも、人はみんな違っていて、違うからこそ魅力的であることを伝えるようにしています」と友和さん。

ある日、保育園の節分の絵で、みんなが2本角の鬼の絵を描いていたのに、「○○ちゃんの描いた鬼は角が1本しかないんだよ。おかしくない?」と息子さんが言ったという。

「そういうときは、『1本でも2本でもいいんだよ。人と同じじゃないといけないってことはないんだよ』と、ていねいに話すようにしています」(友和さん)

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「子どもが自己表現できるようになってきているときだからこそ、『こうじゃなきゃいけない』と凝り固まらないようにしたいよね」と晶子さん

大人でもつい、「みんなちゃんと育児をしているのに、なんで自分はできないんだろう」と、勝手に人と比べて自分を追い込んでしまうことがある。「育児中なんだから自分は我慢しなきゃいけない」と思い込み、つらくなってしまうというのもよくあることだ。

古谷家のこのルールは、共働き夫婦が自分たちらしくいるために、とても大切なポイントだ。

7ルール-5 子どもにも自分の考えを説明させる

ただし、「やりたい」と言えばなんでも無尽蔵にやらせるかといえば、それも違う。

古谷家では、子どもが「やりたい」と言ったことを頭ごなしに否定することはないが、代わりに「なぜやりたいのか、3つ理由を考えて説明してもらいます」と友和さん。

たとえば、大好きなアニメ、ポケモンに出てくるアイテム「ダイマックスバンド」がほしいと息子さんが言ったとき。「いいけど、なんでほしいのか3つ言ってみて?」と聞き返した。すると、「キョダイマックスができるから。レベルが上がるから。あと、うーんと……かっこいいから!」と理由を3つ絞り出したそう。

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「子どもの『やりたい』という気持ちを潰さないように気をつけつつ、自分がなぜそうしたいのかを考えて、それを人にも伝えられる人になってほしい」と語る友和さん

「まだ小さいですし、理由はなんでもいいんです。それでも、3つ考えることで自分が本当にほしいのかどうかを確認し、それを相手に伝える交渉能力を身につけてもらえたら、と思っています」(友和さん)

7ルール-6 【夫】妻の希望はできるだけ叶える

こんなにストレートで愛情に満ちたルールがあるだろうか。

軽く動揺しつつ「どういうことですか?」と聞くと、「共働きのなかで家事、育児の多くを担ってくれている妻に感謝しているので、できるだけ希望は叶えてあげたいんです」と友和さん。天使かな?

確かに平日の夜は晶子さんのワンオペになることが多く、「火曜日くらいで、もうクタクタです」と晶子さん。

友和さんも朝の洗濯物干し、皿洗い、登園の付き添い、ゴミ出し、週末の掃除、習い事の送迎は担っているが、料理は苦手なので休日もすべて晶子さんに任せている。

とはいえ、そこそこのタスクは担っているなか、平日ワンオペの苦労をしっかり理解し、ねぎらってくれる姿勢はすばらしい。

「出張中は全部私がやることになるので、そのあとプレゼントをもらいます。クリスマスや記念日にもカバンやアクセサリーなど、結構いいものをプレゼントしてもらっていて。モノだけではなく、有名シェフ監修のパスタやデザートが食べられる、カフェテリア付きの特急列車“サフィール踊り子”の旅をリクエストしたこともありました」と満足そうな晶子さん。

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「サフィール踊り子」は、都心から伊豆方面への優雅な旅が楽しめる観光特急列車。電車好きな息子さんも乗りたがっていたので、家族みんなで楽しめたそう

そういえば以前のインタビューで、「夫婦ケンカをしたら高級ケーキを買ってもらう」という女性がいた。その夫婦も妻が家事の多くを担っていたが、夫婦仲は円満そうだった。パートナーにお金をかけろ、と言いたいわけではないが、相手に好きなものがあるのなら、モノで気持ちを表すのも重要だな、と思った。

7ルール-7 【妻】子どもには具体的にほめる

こうきたら妻側のルールも夫のこと……ではなく、子どもの話だ。それだけ晶子さんが育児に真剣に取り組んでいて、それも含めて友和さんは感謝しているということだ。

晶子さんの通勤中のルーティンは、ツイッターで子育てハックを眺めること。その中で心に響き、心掛けているのがこのルールだ。

「忙しいと、子どもに『見て、見て』とアピールされても、簡単に『すごいね』だけで終わらせてしまっていることが多かったんです。でもそうじゃなくて、具体的に工夫したりがんばったりしている点を見つけて、言語化して伝えるようにしています」(晶子さん)

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息子さんに言い聞かせているとき、晶子さんがしゃがみこんで子どもと同じ目線で話しかけている姿が印象的だった

保育園で描いてきたピカチュウの絵に対しては、「ほっぺがちゃんと赤くていいね。黄色もしっかり塗れているね。あと……、耳がとがっていてかっこいい形だね!」とほめたら、息子さんはとてもうれしそうにしていたという。

この光景、デジャヴだ。ルール5のおもちゃがほしい理由を3つ絞り出している息子さんの姿が重なって、微笑ましく思った。子どもにさせていることを、親が率先して行っていると説得力があっていい。

彼らの7ルールを一言で言うと……?

最後まで話を聞いて、友和さんの「園長」というあだ名が言い得て妙だと納得した。

友和さんの望みは、とにかく家族のメンバーみんなが平和でいること。心からそう願っているから、考えたら友和さんのためだけのご褒美的なルールはないのだが、まったく気にならないようだ。

晶子さんが、育休中のプチ留学で閉じこもりそうになっていた気持ちを跳ね返した行動力も見習いたい。家事にしても育児にしても、「もっとこうできたらいいのに」と思えばきりがない。だからこそ、人と比べるのではなく「自分はこうする」と決めていかなくては、文字通り潰れてしまう。

子どもにもそんな風に成長してほしいのだろう。まわりに流されて、言われたことをするのではなく、「自分で見て、考えて、自分の道をみつけていってほしい」と友和さんは言う。家族旅行でたくさん“本物”を経験させているのもそのためだ。

古谷家のセブンルールは、すべて芯が通っている。結婚から10年のなかで、ひとつずつ家族にちょうどいいルールを見つけてきたからこその平和なのだ。

ローマは一日にして成らず。

何をもっとも大切にしたいのかの的を定め、それを実現するためのルールを同心円状に作っていくと、案外うまくいくのかもしれない。

(取材・文:中島 理恵、撮影:梅沢 香織、イラスト:二階堂 ちはる)

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