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2021年06月09日 17:40 更新

【専門家監修】夫との不仲は産後クライシス?!原因や後悔しないための乗り越え方

出産から数年の間に夫婦仲が急激に悪化する現象のことを「産後クライシス」と言うことがありますが、今回は主に妻側・女性側の目線から産後クライシスを考えます。出産前はあんなにラブラブだったのに産後、夫との仲がうまくいかない……という人は、この状況に至った背景と乗り越え方をチェックしてみましょう。

夫へのモヤモヤは産後クライシスなの?

イライラする妻

妊娠前は気にならなかった、夫のあんなことやこんなことが、産後はいちいち気になって仕方がない……それは産後クライシスの前触れかもしれません。

産後クライシスとは、産後に起こる危機(クライシス:crisis)のこと。NHKが最初に提唱したといわれており、医学用語ではありません。一般的にはそれまで仲の良かったカップルが、出産を機にお互いへの愛情が大きく落ち込み、関係性がどんどん悪化していくことを言います。

あなたは当てはまる? 産後クライシス・チェックシート

まずは以下のチェックシートを見てみてください。当てはまるものはいくつあるでしょうか。

□ 苛立ちやストレス、からだが疲れを感じることが多い
□ パートナーの言動に対してイライラすることが増えたと感じる
□ パートナーと、家事や育児の分担について話し合ったことがない
□ パートナーにもっと育児や家事に真剣に取り組んでほしいと感じる
□ 自分は、パートナーにお願いしたり頼ったりするのが苦手だと感じる
□ 自分は、悩みを相談する友達や、頼れる身内がいないと感じる
□ 自分は、なんでも1人で抱えてギリギリまで我慢してしまうタイプだと感じる
□ 自分の言いたいことがパートナーに伝わっていないと感じる

当てはまる項目が多いほど、産後クライシスに陥りやすいタイプや状況といえそうです。

夫が悪い?妻が悪い?産後クライシスが生じる背景

夫婦喧嘩

産後クライシスはどのように生じるのでしょう。その背景を確認してみましょう。

産後に夫婦関係が冷え切る

産後、夫婦関係が変化し、俗に言う「冷え切った状態」になって産後クライシスが生じるのには、こんな背景があると考えられます。

子どもの誕生を機に、親密さに変化が出る

赤ちゃんと仲の悪い夫婦

子どもが生まれてからの夫婦の関係は「家庭という場で子育てを協力して行っていくべきユニット」と言い表すこともできます。しかし、どのようにして協力していくかについての話し合いを十分に行っている夫婦は、決して多くありません。そうしたところから夫婦の関係にすれ違いが生じ、産後クライシスを生じさせる一因になっている可能性があります。

ある調査において「育児について夫婦で話し合いをしているかどうか」と「育児についての夫婦での話し合いに納得できたかどうか」を質問したところ、「納得できる話し合いをした」と答えたのは女性が66.4%だったのに対し、男性は73.2%と、7%ほどの開きがありました[*1]。「たった7%」と感じるかもしれませんが、このようなちょっとした意識のすれ違いが積み重なった結果、夫婦関係が冷えていくことは決して少なくありません。

また別の調査によると、妊娠中~0歳の時期にかけて夫婦間の愛情は下がる傾向にあり、さらに夫よりも妻の愛情のほうがより多く減少していると報告されています[*2]。

低下した愛情は、3年が経過すると低い状態のまま推移していくという調査結果もあるなど[*3]、子どもの誕生は夫婦の親密さに少なからず影響を与えるようです。

育児ストレスにより、夫婦にすれ違いが生じる

育児のストレスをためる妻

育児をする上で夫婦ともに多少なりともストレスが増えますが、子どもと関わる時間が比較的多い側のほうが、より大きなストレスを抱え苦しさを感じている傾向がうかがえます。現状、その立場にいるのが妻である家庭は多いでしょう。

夫の育児参加機会が増えてはいるものの、妻の期待を上回るほどの育児支援がないことを示す調査結果もあります[*4]。それが妻の育児ストレスを強め、夫婦のすれ違いを生じさせていることもあるでしょう。

また、子どもが乳児期のうちは、自身の体の不調や睡眠不足など主に肉体的疲労をストレスとして感じる傾向があるようですが、子どもが幼児になってからは、イヤイヤ期など育児の難しさを実感することで心理的に不安定な状態になるなど、ストレスの要因が変わるという難しさもあります。

こうしたさまざまなことが少しずつ夫婦関係にも影響を与え、産後クライシスを招くと考えられます。

産後クライシスはいつまで続く?

子供を挟んで歩む夫婦

では、産後クライシスはいつごろまで続くのでしょうか。

「授乳期間が終わるまで」など諸説あり

厚生労働省の「全国ひとり親世帯等調査結果報告(2016年)」によると、全体(死別を除く)の約4割が、子ども(末子)が0〜2歳の時に離婚をしています。それはつまり「産後2年以内」に離婚を決意しているということ。子どもが3~5歳の時に離婚した家庭を含めると、その数は全体の6割に達しています[*5]。個々のケースによる違いや授乳期間が終わるまでなど諸説ありますが、離婚の状況から見ると、産後クライシスは産後5年ほど続き、家庭の維持に影響を与える可能性もあります。

離婚を決断する前に! 産後クライシスを乗り越える8つのポイント

手を繋ぐ夫婦

夫婦関係に大きな影響を与えることもある産後クライシスですが、どのような変化があるのかを知っておけば、乗り越えるヒントにもなるはずです。産後クライシスを乗り越えるための心構えを、夫婦で知っておきましょう。

1. パートナーと「産後クライシス」について話す

話し合う夫婦

そもそも産後は、急激なホルモン分泌の変化などの影響で、感情のコントロールがうまくいかないことの多い時期。パートナーにイライラするのは、本来の自分の感情ではなく、そうした産後の体の影響による一時的なものかもしれません。

まずは、自分の心が今はイライラしがちな状態にあることを受け入れましょう。そして、パートナーとも産後クライシスについて話し、情報と知識の共有をしていくことが必要不可欠です。

2. 「敵」ではないと考える

感謝を述べる妻

パートナーは、これから一緒に子育てをし共に家庭を守っていく最大の味方。「期待通りに動いてくれない」「傷つけるようなことを言ってくる」などと思うこともあるでしょう。ですが、それはパートナーなりに努力をしたり、あなたのことを思いやったりした結果である可能性もあります。夫婦で目指す“目的”は同じはずです。不安な場合は、夫婦のビジョンを再度確認してみましょう。

3. 「相手への敬意」を忘れない

パートナーに対して感謝やねぎらいの気持ちを伝えていて、パートナーからも同様の気持ちが感じられている夫婦は、夫婦関係の満足度が高いという調査結果があるように[*6]、パートナーに敬意や感謝の気持ちを持つことは、良好な関係維持のポイントになることもあります。

完璧な人間などいません。日ごろの様子を思い出し、パートナーに対して感謝できることがないか、またこれまで少しでも感謝した気持ちを伝えてきたかを思い返してみましょう。

4. 「自分の気持ち」を正直に話す

悩みを打ち明ける妻

どうしても感情がコントロールできず、そんなつもりはないのに攻撃的になってしまうという時は、そのことをパートナーに素直に伝えてみましょう。

ちょっとしたことでイライラしてしまう、赤ちゃんが泣いた時に「泣いてるよ」と言われるのがつらい、家を片付けたいのにできないのがつらい……など、自分が今感じている気持ちを、パートナーに正直に打ち明けるのです。そうすると、パートナーはあなたが今どんな気持ちなのかがわかり、今後の対策が考えやすくなるはずです。

5. とことん話し合い、お互いが「自分の言動」を振り返る

感情的に相手を責めてしまうと、それにつられて相手も同じような反応を返してしまいがちです。パートナーが自分に対して冷たい態度やイライラしているような態度をとったと感じたとしても、それは自分の勝手な解釈であり、勘違いだったというケースは少なくありません。

不毛なケンカをする前に「どのような言動に自分はイラついてしまったのか?」「なぜパートナーは、あのような態度をとったのか?」とお互いに振り返って確認し合うことで、改善の余地がないか考えてみましょう。

6. パートナーと根気強く「対話」を重ねる

自分1人で何もかも抱え込もうとせず、両親や兄弟、友達、アウトソーシングなどを頼ることで、肉体的にも精神的にも救われることがあります。しかし、ほとんどの人たちはパートナーと一緒に子育てをしていきたいと考えています。そこで大切なのは、“対等”というキーワードです。

パートナーと対等な立場で育児や家事をすることで、「それぞれ」ではなく「私たち」という夫婦が目指す本来のパートナーシップを築くことができます。そのためには、対話が何よりも大事です。お互いの不満や不安、できること、できないことを確認し合いながら、より良い夫婦関係にしていくための対話を重ねることで「本当の夫婦」になっていくのです。

7 夫や妻へ不満があるときの「伝え方」を決めておく

伝えたいことを紙に書く妻

パートナーに改善してほしいところがある場合の伝え方を、あらかじめ決めておくのもひとつの方法です。

例えば週に1回、または月に1回など、互いに話し合う日を決めておく、または直接不満を伝えるとカドがたつので、いったん文章にして伝えるなど、伝え方のルールを決めておきましょう。そうすることで、たとえイライラするようなことがあっても「後で伝えればいい」という気持ちになり、感情のたかぶりが抑えられやすくなるでしょう。

また「言い方」も大事です。たとえば「私は、〜と言われてとても傷ついたよ」「〜してくれたら、私は嬉しい」など、あくまでも“自分の気持ち(感情)”をそのまま伝える手法をとることで、パートナーを責めることもなく、自分の思いも伝わりやすくなります。

8. 「モヤモヤの解消法」を見つける

基本的なマインドは「自分を楽しむ」ということです。ですが、モヤモヤしたりイライラしたり、感情がたかぶったときに、それを解消する方法を見つけておくことも大切です。

「愚痴を言ったり話したりできる相手を見つける」「家族やシッターさんなどに子どもを預けて少し育児から離れてみる」など、自分なりにモヤモヤを解消できる方法を見つけておきましょう。たかぶった感情をうまく解消できれば、気持ちが落ち着き、パートナーにも冷静に対応できるようになるでしょう。

まとめ

産後クライシスを乗り越えた夫婦の5年後

産後は心も体も通常運転ではない状態。体調が万全ではなく、感情の浮き沈みも激しいことが多い中、冷静な判断や対応をするのが難しいことは少なくありません。産後クライシスはどの夫婦にでも起こる可能性があるのです。
ですが、一時の感情の流れで大きな決断をし、後悔してしまうのは避けたいもの。パートナーとの関係にイライラが募ったときは、そのイライラを爆発させる前に冷静に話し合う(対話する)ことが何よりも大事です。また、話し合いの方向性によっては、少し距離を置くなどして冷静に考えられる時間を作り、後悔のない判断ができるよう心掛けてみましょう。

(文:山本尚恵/監修:高草木陽光)

※画像はイメージです

参考文献
[*1]「育児期にある夫婦ペアレンティング―互いの育児の批判をめぐって―」清水嘉子 - 日本助産学会誌, 2020 p5
[*2]「第1回 妊娠出産子育て基本調査・フォローアップ調査(妊娠期~0歳児期)」はじめてのペアレンティング研究会 2009.2
[*3]小野寺 敦子「親になることにともなう夫婦関係の変化」発達心理学研究,2005,16巻, 1号, p.15-25
[*4]清水 嘉子「乳幼児の母親の心身の状態に関する縦断研究」日本助産学会誌,2017,31巻,2 号 p.120-129
[*5]厚生労働省 平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果報告「2 ひとり親世帯になった時の親及び末子の年齢」
[*6]「育児期にある夫婦ペアレンティング―互いの育児の批判をめぐって―」清水嘉子 - 日本助産学会誌, 2020 p10
  • 本記事は公開時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください。

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