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2024年02月24日 11:21 更新

“教育界のノーベル賞”を受賞したトップティーチャーの教え方。エデュテイメントはただの遊びじゃない!/正頭英和先生インタビュー

楽しみながら学ぶことを目的とした「エデュテインメント(エデュテイメント)」。「エデュケーション(教育)」と「エンターテインメント(遊び)」を組み合わせた新しい教育です。

エデュテインメント特集

立命館小学校で教諭を務める正頭英和先生は、人気ゲーム「マインクラフト」を授業に活用したことなどが評価され、2019年にはさまざまな環境下で実践できる優れた教育活動を表彰する「グローバル・ティーチャー賞」トップ10に選ばれました。

エデュテイメントを積極的に授業に取り入れてきた第一人者である正頭先生に、子どもたちがどんどん伸びていく「楽しい学び」について聞きました。全2回でお送りするインタビューの1回目です。

マイクラを授業に取り入れてみたら……

正頭英和先生
「授業でマイクラやるよ、と言ったら、子どもたちは大喜びでしたね(笑)」

——「エデュテイメント」とはどのような教育プログラムを意味するのでしょうか。

正頭英和先生(以下、正頭) 日本でもここ数年で話題になっていますが、「エデュテイメント」と聞いてもほとんどの保護者がどういうものをさすのかわからないかと思います。まずはこの言葉の意味を説明する前に、「教育とは」というところから考えたいと思います。
 教育とは「子どもたちの未来に必要な力を育てること」が前提にあり、「不易流行」もあります。「人に迷惑をかけない」「法律は守りましょう」という不易の部分は、いつの世でも変わりません。しかし、勉強方法に関しては時代と共に変化しています。教育(education)と遊び(entertainment)を組み合わせたエデュテイメントはまさにそんな変化のひとつで、子どもたちが楽しみながら「もっと学びたい」という意欲を引き出すことができる新しい学習法です。

——先生は「Minecraft(以下、マインクラフト)」や「桃太郎電鉄(以下、桃鉄)」などを使って授業をしていますが、初めてそうした授業を展開したときの子どもたちの反応は覚えていますか?

正頭 今でもよく覚えています。子どもたちは本当にいい反応をしてくれました。初めてマインクラフトを使った授業をしたのは、たしか2016年だったと思います。
 授業を準備する段階では、「これってただの遊びじゃないのか?」と、何度も自問自答しました。でも、実際に授業をしてみると、こんなにも子どもたちのモチベーションが上がるものかと驚いたんです。「これは遊びだからダメ」と思考停止するのではなく、「遊びだからこんなにモチベーションが高くなるのだ」と捉え、エンターテインメントをうまく学びに活用すべきだと考えるようになりました。

英語は間違いに気づいた瞬間が一番伸びる

——マインクラフトを使ってどんな授業をされているのですか?

正頭 そもそもマインクラフトというソフト自体、教育との相性の良いゲームですが、「教育版マインクラフト」はプログラミング教育・情報教育・協同学習などの教材としてとても良いものです。当時の僕はゲームの知識がなかったのですが、そんな僕でもわかりやすく扱えるソフトでした。
 授業ではまずグループを組み、会話はすべて英語でするという条件を出しました。ブーイングが起こるかなと思いきや、生徒たちは「やるやる!」「マイクラさせてくれるなら、英語で話すよ」とノリノリ。英語だけで会話する授業がスタートしました。この授業の最大の課題はここにあります。ただ友だちと楽しくマインクラフトをやることではなく、英語を間違えてほしかったんです。

——「英語を間違えてほしかった」とはどういう意味でしょうか?

正頭 英語の授業で「なにか話してごらん」というと、たいていの子は黙ってしまいます。だから間違えません。どこを理解していないのか僕たち教師にもわかりません。でも、ゲームによって予期せぬ展開に遭遇すると英語で喋りますし、間違えます。ゲーム中なので、間違えてもそこまで恥ずかしくはありません。マインクラフトをやることで、「英語を間違えることは恥ずかしくない」とハードルが一段下がるんです。
 英語は間違えたことに気づいた瞬間が一番伸びます。英語力は「間違える⇒フィードバック⇒間違える⇒フィードバック」の繰り返しでどんどん伸びていきます。だから、英語の使い方を間違えたとき、同じクループの子が「それは違うよ。こうだよ」と指摘してくれることが最大の目的なんです。

——なるほど! 英語を使う抵抗感を取り払い、間違えても恥ずかしくない空気感になることが、ゲームを利用するメリットなんですね。

正頭 もちろん従来の英語の授業のやり方を否定はしません。しかし、ゲームを活用することで、生徒たちは英語をどんどん間違えてくれるようになりました。間違えれば間違えるほど、英語力は伸びていくというわけです。

わざわざ田舎で自然体験をさせる必要はない

正頭英和先生
「特別な体験をさせなきゃいけないわけじゃないんです」

——柔軟性がより顕著な未就学児~低学年の子どもたちにはどんなエデュテイメントがおすすめでしょうか?

正頭 なにか特別なことを準備する必要はまったくありません。未就学児や小学生低学年の時期はいろんなことをやってみたい時期なので、「これやってみよう」と提案すると素直に「うん」と乗ってくれることが多いと思います。
 この時期は言われなくても遊びの延長に学びが結びつくことが多いので、気負う必要はありません。たとえば、畑仕事もエデュテイメントのひとつといえます。家庭菜園でもいいと思います。自分で野菜を「育てる、収穫する、食べる」と段階を踏んでいくと、子どもたちは野菜について興味を持ち、どんどん学んでいきます。一つのことを細分化してあげることで体験は広がります。だから、いつもの公園で遊ぶときも、遊びを細分化するだけでそれが「体験」となります。

——身をもって「体験すること」が重要なんですね。やはり未就学児のうちからはじめたほうがいいのでしょうか?

正頭 僕もこれまで様々な学年の子どもたちをみてきましたが、ある程度の学年になったからといって遅いということはありません。しかし、幼いころからはじめたほうが費用対効果はいいと思います。短時間で興味を持ってくれるので、すぐに熱中してくれます。
 ただし、飽きやすいという側面もあります。しかも、子どもの興味は薄れているのに親が「もうちょっと続けなさい」や「もう飽きたの?」と言ってしまいがちです。いわゆる親子間のギャップですね。子どもが飽きたら、軽やかに次のステップに移行できるよう、親が心構えしておく必要はあります。未就学児や小学生低学年の時期の体験は「広く浅く」でいいと思います。

——なるほど。高学年になると今度は、「何が得意かわからない」「そもそも何が好きかもわからない」など、自分の可能性に蓋をしてしまっているお子さんもいると思います。好奇心を刺激するにはどんなことからはじめればいいでしょうか?

正頭 やはり「調べる・作る・試す」という3つの体験をたくさん提供してあげてください。たとえば一緒にミニトマトを植えるとしましょう。このとき、ただミニトマトを植えるだけではもったいないです。まずは「植え方を調べてみよう」と提案してください。次に、一つの鉢には1日に水を3回、もう一つの鉢には2回だとどうなるだろうと試してみる。実験ですね。
 そして収穫したミニトマトは、いろんな調理法で食べてみます。すると「野菜の次はお米を育てたい」と自分から田植え体験を相談してきた子もいました。入口はエンターテインメントを利用してハードルを下げてあげれば、子どもたちに「やってみよう」という気持ちが芽生えていきます。ただ、学校でできることには限界があるので、家庭でのエデュテイメント体験がどんどん増えていくといいなと思います。

——子どもに何か体験をさせたいと思うと、どうしても田舎に連れて行って自然に触れさせるようなことを連想しがちです。

正頭 そういう保護者は多いと思います、でも田舎でなくても家庭でできる体験はたくさんあります。家でできる最大の体験は料理です。大人になると当たり前のことですが、子どもにとって料理をすることは刺激的です。また掃除や洗濯など、大人にとっては面倒だと思っている家事も、子どもにとっては体験のひとつといえます。

勉強に役立つことを探すよりも、大事なこと

——子どもが体験を通じて何かに興味を示したとき、大人はどんな声かけをすると良いのでしょうか。

正頭 先ほどの答えと重なりますが、基本は「調べてみよう、作ってみよう、試してみよう」です。たとえばゆで卵を作るとき、「どれくらい茹でたら〇ちゃんの好きな半熟になるか、試してみようか」、「ゆで卵の殻はどうやったらきれいに剥けるか調べてみようか」、「できたゆで卵を使ってアレンジ料理を作ってみようか」など、声をかけてあげてください。このときに決して命令口調にならないよう、つねに提案型を心がけてください。日常生活には体験できることがあふれているので、もっと気楽に考えてもらえたらいいなと思います。

——子どもの好奇心はどこで火がつくかわからないので、まずはいろんなことを体験することからですね。

正頭 よく保護者に「勉強に役立つことはどんなことですか?」と質問されますが、役立つことを探すよりも、多くの体験によりその子が「好き」なことを探すことが一番の近道だと思います。

——実際、子どもの「好き」を増やすにはどうしたらいいでしょうか。さらに、親はどんなことに注力してあげればいいでしょうか。

正頭 それは体験の機会を増やしてあげることです。ただし、大人が「これ面白いよ」、「こんな貴重な体験はなかなかできないよ」とハードルを上げて提案してはいけません。子どもたちの周りにはすでにゲームや動画など興味深いコンテンツであふれていますから、そうした誘い文句では見向きもしないでしょう。そこで学習にエンターテインメントの要素を入れた、これまでにない形を提案すると、子ども自ら「なにそれ?面白そう」「やってみたい」と好奇心がそそられ、新しい体験へとつながっていきます。

続けさせることは「美学」ではない

正頭英和先生
「時間は有限。辞めたがっている習い事を、無理に続けさせる必要はないのでは」

——先ほど、幼い子ほど興味が移り変わりやすいこと、飽きたら親は「もうちょっと続けなさい」と強制してはいけないことを伺いましたが、大人は長く続けることがいいとどうしても思いがちですよね。

正頭 よく「続けることは美学、辞めることは勇気」なんていいますが、無理に続けさせることは美学でしょうか。たとえば、子どもが5年続けたピアノを辞めたいと言ってきたら、大人は「せっかく5年も続けたのに。もったいない」、「次の発表会までは続けたら?」とピアノから離れることをなかなか許しません。しかし親子で押し問答するのではなく、次に興味のあるものに変えたほうが時間もお金も無駄にはなりませんよね。体験は無限にありますが、時間は有限です。いかに限られた時間を有効に使うかは親の気持ちも関わってくるのです。

——辞めたい理由にもよりますよね。

正頭 そうですね。理由は必ず聞いてあげてください。自分が理由で辞めたいのか、他人が理由で辞めたいのかが重要です。「もう飽きちゃった」「違うことをやってみたい」と、自分が理由であればそれは辞め時だと思います。
 しかし、他人が理由で辞めようとしている場合……たとえば「〇〇君がいじわるするから」「いくら練習しても△△ちゃんより上手にならないもん」などといった理由を打ち明けたときは、ちょっと待った!です。本当は続けたいのに、うまくいかないから他人を理由にして辞めようとしているだけかもしれません。そんなときは「他人のせいにして辞めてもいいの?」「本当は続けたいと思っていない?」とじっくり話を聞いてあげてください。

正頭 英和(しょうとう ひでかず)

正頭英和先生

立命館小学校教諭 / 学校法人立命館 起業事業化推進室 教育プロデューサー
1983年大阪府生まれ。関西外国語大学外国語学部卒業。関西大学大学院修了(外国語教育学修士)。京都市公立中学校、立命館中学校高等学校を経て現職。2019年に教育界のノーベル賞「グローバル・ティーチャー賞」トップ10に選出された。

「正頭先生の好きがミライを変える授業」が2月15日(木)から配信開始!

「正頭先生の好きがミライを変える授業」

ポッドキャスト「正頭先生の好きがミライを変える授業」

2019年、教育界のノーベル賞“グローバル・ティーチャー賞”トップ10を受賞した正頭英和が、みなさまの子育てや教育に関するリアルなお悩みについて、世界の教育事情やトレンド、教育現場での実体験等を織り交ぜながらお答えしていく番組です。
自身の経験や固定概念に囚われ、子どもとデジタルとの適切な共存の仕方がわからない、子どもたちの興味が何なのか、またそれらをどのように成長させ未来に繋げていけば良いのか悩む保護者にとって、現代の子どもの教育・子育てにおける考え方を知ることができる“場”となるよう発信してまいります。
現在も小学校で教鞭を取っている教師だからこそわかる、子どもとの向き合い方やニーズの変化、教育のHow Toなど、毎週木曜に今気になるテーマを掘り下げたトークを通じてお伝えしていきます。

(取材・文:安田ナナ、撮影:尾藤能暢)

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