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2023年11月18日 10:00 更新

最後が悲しい「ごん狐」、いたずらを後悔して心を入れ替えた小狐ごんの気持ちを親子で考えたい名作

親子で楽しみたい物語をご紹介している本連載「親子のためのものがたり」。今回は新美南吉の書いたものの中でも最も有名な「ごん狐」を取り上げます。いたずら狐があることをきっかけに心を入れ替え、つぐないをしていくというお話。一度読むと結末は忘れがたいですが、その途中にはどのような展開があるのか、一緒に見ていきましょう。

「ごん狐」を子どもに聞かせよう!

新美南吉の代表作とも言える「ごん狐」。小学校の国語の教科書の定番にもなっている児童文学の名作です。教科書で習うまえにご自宅で読み聞かせ、親子で一緒にごんの気持ちを考えてみませんか。

「ごん狐」のあらすじ

ごんは最初はいたずら狐でしたが、ある出来事から改心します。しかしそれまでいたずらをされてきた兵十はそのことに気付きません。それによって悲しい事件が起きてしまいます。

ごんぎつね

いたずら狐のごんと人間の兵十

昔、ある村の山の中にごんという狐がいました。ごんは一人ぼっちの小狐で、森の中に穴を掘って住んでいました。そして夜も昼も、あたりの村へ出てきていたずらばかりしました。

ある秋のことでした。ごんは村の小川の土手まで出ていきました。ふと見ると川の中で兵十(ひょうじゅう)がぼろぼろの着物をまくし上げて、腰まで水に浸りながら魚を獲っていました。

兵十が網を水の中から持ち上げると、その中には芝の根や草の葉などがごちゃごちゃ入っていましたが、ところどころに太いうなぎや大きなきすが光っていました。兵十はびくの中へうなぎやきすを入れ、それからびくを土手に置いて川上の方へ行きました。

兵十が居なくなると、ごんは草の中から飛び出していたずらを始めました。びくの中の魚をつかみ出して川へ投げ込んだのです。しかしうなぎだけはぬるぬると滑り抜けてしまい、手ではつかめません。じれったくなったごんが頭をびくの中に突っ込んで、うなぎの頭を口にくわえると、うなぎはごんの首へ巻き付きました。

その時、兵十ごんに気付き「うわあ、ぬすっと狐め」と怒鳴り立てました。ごんはびっくりして、うなぎを首に巻き付けたまま飛び出し、一生懸命に逃げて行きました。洞穴の近くでごんは振り返って見ましたが、兵十は追ってはきませんでした。

\ココがポイント/
✅いたずらばかりしている「ごん」という狐がいた
✅ある日、ごんは兵十の獲った魚を川に放り投げるといういたずらをした

兵十のお母さんの死

ごんぎつね

それから十日ほど経って、ごんが村にやってくると、様子がいつもと違います。「何かあるんだな。何だろう、秋祭かな。祭なら太鼓や笛の音がしそうだけど」と考えていると、兵十の家の前へ来ました。家の中には大勢の人が集まっており、よそ行きの着物を着て腰に手拭いを下げた女たちが、表のかまどで火を焚いています。「ああ、葬式だ」ごんは思いました。

お昼すぎ、兵十の家のだれが死んだのか気になったごんは、村の墓地へ行って隠れていました。すると村の方でカーン、カーンと鐘が鳴りました。葬式の出る合図です。

やがて白い着物を着た葬列がやって来て、兵十が白い裃をつけて位牌を捧げていました。いつもは元気のいい顔が今日は何だかしおれていました。「ははん、死んだのは兵十のおっ母だ」

その晩、ごんは穴の中で考えました。

「兵十のおっ母は床に伏せていて、うなぎが食べたいと言ったに違いない。ところがおれがいたずらをして、うなぎを取って来てしまった。だから兵十は、おっ母にうなぎを食べさせることが出来なかった。そのままおっ母は、死んじゃったに違いない。あんないたずらをしなけりゃよかった」

\ココがポイント/
✅兵十のお母さんが亡くなってしまった
✅うなぎは兵十のお母さんが病床で食べたいと言っていたものだったとごんは気付く
✅ごんはうなぎを取ったことを強く後悔する

うなぎのつぐないに

兵十は井戸で麦を研いでいました。母と二人きりで貧しい暮らしをしていた兵十はいまは一人ぼっちでした。「俺と同じ一人ぼっちの兵十か」物陰から見ていたごんがそう思っていると、どこかでいわしを売る声がします。ごんは声のする方へ走っていきました。

すると弥助のおかみさんが「くださいな」と言い、いわし売りは弥助の家の中へ入りました。ごんはその隙に籠の中から何匹かのいわしを盗み出しました。そして兵十の家の中へいわしを投げ込むと、穴に向かって駆け戻りました。ごんはうなぎの償いにまず一つ、いいことをしたと思いました。
 
次の日には、ごんは山で栗をたくさん拾って兵十の家へ行きました。物陰から見ていると兵十がぼんやりと独り言を言いました。

「一体誰がいわしなんかを俺の家へ放り込んで行ったんだろう。お陰で盗人と思われて、いわし屋に酷い目にあわされた」

兵十の顔には殴られたような傷がありました。ごんはしまったと思いながら、そっと物置の入口に栗を置いて帰りました。

それから毎日ごんは栗や松茸を拾っては兵十の家に届けたのでした。

\ココがポイント/
✅ごんは自分と兵十の境遇を重ね合わせる
✅良かれと思って盗んだいわしを兵十の家に投げ込むごん
✅兵十はいわし屋に盗人と間違われてしまった

「ごん、お前だったのか」

ごんぎつね

ごんが月の綺麗な晩に散歩をしていると、細い道の向こうから話し声が聞えます。それは兵十加助でした。

「なあ加助、とても不思議な事があるんだ。おっ母が死んでから、誰だか知らんがおれに栗や松茸を毎日くれるんだよ」
「本当かい?」
「明日見に来いよ、その栗を見せてやる」

そんな話をしながら、二人はある家へ入っていきました。ポンポンと木魚の音がして、窓の障子に大きな坊主頭が映って動いていました。「お念仏があるんだな」ごんがそう思いながしゃがんでいると、やがてお経を読む声が聞こえて来ました。

お念仏が済み、兵十加助はまた一緒に帰っていきます。ごんは二人の話を聞こうとこっそりついて行きました。

「さっきの話はきっと、神様の仕業だぞ」
「えっ?」兵十はびっくりして、加助の顔を見ました。
「あれからずっと考えていたが、神様が一人になったお前を哀れに思って、いろんな物を恵んでくださるんだよ。だから、毎日神様にお礼を言うといいよ」

ごんは、おれが栗や松茸を届けているのにお礼を言われるのは神様か、つまらないなと思いました。

翌日もごんは栗を持って兵十の家へ出かけ、裏口からこっそり中へ入りました。その時、物置にいた兵十がふと顔を上げました。家の中へ入る狐の姿に気づきます。「うなぎを盗みやがったあのごん狐め、またいたずらをしに来たな」

兵十は立ち上がって火縄銃を取り、戸口を出ようとするごんを撃ちました。ごんがばたりと倒れました。

兵十が駆けよって家の中を見ると、土間に栗が置いてあるのが目につきました。兵十はびっくりしてごんに目を落しました。

「ごん、お前だったのか、いつも栗をくれたのは」
ごんは、ぐったりと目をつむったまま頷きました。
兵十は火縄銃を取り落としました。青い煙が、まだ筒口から細く出ていました。

(おわり)

\ココがポイント/
✅兵十と加助が、毎日誰かが栗を届けるのは神様の仕業に違いないと話している
✅ごんはお礼を言われるのが自分ではなく神様だということに気を落とすが、それでもまた栗を持って兵十の家へ出かける
✅兵十はまたいらずらをしに来たのだと思い、火縄銃でごんを撃ってしまった
✅土間に栗が置いてあり、兵十は栗をくれたのはごんだったと気づいた

子どもと「ごんぎつね」を楽しむには?

最後は悲しい結果を迎える「ごん狐」。それぞれの場面でごんの素直な気持ちが伝わってきます。子どもたちには次のように聞いてみてもよいでしょう。
・ごんが死んでしまう結末はどう感じる?
・改心したごんをえらいと思う?
・自分のよい行いが相手に知られないのは嫌?
・兵十が火縄銃を落としてしまったのはどうして?

お話を聞くなかで子どもも悲しい気持ちになるかもしれません。しかし、ごんや兵十に共感して悲しくなるのも大切なことです。お子さんの悲しい気持ちに親も共感を示し、一緒に物語を味わえるとよいでしょう。

まとめ

お母さんを失った兵十のつらさに共感し、心を入れ替えたごん。しかしごんが兵十のためにした行為は知られることなく、兵十の誤解から悲しい結末を迎えます。ごんは自分の善行に相手がまったく気づいていないことを「つまらない」と思いますが、それでも栗を届けることをやめませんでした。ごんの「つぐないをしたい」「よいことをしたい」という思いは、感謝されるかどうかで変わらなかった、ということなのかもしれません。それまで相手の気持ちを考えず、いたずらばかりしていたごんの変化の大きさに、深く胸を打たれる名作ですね。

(文:千羽智美)

※画像はイメージです

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