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2023年10月07日 09:00 更新

迷い込んだ山奥の家…人の姿だけが見えない不思議さを語りで伝えよう『遠野物語』63話

親子で楽しみたい物語をご紹介している本連載「親子のためのものがたり」。柳田國男の『遠野物語」の中の1つを読んでみましょう。『遠野物語』は文体がやや古いという点はありますが、難しくはありません。今ではなかなか聞けないような面白いお話の宝庫です。今回は山の中に迷い込んだ女性が見つけた不思議な家のお話。

『遠野物語』63話を子どもに聞かせよう!

柳田國男が1910年に発表したのが『遠野物語』。岩手県遠野地方に伝わる逸話、伝承などを記した説話集で日本の民俗学の先駆けとも言われています。不思議な話がたくさん収められていますが、今回は「マヨイガ」という山奥の屋敷のお話をご紹介します。

『遠野物語』63話のあらすじ

マヨイガ

今回のお話は小国という村での出来事です。小国村は1955年まで岩手県下閉伊郡にあった村で、現在は宮古市の一部となっています。村一番のお金持ちの家がどうしてお金持ちになったのか、という物語です。

山奥で不思議な屋敷に行き当たる

小国村にいる三浦さんという人は村一番のお金持ちですが、2、3代前の主人のころはまだ貧しい家でした。主人にはおっとり、のんびりした妻がおりました。この妻がある日、家の門(かど)の前を流れる小さな川に沿って蕗を採りに出かけ、いいものが少なかったので、次第に谷の奥深く登っていきました。

さて、ふと見れば立派な黒い門のあるお屋敷があります。怪しみながら門の中に入ってみると、とても広い庭に色とりどりの花が咲き、たくさんの鶏が遊んでいました。その庭の裏へ回ると立派な牛小屋もあれば馬舎もあり、牛や馬は何頭もいるのですが、一向に人は見かけません。

気になってついに玄関から家に上がってみると、次の間には赤と黒の膳とお椀がたくさん並べられていました。また、奥の座敷には火鉢があり、鉄瓶にお湯が煮えたぎっています。

けれどもやはり人影は見つかりません。もしや山男の家ではないかと急に恐ろしくなった妻は、急いで走り出して家に帰りました。

\ココがポイント/
✅おっとりした性格の妻が蕗を採りに山奥へ入った
✅山奥に突然立派なお屋敷が現れる
✅妻は山男の家かと恐れて慌てて逃げ帰った

今度は川から美しいお椀が…

マヨイガ

周りの人々の中には、この出来事を本当だと思う人はいませんでした。

さて、ある日妻が家の前で洗い物をしていると、赤いお椀がひとつ流れてきました。あまりに美しいお椀だったので拾い上げた妻でしたが、拾ったものを食器にしたら「汚い!」と家の人に叱られるかもしれません。そこで、お米などの穀物を量る器として使うことにしました。

ところがその赤いお椀で量りはじめてからというもの、不思議なことに、いつまで経ってもお米の量が減っていきません。家の者もおかしいと思って妻に尋ねたので、このときはじめて、妻はそのお椀を川で拾ったことを話しました。

これ以後、この家には幸運なことが続き、ついに今の三浦家となりました。

遠野ではこうした山中にある不思議な家のことを「マヨイガ」といいます。マヨイガにたどり着いた人は必ず、その家にある道具なり家畜なり何であれ、持ち出してくるのがよいとされます。マヨイガはその人にそれらを授けるために現れるからです。しかしこの無欲な妻は何も盗まなかったので、お椀が自ら流れてきたにちがいないと言われています。

(おわり)

\ココがポイント/
✅家の前の川で洗い物をしていたら綺麗な赤いお椀が流れてきた
✅そのお椀でお米を量るようになってからお米が減らなくなった
✅やがて村一番のお金持ちになった

子どもと『遠野物語』63話を楽しむには?

マヨイガに行き当ったにもかかわらず、無欲な妻はその幸運を手に入れようとしなかったため、マヨイガの方から幸運のお椀を与えた、というお話でした。

山奥で不思議なお屋敷に迷い込んでしまったらドキドキしてしまいますよね。明らかに人の痕跡はあるのに、その姿だけが見えない……。この奇妙さを、「あれれ? 牛さんやお馬さんは居るのに人はいません。」などと、少しオーバーに表現すると、お子さんも「なんでだろう?」と楽しく聞けるのではないでしょうか。

また、お話の後では、
・本当にマヨイガはあると思う?
・山の中で不思議な場所を見つけたらどうする?
・自分だったらどんな幸運が起きてほしい?

などと聞いてみるのもよいでしょう。

まとめ

実際に迷い込んだことがある人のお話が残っているマヨイガ。出会うべくして出会う不思議な家のようですが、無欲な人がかえって、より多くの恩恵を受けるということを物語ってもいます。子どもが「あれが欲しい! これが欲しい!」と物を欲しがりがちであれば、無欲の方がよいこともあるんだよ、と話してあげてもいいかもしれませんね。

(文:千羽智美)

※画像はイメージです

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