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2023年03月25日 09:21 更新

#拝啓、復職前の自分へ 育休明け、仕事にフルコミットしていた自分への後悔/PIVOT 国山ハセンさんインタビュー(前編)

TBSアナウンサー時代、第一子誕生後に3週間の育休を取得した国山ハセンさん。「育休取得がゴールではない」と実感したという国山さんは復職後、思うようにいかない現実と対峙していたといいます。

パートナーの妊娠前は未知だった「男性育休」

ーー国山さんは2022年2月に第一子が誕生し、5月9日から5月27日まで3週間の育休を取得、サブキャスターを務めていた『news23』(TBS系)をお休みされました。もともと、「子どもが生まれたら、育休を取る」と視野に入れていらっしゃったんでしょうか。

国山ハセンさん(以下、国山) 妻の妊娠前にも担当番組などで男性の育休取得を取り上げる機会がありましたが、当時は具体的には考えていませんでした。ただ、「日本は、なぜ海外と比較して男性育休の取得率が低いんだろう。なにがネックになっているんだろう」という疑問はありました。
具体的に考えて調べるようになったのは、妻が妊娠したあとの2021年、担当するラジオ番組で育休について取り上げる機会があり、育休取得を前向きに考え始めました。

ーーご自身ではどんなことを調べましたか?

国山 たとえば姉がノルウェー在住なんですが、福祉大国と言われるノルウェーの男性育休状況はどうなんだろうとか、先輩の蓮見孝之アナが2019年4月に育休を取得していたので話を聞きにいくなど、身近なところから真剣に調べ初めましたね。

ーー蓮見アナにはどんなことを聞きましたか?

国山 ごく基本的なことです。会社への申請の仕方や、なにが大変だったかなど。いわゆる育休は「長期で取る」ことを前提とした制度のようにも感じました。それで僕は、育休制度ではなく有休を取得して育休にあてたんです。

ーーそうだったんですね。

国山 当事者に聞いて初めてわかることでしたね。あと蓮見さんの場合は、3人目のお子さまで初の育休でしたが「1人目、2人目のときは、育休を取るという概念すらなかった。だから3人目で取ることを決めたときは、休むのが怖かった」と話されていました。「今の自分のポジションが失われてしまうのでは」と。

「奥さんが専業主婦なのに、なぜあなたが育休を?」

ーー男女問わず、キャリアの中断で悩むという話は、本当によく聞きます。

国山 僕自身は、その感覚がありませんでした。「むしろ、休んだ方がプラスになるのでは? 社会にとっても、自分のような立場の人間が休むことは、大きな意義になるのでは」と感じたんです。一方で、蓮見さん世代の方に、休むことへの強い不安感があるのも頷けます。その不安感を、「上の子2人に、『パパが、仕事を休んで子育てをしている姿』を見せたい」という気持ちで払拭したそうです。

ーー「休むことへの不安がない」という感覚についてもう少しお伺いしたいです。

国山 期間が短かったことも不安がなかった要因だと思います。むしろ今振り返ると、「もっと長期で、数ヶ月単位で取りたかったな……」と、思いますね。ただ現実問題、経済的な面を考えると長期の男性育休は難しいんですよね。僕の場合は妻が専業主婦ですし。その辺も蓮見さんと結構話しましたが、「女性のリアルな声で、『夫には休むよりも働いてほしい』というケースもある」と聞いて。そんなふうにいろいろなことを加味した結果が、“有休で3週間”でした。

ーー男性育休は「共働きだから取る」という世間の暗黙の常識のようなものがあるようにも思いますが、奥さまが専業主婦ということで、周囲の気になる反応などはありませんでしたか?

国山 まさにショックなことがありました。結構上の上司から、「奥さんが専業主婦なのに、あなたが育休を取って何をするの?」と言われまして。その言葉に他意はなく、ジェネレーションギャップだとは思っていますが、僕のなかにその感覚はまったくなかったので驚きました。
だって、産後のあの期間の大変さは、専業も共働きも無関係に、マンパワーが必要な時期じゃないですか。

「育休=キャリアに傷がつく」を払拭する存在に

ーー上司からそう言われて、国山さんはどう答えたのでしょう。

国山 笑ってスルーしました(笑)。特に、今よりも「休まず働く」というのが美学だったテレビ業界で働いてきた世代の方には、シンプルな疑問符が浮かぶんだろうなと思います。

ーー現場の方々の反応はいかがでしたか?

国山 前向きに捉えてくれる方が多かったですね。むしろ報道の現場では、長期で男性育休を取得している記者の方もいましたしね。報道現場では、発信する側として取ることを推進していた雰囲気はありました。

ーー現在、国山さんがプロデューサーを務めるメディア『PIVOT』の、国山さんの育休に関する記事に「キャリアに傷がつかないことを証明する、可視化されたモデルが必要」と書かれていたことが印象的でした。
やはり男性は「休むとキャリアに傷がつき、戻れなくなるかも」という壁がつきものだと思いますが、どうやって”可視化”を意識しましたか?

国山 僕の場合はキャスターとして番組に出演していたので、「一定期間休んで、また戻ってくる」という姿をわかりやすく見せられる立場にあり、意図的に「休もう」と考えました。「帯番組を担当している働き盛りでも、休むことができるし戻ることができる」ということが伝えられればと思っていました。
大切なのは、「自分が主体になること」ではないかと思います。会社や周囲に気を使いすぎるのではなく、「自分はこうしたい」という意志を持つことを意識しました。

ーーそしていざ育休を取りましたが、どんなふうに1日をすごしていましたか?

国山 妻が里帰り出産から帰宅して、子どもが生後2ヶ月のときから一緒に生活することができましたが、とにかく「妻と一緒に学ぶ」日々でしたね。起床から就寝、夜泣きの対応まで、すべて二人三脚で、1日中ずっと子どもと過ごしていました。

スムーズな復職の一方で、抱いた違和感

ーー奥さま、とても心強かったかと思います!

国山 カッコつけて話してしまいましたが(笑)、でもほんとうに二人三脚です。基本的には妻に教わる部分が多い一方で、「僕の方が早くできるようになってやる」というライバル意識も芽生えていました。

ーーその3週間は、仕事の電話やメールなども、一切せずに?

国山 まったくないです。ただ、ずっと自宅にこもっていたわけではなく、プライベートで外出することはありましたが、仕事のことは一切考えていませんでした。

ーー復職への不安はありませんでしたか?

国山 育休明けも今までやっていた業務に戻ることがわかっていたので、不安感はありませんでした。復職時に組織が変わっていたとしたら、「適応しなければ」と考えていたかもしれません。もちろん、それまで“子どもにべったり”な日々から、突然の仕事モードへの切り替えは意識しましたね。3週間という短期間だからこそ早く順応できたんだと思います。
むしろ、「なんでこんなにすぐ仕事モードなってしまったんだろう」という後悔すらありましたね。理想では、「せっかく育休を取ったのだから、集中して家族との時間の大切さに向き合って、ワークライフバランスを考えて生活するぞ!」と思っていたのに、結局仕事のほうに適応してしまって。

昨年なんて、仕事にフルコミットしてしまった時期もあったんですよ。そしてあるとき、そんな自分を省みて、「せっかく育休を取ったのに。そのときの学びや発見を、完全に活かしきれていないのでは?」と気づいてしまったんです。

それから、育休を取ることがゴールではなく、子育てはその後もずっと続くのに、「『育休が終わった、はい、仕事に戻りますね』でいいのか?」という違和感も抱えていました。

「仕事にも育児にもコミットしたい」は難しい?

ーー仕事にフルコミットした時期は、どんなスケジュールでしたか?

国山 たとえば、午前中から取材が入ると朝から出勤して、番組のオンエアが25時に終わって、帰宅すると深夜で。子どもは朝6時には起きるけど、「僕は午前中は寝ていたい」と妻にお願いすることになり。毎日そういうわけではないんですが、土日も仕事が入ってしまうこともありました。

ーーどちらにもコミットしようと思っても、物理的に難しい状況ですね。

国山 それでイライラが募ってしまった時期がありましたね。

ーーイライラが原因で奥さまと喧嘩になることも?

国山 多々ありました。そのときの妻はワンオペ状態になってしまい、すごく負荷がかかっていたと思います。「ヘルプがほしい」と思っても、僕はその大変さを理解はできる一方、働いているから物理的に助けられない。妻は肉体的にも精神的にも、不安だらけだったと思います。

僕が遅い出勤の日は、「お昼はみんなで外に食べに行こう」と意識して動いたりしました。それでも喧嘩になり……。これは僕の未熟さなんですが、「仕事も育児もがんばっているのに!」という気持ちにもなってまったんです。冷静に考えると、僕が仕事をしていることは妻にとっては関係のないことだし、僕は仕事に行くことでストレス発散になっていたと思うのに。
それでも「僕だって日中は子育てにフォーカスして、夜は働いているんだから、わかってよ!」と、思わずにはいられませんでした。こうしたフェーズでの衝突は、結構ありましたね。

****

後編では、家庭内の思わぬ衝突を解消できた理由や、際立ったキャリアを手放して得た「仕事も家庭も、いまがいちばん」というベストな環境のこと……などについてお伺いします。

【information】国山さんが企画立案・ディレクション、そしてMCも!

テーマは「日本をPIVOT(方向転換などの意)する」。ビジネスパーソンの学びとなる経済やビジネスの映像コンテンツを毎日配信しているメディア「PIVOT」に、国山さんの新番組もスタート!

<次世代ビジネストーク番組 30s>
国山さんが各業界のキーパーソンに迫る「30代キャリア特化型」の新番組。

<MONEY SKILL SET>

株・不動産・保険など資産運用のために知っておきたいマネースキルセットを、各界プロフェッショナルから学ぶビジネストークバラエティ。

国山ハセンさん/PIVOT プロデューサー

2013年、TBSに入社。『news23』『Nスタ』『アッコにおまかせ』などを担当し2022年12月に退社すると、PIVOTに参画。プロデュース業のほかMC、番組・コンテンツづくりに注力。

公式YouTube
https://www.youtube.com/@pivot8935
Web版
https://pivotmedia.co.jp/

(取材・文:有山千春 撮影:松野葉子/マイナビ子育て編集部)

  • 本記事は公開時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください。

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