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2023年02月28日 14:31 更新

#拝啓、復職前の自分へ 時短勤務中に『シナぷしゅ』は生まれた!?/テレビ東京 飯田佳奈子さんインタビュー(前編)

民放初の乳幼児向け大人気子ども番組『シナぷしゅ』(テレビ東京系/月~金 朝7時35分〜8時)の統括プロデューサーを務める飯田佳奈子さんは現在、4歳と0歳児の子どもを持つママ。『シナぷしゅ』を立ち上げた理由は? 二度の復職に不安はなかった? カラっと明るいトークで、小さな質問にも丁寧にお話してくれました。

24時間子どもとの生活で「引き出しをすべて開けた」

ーー飯田さんは以前は営業局に所属していましたが、復職と同時に新設部署へ異動となったことから、『シナぷしゅ』への道が開けたと聞きました。2018年に第一子をご出産されたんですよね。

飯田佳奈子さん(以下、飯田) はい。当初は、一人目だから自分がどんな気持ちになるのかわからなかったので、「『もっと子どもと一緒にいたい』と思えば育休をマックスで取ることだってできるよなぁ」と、柔軟に考えていました。それが実際は、子どもがかわいくてかわいくてずっと一緒にいたい気持ちの一方で、社会との繋がりを失ったことによる孤独感と、「夫は相変わらず会社に属しているのに」という“置いていかれる感”がむくむくと湧き上がりまして。

ーー産後、一日中、子どもと2人きりの生活に放り込まれると、働いているときとの落差が激しいですもんね。

飯田 そう、窮屈さを感じました。こっちはレパートリーも少ないし、「子どもも窮屈じゃないのかな」と思ったりして。

ーーレパートリー?

飯田 遊びや歌、自分の引き出しをすべて開けたんですよ。それが24時間一緒にいるから、すぐに尽きてしまって(笑)。

ーー間が持たなくなりますよね、わかります(笑)。

飯田 そういったこともあり、生後10ヶ月の4月に保育園入園、復職を決めました。

営業局に復職予定が、急転直下の人事異動

ーー統括プロデューサーを務める『シナぷしゅ』(テレビ東京系)は、2019年12月にパイロット版が放送されましたが、育休中から企画を考えていたのでしょうか?

飯田 いえ、育休明けは当たり前のように元いた営業局に戻ると思い、復職後の働き方を想定していました。「知っている仕事内容だし」と、まだ余裕もあったんですよね。

それが復職直前、人事から電話がかかってきたんです。「新しい部署ができるにあたり、そこに異動してもらいたい」と言われて。急転直下でびっくりした一方、「おもしろそうだな」と思いました。それに、人事の人はみんなに言うんでしょうけれど、「優秀な人材にぜひこの部署で働いてほしい」と言われて(笑)。ちょろいもので、それで快諾したんです。

ーー育休を挟んでの想定と違う働き方、しかも新しい部署ということもあり、ロールモデルがない状況だったかと思います。不安はありませんでしたか?

飯田 ポジティブなタイプなので、不安よりも好奇心が勝りました。しかも新しい部署だからこそ、「これは、私が自分なりの働き方を、自分で作れるということか!」と、慣例がないことへの自由度にメリットを感じました。

ーー復職後はすぐにフルタイムですか?

飯田 最初は時短勤務でした。子どもが5時半に起きてしまうので一緒に起きて、7時半に保育園へ。8時に電車に乗り、9時半に出社して、15時半から16時に会社を出て17時にお迎え、そこから食事やお風呂などの怒涛の時間が始まります。そして19時には寝かしつけをして、残した仕事をやり、そのあとで家事ですね。

ーー家事はおひとりでしていたんですか?

飯田 うちは、私が「物理担当」で、夫が「メンタル担当」なんです。

家事を「物理」で分けないからこその、快適な生活

ーー「物理」に「メンタル」……初めて聞く分担です!

飯田 普通、家事の分担といえば「洗濯と料理は妻」「掃除は夫」などと「物理」で分けているご家庭が多いかと思いますが、私は自分の目に見えることをこなす、「物理」が好きなんです。逆に夫は、「物理」が得意ではなくて。同時に私は自分を追い込むクセもあり、そういうときに夫が家族のYogibo(ヨギボー)のような存在になってくれるんです。

ーー人を包み込んでくれるクッションですね。

飯田 家事スキルはまったくないけれど、私の心が追い込まれたときに出てくる。ゆったりと構えていて、家族のメンタルを支えてくれる重要な存在なんです。

ーー結婚当初からそういった傾向がわかっていたんですか?

飯田 お互いにそうですね。これはもうそういうものなんだろう、と。たとえばゴミ出しは、ごみの分別は私がやって、「どうしてもゴミ出しまで手が回らない」というときに頼むと「ハイ」と持っていきます。ウチはそれでちょうどいいんです。

ーーいろいろなメディアで定番のように散見されますが、妻が「私が言わないと、家事や育児をしてくれない!」という夫の家事の姿勢は、批判の的になることが多いです。飯田さんご夫婦はいかがでしょうか。

飯田 私は自分でするのが好きですし、あと「なんでもかんでも分担しなきゃいけない」という風潮が肌に合わない気がしていて。「分担して当たり前」という考え方は、他人との比較に拍車をかけるような気がするんです。「あそこの旦那さんはたくさん担当してくれるのに、うちはこれだけ!?」という考えに至ってしまいがちというか。それぞれ性格も能力もすべて違うのに比較してしまうのは、不毛だと感じてしまいます。ウチのスタイルはあまり理解してもらえないんですが(笑)、それで上手く回っているので私たち夫婦に合っているんだと思います。

時短勤務でたどり着いた「目の前のことを一生懸命やる!」

ーー「比較してしまう」というと、時短勤務についてはいかがでしたか? 「まわりはフルタイムで働いているのに、私だけ帰る」という状況へのやるせなさは、育休明けの方につきまといがちです。

飯田 それは、しょうがないですよねぇ……。私は通勤に1時間以上かかりますが、やっぱりモヤモヤしたまま電車に乗るんですよ。でも、2駅くらい過ぎると、「しょうがないな」という開き直りに似た気持ちになるんです(笑)。0歳児のころは特にそう。あらゆる病気をもらって保育園から呼び出されることも多く、そのたびに「申し訳ありません」という気持ちでした。とはいえ、お迎えできるのは私しかいないし、行かなきゃいけない事実は揺るぎない。だからとりあえず、「自分の目の前に飛んできたことを一生懸命やればいい」という考えにたどり着きました。「常に自分の目の前に置かれたものを、100%やる!」と。

ーー保育園からのお迎え要請は、復職後にもっとも肝を冷やす出来事のうちのひとつですよね。

飯田 たとえば、何度も病気で保育園から呼び出しがかかったとき、会社の人が「お子さんの身体、大丈夫?」と心配してくれたことを、「すぐ病気になるの子なのね」という嫌味にとらえてしまうこともあるかもしれませんよね。相手は優しさで言った言葉だったとしても。立場が違えば捉え方も違ってしまうんだと、私も常に肝に銘じています。

ーー視野が広いですね。

飯田 長い通勤時間が冷静に考えをまとめる時間をくれています(笑)。

ーー時短勤務ではどんな業務をしていたんでしょうか。

飯田 初期のころは書記とかお茶を出したりしていました。それは会社の優しさで、私の状況に対して適量の仕事をくれていたと思うんです。それをありがたく思う反面、つまらなかったんですよね。そのうち隙間時間を意識するようになり、そもそも通勤時間もあるので「あれ、もっとできるな。もうちょっとやりたいな。自分がここで働く意味を見出したい!」という欲が沸々と湧き上がりました。それで、企画書を書こうと思ったんです。

世代間ギャップがポジティブに働き、『シナぷしゅ』がGO!

ーーそれが『シナぷしゅ』の始まりだったんですね。

飯田 そうですね。実は育休中からなんとなく「いつかチャンスがあったら、子どもに対してクリエイティブなアプローチをしたい」と、原型は考えていたんです。とはいえ復職後は営業局に戻ると思っていたので、そんなチャンスはないと思っていましたが、たまたま自由に提案できる部署に異動になり「今だ! やったろう!」と、『シナぷしゅ』の企画を出したんです。

ーー周囲の反応はいかがでしたか?

飯田 どの会社も同じだと思いますが、会社の偉い方たちは”イクメン”という言葉なんてない時代の人たちですよね。言葉を選ばずに言うと「子どもは勝手に育つ」と思っている人が多い世代で、子ども向け番組も観たことがなかったかもしれません。そういう背景だと、当然のように『シナぷしゅ』の企画書が理解し難かったようで。だからこそ、「なんかよくわからないけど、よくわからないということは『誰もやっていない』ということだろうから、やってみろ」と言われました。

ーーすごい!

飯田 GOを出してくれた上司はすごいですよね。本当に感謝しています。ネガティブに働きがちな世代間ギャップが、ポジティブに働いたんですよね。そこはテレ東らしい、「誰もやっていないなら、やってみよう精神」ですよね(笑)。

ーーそこから時短勤務を終えたんでしょうか。

飯田 はい、時短勤務は2ヶ月ほどで、以降はフルタイムで、番組スタートに向けできる限り仕事をするようになりました。

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後編では、『シナぷしゅ』の仕事に没頭する日々と、支えてくれる家族のこと、そして『シナぷしゅ』映画化の夢と2人目出産のはざまで生まれた葛藤などについてお伺いします。

【information】『シナぷしゅ』が映画化!スクリーンデビューにぴったり

©SPMOVIE2023

「子どもに見せたいと思える」「親が見せて安心できる」番組を作りたい……。そんな飯田さんの呼びかけに集まったのは、テレビ東京で子育て奮闘中の社員たち。そして生まれた民放初の0〜2歳の赤ちゃんをターゲットにした異色すぎるテレビ番組『シナぷしゅ』が、2023年春、ついに映画化! 赤ちゃんにとっての「はじめての映画体験」は、赤ちゃんはもちろん親にとっても特別な瞬間になるはず。親子でぜひ足を運んでみてくださいね。

©SPMOVIE2023

『シナぷしゅ THE MOVIE ぷしゅほっぺにゅうワールド』概要
2023年5月19日(金)ユナイテッド・シネマ豊洲、新宿ピカデリーほか全国ロードショー
監督:清水貴栄
劇伴音楽:信澤宣明
企画・プロデュース:飯田佳奈子
推薦:東京大学赤ちゃんラボ 開一夫教授推薦作品
制作:テレビ東京・CEKAI
配給:ローソンエンタテインメント
本編情報:上映時間約50分/日本カラービスタ/5.1ch
©SPMOVIE2023

公式サイト:https://www.tv-tokyo.co.jp/synapusyu_movie/

飯田佳奈子さん/テレビ東京『シナぷしゅ』統括プロデューサー

2011年にテレビ東京に入社。制作局、アニメ局を経て2014年から営業局に配属。2018年の第一子出産後、翌年6月に新部署であったコンテンツ統括局に配属。『シナぷしゅ』で初めてプロデューサー業を務める。2児の母。

シナぷしゅ公式サイト
https://www.tv-tokyo.co.jp/synapusyu/

公式YouTubeチャンネル『しなプシュch』では、最新回を配信&深夜の夜泣きや移動中のぐずりにも頼れる24時間ループライブを配信中。
https://www.youtube.com/@synapusyu

(取材・文:有山千春 撮影:松野葉子/マイナビ子育て編集部)

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