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2020年11月30日 11:43 更新

【弁護士監修】モラハラとは? 意味と実例、家庭や職場で被害を受けたとき&見かけたときの対処法

モラハラ(モラルハラスメント)とは、家庭や職場で起こる精神的暴力や嫌がらせのこと。「そんなおおげさな……」と思っている人ほど、被害者になりがちって知ってますか? 弁護士法人丸の内ソレイユ法律事務所の代表弁護士、中里妃沙子先生による取材協力・監修のもと、モラハラの意味や範囲、具体例、対処法をがっつり解説します。

モラハラとは? これってモラハラ?

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モラハラ(モラルハラスメント)だなんておおげさな……と思っている人、実は、もうモラハラ構造のなかに取りこまれているかもしれません。モラハラって何?という基本から、ご説明します。

夫や同僚からの「ちょっとした言動」に、大きく傷ついてしまうことってありますよね。そんなとき、「もしかして、モラハラを受けているのでは……」と考えたり、人から指摘されたりするかもしれません。

「でも、結局、モラハラって何なの? どこまでがモラハラなの?」と戸惑う声をよく耳にします。

モラハラとは何なのか。自分がモラハラを受けたらどうしたらいいのか、身近にいるモラハラ被害者には、どんなことをしてあげられるのかについて、弁護士法人丸の内ソレイユ法律事務所の代表弁護士、中里妃沙子先生への取材をもとに、解説していきます。

ちなみに、モラハラ被害者は、自分が被害を受けていることを自覚していない傾向があるんですが……あなたは本当に大丈夫?

モラハラとは、「精神的暴力」や「嫌がらせ」

モラハラ(=モラルハラスメント)とは、「精神的暴力」や「嫌がらせ」のこと。フランスの精神科医、マリー=フランス・イルゴイエンヌ氏によって提唱された概念です。

 
モラハラ(モラルハラスメント)「精神的暴力」や「嫌がらせ」のこと

マリー氏は「言葉や態度で精神に苦痛を与える暴力は、外傷等が残る肉体的な暴力よりも見えにくい。でも、場合によっては肉体的な暴力よりも人を傷つける」と訴えました。

モラハラ加害者は、心ない言動を繰り返すことによって、被害者の心を追いこんでいきます。

モラハラ被害者の複雑な心理……イヤなのに、「NO」と言えない

モラハラの怖いところは、「自分が被害にあっている」と自覚しにくい点です。

ガラスを引っ掻く「キーーーッ」という音が嫌な人は、反射的に耳をふさぎます。でも、モラハラ被害者は、「イヤだな」と感じていても、なかなか「NO」と言えず、逃げ出すこともできません。それは、モラハラ加害者が相手の弱い部分を突くように攻撃し、「おまえが悪い」と思わせているから。

被害者は「自分が悪いから、言い返せない」という負のスパイラルに落ちていき、被害を訴えることなく、傷ついた心をひとりで抱えこんでしまうのです。

夫婦間のモラハラは発覚しにくく、エスカレートしやすい!

モラハラは、被害者の自信を失わせ、

「わたしが間違っている」
「どうせわたしが言っても誰も聞いてくれない」

と孤立させていきます。

さらに、夫婦間でモラハラが行われる場合は、「家庭」というクローズドな空間であるために、第3者からの指摘を受けにくく、ハラスメントがエスカレートしてしまう傾向が。

妻が夫からのモラハラ被害を自覚しようにも、すでに自分自身で判断することが難しい精神状態に陥っている場合もあるのです。

これはモラハラ? それともパワハラ? DV?

「モラハラ」とよく似た言葉に、「パワハラ」や「DV」があります。どう違うのでしょうか? それぞれの一般的な意味を確認してみましょう。

   
パワハラ(パワーハラスメント)社会的、立場的に上位にあるものが、その立場の優位性を利用して下位の者に対して行う嫌がらせなど
DV(ドメスティック・バイオレンス)配偶者や恋人など親密な関係にある、またはあった者から振るわれる暴力

「モラハラ」は、「パワハラ」「DV」のどちらにも含まれる可能性があるハラスメントで、その線引きは非常に難しいです。

パワハラの特徴は、「優位な立場を利用した」ハラスメントであること。家庭内で、夫が金銭的・社会的に優位な立場にあり、それを利用して妻に嫌がらせをおこなう場合は、「モラハラ」であり、「パワハラ」にもなります。

また、DVにおける「暴力」は、一般には、刑法第204条の「傷害」や第208条の「暴行」に該当する「身体的な暴力」とされることが多いです。

ただし、心ない言動などで相手の心を傷つける「精神的な暴力」も含まれることがあります。たとえば、精神的な暴力の結果、PTSD(心的外傷後ストレス障害)に至った場合です[*1]。このことから、「モラハラ」と「DV」も一部重なっていると考えられます。

あなたは大丈夫? モラハラ被害者になりやすい性格とパターン

モラハラ被害者には、「モラハラ被害を受けやすい性格」や「パターン」があります。あなたには、心あたりがないでしょうか?

モラハラ被害者になりやすい7つの性格

次のような性格の人は、モラハラ被害を受けやすい傾向があります。

・やさしい
・気が弱い
・頑張り屋さん
・我慢強い
・何でも抱えこむ
・自分に自信がない
・自己肯定感が低い

「相手のことをすべて受け入れてあげよう」「自分が我慢すればいい」という思いに加え、自分に自信がなかったり、気が弱かったりすると、相手の言いなりになってしまい、モラハラ被害に巻きこまれがちです。

モラハラ夫になりやすい夫婦のパターンは?

夫婦関係でいえば、

・上司と部下の結婚
・年の差婚

というパターンには要注意。

夫婦になる前の立場や年齢による上下関係が、そのまま婚姻生活にもちこまれると、夫が妻を過度に管理しようとする傾向が表れやすく、モラハラ夫問題に発展する可能性も大きいです。

モラハラ発言にも言い返せれば、まだ大丈夫!

「モラハラかな?」と思う言動を受けても「あんた、何言ってんのよ!」とピシャリと言い返せるようであれば、深刻なモラハラ被害者にはなりにくいでしょう。モラハラ加害者は、モラハラ被害者に対し「この人には何を言っても大丈夫だ(反撃されることはない)」と認識することで、言葉の暴力をエスカレートさせていくからです。

ハラスメント的な言動に対しても、理不尽なことに「NO」を言える人や、精神的に相手の支配下に置かれないように、強く自分を保てる人は、モラハラ被害が深刻化しにくいです。

家庭でのモラハラの具体例

家庭でのモラハラに多いのは、夫から妻へのモラハラの例。

モラハラ夫の典型的な行動としては、

・「誰のおかげで生活できていると思っているんだ」という
・言い訳、反論をされると「俺がそうするようにしたお前が悪い」と妻のせいにする
・妻に対し、ため息や舌打ちといった、支配的な態度に出る
・妻を無視をする
・妻がつくった食事が気に入らないと、手をつけない
・「こんなこともわからないのか?」といった上から目線の発言をする
・妻に生活費を渡さず、経済的に不安な状況に追いこむ

といったものがあります。実際にモラハラとされる例を見てみましょう。

お金をくれない「経済的モラハラ夫」

夫の給与明細は見たことがなく、毎月決まった金額を生活費としてもらっていた専業主婦のA子さん。今後のために、そして何か突発的なことが起こったときのためにと、毎月少しずつ余るようやりくりしていました。

しかし、家計簿をチェックした夫はそのことを知り「生活費が余るなら、この金額で十分なんだね」と、Aさんに渡す生活費を3万円減らすように。

A子さんは毎月、金銭的な不安にさいなまれるようになりました。また、よかれと思った節約が、自分を苦しめる結果を生んだだめ、自分の行動に自信がもてなくなりました。

なんでも妻のせいにする「責任逃避型モラハラ夫」

妊娠したB子さん。悪阻(つわり)がひどくなり、家事などが今までのようにはできなくなりました。

そこで「家事を少し手伝って欲しい」と夫に告げると、「僕はB子とふたりでいられれば十分だったのに、妊娠を望んだのはB子なんだから、家事は今まで以上に頑張るのが当たり前だろ」と取り合ってくれませんでした。

出産後も夫の協力は得られないまま、ワンオペ育児に突入。家事や育児がうまくいかないと「B子の要領が悪いから」「そんなこともできないの」と責められ、B子さんは毎日の生活に強い疲れと無力感を覚えるようになりました。

妻のことを見下す「上から目線型モラハラ夫」

C子さんはフルタイムの派遣社員として、夫と共働きしています。子どもは保育園に預けていますが、お迎えはいつもC子さんの役割。

週に1回くらいは交代してほしいと夫にお願いしたところ……「お前はただの『ハケン』だろ。稼ぎも地位も俺が上。どっちが大事な仕事をしていると思っているんだ。俺と同等の働きができるようになったら考えてやる」とお迎えに行くどころか、C子さんの生き方まで否定しました。

C子さんは「自分は劣っている」という意識が強くなり、仕事にも自信がもてなくなりました。

職場でのモラハラの具体例

職場で起こるモラハラにはどんなものがあるのでしょう。職場でのモラハラには、「上司」のように優位な立場を利用して嫌がらせを行うパワハラの要素を含んだものも多くあります。

学歴や容姿を絡めた中傷をされる

D子さんは慎重で、仕事の処理に時間がかかるタイプです。

D子さん自身の努力は無視し「D子は○○大学を出ているとは思えないほど、仕事ができない」などと言う同僚が現れました。その人は「どうせ大学名だけで採用された」「見た目も暗くて仕事が頼みにくいし、頼んでも仕事が遅い」など、D子さんが無能であるかのように周囲に吹聴しました。

D子さんは「ミスをしないように」と気を張るようになり、心に常に不安がつきまとうようになりました。

経験やスキルに合わない仕事を無理やりさせる

E子さんはいつも、通常業務以外に上司から「ちょっとした仕事」を頼まれます。しかし、その「ちょっとした仕事」の分量が次第に増えていき、今までにやったことがない難しいものまで頼まれるようになりました。

通常業務でないため、誰も手伝ってくれず、仕方なしに残業をしていると「ひとりの残業が増えるとチームの評価が落ちる」「雑用で残業をするなんて無能な給料泥棒」と意地悪な発言が、同僚から繰り返されるように。

人に会わない早朝に通常業務外の仕事を片づけるようにした結果、勤務時間を大幅に超えてしまい、会社からも注意を受ける羽目に。やがて会社に足が向かなくなり、休職してしまいました。

噂を吹聴するなどして、孤立させる

F子さんは仕事に対して大きなやりがいを感じており、結婚などのプライベートは二の次にして、仕事一筋で頑張ってきました。

しかし、いつの頃からか同期に「仕事と同じように誰にでも厳しいから結婚できない」と言われるように。しまいには「上司と不倫しているから大きな仕事を回してもらえる」などの噂まで流れていたのです。

F子さんは正当な評価をしてもらえなくなったと感じ「頑張っても仕方がないんだ」と、無気力な毎日を送るようになってしまいました。

「これってモラハラかも」そのとき、どうする? モラハラの対処法

ここまで読んできて、「やっぱり、アレはモラハラだったのかも!」と思いあたったあなた!

そんなあなたのために、モラハラへの対処方法をまとめました。

モラハラ対処法1:自分がモラハラを受けたら

「モラハラ被害者かも!」と思っても、モラハラ発言に言い返せるようならまだ大丈夫。でも、それが難しいなら……、まずは今、自分がいる環境から逃げ出す準備を考えてみて。逃げ出す方法は大きくいって2つです。

精神的に逃げ出そう

モラハラ被害者は、精神的に「相手(=加害者)が正しい」という枠に取り囲まれていきがちです。

しかし、加害者の言動に振り回されても、何も得しません。相手の言うことが絶対的に正しいわけではありません。冷静に加害者の言動を見ることで、「自分が間違っている、劣っている」という思い込みの枠から逃げ出しましょう。

物理的に逃げ出そう

モラハラを受け続けていると、加害者の顔を見るだけで委縮し、支配下に置かれてしまうことに。

相手が夫であれば別居する、実家に帰る。

職場のモラハラであれば、いったん休む、異動やテレワークの希望が通りそうなら試みる、転職を検討するなど、物理的に今いる場所から逃げ出しましょう。

加害者と顔を合わせない場所まで逃げて、相手の言動に一喜一憂する必要をなくすのです。

モラハラ対処法2:自分がモラハラから逃げ出せないなら

「つらいけど、逃げ出せるくらいなら、もうやっている」というあなたは、モラハラ被害者の可能性大。

とくに夫婦間のモラハラでは「逃げ出す=離婚・別居」となるため、ハードルが高いことも多いでしょう。職場のモラハラなら、お給料や評価が気になってしまいますよね。そんなときは、専門家に相談してみましょう。

弁護士に相談する

まだ離婚は考えていないという段階でも、「これくらいならモラハラじゃないと思うんだけど、どうにもつらくて……」という段階であっても、弁護士は相談に乗ってくれます。

たくさんのモラハラ被害の事例を知っている専門家として、一般人では知りえないような解決策をもっている場合も。できれば、モラハラ被害の状況についての記録も用意しておきましょう。メール、LINE、音声の録音などがあれば、より被害状況が理解してもらいやすくなりますし、実際に裁判に訴えることになれば、証拠にもなります。

職場でのモラハラなら、相談窓口や労働局に相談する

職場でのモラハラの場合は、社内の相談窓口に相談してみるのも手。会社には、原則として、ハラスメント対策として、相談体制の整備が義務づけられています[*2]。しかし、社内の窓口に相談しにくい場合は、公共の機関を頼りましょう。

各都道府県には、「労働局」という労働問題の相談・解決のための行政機関が存在しています。また、厚生労働省でも、ハラスメント悩み相談室[*3]を設けて、電話やメールでの無料相談を受け付けています。

メンタルの専門家に相談する

つらくてたまらないけど、専門家へ相談する気にもなれない……という場合、もしかすると、モラハラ被害を受けて心が弱っている状態かもしれません。

メンタルの専門家に助けを求めるのも大切なことです。とくに、「毎日がつらい、憂うつだ、気分が落ちこんでいる」、といった状態が続く場合は、要注意。保健所や市町村の相談窓口に相談する、精神科、心療内科といった医療機関を受診することも検討しましょう。

モラハラ被害者が法的に請求できることと、その方法

モラハラ被害に限らず「精神的苦痛を受けた」と、法的に慰謝料を請求することはできますが、そのためには「証拠」が必須。

ひどい言動を細かく記録するのは、つらいことかもしれませんが、証拠として保管しておくことはとても重要です。証拠として認められれば、めやすとしては150万~200万円の慰謝料を請求することができます。

モラハラ証拠を残すには

モラハラの証拠として、相手の暴言を録音しておいたり、メールやLINEで投げられた心ない言葉を残したりできれば、かなり有利です。

手帳などに日記をつけるのも、よい方法です。日記は、順に記録を残したことがわかりやすい、紙を綴じたノート形式で残すがベスト。必ず、あったことと日付(年月日)をセットで記しておきましょう。

モラハラ夫と離婚はできる?

なお、夫婦間のモラハラの場合は、離婚したいのに夫が応じてくれないという場合もあるでしょう。意外に思うかもしれませんが、モラルハラスメントだけを理由に離婚を裁判所に申し立てることは難しいのです。

ただし、離婚に向けた手立てがないわけではありませんし、離婚を前提に交渉することで、慰謝料を請求するよりも有利な条件を引き出して離婚にもちこめる場合もあります。

友人がモラハラを受けているとわかったら?

まずは被害者本人に「モラハラを受けているんじゃない?」と自覚させることが第一です。

友人の家庭内のモラハラだったら……

他人の家庭のことに口を出すのは難しいもの。そんなときは、自己肯定が極端に低くなった友人が、自信を取り戻せるように励まして、一歩を踏み出せるよう支えてあげましょう。

モラハラを受けている妻は、精神的に夫の支配下にあります。「わたしは何もできないから、夫の言うことを聞かないと生きていけない」。そんな思いこみで委縮し、自分に自信がもてなくなっているのです。

「夫のルール」は「世間のルール」とは違う、「夫のルール」から外れても大丈夫なんだと自信をもってもらうことが、モラハラ被害から抜け出す最初の一歩になります。

友人の職場でのモラハラだったら……

前述のとおり、会社には原則、ハラスメント対策として、相談体制の整備が義務づけられています。そこへの相談を勧めるほか、本人に代わって窓口に相談してみるという手もあります。

もし、被害者が加害者本人に「それってモラハラです!」と言い返すことができれば、効果は大きいです。モラハラ加害者は、孤立を強め、自分の言いなりになっていると思っている相手から、反撃を受けるとは思っていないからです。被害者の味方になり、一緒に抗議するなどの方法も相談してみましょう。

多くのモラハラ被害を見てきた中里弁護士からのアドバイス

この記事の執筆にあたり取材・監修に協力いただき、これまで多くのモラハラ相談を解決してきた中里弁護士から、「もしかして、モラハラを受けているかも……」と思った人に向けて、アドバイスをいただきました。心あたりがある人は、自分自身の人生を守るために、一歩踏み出すことを、ぜひ考えてみてください。

まとめ

モラハラ被害にあっている、または、あいかけている人は、自己肯定感が極端に低くなっています。そんな、あなたの大事な友人、もしくは、あなた自身の心に、少しでも勇気を与えてあげてください。

加害者の言動に捕らわれ、自信をなくしている人にとって、その小さな勇気は、かけがえのない希望への第一歩になるかもしれません。

(取材・文:暮らしのチームクレア 川口裕子/監修:中里妃沙子 弁護士/漫画:ぺぷり)

※画像はイメージです

参考文献
[*1]内閣府「ドメスティック・バイオレンス(DV)とは > 暴力の形態」 http://www.gender.go.jp/policy/no_violence/e-vaw/dv/02.html
[*2]厚生労働省「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律(令和元年6月5日公布)の概要」 https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000584588.pdf
[*3] 厚生労働省「ハラスメント悩み相談室」https://harasu-soudan.mhlw.go.jp

※この記事は、マイナビ子育て編集部の企画編集により制作し、弁護士に取材、および、その監修を経た上で掲載しました

※本記事は子育て中に役立つ情報の提供を目的としているものです。本記事により生じたいかなる損害に関しても、当社は責任を負いかねます

  • 本記事は公開時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください。

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