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2024年04月10日 10:31 更新

「自己肯定感」は何か違う。プロ教師が親たちに伝えたい、育てるべき子どもの力とは/ぬまっち先生インタビュー【2】

子どもが小学校にあがり直面するといわれる「小1の壁」対策について紹介する本特集。後編となる今回は、小学生になった子どもに対する接し方ついて、現役小学校教諭の「ぬまっち先生」こと沼田晶弘さんに聞きました。

沼田晶弘さん 東京学芸大学附属世田谷小学校教諭

1975年生まれ。東京学芸大学教育学部卒業後、インディアナ州立ボールステイト大学大学院にて修士過程を終了。同大学教員などを経て、2006年から現職。子どもの自主性や自立性を引き出す斬新でユニークな授業が話題となり、注目を集める。現在は、現役教諭として教鞭をとる傍ら、講演や執筆活動も精力的に行う。「小学校が100倍楽しくなる 小学校のおやくそく」(角川書店)など著書多数。

「子どもにお米を炊いてもらう」はメリットだらけ

――前編では「小1の壁」は存在しないというお話をうかがいましたが、6歳の時点では子どもの発達度合も個人差が大きく、4月生まれから3月生まれまで全部が同じ1年生です。子ども自身が戸惑い、うまくできなくてつらくなってしまうことも、ないとは言えません。そうした問題を「壁」とせずに乗り越えるにはどうしたらいいのでしょうか?

沼田先生 前編でもお伝えした通り、小学校では「自分のことは自分でやる」が基本となるので、できるなら保育園や幼稚園のころから、身の回りのことはできるだけ子ども自身でできるように準備ができているといいと思います。未就学児の段階でも親は過保護になりすぎず、日頃から子どもに色々なことをやらせるようにすることが大切ではないでしょうか。

――親としては、「ついこのあいだまで赤ちゃんだったから」「まだ小さいから」と、ついつい手を貸してしまいたくなりますよね。

沼田先生 でも、ずっと子どもの手助けをすることはできないですよね。子どもが一人でできることは、どんどん任せていった方がいい。
ボクはよく保護者の方に「お子さん、米は炊けますか?」と聞くんです。ほとんどの親御さんが、まだ教えていないと答えるのだけど、本当にもったいない! だって、包丁も火も使わなくて、炊飯器のスイッチを押せば美味しいお米が炊けて、みんなで一緒に食べられるんですよ。こんなに安全なんだから、炊飯こそ子どもにチャレンジさせるのにぴったりだと思いませんか。

――子どもにお手伝いを教えるのが面倒だと感じることもあるのかもしれません。忙しいときほど「子どもに任せるより、自分でやってしまった方が早い」と思ってしまいがちです。

沼田先生 大人がやった方が早いのは当然です。初めのうちは、床に水をこぼしてしまうかもしれないし、米の量を間違ってしまうかもしれない。でも、それも学びなんですよね。繰り返していれば必ずできるようになるし、一度習得したらその後ずっと子どもが米を炊いてくれるようになる。子どもは達成感を得られるし、そのあとずっと親御さんの負担も減るわけですから、任せない手はありません。

悔しい気持ちは財産。失敗を恐れない心を育もう

――子どもの失敗を親が恐れてはいけないということですね。

沼田先生 その通り! 最近は「自己肯定感を高めよう」という社会の風潮がありますが、ボクはこれをそろそろやめた方がいいんじゃないかって思ってるんです。

――えっ、どうしてですか?「自己肯定感」を育てることは、すごくいいことなんだと思っていました。

沼田先生 「自己肯定感」はどんな自分でも受け入れて認める力で、それ自体はとてもいいことなんです。問題なのは、それを間違って解釈してしまっている人がとても多いということ。「自己肯定感が下がるから」といって、失敗させないように親が先回りして手助けしてしまったり、失敗を失敗と思わせないように結果をねじまげてしまったりするのを見ていて、これは子どもの成長する機会を奪うことにつながるので注意しなければいけないとボクは思っています。

――結果をねじまげるというのは?

沼田先生 たとえばですが、「うちの子運動会に向けてすごく頑張っていました。結果は3位だったけど、ママの中では金メダルだよ」みたいな。心の中で思うぶんにはいいのでしょうが、ボクからすると「いやいや、3位は銅メダルですよね母さん!」と思わずツッコまずにはいられないんです。

――うーん、でも、心当たりのある親御さんは多いと思います。

沼田先生 これが続くと、自分に対するハードルがどんどん下がって、努力するのが苦手な子に育ってしまいかねません。子どもが「3位でも褒めてもらえるし、まぁいいか」と思うようになってしまったら、それは違うと思いませんか。

――それは確かに違いますよね。沼田先生だったら、子どもがすごく頑張っていたけれど好成績を残せなかったとき、どんな声かけをするのですか?

沼田先生 去年、娘の保育園の運動会で、「優勝したらアイスクリームを食べよう」と約束しました。足の速さには自信があってとても張り切っていましたが、駿足揃いのグループで残念ながら結果は3位。
そのとき、応援に来ていたおばあちゃんが「頑張ったからアイスを買ってあげましょうか」と言ってくれたのですが、「お義母さん、それはやめてください」と止めました。娘には「最後まで諦めずに本当によく頑張ったけど、3位だからアイスはないよ」と伝えたんです。

――娘さんの反応はどうでしたか?

沼田先生 半泣きでした。でも、運動会が終わってすぐ、「来年こそは頑張る」と言ってその場で走る練習を始めたんですよ。だから「よし。じゃあジュースで乾杯するか!」と言って乾杯しました。
子どもに大切なのはこの「悔しい」という気持ちと、「だから頑張ろう」とする気持ちです。親御さんもまた子どもの失敗を恐れるのではなくて、失敗して悔しい気持ちに出会えてよかったね、と思えることができたらいいのではないかと思います。

育てるべきは「自己肯定感」よりも「自己効力感」

(※画像はイメージです)
(※画像はイメージです)

沼田先生 ボクが子どもの成長で大切だと思っているのは、「自己肯定感」よりも「自己効力感」。「自分はやればできる」という気持ちです。これは、たとえ失敗してもそれを乗り越えて、小さな「やればできる」を積み重ねることで、レベルアップする楽しさを体感することで培われる力です。

――自己効力感の方が大切なのはなぜでしょうか。

沼田先生 どんなに優秀な人でも、人生で一度も失敗しないなんてことはありえません。どんな人でも、必ず人生で失敗するときはくるのに、小さい頃から親が失敗させないよう守りすぎていると、いざ困難にぶつかったときにそれを乗り越えることが難しくなってしまいます。頑張ればできるのに、頑張れない。「やればできる」という気持ちを早くから積み重ねることは、小学校に入って困難にぶつかったとき、そしてもっと大きくなってからも、必ず力になってくれるはずです。



(取材・文:上野真依 撮影:尾藤能暢)

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