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2024年04月09日 10:31 更新

「小1の壁」なんてない!? ランドセルの支度を親は手伝ってはいけない理由/ぬまっち先生インタビュー【1】

いよいよ小学校1年生! 子どもの成長を感じてうれしい一方、「小1の壁」を不安に感じているママやパパも多くいます。そこで今回は、斬新でユニークな指導法で話題の現役小学校教諭「ぬまっち先生」こと沼田晶弘さんに、「小1の壁」の原因と対策について伺いました。

沼田晶弘さん 東京学芸大学附属世田谷小学校教諭

1975年生まれ。東京学芸大学教育学部卒業後、インディアナ州立ボールステイト大学大学院にて修士過程を終了。同大学教員などを経て、2006年から現職。子どもの自主性や自立性を引き出す斬新でユニークな授業が話題となり、注目を集める。現在は、現役教諭として教鞭をとる傍ら、講演や執筆活動も精力的に行う。「小学校が100倍楽しくなる 小学校のおやくそく」(角川書店)など著書多数。

「小1の壁」は存在しない!

(※画像はイメージです)
(※画像はイメージです)

――「小1の壁」と呼ばれる障壁について、沼田先生はどうお考えですか?

沼田先生 こういうと皆さん驚かれるかもしれないですが、まず前提条件として「小1の壁」なんてボクはないと思っています。いつのまにか「小1の壁」という言葉が世間で定着してしまい、不安に思う保護者の方も多いと思いますが、実際に目に見える壁があるわけではありません。誰かが作り出した架空の壁にすぎないともいえます。

――しかし一般的に、保育園や幼稚園から小学校に上がることで子どもがぶつかるさまざまな問題のことを「小1の壁」と呼んでいますよね。

沼田先生 環境が変わることで生じる問題は確かにあると思います。でも、新しい環境になじむまで時間が必要なのは当たり前のことですよね。
たとえば大人が転職をするときに、新しい職場で問題にぶち当たるとしても、それを「転職の壁」とは言いませんよね。「今までとは違って当たり前」と認識しているからです。保育園や幼稚園、こども園と小学校は違う場所ですから、わざわざ「壁」という言葉を使わず、その心構えをしておけばいいのではないでしょうか。

――確かに「小1の壁」という言葉を意識するあまり、不安が大きくなってしまっている側面はあるかもしれません。

沼田先生 親御さんの不安が大きくなる要因は、小学生になると子どもの学校での様子が見えにくくなることも大きいと思います。保育園や幼稚園では、送迎時に先生と保護者が顔を合わせますし、連絡帳で毎日の様子をこまめに知らせてくれますが、小学校ではそれらがなくなります。連絡帳はあるけれど、重要な伝達事項を知らせるのみで日常の様子は書きません。

――特に最初は、学校での子どもの様子をもっと知りたい、と思ってしまいそうです。

沼田先生 実際、入学したての頃は、保育園や幼稚園の感覚から抜け出せず、事細かに日常の様子を連絡帳に書いてきてくれたり、学校側にもそれを求めてきたりする保護者もいます。ただ、学校側としては正直それは……遠慮したいところなんです(苦笑)。
なぜかというと、それは子ども自身が親にも先生にも伝えるものだから。よほど何か報告すべきことがあれば別ですが、日常のことであれば親が先生に伝えるのではなく、自分のことは自分が伝える、それが自立への第一歩なんじゃないかなとボクは思います。

「心配する気持ち」が子どもの成長の邪魔をしていないか?

――しかし初めての環境で子ども自身が戸惑うこともありますよね。保護者はどのようなケアやサポートをすればよいのでしょうか。

沼田先生 親としては大切な我が子のために、何でもしてあげたくなっちゃうかもしれませんが、あえて「やらない」ことも大切です。たとえば教室で一時限めの授業を始めようとすると、生徒が「先生、ランドセルに筆箱が入っていませんでした〜!」と言うことがあります。このセリフにボクはツッコミを入れちゃうんですが、どこがおかしいがわかりますか?

――えっ、どこでしょうか?

沼田先生 だってこのセリフ、自分でランドセルの中身を準備していないことがまるわかりでしょう(笑)。明らかに普段から親に全部やってもらっているってことなんです。「入っていませんでした」じゃなくて、自分で入れていないからそうなるんでしょう、とツッコんじゃいます。
もちろん親御さんとしては「忘れ物をして困らないように」という親心でやってあげているのかもしれませんが、そもそも、持ち物を忘れるのはいいんですよ。小学校なんて、忘れても本当に困るものなんて何もありません。忘れたときのリカバーを学ぶことも大事です。だから、親御さんも子どもが忘れないように何でも用意してあげるのではなくて、子ども自身にやらせることを一番に考えてほしいんです。

――「あえてやらない」って意外と難しいかもしれないですね。

沼田先生 難しくても、親も耐えるときです。小学1年生は、一人で生きていくためのスタートラインに立ったところ。それなのに、いつまでも親が何でもしてあげていると、自分では何もできない子に育ってしまいかねません。ちょっと厳しい言い方になってしまうかもしれませんが、そうした親御さんに言いたいのは、「子どもができないのはあなたがやってしまうからで、壁のせいではありません」ということかな。

「見守る」と「放置する」は違う

沼田先生 ひとつ勘違いしないでほしいのは、「見守る」と「放置する」は違うということです。「見守る」は、子どもに何かを仕掛けて種をまき、成長をそばでそっと見守ること。何もせず放置しているのでは、その芽は出ません。

――「仕掛け」とは、具体的にどんなことですか?

沼田先生 たとえば学校は1日の時間割がありますが、時計を見て動くのが苦手でついていけないと感じるお子さんもいます。もし、お子さんが時間通りに行動するのが苦手な場合、「音楽をかける」というのもひとつの方法です。
毎日同じ時間に同じ曲を流して、「この曲が流れたらこれをする」と習慣づけると、だんだん時間通りに行動できるようになってきます。ボクは学校で掃除の時間に曲を流し、サビになったらみんなで踊る「ダンシング掃除」を取り入れているのですが、これがなかなか面白いものなんですよ。

――それは掃除の時間が楽しみになりそうですね。

沼田先生 ボク自身、3歳になる娘がいます。家では朝用と夜用で30分ずつくらいのプレイリストを作っていて、時間になるとアレクサが自動で曲を流してくれるように設定しているんです。
朝の8時に映画「魔女の宅急便」の主題歌の「やさしさに包まれたなら」が流れはじめたら、保育園へ行く支度をスタート。2曲目で歯みがき、3曲目お着替え…… といったように、何曲目で何をするかを決めていて、曲が流れ終わったら出発の時間です。朝のルーティンと曲を関連づけているので、まだ時計が読めない娘もスムーズに朝の支度ができています。

――時間感覚がまだ曖昧な年齢でも、これなら「いつ何をやればいいか」がわかって動きやすくなるんですね!

沼田先生 ポイントは、子どもがワクワクするような仕掛けを作ることだと思います。そして仕掛けを作ったら、あとは習慣になるまでひたすら毎日声がけをして見守ることです。
よく保護者の方に「先生に言われたようにやったんですが、全然宿題をやらないんです」とか「どうすればよい習慣が身につきますか?」と言われることがあるのですが、「習慣を身につけるのに一撃必殺の技はないですよ」とお伝えしています(笑)。「こうすれば子どもがこうなるよ」なんて魔法はないんですから。
人はそう簡単に言うことを聞きませんし、言われたとおりに動くわけありません。習慣とは読んで字のごとく、繰り返し行うことによって習わしになるもの。一朝一夕とはいかないので、見守る大人側も、時間と手間をかける覚悟が必要です。しっかりお子さんと向き合ってあげてください。そうすれば「壁」なんて架空のものだったと思えるようになるのではないでしょうか。



(取材・文:上野真依 撮影:尾藤能暢)

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