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2024年03月11日 06:06 更新

大地震発生「留守中・通学路・繁華街」子供自身の命を守るには? 家族が生きて再会するためにできること【清永奈穂さん解説】

もうすぐ春休み。子どもだけで遊びに出かけたり、自宅でお留守番をする機会が多くなる時期となります。また、新学期から鍵っ子デビューというご家庭もあるでしょう。「ちゃんと鍵をかけてね」「知らない人について行ってはいけないよ」と、家ごとに防犯ルールを話し合うことが必要ですが、もう一つ話し合っておいてほしいことがあります。

東日本大震災から13年、それ以降も度々大きな地震が発生し、最近では能登半島地震で多くの命が失われました。地震から完全に逃れられない日本において、子どもの安全を守るためには「大地震発生」を想定し、備えることが重要となります。

前記事「子供だけで留守番中、大地震発生!! 生死を分ける「発生後8秒間」の“3つの行動”とは」に続き、『おおじしん さがして、はしって、まもるんだ』(岩崎書店)の著者で、犯罪・いじめ・災害などから命を守るための研究を行なっている清永奈穂さんに、子どもだけでいる時に大地震が起きた場合、起こりうるリスクと備えについてお話を伺いました。

大地震発生、もし子どもが……

大地震が起きた時、子どもがどこにいるかで起こりうるリスクも変わってきます。場所別に解説しましょう。

「家の中」にいたら

子どもが一人で留守番をしていたり、子どもだけで誰かの家で遊んでいる時に大地震が起こった場合、どんなリスクが考えられるのでしょうか。

※画像はイメージです

・ けがをする
・ 火事が起こる
・ 家から出られなくなる
・ 水が止まる、水があふれる
・ 食料が足りなくなる
・ 灯がつかない、連絡が取れない
・ 人が侵入してくる
・ どうしたらよいかわからない

など

普段は安心して暮らす家も、大地震が起こると危険がいっぱいです。家具や物が落ちてくる、倒れてくる、飛んでくる、動いてくるなどでけがをしてしまう可能性があります。火災や水のトラブルもあります。

また、停電も起こりやすく、真っ暗になった家の中、保護者と連絡を取ろうにも電話は通じず、携帯電話も電池切れ……とても不安な状況でしょう。外に出ようと思っても、ドアや窓が歪んで家の外に出られなくなることもあります。

また、外に出られる状態であっても、避難するかどうかの判断を子どもだけでするのは難しいことでしょう。お腹が空いても食べ物はどこにあるのか、どう食べたらいいかわからないかもしれません。もしかしたら、子どもを狙う犯罪者や泥棒が家に侵入してくるかもしれず、ただ家にいるだけでもいろんな危険に囲まれることになります。

■ 家の中で被災:普段からできる備え

家具の転倒防止の対策はとても大事ですが、大きな家具だけでなく、ガラス、棚、花瓶、テレビ、本、おもちゃ、照明器具などもけがの原因になります。家の中のそれぞれの部屋で何が危ないかを確認し、対策しておきましょう。

また、断水に備え、
携帯トイレの準備(黒いビニール袋と凝固剤でもOK)
ラップ(食器に被せてから使うと洗わなくて済む)
使い捨ての紙皿
ウェットティッシュ(体を拭いたり、使用後の食器の後始末に)
歯磨きシート
飲み水(1人当たり3リットル以上)
などは普段からご家庭で用意できるといいですね。

そのほかにも、
水と火を使わない食料(卓上コンロは余震があるうちは危険だから使わない)
懐中電灯(できればそれぞれの部屋に)
乾電池や充電器(乾電池充電できるもの)
防犯ブザー
なども子どもが使える状態で保管しておきましょう。

親がすぐには帰ってこられない状況は起こり得ます。友人宅や避難所など、親が帰れないときどこに避難するかを日ごろから親子で確認しておきましょう。そして、どこへ逃げたかを伝言ダイヤルに残す、もしくは家の中にメモで残す、などもあらかじめ話しておく必要があります。

「路上」にいたら

学校への登下校の通学路、遊びの行き帰りなど、子どもだけで路上を移動中のこともあるでしょう。そこでは屋内にいる時とは別の危険があります。

※画像はイメージです

・ どうしたらよいかわからなくてパニックになる
・ さまざまなものが倒れたり落ちてくる
・ 火事、津波、土砂、道路から水が噴き出す、ガス漏れ

など

通学路上で大地震に遭った場合、どうしたらよいかわからずパニックになってしまいます。恐怖で硬直し立ちつくす、何かにしがみつくこともできず、ただしゃがみこむしかなく、避難行動ができなくなる恐れがあります。

また、塀が倒れたり、看板やガラスが落ちてきたりすることも。下敷きになるだけでなく、それらを踏むことでも怪我のリスクがあります。大阪北部地震では塀が倒れ、女児とスクールガードの方が亡くなりました。

■ 路上で被災:普段からできる備え

2018年の大阪北部地震では、朝の登校時(午前7時58分)に大地震が発生し、通学途中の子どもたちはどうしたらよいかわからず泣いたりパニックになりました。たまたまふだん見守りをしているスクールガードの方に助けられ、近くの公園まで連れて行っていただき、助かった子どももいました。普段から、近所の方や見守りの方と顔見知りになり、ご挨拶をしておくことはとても大事です。

また、通学路や家周辺の道の「どこに危ない物があるか」(崩れる恐れのあるブロック塀や、割れたガラスが落ちてきそうな建物など)を子どもと話し合い、大地震の後の余震も考慮し、そこを避けて避難できるようにしておきましょう。

「街・繁華街」にいたら

習い事などで、家から離れた場所にいることもあるでしょう。街中は周囲に人が多くいるものの、それがリスクになることも……・

※画像はイメージです

・ 群衆雪崩に巻き込まれる
・ 歩けない、進めない
・ 携帯の電池がなくなる
・ 帰宅困難になる
・ トイレに行けない
・ 犯罪の危険にさらされる

など

大地震が起こると、子どもだけでなく大人もパニック状態になります。我先にと人を押しのけて脱出や移動をする人々が密集すると「群衆雪崩」が起きやすくなります。そうすると、子どもが巻き込まれてしまう可能性があります。そうでなくても、液状化や火事などで歩けない・進めない状況になりやすくなっています。

歩いて帰れる距離ではなく、自宅の方向すらわからないとなると、帰宅ができません。その上、電話が通じなかったり、携帯電話が充電切れになったりすると、保護者と連絡が取れず、今どんな状況なのかの情報も得られなくなるのです。

また、帰宅困難となった子どもが街中にいた場合、「うちにおいで」などと家に呼び込まれるなどの危険もあります。

■ 街・繁華街で被災:普段からできる備え

防犯を考え、
・「はちみつじまん」の人
・人のいないところに連れて行こうとする人
・体に触ろうとする人
・写真を撮る人

には注意するよう、普段から話しておきましょう。これは大地震発生時に限らず、子ども自身を守る行動となります。

※「はちみつじまん」とは
はなしかけてくる人:知っている人、知らない人にかかわらず、いつまでもしつこく話しかけてくる人
ちかづいてくる人:知らない人でも知ってる人でも、遠くからグングンと近づいてきたら注意
みつめてくる人:「じっと見る」あるいは「見つめる」というのは強い思いをこめた個人的なアプローチ
ついてくる人:いつまでもついてくるのは、子どもにあぶないことが起こる可能性の高いサインのひとつ
じっとまっている人:子どもがくるのをじっと待っている人。それも大体いつも同じ時間に同じ場所で待っているような人

大地震、離れていた家族と無事に再会するために

ここまで、大地震が起こった際に子どもがいた場所別にリスクや備えをお伝えしました。次に、ご家族で確認しておいてほしいことを3つ挙げます。

1. 「その時」自分の命を守る行動

家族それぞれが命を守るために、まずはそれぞれがよく使う道(通学路、通勤、買い物など)や、家の中、よく行く場所で、「もしもここで地震が起きたらどうするか?」を考えておくことが大事です。

絵本『おおじしん さがして、はしって、まもるんだ』にも描きましたが、大地震には「3つの時」があります。

最初は大地震が起こった「(まさに)その時」
2番目は大地震の大揺れと闘い逃げる「(避難する)その時」
そして最後の3番目は逃れて「(避難生活をすごす)その時」

2番目も3番目も非常に大切ですが、何よりも1番目の大地震が起きたその時、自分の「命」を守るためにどうするかが最も重要です。避難ができるのも、避難生活をすごすことができるのも「起こったその時」をかいくぐっての「命のつなぎ」があってこそできることです。
 
ですので、ここで地震が起きたら、
「これが落ちてくる可能性があるから、この部屋のこの場所に逃げる」
 (そもそも落ちてこないように、倒れないようにするべきですが)
「この塀が危ないから、ここから2メートルは離れる」
「この照明が落ちてくるかもしれないからすぐに離れて、あそこまで8秒を目安に走ってにげる」
「カバンで首のうしろを守る」
「煙が出ているから、あっちには逃げない」
「ここだと津波が来てしまうから、もっと高いところに逃げる」

など、シミュレーションをしておくと、それぞれがその場で命を守れます。
家族がきっとどこかで命を守れていると思えば、一人でいても、勇気をもって次の行動ができるのです。

2. 連絡手段

※画像はイメージです

連絡手段などを事前に確認しておくことも、その後の行動の安心感につながります。
・互いの電話番号を紙ベースでメモし「171」のかけ方を練習する
・公衆電話も使えるようにしておく
などすると、安否確認がスムーズにでき、家族が離れていても落ち着いて行動ができます。 

※177(災害用伝言ダイヤル)では、連絡を取りたい相手の電話番号が必要になります。

3. 避難の仕方

事前の準備は、パニックにならないためにも、危険に陥りにくくなるためにも大事です。そして、事前の準備をしておくことで、今何が大事なことなのか優先順位を決められるようになります。
・ハザードマップや避難所の場所
・家がどのような状況になったら逃げるのかの目安

 (揺れが続く、家が傾く、ドアが閉まらない、水があふれる、近所に誰もいなくてこわいなど)
などを確認し、話し合っておきましょう。

自分の命を守るために、避難所に逃げたほうがいいのか、家にとどまったほうがいいのか、避難所に行くためにどっちの道を通ったほうがいいのかなど、命を守るための判断を冷静に、家族それぞれが自分自身でできるようになるのです。

「どう命を守り、どう生きていくか」を普段から考えよう

お子さんが親と一緒にいないときに大地震が起きたら、と考え想像することさえ怖いことです。私自身も家族の顔を思い浮かべると心底そう思います。しかし家族一緒の時に地震が起きたら何とかなるから大丈夫、と思考停止になるのではなく、親と一緒でないときにも、子どもが自分の命を守れるように、そして自分自身(保護者自身)も守れるように事前に準備しておくことは、大地震の後のその後の復興への生活をしていくためにも、とても大切なことです。

もしもけがをしたら、家の片付けや、避難生活、学校の生活に支障が出てくるでしょう。でも、たとえけがをしていたとしても、命があれば生活はできます。だから、まずは命を守ること。そのためにも、安全な場所を知り、安全な場所をつくり(確保する)、すぐさまそこに逃げること。それが第一に大事です。そしてその次に、生き延びるために何が必要か備えること。それらがあって初めて、その後の避難生活が成り立つのです。

私は、2月4日、5日に奥能登に行きました。また3月10日から4日間ほど奥能登へ行ってきます。発災から2か月以上たっても、水がなく、寒く、家の再建の見通しが立たない中で、子どもも大人もとても懸命にがんばっています。13年前の東北の皆さんも同じような状況でした。どの地であっても、何カ月たっても、何年たっても、できればそれぞれの地域の方に心を寄せて応援していただきたいと思います。それが今を懸命に生きる被災地の方々の励みになると思います。

そして、今は応援する側の方々も、地震だけではなく洪水・台風など、いつどこでだれが被災してもしても不思議ではありません。「私がここで被災したら、どう命を守るか」「そのあと、どう生きていくか」を普段から考えておくことはとても大事なことだと思います。

そして、一人ではなく、そんなあなたを助けてくれる人がいる、ということも忘れないでください。あなたが応援したように、誰かがあなたを必ず助けてくれる、ということを信じてください。

(文:清永奈穂、構成:マイナビ子育て編集部)

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