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2024年01月27日 10:05 更新

国や年齢を超えて友人となった二人の交流を描く「野ばら」、戦争を考えるきっかけとしても最適な童話

親子で楽しみたい物語をご紹介している本連載「親子のためのものがたり」。今回は童話作家、小川未明による「野ばら」をご紹介します。国も年齢も違う二人の人間が友だちになるのですが、二人の平和は長く続きませんでした。子どもが戦争について考えるきっかけにもなる名作です。

「野ばら」を子どもに聞かせよう!

作者の小川未明は明治から昭和にかけて活躍した小説家・童話作家で、日本児童文学の父とも呼ばれています。79歳で没するまで1200点以上の童話を生み出しました。「野ばら」はそんな小川未明の代表作の一つです。

「野ばら」のあらすじ

野ばら

主な登場人物は老人の兵士と青年の兵士。二人は次第に仲良くなるのですが、やがて二人の間を引き裂く出来事が起こります。そして、そんな彼らの運命を路傍の野ばらが静かに見つめていました。

国が異なる二人の兵士が友人に

隣り合う大きな国と小さな国がありました。二つの国の関係は平和なものでした。

都から遠い国境では、両方の国から一人ずつ兵隊が派遣され、国境を定めた石碑を守っています。大きな国の兵士は老人、小さな国の兵士は青年でした。

初め、お互いのことを知らない二人はろくに言葉を交わしませんでしたが、いつしか仲良しになってしまいました。ほかに話をする相手もなく退屈だったからです。
 
国境のあたりには、だれが植えたということもなく、一株の野ばらが茂っていて、朝早くからみつばちが飛んできています。その快い羽音が眠っている二人の耳に、夢心地に聞こえました。

「やあ、おはよう。いい天気でございますな」
「ほんとうにいい天気です。天気がいいと、気持がせいせいします」


二人は互いに頭を上げて、あたりの景色をながめました。毎日見ている景色でも、新しい感じを見るたびに心に与えるものです。

この頃二人は毎日向かい合って将棋を指していました。青年は将棋を知りませんでしたが、老人に教わったのです。初めのうちは老人のほうがずっと強かったものの、そのうち、老人が負かされることもありました。

この青年も老人も、いたっていい人々でした。二人とも正直で親切でした。二人は一生懸命に将棋盤の上で争っても、心は打ち解けていました。「やあ、これは俺の負けかいな。こう逃げつづけでは苦しくてかなわない。本当の戦争だったら、どんなだかしれん」と老人は言って、大きな声で笑いました。

\ココがポイント/
✅大きな国の兵士と小さな国の兵士が国境で一緒に警備についている
✅いつしか老人の兵士と青年の兵士は仲良くなる

戦争が始まり、青年は北へ

冬が来て寒くなると、老人は息子や孫が住んでいる南の方を恋しがりました。「早く、暇をもらって帰りたいものだ」と老人は言います。「あなたがお帰りになれば、知らぬ人が代わりにくるでしょう。親切で優しい人ならいいが、敵、味方というような考えをもった人だと困ります。どうか、もうしばらくいてください」と青年は言いました。

やがて春となりました。ちょうどそのころ、この二つの国は、なにかの利益問題から戦争を始めました。二人は、敵、味方の間柄になったのです。それがいかにも不思議なことに思われました。

「さあ、おまえさんと私は今日から敵どうしになったのだ。私はこんなに老いぼれていても少佐だから、私の首を持ってゆけば、あなたは出世ができる。だから殺してください」と、老人はいいました。

青年は、呆れた顔をして、「どうして私とあなたとが敵同士でしょう。戦争はずっと北の方で開かれています。私は、そこへいって戦います」と青年は言い残して、去ってしまいました。

国境には老人だけが残されました。青年のいなくなった日から、老人は茫然として日を送りました。野ばらの花が咲いて、みつばちは暮れるころまで群がっています。戦争はずっと遠くでしているので、たとえ耳を澄ましても、空をながめても、鉄砲の音も聞こえなければ、黒い煙の影すら見られませんでした。

老人はその日から、青年の身の上を案じていました。日はこうしてたちました。

\ココがポイント/
✅二つの国の間で戦争が始まる
✅青年は北の戦場へ行ってしまう
✅老人は一人国境にとどまり、青年の帰りを待った

戦争が終わったが青年は帰らなかった

野ばら

ある日、国境を旅人が通りがかったので、老人は戦争はどうなったかと尋ねました。旅人によると、小さな国が負けて、その国の兵士は皆殺しになって、戦争は終わったということです。

老人は、それなら青年も死んだのではないかと思いました。そして石碑の礎に腰をかけて、うつむいているうち、いつのまにか眠ってしまいました。

遠くから大勢の人の来る気配がして老人が見ると、それは一列の軍隊でした。馬に乗って指揮するのは、かの青年です。その軍隊はきわめて静かで、声ひとつ立てません。老人の前を通るときに青年は黙礼をして、ばらの花をかぎました。

老人がなにか言おうとしたとき、目が覚めました。それはまったく夢であったのです。

それから一月ばかりすると、野ばらが枯れてしまいました。その年の秋、老人は南の方へ暇をもらって帰りました。

(おわり)

\ココがポイント/
✅戦争は大きな国の勝利で終わった
✅老人がうとうとしていると、青年が夢に現れた
✅野ばらが枯れたころ、老人も国境を去った

子どもと「野ばら」を楽しむには?

たとえお互いの祖国が対立しても、二人の友情は変わりませんでした。人が友情を結ぶのに国籍も年齢も関係ないということを教えてくれます。一方で、戦争は深い悲しみをもたらすものであることも語られています。ぜひ、お子さんとじっくり、色々なことを一緒に考えてみてください。

たとえば、
・友だちが敵国の人になったら、友だちをやめるのはどう思う?
・どうして老人は青年の夢を見たのかな?
・野ばらにどういうイメージを持った?

など聞いてみてはいかがでしょうか。

また、青年兵士と老人兵士の演じ分けもできると、子どもがよりお話に入り込めてよいですね。

まとめ

友情の素晴らしさと戦争の理不尽さを語りかけてくる「野ばら」。重たいテーマを扱っているものの、優しい雰囲気で書かれているので、子どもも聞きやすいでしょう。子どもが小さなうちはテーマが難しいですが、ニュースなどで戦争に興味をもったときに、このお話を教えてあげるというのも一つですね。

(文:千羽智美)

※画像はイメージです

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