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2023年10月13日 18:19 更新

通院するお金がない、保険証がない…健康状態がよくないホームレスの6割以上が「何もしていない」理由【ホームレスの実態】

物価高や円安などで家計が苦しい状況が続いており、社会問題としての貧困も一層、注目を集めています。教育のうえで、子どもと一緒に考えたいテーマの1つでもあるでしょう。そこで今回は、ホームレスの実態把握を目的とした厚生労働省の調査結果から、彼らが何に困っているのかをお伝えします。

1,169名のホームレスを対象に実態を調査

厚生労働省ではホームレス(※)の実態把握と自立支援を目的に、およそ5年ごとに全国で調査を行っています。本記事では2021年に実施された最新版の「ホームレスの実態に関する全国調査(生活実態調査)」を参考に、ホームレスの人たちはどんなことに困っているのかに焦点を当てていきます。

なお、本調査は1,169名から有効回答が得られており、回答者の属性は男性が95.8%、女性は4.2%でした。最も多い年代は70~74歳(23.8%)、次いで65歳~69歳(20.0%)であり、60歳以上が7割となっています。

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※「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法」の第二条に規定された「ホームレス」をさし、「都市公園、河川、道路、駅舎その他の施設を故なく起居の場所とし、日常生活を営んでいる者」。

路上生活で困ることは

食べ物がない、雨や寒さがしのげない…

路上生活をしているホームレスの人は、どんな困りごとがあるのでしょうか?

最も多い困りごとは「食べ物がない」でした。28.9%と約3割が回答しています。食事は日々必要になるものですが、収入が不足し毎日の食事もままならない人が少なくないのでしょう。次いで、「雨や寒さをしのげず困っている」(27.0%)、「入浴、洗濯等ができなくて、清潔に保つことができず困っている」(22.8%)と続いています。「家」がないという暮らしに伴う問題がやはり上位に来ています。

―厚生労働省「ホームレスの実態に関する全国調査(生活実態調査)結果」より
路上(野宿)生活の中で、困っていることはどのような事ですか?
―厚生労働省「ホームレスの実態に関する全国調査(生活実態調査)結果」より

一番困るのは「食べ物」

さらに、困りごとの中でも特に困っていることは何かを質問した結果は、「食べ物がないので困っている」が33.0%でトップでした。食事は生きるうえでの一番の基本であり、その食事に最も困っているという事態は問題の深刻さを表しています。NPO法人などによる炊き出しも行われていますが、食の問題が切実となっている現状がうかがえます。

なお、過去の調査と比べて割合が徐々に増えており、より厳しさが増しているのではないかとも想像される結果です。

―厚生労働省「ホームレスの実態に関する全国調査(生活実態調査)結果」より
特に困っていること(ひとつ)について
―厚生労働省「ホームレスの実態に関する全国調査(生活実態調査)結果」より

健康状態への影響は

健康状態がよくない人が3割超

食事や寝泊まりの環境に問題がある路上生活において懸念されるのは体への影響です。そこで「現在の健康状態」を聞いた結果を見てみましょう。

現在の健康状態について「あまりよくない・よくない」と答えた人は34.9%でした。自分は健康だという人の方が多いという結果ではありますが、健康状態がよくないと感じている人が3人にひとりというのは、決して少ないとは言えません。

―厚生労働省「ホームレスの実態に関する全国調査(生活実態調査)結果」より
現在、健康状態はどうですか?
―厚生労働省「ホームレスの実態に関する全国調査(生活実態調査)結果」より

健康状態がよくないが何もしない人が6割超

さらに、健康状態が「あまりよくない・よくない」と回答した人に通院や市販薬などで対処しているかを聞いてみると、最も多い回答は「何もしていない」で63.5%を占めました。何らかの対応をしている人は、「通院している」が20.0%、「市販薬を使っている」が16.5%、合わせて3割強でした。

では、なぜ何もしていない人が多いのでしょうか? 病院に行くほどではないから、薬を飲むほどではないから――ということではないようです。

―厚生労働省「ホームレスの実態に関する全国調査(生活実態調査)結果」より
体調が「あまりよくない・よくない」と回答した方へ。どのような対処をしていますか?
―厚生労働省「ホームレスの実態に関する全国調査(生活実態調査)結果」より

病院に「行かない」のではなく「行けない」

健康状態がよくないにもかかわらず「何もしていない」と回答した人に、その理由を聞いてみると、最も多かったのは「通院や薬を購入するためのお金がない」でした。48.2%とほぼ半数に及びます。

次いで多かったのは「保険証がない」(42.6%)。健康保険証がない場合には医療費が満額負担になってしまうため、さらに経済的負担が増えてしまいます。そのため、受診をためらうことになるのでしょう。収入が少ないために健康状態が悪くなるが、医療を受けるための費用が出せず放置せざるを得ない、という状況が考えられます。

―厚生労働省「ホームレスの実態に関する全国調査(生活実態調査)結果」より
自分の体調不良に対して「何も対処していない」と回答した方へ。何もしていない理由を教えてください。
―厚生労働省「ホームレスの実態に関する全国調査(生活実態調査)結果」より

不調のトップは「歯が悪い」

では、実際にどのような身体の不調を感じているのでしょうか?

路上生活の間に自覚した症状として最も多かったのは「歯が悪い」(25.7%)でした。回答者に高齢者が多いことも影響しているでしょうが、定期的に歯科健診などを受ける機会もなく年齢を重ねてくると、歯の健康に影響が出やすいのかもしれません。

次に多かったのは「腰痛」で24.8%の人が挙げています。次いで「よく眠れない日々が続いた」(16.2%)、「体の節々が痛む」(14.2%)なども見られました。

―厚生労働省「ホームレスの実態に関する全国調査(生活実態調査)結果」より
路上(野宿)生活で、次のような症状がありましたか?
―厚生労働省「ホームレスの実態に関する全国調査(生活実態調査)結果」より

まとめ

路上生活をしているホームレスはどんなことに困っているのか、アンケート結果をもとに見ていきました。人間が生活するうえでの基礎となるのが衣食住だと言われますが、「住」がままならない状況で「食」にも困るという厳しい生活状況が反映された結果だといえるでしょう。また、高齢化が進んでいるため健康に問題を抱える人が増えていくことも想像に難くありません。ホームレスになった事情はそれぞれでしょうが、人が生きるうえで最低限必要となる、住む場所や食べるものに困るほどの貧困が今の日本社会にあるという事実を知ることは、子どもにとって大切なことでしょう。

(マイナビ子育て編集部)

調査概要

■ホームレスの実態に関する全国調査(生活実態調査)結果/厚生労働省
調査対象:ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法第二条に規定するホームレス
※調査対象自治体は、東京都23区、政令指定都市及び令和3年1月調査(概数調査)で20名以上の報告があった市。
調査時期:令和3年11月
有効回答数:1,169名

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