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2023年08月13日 09:30 更新

入院中の子どもへの付き添いの実態を調査、親が多くのケアを負担し睡眠や食事もままならない過酷な現実が浮き彫りに

今年4月に「こども家庭庁」が発足し、さまざまな子育て支援策が注目を浴びる中、必要な支援策が届いていないものに「入院を余儀なくされている子どもがいる家庭」があります。ここではNPO法人「キープ・ママ・スマイリング」が実施した「入院中の子どもに付き添う家族の生活実態調査2022」からその実態と問題について考えていきます。

子どもが入院すると、親が病院に寝泊まりして四六時中、子どもに付き添う――。何となくそんなイメージを抱く人は多いかもしれません。しかし、全国に当事者・経験者が大勢いながら、付き添いの実態を示す大規模調査は国・小児医療研究機関を含め、これまでなされてきませんでした。その結果、この問題が長い間、社会的課題として認識されずにきた、ということにもつながっています。

今回は、NPO法人キープ・ママ・スマイリングが聖路加大学と共同で行った「入院中の子どもの家族の生活と支援に関する実態調査」で明らかになったことをご紹介します。

0歳~17歳の入院中の子どもに付き添っている親、3,643人を対象に調査

小児病棟に付き添い入院中の家族に対する食事、食品・物品等の提供を通じた支援事業、普及啓発活動を行っているNPO法人キープ・ママ・スマイリングでは、長い間、本格的な調査が行われていなかった「入院している子どもに付き添った経験のある家族」の実態を把握するために0歳~17歳の入院中の子どもに付き添っている親、3,643人を対象に調査を実施。その結果、身体的・精神的に深刻な状況に置かれている家族の実態が見えてきました。

看護師が行うべきケアを負担している親が多数

現在、付き添いを行っている、または付き添いの経験がある親に対し、「付き添い中に行った世話やケアの内容」を具体的に聞いた結果、最も多かったのが「見守り」で94.4%でした。次いで「排泄ケア」(90.1%)、「食事介助」(88.2%)となっています。病院での食事や清潔、排泄、入浴、移動などに関わる看護は、厚生労働省のルールでは本来、付き添いの範囲として禁止されていますが、看護師の肩代わりをしている「労力提供型の付き添い」の実態があらわれています。

さらに、「その他」(9.0%)の内容には、気管切開ケア、人工呼吸器の管理、排痰ケア、口腔ケア、インスリン注射などの医療的ケアを行った経験をもつ人も少なくないことがわかりました。

こうした状況の背景には、看護師不足により親に付き添ってもらわなければならない病院側の現状が推測されます。

キープ・ママ・スマイリング「入院中の子どもに付き添う家族の生活実態調査2022」より
キープ・ママ・スマイリング「入院中の子どもに付き添う家族の生活実態調査2022」より

「21~24時間」が25%以上、長時間の付き添い実態

「付き添い中に行っていた世話やケアに、1日あたりどのくらいの時間を費やしたか」を聞いた設問では、最も多かったのが「21~24時間」で25.5%となっています。全体の1/4の人がほぼ1日、世話やケアに費やしていたことがわかります。また、1日6時間以上と回答した人は全体の8割以上で、多くの親が長時間の付き添いを行っているようです。

さらに、泊り込んでケアを行っている人のうち、「夜間に子どもの世話や看護をした」という人は94.5%に及び、「子どもを一緒に入浴して世話をした」経験を持つ人も3割もいました。

こうした長時間にわたる付き添いによって体調を崩す恐れも心配されます。実際、51.3%の人に体調を崩した経験がありました。就寝中に「熟睡できていなかった」人も8割を超えています。長時間・長期間の付き添いによって、親への健康への影響が小さくないことを示す結果と言えます。

キープ・ママ・スマイリング「入院中の子どもに付き添う家族の生活実態調査2022」より
キープ・ママ・スマイリング「入院中の子どもに付き添う家族の生活実態調査2022」より

食事は院内のコンビニ・売店でが6割以上

付き添い中の食事については「主に院内のコンビニや売店」で調達していたと回答した人が65.1%と最も多く、「主に院外のコンビニや売店、スーパー」が8.5%、「主に差し入れ(お弁当)」が7.9%となっています。容易く院外に出ることが難しく、食事に時間をかけられない実態が見える結果となりました。

「主に病院から付き添い者に提供される食事」は無料・有料を合わせても5.6%で、病院から付き添いの親に対してのサポートはあまり期待できないようです。

キープ・ママ・スマイリング「入院中の子どもに付き添う家族の生活実態調査2022」より
キープ・ママ・スマイリング「入院中の子どもに付き添う家族の生活実態調査2022」より

さらに、「1日1食または2食しか食べられなかった」と回答した人に対し、「3食食べられなかった理由」を聞いたところ、6割以上の人が「時間がなかった」と回答。食事をとる時間もないくらい、ケアに追われている状況であることが推測される結果となっています。

キープ・ママ・スマイリング「入院中の子どもに付き添う家族の生活実態調査2022」より
キープ・ママ・スマイリング「入院中の子どもに付き添う家族の生活実態調査2022」より

睡眠は子どもと同じベッドが5割以上、熟睡は望めず

泊まり込みでのケアを行っていた人に睡眠の状況を聞いた設問では、「子どもと同じベッドに寝ていた」と回答した人が51.8%と半数以上を占める結果に。また、「簡易ベッド(病院からレンタル)」は32.9%、「ソファー、椅子」が6.4%でした。

お伝えしたとおり、約8割の人が「熟睡できていなかった」と回答していますが、夜間に子どものケアを行っていたことのほかに、こうした睡眠環境も熟睡できなかった理由のひとつになっていることが推測されます。

キープ・ママ・スマイリング「入院中の子どもに付き添う家族の生活実態調査2022」より
キープ・ママ・スマイリング「入院中の子どもに付き添う家族の生活実態調査2022」より

半数以上は体調不良の時も付き添いを継続

このような付き添い入院のなかで体調を崩した経験がある人も半数を超えています。そして、体調不良があっても「付き添い入院や面会を続けていた」という人も同様に半数以上いることもわかりました。

その一方で、体調が良くないにも関わらず、病院からのケアやサポートを受けられたという人はわずか2割しかいないということも判明。受けられたサポートとしては、「保育士に1時間くらい預かってもらい、横になれた」や「看護師さんに頼んで一時的に帰宅させてもらった」などが多く、受けられたサポートも短時間であることがほとんどだったようです。なかには「体調がよくなるまで付き添いをストップしてください」と看護師に言ってもらえたという人もいましたが、そうしたサポートは多くないのが実態のようです。

キープ・ママ・スマイリング「入院中の子どもに付き添う家族の生活実態調査2022」より
キープ・ママ・スマイリング「入院中の子どもに付き添う家族の生活実態調査2022」より

「付き添い必須」が7割以上、親に選択肢はなし?

では、親側の付き添い入院の希望はどうだったのでしょうか?

回答を見てみると、希望する・しないに関わらず、「付き添いが必須だった」という人が全体の7割を占めています。また、約8割は病院から「付き添い入院の要請があった」と回答。さらに、付き添い入院する際に、「付き添い願い書」に署名して提出したという人が70.6%いました。

つまり親にはその選択肢がないにも関わらず、体裁として「親が希望して」付き添い入院を実施している病院が多く存在しているということです。キープ・ママ・スマイリングは、こうした、長時間・長期間の拘束は親の人権を侵害している可能性もあるとしています。

キープ・ママ・スマイリング「入院中の子どもに付き添う家族の生活実態調査2022」より
キープ・ママ・スマイリング「入院中の子どもに付き添う家族の生活実態調査2022」より

まとめ

今回の調査結果から、子どもが入院している場合の家族への負担はかなり大きなものになっていることがわかりました。その実態は「付き添い」とはいいながら、親が多岐にわたるケアを長時間・長期間担っているというものでした。こうした状況の裏には、病院での慢性的な看護師不足があることも想像されます。この問題はこれまであまり社会的に認識されておらず、取り残されているといえます。親が過剰な負担を強いられる状況に対して一日でも早い改善を求めていく必要があります。

(マイナビ子育て編集部)

※画像はイメージです

調査概要

■入院中の子どもに付き添う家族の生活実態調査2022/キープ・ママ・スマイリング
調査地域:全国
調査対象:2018年1月~2022年12月の期間中に、0歳~17歳の子どもの入院に付き添っていた人(病室の泊まり込みだけでなく、面会・通いによる付き添いも含む)
調査時期:2022年11月25日~12月16日
有効回答数:3,643サンプル

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