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2024年04月13日 10:29 更新

小泉八雲「お貞のはなし」のあらすじ|「この世で再び会える」と言って死んだ許嫁…残された男の運命は

親子で楽しみたい物語をご紹介している本連載「親子のためのものがたり」。今回は小泉八雲の「お貞のはなし」です。ひとことで言うと、生まれ変わりにまつわるの物語となっています。お子さんと一緒にぜひ、小泉八雲が記した不思議なお話を楽しんでください。

「お貞のはなし」を子どもに聞かせよう!

思わずぞっとさせられる『怪談』で有名な小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)ですが、不思議な話も数多く記しています。「お貞の話」もそうした系統に属するひとつ。幼いころからの許嫁だった長尾長生(ながおちょうせい)という青年とお貞(てい)という少女。親の決めたことといえ二人は深く思い合っていましたが、二人が結婚する前にお貞が病に伏してしまいます。二人は結ばれずに終わるのでしょうか。

「お貞のはなし」のあらすじ

互いに思い合っていた長尾とお貞

昔、越後国新潟の町に、長尾長生という人がいました。医者の子だったので、その教育を受けていました。小さい頃に父の友人の娘でお貞という子と婚約しており、修行が終わり次第、婚礼をあげることになっていました。

しかしお貞の健康が悪く、十五の年にお貞は不治の肺病にかかってしまいます。死ぬことが分ったとき、彼女は別れを告げるために長尾に来てもらいました。

「長尾さま、私たちは子どものときから約束し、今年の末に結婚するはずでした。しかし今私は死にかかっています。もう何年か生きていましたら私は他人の迷惑や心配の種になるばかりでしょう。こんな弱い体ではよい妻になれるわけはありません。ですからあなたのために生きていたいと願うことさえ、わがままでしょう。あなたも悲しまないと約束してください。……それに私たちは、また会えると思います」

「本当だ、また会えるとも。それに、あの世では別れるという苦痛はないのだから」長尾も熱く答えます。すると、お貞は静かに言いました。「いいえ、あの世のことではありません。この世で再び会うことに決まっていると信じています」

長尾は不思議そうにお貞を見ました。お貞は穏やかな声で続けます。

「そうです。この世でです。長尾さま、あなたもおいやでなければ。……ただ、そうなるために私ももう一度子どもに生れかわって女に成人せねばなりません。それまで、あなたは待っていてくださるでしょう。十五年、十六年、長いですね。しかし、あなたは今やっと十九です……」

お貞を慰めようと思って、長尾はやさしく答えます。「私の約束の妻、あなたを待っていることは私の義務であり喜びです」
「しかしあなたは疑いませんか」
お貞は尋ねました。そこで、「他人になっているあなたがわかるかどうか……。何かしるしか証拠を私に言ってほしい」長尾は答えました。

「それはできません。どこでどうして会うかは神仏だけが御存じです。ですが、きっと必ず、もしあなたがおいやでなければ、私はあなたのところへ帰って来ることができます。それだけ覚えていてください」

お貞はこう言うと目を閉じました。彼女は亡くなっていました。

\ココがポイント/
✅長尾長生という青年とお貞という娘は子どもの頃から婚約していた
✅お貞は不治の病である肺病にかかってしまった
✅死の間際、お貞は生まれ変わって会いに来るので待っていてほしいと告げた

長尾は結婚し子どもも設けるが…

お貞の死を深く悲しんだ長尾は、お貞の俗名を書いた位牌を作らせ、それを仏壇に置いて毎日供物をささげました。また、彼女の魂を慰めるために、もし彼女が他人の体で帰ってくることがあったら、彼女と結婚しようという約束を紙に書くと、それに封をしてお貞の位牌のそばに置くのでした。

しかし長尾は一人息子のため、結婚をしないわけにはいきません。彼は家族の願いにしたがって、父の選んだ妻を迎えなければなりませんでした。結婚後も長尾はお貞の供養を続け、彼女のことをいつも思っていました。しかし次第に記憶は薄くなり、歳月が過ぎていったのです。

その間に多くの不幸が長尾の身の上に起こりました。両親、妻、子どもを失いました。そこで彼は、悲しみを忘れるために長い旅に出ることにしました。

\ココがポイント/
✅長尾は毎日お貞を供養し、お貞が帰ってきたなら結婚するという念書も書いた
✅長尾は一人息子だったので、やむを得ず父の選んだ人と結婚する
✅両親と妻子を失った長尾は長い旅に出る

お貞にそっくりな少女と出会う

長尾は旅の中で伊香保の村につきました。泊まった宿で彼の給仕をした若い女の顔を始めて見たとき、かれはこれまでにないほど胸がどきどきしました。お貞にそっくりなのです。彼女の立居振舞は、若いときの約束の少女の記憶を呼び覚ましました。それに、彼女の声は美しくて悲しく、在りし日を思わせるのでした。

不思議に思った長尾はこう問いかけます。

「あなたは昔、私の知っていた人にあまりによく似ているので、あなたがこの部屋へ入ってきたとき、びっくりしましたよ。それて失礼だが、あなたの郷里と名前をきかしてください」

するとお貞の声で女は答えました。

「私の名はお貞です。そしてあなたは私の許嫁の夫、越後の長尾長生さんです。十七年前、私は新潟で死にました。それからあなたは、もし私が女のからだをしてこの世にかえって来れば、私と結婚するという約束を封書にして、私の名のある位牌のわきに納めました。それで私は帰ってきたのです」

こう言うと彼女は意識を失ってしまいました。

長尾は彼女と結婚しました。その結婚は幸せなものでした。しかし、その後、彼女が伊香保で何を言ったかを思い出すことは一度もなく、前世についても何も覚えていなかったということです。

(おわり)

\ココがポイント/
✅旅の途中で立ち寄った温泉宿でお貞そっくりの給仕に出会った
✅長尾が尋ねると、娘は自分はお貞なのだと話した
✅二人は結婚したが、伊香保で何を言ったのかを娘が思い出すことはなかった

子どもと「お貞のはなし」を楽しむには?

若くして死に別れた男女が時を経て再会し、今度こそ一緒になり幸せに暮らしたというお話でした。生まれ変わりをモチーフにした話は今も人気ですよね。昔はこういう不思議なことが今よりももっと身近に、人々の間で語られていたのかもしれません。

お子さんには

・大切な人が死んでしまったら、生まれ変わって会いに来てほしい?
・もう一度会えるまで10年、20年かかっても待つことができる?
・運命の相手はいると思う?


などと聞いてみましょう。
お貞のセリフはぜひ感情を込めて話してみてくださいね。

まとめ

長尾が伊香保で出会った少女は、やはりお貞の生まれ変わりだったのでしょうか? はっきり書かれていないからこそ、気になってしまいますね。

小さなお子さんにはまだ恋愛の話は少し早いかもしれませんが、誰かを好きになることについて、親子でお話しするきっかけにしても楽しいでしょう。

(文:千羽智美)

※画像はイメージです

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