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2022年03月07日 15:00 更新

ヘアターニケットってどんな状態?赤ちゃんの指に毛が絡まった時の対処法【医師解説】

赤ちゃんがどんなにあやしても泣きやまず、指を見ると腫れあがっていることに気づいたら、「ヘアターニケット(Hair tourniquet)症候群」になっている可能性があります。ヘアターニケット症候群に詳しい兵庫県立こども病院救急科医長の竹井寛和先生に、症状や治療方法などをうかがいました。

ヘアターニケット症候群とは

元アイドルでアナウンサーの紺野あさ美さんのブログで、お子さんがヘアターニケット症候群になったと伝えられるなど、最近ヘアターニケット症候群が注目されています。

まずはヘアターニケット症候群とはどういうものなのか知っておきましょう。

手足の指に毛などが絡まって起こる症状

竹井先生の論文[*1]では「ヘアターニケット症候群は、体毛や糸が小児の手指や足趾に絡まることで絞扼を呈する病態」とされています。

簡単に言うと、「髪の毛や糸が手足の指に絡まって締めあげてしまった状態」ということ。最初は糸や髪が絡みついているだけでも、きつく締められ続けているとうっ血が起こります。その結果、患部が腫れるなどの症状が起こるのです。

竹井先生

「ヘアターニケット症候群自体はめったに起こりません。でもヘアターニケット症候群についての論文を書いてからは、まわりの人から『うっ血が起こるほどではなかったけれど、自分の子供の指をふと見ると糸が絡んでいた』などの話を聞くようになりました。

病院に行くほどきつく絡みつくケースはあまりないみたいですが、赤ちゃんの指に髪や糸が絡むことは時にあることのようですね。」

多いのは足の指

竹井先生にヘアターニケットが起こりやすい箇所について竹井先生に尋ねると、

竹井先生

「ヘアターニケット症候群が起こりやすいのは、足の指といえそうです。

私の論文でもヘアターニケット症候群8例のうち、足の指に起こったのが5例、陰部が2例、舌が1例でした。」

症例数が限られてはいますが、足の指に起こったのは全体の半分以上。しかも全員が乳児だったそうです。

竹井先生

「1980年代に出たアメリカの論文でも、同じような傾向があります。その論文では、ヘアターニケット症候群になったお子さん66人のうち患部が足の指だったのは28人。手の指は16人で、陰部は22人でした[*2]。

ちなみに陰部に起こったのは小学生以上のお子さんだけ。赤ちゃんのヘアターニケット症候群は足の指に起こることが多く、手の指に起こることもある、と考えるといいでしょう。」

ちなみに、足の指のうち特に起こりやすい指はあるのでしょうか? 竹井先生はあくまで推測ですが、と前置きした上で、

竹井先生

「実際に診察したり私の所属病院に来院した赤ちゃんを見た限りでは、特に人さし指・中指・薬指に起こりやすい印象です。

ここからは推測ですが、赤ちゃんの小指はすごく小さく親指は太いので、髪の毛や糸が絡みにくいんだと思います。それに対して、人さし指や中指、薬指は小指より長くて両隣に別の指があります。そのため、指と指の間に髪の毛や糸が入り込んでもすぐに取れず、そのまま絡みやすくなっているのかもしれません。」

と答えてくれました。
先ほども話に出た1980年代の論文でも、足の指に起こったターニケットのほぼ全てが人さし指・中指・薬指であったと報告されています。

そのままにしておくと、毛が指に食い込んでしまう

ヘアターニケット
竹井先生提供のヘアターニケット症候群の症例写真
髪の毛や糸が指にからんで締まったままになっていると、指の血流が悪くなってうっ血が起こります。うっ血が起こった指は少しずつ腫れていき、ますます髪の毛や糸がきつく食い込んでいきます。

竹井先生

「時間が経てば経つほど、指はパンパンに腫れて髪の毛や糸が食い込んでいきまいます

さらに時間が経つと、髪の毛や糸が食い込み過ぎて皮ふが切れることもあります。」

大人でも指輪がきついと指が腫れて太くなり、ますます抜けなくなることがあります。同じような状況が、よりはっきりと赤ちゃんの指に起こるのです。

ヘアターニケット症候群はなぜ起こる?

ヘアターニケット症候群は、特に乳児の足の人さし指や中指、薬指に起こりやすいようですが、どんな原因が考えられるのでしょうか。

赤ちゃんは自分で絡んだ毛を取り除けない

赤ちゃんの指と指の間にゴミがたまっているのを見たことがある親御さんは多いことでしょう。そのゴミと同じように、髪の毛や糸が赤ちゃんの指と指の間にとどまって絡みつき、ヘアターニケット症候群が起こると考えられます。

また、髪の毛によってヘアターニケット症候群が起こる背景の一つに産後のお母さんの脱毛があるとも考えられます。
妊娠中はホルモンバランスが変化して毛髪サイクルが代わり、髪の毛が抜けにくくなります。出産して女性ホルモンのバランスがもとに戻ってくる産後3~4ヶ月ごろから妊娠中に一時的に抜けなくなっていた髪が一気に抜けて、脱毛が増えるのです。なお、こうした脱毛は産後8ヶ月ごろには落ち着いていくと言われています。
▶︎「産後ママの抜け毛」について詳しくはこちら

生後3~8ヶ月ごろは、赤ちゃんがまだ上手に手を使いこなせない時期です。そのため、手に髪の毛が絡んでも自分で取りはずすことができないのです。

言葉で説明できないので発見が遅れがちに

ヘアターニケット症候群は、早めに見つけて対処することで症状が悪化するのを防ぐことができます。ところが赤ちゃんや幼児は自分で上手に「糸や髪の毛が指を締めつけている」と説明することができません。

竹井先生

「ヘアターニケット症候群を早く見つけてすぐに対処するためには、大人が見て気づいてあげましょう。」


ヘアターニケット症候群自体はめったに起こることではないので、神経質になって見張る必要はありません。その代り、万が一の時に早めに気づいてあげられるように、次の兆候について知っておきましょう。

ヘアターニケット症候群の兆候は?

ママやパパが赤ちゃんを見て、ヘアターニケット症候群だと気づくためのポイントを紹介します。

1. 赤ちゃんの不機嫌な状態が続く

ヘアターニケット症候群になった赤ちゃんは、おむつがきれいでお腹は満たされていて、たくさんあやしてもらっても、泣き続けるなどひどく不機嫌な状態が続きます。

竹井先生

「医学的には、ヘアターニケット症候群は赤ちゃんがどうしても泣きやまない原因の1つとして腸重積などとともによく挙げられます。

熱はないかな、便の様子はどうかな、などの体調の確認と一緒に、手や足先の様子も見られるといいですね。」

と竹井先生はチェックポイントを教えてくれました。なお靴下やミトンなどをつけていたら、いったん脱がして確認すると安心です。

2. 指の腫れや色の変化

ヘアターニケット症候群が起こっていると、髪の毛や糸で締めつけられたところがうっ血するので、指に「腫れ」「色の変化」が起こることで気づくこともあります。

竹井先生

「ただし、ヘアターニケット症候群はそんなに頻繁に起こることではありません。

赤ちゃんが泣き止まない時の可能性の一つ程度に知っておくだけでいいので、毎回神経質なほどチェックし過ぎなくても大丈夫ですよ。」

ヘアターニケット症候群のときの対処法は?

ヘアターニケット症候群と思われる状態が見つかったら、どう対処すればいいでしょうか?

① 毛を引っ張り出してハサミで切る

腫れがそれほどひどくなければ、ママやパパでも髪の毛や糸と指との間にハサミを挿し入れたり、ピンセットがあればそれで髪の毛や糸を引っぱりだして切ることができます。

竹井先生

「ヘアターニケット症候群になると、時間が経てば経つほど患部が腫れあがって、絡んだ髪の毛や糸が取りにくくなります。

できそうであれば、自宅で髪の毛や糸を切ってはずしてあげてください。」

ただし、深く食い込んでいて何が絡みついているかわからなかったり、切るのが難しいと感じたら病院で対処してもらいましょう。

自宅で取った後も症状があれば受診を

ママやパパの手で髪の毛や糸が取れた場合も、その後の受診は必要でしょうか?

竹井先生

「髪の毛や糸が取れるまで時間がかかると、スポンジを糸でぎゅっと締め上げた時のように指が切れたり腫れがなかなか引かない、切れた痕が残るなどの症状が残ることもあります。

明らかに気になる症状があったり不安な時には、かかりつけの小児科などで診てもらっていいと思います。」

もちろん髪の毛や糸がしっかり取れているかどうかわからない時にも、受診しておくと安心ですね。

② 取れない時にはできるだけ早く受診する

ママやパパの手では髪の毛や糸が取れない時には、早めに医師に診てもらいましょう。

竹井先生

「信頼できる先生であれば、かかりつけの小児科でも内科でも外科でもかまいません。もしそこの科で対応できなくても、すぐに適切な病院につないでくれます。

ただし時間が経つと患部がどんどん腫れていくので、待ち時間が長い病院・クリニックは避けた方がいいですね。」

外来が開いていない時間帯なら救急を

医療機関が休みの時や診療時間外の時にはどうすればいいでしょうか?

竹井先生

「救急車を呼ぶ必要はありませんが、時間外なら救急外来で診てもらうといいでしょう。ヘアターニケット症候群は時間とともに悪化するので、早期発見と早期解除をすることがとても大切だからです。」

医療機関で行われる治療の内容

医療機関で行われる治療としても、基本的には髪の毛や糸と指との間にピンセットをかけて引っぱり、髪の毛や糸を切ります。

竹井先生

「めったにありませんが、重症化して皮膚に激しく食い込んで毛や糸が見えない時には、指先に麻酔をかけてから切開することもあります。

私が診療したお子さんは、その後形成外科の外来で経過をみていただき、2〜3ヶ月ほどできれいに治りました。」

ヘアターニケット症候群の予防法はあるの?

ヘアターニケット症候群はそもそも予防できるのでしょうか?

起こるのは稀。あまり神経質にならないで

竹井先生

「私が前にいた医療機関では年間に受診する3万8000人の子供のうち、ヘアターニケット症候群はたった1〜2人だけでした。今いる兵庫県立こども病院でも、1万件のうち1件しかヘアターニケット症候群はありません。

とてもまれな病態ですし、科学的根拠のある予防法もないので、未然に防ぐことに神経質になる必要はないでしょう。」

予防よりも大切なのが「起こった時に早めに気づいて正しく対処できること」だといいます。

竹井先生

「早めに見つけて対処できれば、痕が残ることもほぼありません。

ヘアターニケット症候群という病態があるということ、どうしても赤ちゃんが泣きやまなかったり不機嫌が続く時にはチェックするといいということだけ覚えておいてくださいね。」

まとめ

※画像はイメージです

ヘアターニケット症候群は「髪の毛や糸が手足の指などに絡まって締められた状態」です。確実な予防法はなく、時間が経つとうっ血して腫れや変色が起こり、悪化を防ぐためにも早期発見と早期対処が大切です。
何をしても赤ちゃんが泣きやまない時の原因の一つとしてヘアターニケット症候群があることを知っておき、手足の指や手先・足先の様子を見られるといいですね。
ヘアターニケット症候群だとわかったら、早めに原因となる糸や毛を取り除くことが大切です。自宅では取れない時には医療機関で早めに対処してもらいましょう。

(取材・文:大崎典子/監修:竹井寛和 先生)

参考文献
[*1]「小児救急室を受診したヘアターニケット症候群の8例」日本小児科学会雑誌123(8), 1243-1247, 2019-08
[*2]” Hair-Thread Tourniquet Syndrome”PEDIATRICS Vol. 82 No. 6 December 1 988 925


※この記事は、マイナビ子育て編集部の企画編集により制作し、医師の監修を経た上で掲載しました

※本記事は子育て中に役立つ情報の提供を目的としているものであり、診療行為ではありません。必要な場合はご自身の判断により適切な医療機関を受診し、主治医に相談、確認してください。本記事により生じたいかなる損害に関しても、当社は責任を負いかねます

  • 本記事は公開時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください。

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