こわがりでも、大丈夫。子どものメンタルヘルスをテーマにした絵本『かいじゅうたちはこうやってピンチをのりきった』

こわがりでも、大丈夫。子どものメンタルヘルスをテーマにした絵本『かいじゅうたちはこうやってピンチをのりきった』

子どもたちには「こわいもの」がたくさんあります。子どもたちが不安や恐怖と上手に付き合っていくヒントになる絵本『かいじゅうたちはこうやってピンチをのりきった』(作/新井洋行 監修/森野百合子 パイ・インターナショナル)を、この絵本の編集者である沖本敦子さんが紹介します。


『かいじゅうたちは こうやってピンチをのりきった-かいじゅうとドクターと取り組む1 不安・こわい気持ち-』新井 洋行(著), 森野 百合子(監修)/パイインターナショナル

不安やこわい気持ちの正体は、ゾワゾワちゃん

絵本に登場するかいじゅうたちは、注射や人前で話すこと、夜中のトイレなど、こわいものがいっぱい。それぞれ、ちょっと無茶苦茶なやり方で、ピンチを切り抜けようとするのですが……。

注射が嫌いなサスピッチは……

カチンコチンになって、ピンチを切り抜けた??

みんなは、不安や恐怖に襲われた時に「あるもの」がやってくることに気がつきます。その正体は「ゾワゾワちゃん」。

「ゾワゾワちゃんが くると ドキドキして はしって にげたくなるんだ」とひとりが言うと、みんなは、「うんうん」と頷きます。「こわがりのかいじゅうなんて、かっこわるいよ。ゾワゾワちゃんなんか、出て行け!」とみんなでつめよった時、恐怖のかいじゅう「ゾワゾワキング」が出てきて、ゾワゾワちゃんが出現する意味を教えてくれます。

不安と恐怖の正体は、ゾワゾワちゃんだ!


「ゾワゾワちゃんはね、みんなを こまらせたいわけじゃなくて、たすけたくて あらわれる」のだと。

大人になった私たちでも、プレゼン中に声が震えたり、残酷なニュースに不安定になったり、意見の異なる相手に制御できない怒りをぶつけたりしてしまうことがあります。それらを自ら解決する術や、不安のメカニズムに関する知識のない子どもたちは、コロナ禍の今、なおさら苦しい状況にいることでしょう。

けれども、監修の森野百合子先生(児童精専門医/英国児童・思春期専門家専門医)が書かれているように、不安や恐怖はあなたを苦しめるものではなく、「あぶないものや、気をつけた方がいいものを教えてくれる」大切な信号。ゾワゾワちゃんは、私たちが毎日を安全に過ごせるよう、守ってくれる大切な感情なんです。

不安や恐怖に、キャラクターを与える

世の中には、「勇敢、タフ=かっこいい」「こわがり、弱虫=かっこわるい」という図式が少なからずあります。こわがり=だめな自分と考えると、「強くならなきゃ」とさらに自分を追い込んで、せっかくゾワゾワちゃんが送ってくれているシグナルを見逃してしまいます。ゾワゾワちゃんを無視してがんばり続けた結果、燃え尽きてしまいかねません。

不安を抱かせるのは、弱い自分ではなく、自分の中に宿る「ゾワゾワちゃん」。自分の中に発生する感情にキャラクターを与えることで、私たちはぐっと冷静になれ、客観的な視点を持つことができる。

たとえば、道で小さな子が泣いていたら「どうしたの? だいじょうぶ?」と、落ち着いて声をかけようとする優しさが、人間には備わっているでしょう(と、私は思いたいです)。だから、ゾワゾワちゃんが出てきたら、自己嫌悪でパニックになるのではなく、泣いているゾワゾワちゃんをあやすような気持ちで、不安やこわい気持ちの正体を探っていけばいいのです。

ゾワゾワちゃんは、言葉を持っていませんし、基本的に不器用。私たちを守ろうと必死になるあまり、時に不快で突飛な方法で、私たちを苦しめてくることもある。でも、その裏には、「私たちを守りたい」というゾワゾワちゃんの強い願いがあるのです。

大人も子どもも、こわいものがあってあたり前

みんなそれぞれ、いろいろなものがこわいのです

私は現在、8歳男児育児の真っ最中。もともとこわがり族なのですが、母親になった今も、子ども時代と変わらず臆病でこわがりです。かいじゅうたちがずらりと並んだこのページを息子と見ながら順番に「おこられるの、こわい?」「もっちろん」、「ちゅうしゃはこわい?」「あんまりこわくない」「嘘でしょ? ちゃあちゃんはすっごくこわいよ」なんて、問診票がわりに使って遊びました(「ちゃあちゃん」は母である私のことです)。

面と向かって「あなたのこわいものを、今からふたりで語り合おう」なんて言われても、子どもは警戒して戸惑うだけ。でも、絵本を介したおしゃべりでは、そうしたことも自然にできる。そういう意味でも、私はこのページが大好きです。ちなみに息子は「わらわれるのこわい」に反応していて、「そうか、小学2年生の彼は、他人の評価が気になるまで、内面が成長してきたんだな」と、ちゃあちゃん的にも、思うところがありました。

絵本を介して、不安や恐怖を大人に打ち明ける

「がんばれば、不安や恐怖に打ち勝てる。克服しよう、乗り越えよう」というメッセージも多い世の中で、この絵本はやや異色かもしれません。本書には「不安や恐怖はなくならない。それならば、その感情を嫌悪して追い出そうとせず、受容して、共存していく方法を一緒に考えてみない?」というメッセージが込められています。

大人だって、たいてい不安や恐怖を抱えているもの

絵本というのは、あたたかく、のびのびとした包容力のある媒体。大人と子どもで一緒に楽しめる、親密なコミュニケーションツールでもあります。『かいじゅうたちはこうやってピンチをのりきった』は、そうした絵本の愛すべきフォーマットの上に成り立っている作品です。

「不安やこわい気持ちを大人に言ってはいけない、心配をかけてはいけない」と、本能的に感じている子どもたちが多いからこそ、大人が自ら、自分のこわがり部分をさらけだし、子どもと一緒にくつろいだ空気の中で、この絵本を読んで「こわがりだって、大丈夫」という安心感を育んでほしいと思います。

子どものメンタルヘルスをテーマにした絵本『かいじゅうたちはこうやってピンチをのりきった』が、必要とされる読者に手に届いてくれることを、かいじゅうチーム一同みんなで願っています。こわがり親子や、こわがり中高大学生、社会人。大人になってもこわがり族のみなさまに、ぜひお読みいただけたらうれしいです。

『かいじゅうたちは こうやってピンチをのりきった-かいじゅうとドクターと取り組む1 不安・こわい気持ち-』

『かいじゅうたちは こうやってピンチをのりきった-かいじゅうとドクターと取り組む1 不安・こわい気持ち-』

¥1,485 (税込)

(2021/10/11 時点)

沖本敦子
子どもの本の編集者。ブロンズ新社勤務を経て、フリーランスとなる。編集を手がけた絵本に、ミリオンセラーとなった「だるまさん」シリーズ(かがくいひろし)、『りんごかもしれない』(ヨシタケシンスケ)、「しごとば」シリーズ(鈴木のりたけ)、『たまごのはなし』(しおたにまみこ 以上全てブロンズ新社)、『ねたふりゆうちゃん』(阿部結 白泉社)他多数。麦田あつこの名前で、文章の仕事も手がける。作品に『ねむねむ こうさぎ』『こうさぎ ぽーん』(絵 森山標子ブロンズ新社)などがある。8歳男児と夫の3人暮らし。性格は、楽観的だけど怯え系。
https://twitter.com/AtsukoOkimoto

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