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2018年12月04日 14:37 更新

静かな叱り方こそが効果的! 江戸時代で実践していた、子供への接し方

歴史エッセイストの堀江宏樹さんが江戸時代の子育てについてお届けする第3弾!今回は、仕事と子育ての両立について、です。

Lazy dummy

現代日本では「イクメン」という言葉が、子育てに積極的な男性という意味でよく使われるようになりました。
しかしこれは逆に、子育てに積極的ではない男性のほうがまだまだ多い……という厳しい現実を反映しているのかもしれません。そもそも日本では「男性は外で働き、女性は家を守る」というような生き方こそが伝統的かと思いきや、江戸時代の男性はまるで逆でした。

交通手段が基本的に徒歩しかなかった当時、職住隣接は基本中の基本。
とくに庶民は一家で同じ仕事をしていることが多いので、子供を背負ったり、手を引いて仕事場に連れていくのは普通のことでした(祖父母に預ける場合もありましたが、連れていけた場合、「あら、かわいいわね~」式に、お客さんとのコミュニケーション手段になったことはいうまでもないでしょう)。

武士も大工仕事や子育てまで担当

ただし、お城で仕事する武士の場合はそういうわけにはいきません。
しかし彼らの場合でも、夫たちはお昼過ぎには家に戻ってきました。その後は大工仕事などの力業や、屋敷の庭で野菜を育てたりして家事に協力、のみならず子供の学問がうまく進んでいるかを監督したりして子育てまで手伝っていたのです(ごく一部の高位の武士たちは除く、ですが)。

そもそも江戸時代にたくさん書かれた教育本の著者の大半は、男性です。中には本業が忙しいので徹夜して書かれたという作品も。たとえば、ある男性画家が、寺子屋に預けた我が子のうけた教育について思うところを記した『実語教童子教註(じつごきょう どうじきょうちゅう)』をご紹介しましょう。

興味深いのは、この本の「寺子屋で息子が覚えて帰ってきた内容にどうやら誤りがあるらしい……と自ら色々調べ始める」という一節です。寺子屋で足りていない部分はクレームをつけるより自分で学び直し、子供に教えようとする態度は立派ですね。

このように夫も妻と同じ目線で子育ての悩み、いろいろ工夫し、これは他の人にも役立つに違いない!と思った情報を書きとめ、広めようとしていたのです。

基本的に身分に関係なく、江戸時代の子育てでは「父親は威厳のある中にときどき優しさが感じられるくらいがちょうどいい、女親は優しい中にときどき威厳が感じられるのがいい」などといわれていました。そしてさまざまな史料に出てくるのは、父母ともに大声で子供をヒステリックに叱ったり、手を上げたりするのはもってのほかという考えです。

静かな叱り方こそ、効果的

静かな叱り方こそ、逆に効果的なこともありました。
明治時代になってからですが、旧・長岡藩家老の家庭に生まれた杉本鉞子(すぎもとえつこ)の自伝的エッセイ『武士の娘』という書物には、女性のお師匠様から彼女が叱られ、猛省するシーンが出てきます。2時間にもおよぶ、漢籍(漢文で書かれた中国の書籍)の講義中、正座のまま微動だにしない師匠の前で、一瞬にせよ体を動かしてしまうという「事件」を鉞子は起こしてしまいました。

今でいうなら単にそれだけの話です。
しかし師匠は「かすかな驚きの表情」を浮かべ、「そんな気持ちでは勉強はできません。お部屋に引き取って考えられた方がよいと存じます」と静かに、しかし毅然と言いはなちました。
叱るといってもそれだけです。しかしそれゆえ鉞子は「師の期待を裏切ってしまった!」と猛反省することになりました。

江戸時代の静かな叱り方は、逆に「親や目上の人の愛や期待を裏切ること」は本当に辛いものだ……と子供に伝えることができる手段だったのでしょうね。

  • 本記事は公開時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください。

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