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2024年05月18日 07:02 更新

覚悟を持って伝えた「妊娠・産後復帰」への思い 監督・チームメイトの反応は?|ぼくのママはプロサッカー選手 #2

産休・育休をとって出産後も働きたいと考えた時に、やはり気になるのが周りの反応ですよね……。

妊娠・出産=現役引退……そんな女子サッカー界の常識を覆し、WEリーグ初の「ママプロサッカー選手」として活躍する元なでしこジャパンの岩清水梓選手。そんな岩清水選手による出産・子育てエッセイ『ぼくのママはプロサッカー選手』(小学館クリエイティブ)より一部抜粋して、連載(全5回)でお届けします。

第2回となる今回は監督や社長、チームメイトに妊娠と産後復帰の意向を伝えた際のエピソード。

まったく前例のない報告に社長や監督、チームメイトの反応は……?

報告

ぼくのママはプロサッカー選手,小学館クリエイティブ
写真:佐野美樹
『ぼくのママはプロサッカー選手』より

間違いなく、前例がない。ベレーザの選手になって、この時点で16年。どの選手よりも長くクラブに在籍している私が聞いたことがないのだから、それはさぞかし、みんなビックリするよなぁ……。

妊娠していて、産後は復帰するなんて言ったら。

2019なでしこリーグカップの決勝を優勝で終え、なんとか自分のなかで決めた最低限の役割を全うしたあとだった。

チームは試合後、約10日間ほどの夏休みに入っていた。練習再開前に、まずは監督と社長、クラブのフロントスタッフには、今の状況と思いを伝えないといけない。

私の妊娠が発覚した時点で、唯一、そのことを打ち明けていたのが、長年の付き合いがあるクラブ広報の竹中百合さんだった。そのため、報告に行く前に竹中さんと、誰になにから話して、どう伝えたらいいかを相談し、まずは社長に会いに行った。

当時はまだ女子サッカーのリーグはプロ化されていなかったため、私はクラブの「契約社員」として働いていた。通常なら、会社のいちスタッフが産休を取る、というのはままある話で、そんなに珍しいことでもない。だから私も妊娠の事実を伝えたことで突然クビを言い渡されたり、職を失うといった心配はなかった。思えば、そこに関しては、恵まれたタイミングだったと思う。もしこの2019年時点でプロ化したWEリーグが発足していて、私がプロ契約だったら、前例のないままこの選択をするのは、正直なところ難しかったかもしれない。

ただそれでも、私は契約社員とはいえ、選手という立場。しかもシーズン途中で離脱することになるから、チームに迷惑をかけることに違いはない。もしかしたら、怒られるんじゃないか。もしくは戸惑う反応をされるかもしれない……。

ある程度の覚悟を持って、社長にそのことを告げた。

「本当に? おめでとう!」

ビックリしながらも、諸手を挙げて笑顔で祝福してくれる社長の姿に、思わず拍子抜けした。続けて、産後に復帰することも伝えると「いいじゃん! いいじゃん! がんばりなよ!」と、思っていた以上の前向きな言葉に、強張っていた心がほぐれるのがわかった。本当にありがたい……。

そしてようやく安堵とともに、自分が本当に復帰を目指すんだということを強く実感し、身が引き締まった。

ぼくのママはプロサッカー選手,小学館クリエイティブ
写真:佐野美樹
『ぼくのママはプロサッカー選手』より

それからクラブの上層部の方々や、監督にも報告に行くと、みんなが本当に口をそろえて「おめでとう」と言ってくれた。伝えるまでは少し不安だったけれど、こんなにみんなが祝福してくれることに、正直ビックリしたし、その気持ちがうれしかった。

ネガティブな発言をする人は誰もいなかったし、しないでくれたことに、すごく救われた。そのことは、のちに竹中さんから「イワシの今まで残した経歴や功績があるからこそ、いろんな人が応援してくれるんだと思うよ」と言ってもらった。なるほど、自分の選択を後押ししてくれて、応援してくれた人がこんなにも多かったのは、今までがんばってきたことに対しての一つの評価の形だったのかと思うと、また感謝の気持ちでいっぱいになった。このクラブの選手として生きてきて、本当によかった。

さて、次はチームメイトだ。直前まで一緒に試合に出ていたわけで、シーズンも中盤に差しかかり、チームの大事な時期に穴を開けてしまう申し訳なさが募る。みんなにどんな反応をされるだろうか―。

休暇明けの練習再開初日、「練習前に話したいことがある」と頼んで、チームミーティングで時間をもらった。

まず開口一番に「結婚します」と告げる。すると、ものすごい歓声が上がった。続けて「実は妊娠していました」と話すと、次はどよめきと悲鳴が混ざった。さらに続けて「産後は復帰を目指します」と口にすると、今度は「えっ?」と戸惑いの空気が流れた。

そうだよね。それってアリなの? って思うよね。当然だ。私だって、母に言われるまで気づかなかったんだから。

すると、後輩選手の三浦成美から「いっぺんに言われすぎて、よくわかんないですー!」と力なく嘆かれた。たしかに、一度に伝える情報量が多すぎた。みんなが状況を受け入れて飲みこむまでには少し時間がかかっていた。

やがて、場が落ち着いてくると、同じく後輩の長谷川唯や清水梨紗らは「いいなぁ」「子ども欲しい〜」と口にした。その反応が、“女性アスリートならでは”だな、と思った。きっと私が通ってきたように、なでしこで全盛期を突っ走っている彼女らにとっては、結婚や出産は憧れていても「今じゃない」のだと思う。でも、一人の女性としての素直で純粋な気持ちだろう。

そんな様子を見て、かわいらしいな、と思うと同時に、私がチャレンジすることで、後輩選手たちに未来の選択肢を増やす手伝いができるのかもしれないと思うと、自分への期待もふくらんだ。

2年後に開幕を控えた女子サッカーのプロリーグ「WEリーグ」の理念には、まさに女性の活躍や、生き方の多様性が掲げられていた。

出産後に復帰することは、その理念の体現にもなるのではないかと思ったら、リーグの成功のために、というモチベーションがさらに私のなかに加わった。そしてたまたまだが、産後のスケジュールがうまくハマれば、復帰はちょうどWEリーグ開幕のタイミングになる。

もはや、完全に舞台は整えられた状態だと言ってもいい。もう追い風しかない。私がやらなきゃ、誰がやるのか。

著:岩清水 梓『ぼくのママはプロサッカー選手』(‎小学館クリエイティブ)より再編集/マイナビ子育て編集部

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