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2022年11月08日 07:32 更新

未就学児の性教育って、何をするの? くすぐられるのが嫌いなら「嫌だ」と断っていいんだーー「包括的性教育」の話

親子で「包括的性教育」を学ぶチャンス! Spotify独占配信ポッドキャスト番組『おとなのためのアイラブみー』を知っていますか? どんな番組なのか、制作に携わるお二人にお話を聞きました。

今、Spotifyで配信されている包括的性教育をテーマとしたポッドキャスト『おとなのためのアイラブみー』が話題になっています。じつはこの番組、全登場人物の声を満島ひかりさんが演じていることでも話題になっているNHK Eテレのこども番組『アイラブみー』をもとにしたポッドキャストオリジナルコンテンツ。

『アイラブみー』は、3~6歳の未就学児に向けた性教育のアニメーション番組です。主人公は5歳の“みー”。「なんでパンツをはいてるんだろう?」「くすぐられるのが、じつはキライ?」といった子どもに身近なテーマで、心や体の疑問を追求していきます。

では、どうしてEテレのアニメがポッドキャストに? 「おとなのための」ってどういうこと? 子育て世代だからこそ聞いてほしいこの番組、制作に携わるNHKエデュケーショナルのプロデューサー・藤江千紘さん、Spotifyの音声コンテンツ事業統括・西ちえこさんのお二人にお話を伺いました。

(左)藤江千紘さん
NHKエデュケーショナルのプロデューサー。『おとなのためのアイラブみー』では、同じくNHKエデュケーショナルで『アイラブみー』を制作している岡崎文さんと一緒に、飾らない言葉でおしゃべりしています。4歳の男の子を育児中。
(右)西ちえこさん
Spotify 音声コンテンツ事業統括。『アイラブみー』の企画を聞いて、「是非やりたい」と感じたそう。4歳の男の子を育児中。

くすぐられるのが嫌いなら「嫌だ」と断っていい

ⓒNHK

ーー『アイラブみー』のテーマは「包括的性教育」ですよね。なぜこのテーマを扱うことに決まったのでしょうか?

藤江千紘さん(以下、藤江) はじめは子どもが楽しく学べるような「性教育のテレビ番組」をつくりたいと思って企画が立ち上がったんです。でも、家庭の教育方針によっては、性教育に抵抗をもっていたりテレビで性教育の内容が流れてくることに拒否感がある保護者も多いと思います。

そこで「そもそも性教育って何が大事なんだろう?」「子どもはどんな情報を知っておくべきなんだろう?」と、各分野の専門家に取材を重ね、つきつめていったら、「自分を知って、自分を大切にすることなんじゃないか」というところにたどりついたんです。同時に、「自分と同じように他者を大切にすること」でもあるということも学びました。それで狭義の性教育ではなく、「包括的性教育」というテーマになりました。

ーー性教育というと、性行為や月経などカラダの変化に関することばかりイメージされがちです。「包括的性教育」って、どういうものでしょうか。

藤江 確かに性教育というと、「妊娠や出産、性器、生殖のこと」というイメージを持たれやすいですよね。包括的性教育というのは、様々な性があることを前提に、心や体、命、人権、自己肯定感や幸福、ウェルビーイングについてまで幅広く学んでいくというものです。ユネスコが中心となって策定した、国際セクシュアリティ教育ガイダンスというものがあり、オランダのように乳幼児期からの市民教育として普及している国もあるんだそうです。

ーー「自分や他者を大事にする」って、具体的にどういうことなのか……難しいですよね。

藤江 一言では言えないですよね。『アイラブみー』では、「くすぐられるのが、じつはキライ?」という回で、周りの人をくすぐって喜ばせるのが大好きな“みー”が、友達の“ひー”をくすぐると、“ひー”は急に怒り出してしまう……というエピソードを描いています。“みー”は自分がくすぐられても嫌じゃないけど、“ひー”はくすぐられるのが嫌なんです。人はそれぞれ嫌なことが違うし、誰でも嫌なことは「嫌だ」と断っていいはずですよね。

嫌なことを断ることは、自分の気持ちを大切にすることでもあります。「他人に気遣うことなく、自分の体のことは自分で決めていい」という自己決定権にもつながっていくんです。各エピソ―ドの題材を通して「自分や他者を大切にすることってどういうことなのか?」を”みー”と一緒に考えています。

ーー東京大学名誉教授で教育哲学者の汐見稔幸先生をはじめ、様々な専門家が監修として番組に関わられているんですよね。

藤江 あらゆる環境におかれた様々な教育をうけている子どもに、「自分を知って自分を大切にする」というエッセンスを伝えたいと思って、教育、保育、こども学、育児、心理学など様々な専門家に監修いただいています。子どもの心理や発達、親子関係、子どもと他人との人間関係などを総合的に学びながら番組を制作しています。

脚本家もスタッフも、子育て中の30〜40代

ーーSpotifyで配信している『おとなのためのアイラブみー』は一転、子ども向けではなくママやパパ世代に届ける内容です。Spotifyでポッドキャストを配信することになった経緯を教えてください。

西ちえこさん(以下、西) 今回、Eテレの教育番組などを制作されているNHKエデュケーショナル、ドキュメンタリーなどを制作されているNHKエンタープライズの両社から、ポッドキャスト番組を一緒にやりませんかとお誘いいただいたんです。

藤江 もともとEテレの『アイラブみー』は10分間の子ども向けアニメーションですから、各話のメッセージやテーマを「5歳の子どもが知っておいたほうがいいこと」「5歳の子どもの視点が変わったり気づきが得られるようなもの」に絞っています。そこに入りきらない要素や視点がたくさんあって、それをポッドキャストで配信できたらと思いました。

西 最初にご提案いただいた時に、「包括的性教育」という言葉自体はまだあまり広く知られていませんが、とてもホットなトピックだと思ったんですね。今の保護者は、子どもが小さな頃から性教育をどうしていくか考えられているでしょうし、そういうテーマにNHKさんが取り組まれるというのは画期的だと思いました。社内でも検討した上で、「これはぜひやりましょう」とわりとすぐ決めました。

ⓒNHK

ーーテレビとポッドキャストの違いはどういうところでしょうか?

西 テレビでは『アイラブみー』のアニメーションが放送されています。一方、ポッドキャストでは、テレビアニメ『アイラブみー』を音声のみで楽しむプログラム、そして、プロデューサーの藤江さんと後輩のディレクター岡崎文さんが専門家に話を聞きながらディスカッションするプログラムの2種類があります。実際に子育て中の藤江さんと岡崎さんが、性教育や自己肯定感、子育ての悩みについて専門家に直接いろいろ聞いていくので、すごくわかりやすいんですよ。

藤江 Eテレは子ども向けですが、各回のテーマについて、大人だって答えがでていなかったり、モヤモヤしていることもあると思うんです。「なんでパンツをはいているんだろう」の回では、私自身も今までパンツをはく理由を考えたことがなかったなあと思って、いろいろ考えを巡らせました。こうしたテレビでは描ききれなかった部分をポッドキャストで伝えています。

ーー確かに大人でも、パンツをはく理由を考えるチャンスはなかなかなさそうです。

藤江 それから子どもの視点と、大人や親の視点は違いますよね。ポッドキャストでは、親の側の「結局、子どもにいつ伝えたらいいのか」「どのように話したらいいのか」などの疑問を、専門家に率直にぶつけています。じつは脚本家も他のスタッフも、ほとんどが子育て中の30〜40代で、みんな自分のこととして実感があるんです。

ーー藤江さんや岡崎さん以外のスタッフさんも子育て中の方が多いんですね! 

西 じつは私も、藤江さんや岡崎さんと同じく子育て中で、みんな同じく4~5歳の子どもがいるんです。企画のお話をいただいて我が子に番組を見せたのですが、普段はあまりテレビをじっと集中して見るタイプではないのに、夢中で見ていたんですね。そこから子どもとの会話も生まれて、これはすごいと思いました。

自分を大切にする教育

ーー藤江さんと岡崎さんが番組の中で「自己肯定感」について話されているのが印象的でした。

藤江 お互いに自己肯定感が高くないという話をしましたね。以前から日本の子どもは自己肯定感や精神的幸福度が低いという調査結果があり、それが成長してからの精神疾患や自死にも影響しているのではないかといわれています。だからこそ未就学児のお子さんと、その保護者の方にぜひ「自分や他者を大切にする」ということについて関心を持っていただけたらと思ったんです。

ーー「日本の教育では自分自身をよく知る、向き合う、大切にするということが少ない」という話題も出ていて、うなずきました。

藤江 私だけでなく、他のスタッフの経験でもそうなんです。日本では、たとえば道徳の授業などでも、他人に迷惑をかけないとか、思いやりを示すということは叩き込まれますが、自分を大切にすることはほとんど教えられてこなかったと思うんです。だから人の気持ちを察したり、他人に配慮したりっていうことには長けているけれども、自分を大切にするにはどうしたらいいかわからない人も多いのではないかと。

ーー日本では「控えめ」であることが美徳だと考えられてきたからかもしれません。

藤江 でも、自分の本当の気持ちをないがしろにして他人に合わせてばかりいたら、精神的にもつらくなってきますよね。汐見先生は「自分にフォーカスして、自分自身を知ろうとする。そのうえで自分を大切にしていく。他者との関係のなかでうまく自分の意思を伝える」「その上で自分と同じように他者を認めて大切にしていくことが、今後はさらに重要になっていく」とおっしゃっていて、納得でした。

ーー公教育においても昔に比べて「生きる力」や「自主性」を重んじるようになってきているものの、今のところ変化はそう大きくなく、やはり包括的性教育について学ぶ機会は少ないのが現実です。家庭でもサポートしていく必要がありそうです。

(取材・構成=大西まお)

『アイラブみー』

番組HPはこちら

▼放送予定
11月15日(火)8:35~8:45(NHK・Eテレ)
「はやいのがイチバン!…じゃないの?」
(再放送:17日7:20~7:30)

着替え、洗顔、かけっこ…最近のみーはとにかく「いちばんはやい」ことにこだわる。しかし、ひーとしーは、どうやら「いちばんはやい」ことに興味がないようで…。

11月22日(火)8:35~8:45(NHK・Eテレ)
「みんなのかぞくはどんなかぞく?」
(再放送:24日7:20~7:30)

パパと二人ぐらしのみー。大家族、ママがふたりいる家族、犬とふたりぐらしの家族…様々な家族と出逢い、それぞれの良さを発見していく。

『おとなのためのアイラブみー』

https://spotify.link/NHK_iloveme
毎週火曜日18時配信


▼配信予定
・11月8日(火)
【聴くアニメ・アイラブみー(3)】「くすぐられるのが、じつはキライ?」+いっしょに考えてみよう_北山ひと美さん
ゲスト:和光小学校・和光幼稚園 北山ひと美(性教育)

・11月15日(火)
トークテーマ「くすぐられるの、好きですか?って聞いたことありますか?」
ゲスト:和光小学校・和光幼稚園 北山ひと美(性教育)

・11月22日
トークテーマ「壁ドンって、ときめく?ドン引き?」
ゲスト:和光小学校・和光幼稚園 北山ひと美(性教育)

  • 本記事は公開時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください。

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