【医師監修】赤ちゃんの「利き手」の話〜遺伝は関係するの? 見分け方は?
赤ちゃんが「右利き」か「左利き」かは、生まれた直後にはわかりません。利き手は「いつ」「どうやって」わかるようになるのでしょうか。右利きと左利きの基本的な知識、いつごろ利き手がわかるのか、その見分け方や矯正は必要かどうかなどについてお話しします。
「利き手」の基礎知識
赤ちゃんの利き手について考える前に、まずは、利き手全般に関する知識を知っておきましょう。
日本人の利き手は左右どちらが多い?
日本人に限りませんが、人類の約90%は右利きで、残りの約10%が左利きと言われることが多いようです[*1, 2] 。
なお、過去の遺跡に描かれた岩絵を調べた結果、約3万5000~1万年前の後期旧石器時代以降には、すでに左利きの人よりも右利きの人が多かったことがわかっています[*3] 。
左利きがつねに少数派ということは変わりありませんが、その割合は0.2~約30%までばらつくとする説や、漢字を使う文化圏では左利きは1%以下と少ない傾向がみられるという説もあります[*1] 。
日本人の利き手については、右利きは約88~90%、左利きは約10~12%[*1]と言われており、やはり右利きの人が多数派です。
利き手は遺伝するの?
一卵性双生児の方が二卵性双生児よりも同じ利き手になりやすいことがわかっており、遺伝により利き手が決まる割合は25%程度と言われています[*4, 5] 。
赤ちゃんの利き手はいつわかる?
赤ちゃんの利き手がわかるようになるのは、何歳ごろからなのでしょうか? 見分け方とともに説明します。
赤ちゃんの発育過程
利き手についての有名な研究としては、アメリカの著名な小児科医で心理学者のゲゼルがエームスとともに1947年に発表したものが知られています。この研究では、赤ちゃんの利き手は次のように発達していくとしています[*6] 。
第1段階(2歳以前)
両利きと、右利きまたは左利きが繰り返し見られる。
第2段階(2歳半~3歳半)
両利きが目立つようになる。
第3段階(4~6歳)
右利きまたは左利きが見られるようになる。右利きが多いが、一時的に左利きや両利きになることもあって不安定な時期。
第4段階(8歳以降)
右利きまたは左利きが定まる。
ただし、その後の研究ではこの4段階の通りに発達するとは限らないとも言われています。
「胎児の頃」によくしゃぶっていた手が利き手
なお、胎児の頃、よくしゃぶっていた手が利き手になるという説もあります。
超音波検査機器を使って15週から満期までの胎児を観察したところ、右手の親指を吸うことが非常に多かったことがわかっています。そのため、利き手と胎児がしゃぶる手指とは関係があるのではないかと言われています。
利き手がわかる目安は「4歳ごろ以降」
ここまでで説明した利き手の発達段階を考えると、利き手がだいたいわかってくるのは「4~6歳ごろ以降」のようです。
そのため4歳ごろになったら、よく使う手を見ることで右利きか左利きかがわかるようになってくるかもしれません。よりはっきりと右利きか左利きかがわかるのは、「8歳以降」のようです。
様々な報告から、1歳くらいでも利き手となる手をよく使う様子は見られるようです。ただし、この時期は利き手がはっきりと定まっているわけではないので、よく使う手が入れ替わったり両手を使うこともよくあります。
小学生のうちに変わることもある
なお、小学生以上の学童期も右利きが多数なことは変わらないものの、その割合が10%ほど下がる時期があり、小学6年生になってようやく90%以上が右利きに落ち着いていたと報告する研究もあります[*7] 。
子供のうちはいったん左利き/右利きなのかな?と思っても、そこから変わることもよくあると思っていたほうがよいのかもしれません。
利き手がなかなか定まらない子に試したいこと
なお、利き手が定まるのには個人差がありますが、定まりにくい子の場合、「左右の区別」や「身体の右側/左側という概念」が定着しづらかったり、「ボディイメージ(自分の身体についてのイメージ)」の獲得しづらさに繋がることがあります。
利き手が定まらない時期でも、ものを右手に手渡しながら「右」と伝えたり、右側にあるものにあえて左手を持っていくなど、体の正中(真ん中)を超えて反対側を意識させてあげることも大切です。
利き手の見分け方はあるの?
利き手を判断するには、食事やお絵描きなどの時によく使う手が右手か左手かを見るのが一般的ですが、それ以外にも、利き手の見分け方はあるのでしょうか。
両手の指を組んで親指が上になったほうが利き手
簡単なものでは、両手の指を組んだ時に、親指が上に来ている方の手が「右」か「左」かを見る方法があります。「右手の親指が上に来ていたら右利き」の可能性が高く、「左の親指が上に来ていたら左利き」の可能性が高いと言われています[*2]。
より専門的な調べ方では、「フランダース利き手テスト」というものがあります。これは「文字を書くときのペン」や「食事のときのスプーン」「歯ブラシ」「消しゴム」「縫物するときの針」など、10個の項目について、どちらの手で持つかを回答し、その点数によって左利き、両利き、右利きを判定するものです[*8]。
ただ、どちらにしても赤ちゃんに試すのは難しいですし、たまたまやってくれたとしても、小さなころほど利き手は変化しやすいものです。「もしかして、この子の利き手はこちら側なのかな?」と楽しむ程度にしたいですね。
利き手の矯正について
昔は左利きがわかったら右利きに矯正することが珍しくありませんでした。
でも、最近はそうしたほうがよいとはあまり聞きませんね。科学的に考えると利き手の矯正はやった方がよいのでしょうか?
左利きは矯正した方が良いの?
過去の研究では、右側優位の麻痺がある4歳11ヶ月の子の左利きを家族が右利きに矯正しようとしたところ、左右がひっくり返った鏡文字を書くことが増えた、というケースが報告されています[*9] 。
この例に限りませんが、生まれつきや生まれた後の環境によって使いやすいほうの手は決まっているので、それを無理やり矯正しようとしてもうまくいかないばかりか、矯正することによるストレスがかえって子供の成長に悪影響を及ぼすことがあるとも言われています。
そのため、現在では世界的に左利きの矯正は勧められていないようです。
利き手は「個性」
「利き手は個性のひとつ」とも言えます。
近年は、左利きだからと言って無理やり矯正しなければならないという風潮もほとんどなくなり、逆に偉人や有名人にあやかるため「左利きになりたい」という人もいるのだそうです。
また、ハサミやキッチン用品など、左利き用のアイテムも多く販売されているので、こうした製品を上手に使えば生活上の不便はあまり感じずに済むのではないでしょうか。
右利き・左利きのどちらでも、その子の個性としておおらかに受け入れていきたいですね。
まとめ
人類の約90%は右利きで、残りの約10%が左利きと言われています。赤ちゃんの利き手が遺伝の影響を受けるのは25%程度と言われており、大半は環境などの要因で決まります。
利き手の傾向が見えてくるのはだいたい4歳過ぎくらいから。でも、子供のうちは利き手が変わるのも珍しくありません。現在では、左利きの矯正は勧められないことがほとんどです。みんなと違っていると不安になることがあるかもしれませんが、多様性が大切にされる社会を目指す時代でさまざまな便利グッズもあるので、あまり心配しなくてよいのではないでしょうか。
いずれにしても、利き手がどちらになるのかはいわば個性のひとつです。どちらであっても、おおらかな気持ちで見守ってあげましょう。
(文:大崎典子/監修:三木崇弘 先生)
※画像はイメージです
[*1]国立国会図書館レファレンス協同データベース:右利きの人と左利きの人の割合を知りたい。世界および日本における割合もわかるとよい。
[*2]「体のコラム 右利きと左利きの話」日本医師会
[*3]Faurie C, Raymond M.: Handedness frequency over more than ten thousand years. Proc R Soc B Biol Sci 2004; 271: S43– 5
[*4]Wiberg A. et al.: Handedness, language areas and neuropsychiatric diseases: insights from brain imaging and genetics, Brain, Volume 142, Issue 10, October 2019, Pages 2938–2947
[*5]Medland SE et al: Genetic influences on handedness: data from 25,732 Australian and Dutch twin families, Neuropsychologia. 2009 Jan;47(2):330-7.
[*6]Gesell, A., & Ames, L. B. 1947 “The development of handedness“ Journal of Genetic Psychology, 70, 155-175.
[*7]萱村俊哉・坂本吉正:健常児における利き手(Hndedness)に関する発達的研究―とくにcrossed lateralityの臨床的意義について―, 大阪市立大学生活科学部紀要 第38巻, 205-211, 1990.
[*8]日本心理学会:フランダース利き手テスト
[*9]林隆ら:「利き手の矯正により鏡像書字が悪化した痙性両麻痺の一例」, 脳と発達1998 年 30 巻 4 号 p. 339-345
※この記事は、マイナビウーマン子育て編集部の企画編集により制作し、医師の監修を経た上で掲載しました
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