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2024年02月23日 08:14 更新

痴漢被害の経験者が語る、被害を受けたときの心情とは―「声をあげると相手が逆上するのでは」「怖くてなにもできなかった」

電車内での痴漢犯罪は混雑のため被害者の逃げ場がないうえ、簡単に声をあげられない場合も多く、そうした状況や被害者の心理を利用した、とても卑劣な犯罪のひとつです。今回は、東京都が実施した「痴漢被害実態把握調査」において、実際に痴漢被害を経験した人へのヒアリング調査結果から、痴漢犯罪の詳しい実態を見ていきます。

都として初の大規模な痴漢被害の実態調査

東京都では、都内の痴漢被害の実態およびその傾向を調査して対策につなげるために、初めての大規模調査となる「痴漢被害実態把握調査」を実施しました。

なお、痴漢の定義としては「迷惑防止条例」で禁止された行為としていて、具体的に以下のような行為を指します。

・痴漢行為(5条1項1号)
衣服その他の身に着ける物の上から又は直接に人の身体に触れること(体を触られた・体を密着された・ボタン等を外された・髪を触られた)

・卑猥な言動(5条1項3号の一部)
社会通念上、性的道義観念に反する下品でみだらな言語又は動作(匂いをかがれた・息を吹きかけられた・カバン等を押し付けられた・AirDrop等で画像を送られた・見せられた)
※盗撮行為は対象外

今回はこの調査の中から、痴漢被害を受けた20人を対象に行われたヒアリング調査の結果をご紹介します。

痴漢行為を確信するまでには少し時間がかかる

まず、被害者が痴漢行為を確信するまでには多少時間がかかるということが見えてきました。

ヒアリングによると、痴漢行為では、被害者が違和感を感じるような接触がまずあり、相手の反応を見ながら接触を強めたり露骨に触るなど、行為をエスカレートさせていくものが多いようです。さらに、そうした状況下で被害者がそれを痴漢行為と気づいて確信するまでには一定の時間を要することがうかがえました。

・何かが自分のお尻にあたっていると気がついた。違和感はあったが、混雑していたため、初めは偶然か、誰かのバッグが当たっているのだと思った。しばらくしても触れられている感覚が続いたため、さりげなく身をよじってかわそうとしたところ、加害者が自分の動きに合わせて身体や手を密着させてきたため、痴漢と確信した。

・加害者は吊革につかまり、自身の真横に立っていた。混雑車内でも不自然に思えるほどの身体の密着があり違和感を覚えた。最初は満員電車なので仕方がないかと思っていたが、その後も徐々に強く密着され、肘や腕で胸を触られたことで、痴漢と判断した。

・混雑時でも違和感を覚えるほど、自身の斜め後ろから密着された。普通の男性なら車内で女性と距離が近くなる時は配慮する素振りがあるはずだが、強く身体を押し付けてくるような感覚があった。次第に相手の指が自分の腰付近を探り始めて、痴漢だと気がついた。

・背後から過度に密着され、衣服越しにお尻あたりを触られ、スカート内に手が入ったとき、痴漢と確信した。

・最初はポケットに手を突っ込んで当たっているだけかと思っていたが、足に触れられている感触が強くなっていき、痴漢と確信した。

痴漢行為は数分から数十分続く可能性

次に、痴漢行為の特徴として、被害者または周囲の人が痴漢行為に気づき、その行為を止めるための何かしらのアクションを起こさないかぎり、行為は数分から数十分は続く可能性があることがうかがえました。たとえば、被害者または加害者自らがその車両から移動もしくは降車しなければ、加害者が痴漢行為をやめない可能性があるということです。また、その間に行為がエスカレートして、より悪質なものになっていくことも想像できる結果でした。

・満員電車の中で、お尻に股間を押し付けてきた。停車の都度、乗客が増えて、ほぼ動けない状態にあり、痴漢行為は降りる駅まで2~3駅にわたって継続された。

・加害者が肘で胸に触る行為は、次第にエスカレートし、かなり強い力で押すようになった。4駅分くらいは痴漢行為が続いた。

・衣服ごしに手で身体を触る行為は、一駅程度、5分くらい続いたと思う。

・身をよじっても止まらない痴漢行為は、1駅分(2~3分)の間続いた。

・痴漢行為は2~3駅(10分弱)続いた。その間、お尻を触る手の力が徐々に強くなっていった。

・密着→衣服越しに触わる→スカート内に手を入れ肌を直に触わる、とエスカレートし、痴漢行為は5分ほど続いた。

怖さや戸惑い、気兼ねなどで「我慢してしまった」

痴漢被害にあったとき、4割以上の人が加害者になにもできなかった、あるいは我慢したと回答しています(参照:<痴漢被害の実態>「衣服ごしに体を触られた」が6割以上、被害者の4割以上が「我慢した・なにもできなかった」)。そこで彼らに、そのときの心情についてヒアリングした結果を見てみます。

まず、「怖くて動けなかった」という状況がわかります。また、「迷い・戸惑い」があったり、「周囲への気兼ね」を感じてしまった様子もうかがえます。こうした心理状態から、声をあげられずに我慢してしまったのでしょう。

恐怖で声が出せない点については、声を出すなどの行動をしなくても痴漢被害を伝える方法の確立・周知が求められます。迷いや気兼ねがハードルになっている点については、被害者がそのような気持ちにならなくて済むよう、社会の意識改革が必要だと思われます。

怖くて動けなかった
・突然の出来事でどうしてよいかわからなかった。
・助けを求めてさらに何か起こったらと怖くなり、何もできなかった。
・降車駅まで近いこともあり、過剰な反応をせずにやり過ごそうとした。
・声をあげると相手が逆上するのではないかと思い、恐怖のためできなかった。
・ 加害者の手を掴む、振り返って加害者の顔を見るなどの勇気は持てなかった。

迷い・戸惑いがあった
・目立つのも嫌なので、何もできなかった。
・周囲が痴漢と認識してない中で、「この人痴漢です」と言うことに迷った。
・自分の勘違いだったらどうしようと思い、周囲に助けを求めてよいか迷った。

周囲への気兼ね
・声をあげてしまうと、周囲を巻き込み、迷惑をかけるのではないかと気が引けた。
・周囲の人へ目線でアピールするのも難しいと感じる。
・痴漢行為には抵抗したいが、周囲を巻き込みたくなかったため、声を掛けられなかったのはむしろよかった。

自ら加害者を止めた人は、恐怖よりも怒りや悔しさで行動

一方で、自分で痴漢行為を止めさせた経験を持つ人も15.2%います。具体的な行為としては、「加害者をにらみ、足を踏んだ」や「手首をつかんだ」、「声をあげた」などがありました。

その際の心情としては「恐怖よりも怒りや悔しさなどが上回った」や「周囲の人の助けを期待するのではなく、自衛したい」という思いが強く、そうした行動に出たようです。しかし、その行動後にはあらためて恐怖を感じたり、安堵から感情が高ぶる様子もあり、勇気ある行動の裏で、ぎりぎりの精神状態になっていたこともうかがえました。

加害者をにらみ、足を踏んだ
・最初は嫌悪に感じたが、徐々に怒りが強まった。加害者の顔をにらんでから、相手の靴を踏んだら、加害者は離れていった。痴漢に気がつかない人がほとんどだと思うので、周囲の人の助けをあてにするよりは、自衛が必要と考えている。

加害者の手首をつかんで声をあげた
・スカート内に入ってきた加害者の手をつかもうとしたが、相手の手で払われてしまった。次に声で「やめてください!」と言うと、加害者は車両を移動し、逃げていった。以前の被害時に何もできなかったため、対策を考えており、次は加害者を捕まえてやりたいと思っていた。周囲の助けは期待せず、自分一人で痴漢を止めたいと思った。

・加害者に怒りを感じ、反撃したいと思い、加害者の手首を掴んで「助けて!」と声を発した。周囲の乗客が3~4名(男女)が加害者を確保し、駅に降ろした。女性の乗客は、「こちらに身を寄せなさい」と被害者を守ってくれた。加害者は警察署へ連行された。加害者が駅に降ろされた時、加害者のズボンのチャックが下ろされていたことを目撃し、怖くなった。もしそれを知っていたら、手首を掴む勇気は出なかったと思う。

周囲が気づいて行動してくれたことに感謝

今回の調査では2.8%とわずかですが、周囲の人が気づいて加害者の痴漢行為を止めてくれた経験を持つ人もいます。具体的には、「痴漢だと声をあげてくれた」「加害者と引き離してくれた」「加害者に注意してくれた」などのケースがありました。

このような周囲の第三者の助けは、声をあげる決断をする心理的負担や、加害者が逆上することへの不安や恐怖を被害者が感じずに済むという点で、メリットが大きいといえます。また、被害経験者からは、こうした周囲の人の善意ある行動に安堵し、感謝する声も聞かれました。

声をあげてくれた
・痴漢被害に自身では気づかず、一緒にいた友人(高校生)が気づき、「お尻を触られているよ」と教えてくれた。ドアが開くと加害者は下車して逃げた。友人と一緒にいたことで被害に気がつくこともでき、被害にあった後も友人がいたため、非常に安心できた。


加害者と引き離してくれた
・周囲にいた女性(20代後半くらい)が痴漢被害に気づき、見かねて被害者の肩を叩き、「こっちに来てください」と加害者と引き離してくれた。また、「大丈夫ですか」と声をかけてくれた。自分ではなかなか言い出せず、降車駅まで我慢してやり過ごすしかないと思っていたので、声をかけて助けてくれた時はホッとした。

加害者に注意してくれた
・痴漢行為が見える位置にいた男性(30代前半、がっちりした体格)が痴漢に気づき、加害者に対し「何をやってるんだ」と言ってくれた。次の駅まで我慢しなければならないと思っていたので、非常に嬉しかった。助けてもらって、安堵と感謝の気持ちでいっぱいだった。

まとめ

被害者に負担を強いらずに被害を伝える方法を

今回は、実際に痴漢被害を経験した人たちの声を聞いていきましたが、具体的な状況やそのときの心情などからいかに痴漢犯罪が卑劣な行為であることを伝えるものでした。自ら勇気を持って行動し痴漢行為を止めさせたという人の声もありますが、やはり「なにもできなかった」という人が圧倒的に多いのが事実です。当然ながら、なにもできないことで被害者が責られるいわれはありません。だからこそ、被害者に負担を強いるようなことなく、痴漢行為を止めるための取り組みを社会でもっと進めていくことが大事なのだと感じる調査結果でした。

(マイナビ子育て編集部)

調査概要

■令和5年度 痴漢被害実態把握調査/東京都
被害者調査:
2,219名(電車内2,010名、駅構内209名)
東京都内在住または東京都に通勤・通学等をする16~39歳の方で、通勤・通学に電車を用いる方のうち、電車内、駅構内で痴漢にあったことがある方
第三者調査:
1,354名(電車内1,042名、駅構内312名)
東京都内在住または東京都に通勤・通学等をする16~69歳の方で、通勤・通学に電車を用いる方のうち、電車内、駅構内で痴漢を目撃または痴漢の現場に居合わせたことのある方
調査時期:2023年8月10日~30日

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