お菓子の名前にはなぜ「ぱぴぷぺぽ」が多い?|川原繁人さんインタビュー<第二回>
お菓子やイタリア料理……法則性をよく理解していなくても、なんとなくそれっぽい言葉を聞くと「〜〜みたい!」と連想できることがあります。これはどういうことなのでしょうか?『なぜ、おかしの名前はパピプペポが多いのか? 言語学者、小学生の質問に本気で答える』の著者で言語学者の川原繁人先生にうかがいました。
お菓子の名前に「ぱぴぷぺぽ」が多いのはなぜ?
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――新たに生まれる一方、失われる言葉や音もあるそうですね。たとえば昔の「ぱぴぷぺぽ」という音は、江戸時代以前はほとんど使われていなかったそうですが、今ではあちこちで使われています。これはどういう現象なのでしょうか?
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川原 すごく簡略化した言い方になってしまいますが、日本語はかつて「ぱぴぷぺぽ」という音を失って、それ以来「ぱぴぷぺぽ」の音を使わなかったんです。「っ」や「ん」のあとやオノマトペでは残りましたが。ですが、明治時代になって一気に外国のものが輸入されるようになって、「ぱぴぷぺぽ」の音を含む単語が日本に入ってきました。パン、ペン、ポテトなどがそうですね。だから「ぱぴぷぺぽ」の音を復活させて使わないわけにはいかなかった。
そういうすごく現実的な事情から、「ぱぴぷぺぽ」が再び使われるようになりました。
独特の響き・意味合いを持つ「ぱぴぷぺぽ」
川原 それから「ぱぴぷぺぽ」には独特の響きや意味があります。外国っぽい響きだし、かわいらしいイメージもある。小学生が発見してくれたように、お菓子の名前にもパピコとかポッキーとか、「ぱ行」が多い。
そういった意味を表すために「ぱぴぷぺぽ」は便利だったから、今のように「ぱぴぷぺぽ」が定着したと思うんです。
人間には、「特定の意味を特定の音で表現したい」という欲求があるんでしょうね。
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――そうやって「ぱぴぷぺぽ」が復活したんですね。
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「っ」+「らりるれろ」で感じる“イタリアっぽさ”
川原 これは本に書いたことではないんですが、「っ」の後に「らりるれろ」が来ることも和語にはないんです。「っ」+「らりるれろ」って実は、発音が非常に難しいんです。
でもイタリア料理のメニューを見ると、ヴァニッリア(バニラアイス)、ソッリオラ(舌びらめ)というように、「っ」+「らりるれろ」がすごくよく出てくる。
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――言われてみれば、イタリア料理には「っ」+「らりるれろ」があります!
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「っ」+「らりるれろ」は他の文脈では使われないからこそ、あえて使うとイタリア感が出るんだと思うんです。
これも、「ぱぴぷぺぽ」と同じように「特定の意味を特定の音で出したい」という欲求にもとづいて使われているんだろうな、と感じています。
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――誰もがそういう特別感を感じながら言葉を使っているんですね!
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(解説:川原繁人、聞き手・文:大崎典子、構成:マイナビ子育て編集部)