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2021年03月23日 20:00 更新

子どもの問題は、大人が勝手につくっている『麹町中校長が教える 子どもが生きる力をつけるために親ができること』Vol.4

「子育ての本当の目的」って、なんだろう? 革新的な教育で注目を集めた、元・千代田区立麹町中学校校長で横浜創英中学・高等学校校長の工藤勇一先生の著書『麹町中校長が教える 子どもが生きる力をつけるために親ができること』(かんき出版)から、家庭でも実践できる子育ての心構えをご紹介します。

親が「よかれと思って」かけた言葉が子どもの問題をつくってしまう

Lazy dummy

学校現場では、小学校に入ったばかりの子どもたちが、座っていられずに立ち歩いてしまったり、授業を受けられなかったりということが問題視されることがあります。
これは「小一プロブレム」などと表現されるので、子どもに問題があるかのように見えますが、大人が「問題だ」と定義するから問題になるのです

私の推測ですが、「小一プロブレム」という言葉は、小学1年生の指導に困っている学校を支援するために、文部科学省によってつくられた言葉のような気がします。
予算と人を学校につけるために、「小一プロブレム」という定義が必要だったのではないでしょうか。

しかし「小一プロブレム」が問題化されたことにより、その後多くの人が苦しむことになったように思います。
小学1年生の担任はきちんと座ることができない子どもを問題ととらえて、きちんと座れる学級にしなくてはいけないというプレッシャーを抱えます。
幼稚園や保育園では、小学校に入学するまでにきちんと座れる子どもたちにしなくてはならないというプレッシャーがかかってくることになります。
当然、座っていられない子どもたちも、問題のある子と認識されるわけですから、辛いでしょう。

しかし、外国などでは幼い子どもはじっとしていられないものだということを前提に、さまざまな形状や質の椅子を用意しているところもあるほどですし、そもそも授業が子どもにとっておもしろいものであれば、立ち歩かないかもしれません。
子どもの問題とされていることは、ほとんどがこのような構図で生まれています。
「不登校」という言葉も同様で、学校に行くことが当たり前ではなく、「大人になるための手段の一つに過ぎない」という認識になれば(もしくはホームスクーリングでもいいという認識になれば)、不登校という概念そのものがなくなるでしょう。

家庭ではとくに、親がよかれと思ってかけた言葉が、子どもの問題をつくっていくということもあります。
問題はどのようにつくられていくのか、その例を見てみましょう。

母親が心配してかけた言葉が原因で食事を吐いてしまった娘

次にご紹介するのは、第2回でも登場した『〈森・黒沢のワークショップで学ぶ〉解決志向ブリーフセラピー』(ほんの森出版)に出てくる例です。
問題がどのようにつくられるかということを説明するために、少し誇張されたつくり話ですので、それを踏まえてお読みください。
Lazy dummy
あるお母さんと娘さんの夕食時の話です。
このお母さんは非常に観察力が高く、普段は1分間に120回噛む娘さんが、その日は90回しか噛まないことを発見します。そこでお母さんは「あれっ、どうしたの。食欲ないの? 具合悪い? そういえばちょっと顔色も青いわね」と言います。そう言われた娘さんは「そういえば私今日ちょっと、食欲がないかも」と思い始めます。
続けざまに、「学校で何か言われた?」と言うお母さんに、「そういえば学校でA子ちゃんに気になることを言われた。うまく答えられなかったときに先生にも嫌味を言われた」と、娘さんはその日を振り返ります。
その後も、お母さんの原因探しは続きます。「あっ、そうか。あと1週間で期末試験だよね。今度、自信ないの? あなたはもう中3で、受験も控えてるのに、今からこれだと本番に困るわね……でも、あまり焦らないほうがいいわね。ご飯なんて食べたくなかったら食べなくてもいいのよ。具合が悪いときは、バッと吐いちゃえば楽になるから」。それを聞いている娘さんは、どんどん不安を高めていきます。
「たしかにそうかも……高校受験どうしよう。吐いちゃえばいいかな」と娘さんが言うと、お母さんが「うん」と答え、娘さんはトイレに駆け込んで今まで食べたものを吐いてしまったのです。

いつもより、物を噛まない娘さんを観察していたこと自体はいいのですが、そのことに「食欲がない」「受験ストレスがある」と意味付けしたことにより、娘さんに意識をさせてしまい、問題をつくり上げてしまいました。

子どもの問題がつくりあげられた問題でないか、考えることも大切

Lazy dummy

紹介した事例は少し極端なたとえですが、ここまででなくても、よかれと思ってかけた言葉が子どもに多大な影響を与えていることはあります
みなさんも日常生活のなかで、お子さんのことを心から心配してねぎらいの言葉をかけることがあるかと思います。
「受験勉強、大変でしょう?」「疲れたでしょう?」……。
もちろん、本当に子どもが疲れているときに、そのような言葉をかけたくなる気持ちはわかるのですが、こういった言葉が子どもの問題をつくり上げてしまいます。
ねぎらう気持ちでかけた言葉が、受験勉強は大変だと刷り込ませたり、そこまで疲れていなくても「たしかに疲れたかもしれない」という意識を与えたりと、子どもの意識を変えてしまうのです。

みなさんがもし、お子さんの問題だと認識している点があるとするならば、それが何かによってつくり上げられた問題ではないか、視野を広げてみる必要があるかもしれません。

まとめ

子どもが気にしていないことは、あえて指摘しない

次回の内容は……?

「ゲームに夢中なときだって、生きる道を見つけるチャンス」についてお届けします。

書籍『麹町中校長が教える 子どもが生きる力をつけるために親ができること』について

麹町中校長が教える 子どもが生きる力をつけるために親ができること
¥ 1,540 (2021/03/23時点)
(2021/03/05 時点)

宿題、定期テスト廃止。固定担任制も撤廃。服装・頭髪検査はおこなわない。公立中学校とは思えない数々の学校改革で注目を集める元・千代田区立麹町中学校校長・工藤勇一先生(現・横浜創英中学・高等学校校長)が、子育ての「当たり前」について考えてみたのが本書です。

多くの親御さんは、日々、さまざまなことに悩みながらお子さんと向き合っていることでしょう。
でも、きっと大丈夫。一番大事なことは何かを考えたら、そんなに気にすることじゃないかもしれません。

本書には、麹町中でなくても実践できる、子育ての心構えが詰め込まれています。
不安を抱えて育児に奮闘する皆さんの心を、ふわっと軽くする1冊です。

(文:工藤 勇一『麹町中校長が教える 子どもが生きる力をつけるために親ができること』(かんき出版)より一部抜粋/加筆修正:マイナビ子育て編集部)

  • 本記事は公開時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください。

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