大好きな彼女と結婚! 一生をかけて幸せにするよ【運命の人とレスになりました。大輔編vol.1】
最高の相性だと思って結婚した男女が、妊娠・出産を経て親になり、少しずつすれ違ってセックスレスに……これって、よくあること? せつない夫婦の胸のうちを描きます。
運命の出会い
大手総合化学メーカーで営業マンとして働く30歳の大輔。一目惚れした美咲に猛アプローチして交際、幸せな結婚生活を手に入れた……そう思っていたけれど。
控えめに言っても、どストライク。
それが、美咲の第一印象だった。
新卒で入った会社で、がむしゃらに営業畑を突っ走って8年。
「向いてないんじゃないか」と悩んだことも多々あるが、試行錯誤を重ねた結果、それなりの好成績も出せるようになり、部下もついてマネジメントを任されるまでになった。
今では天職だと思ってる。
でも20代は少々仕事を頑張りすぎたのかもしれない。彼女ができてもすぐにフラれてさ……
「えっ? 斉藤さんたち、結婚するの⁉」
「はい。あれ? 大輔さん、知りませんでした?」
気づけば同じ大学の友人だけでなく、後輩や部下までもが結婚ラッシュというオチだ。
そろそろ、結婚もいいかもしれないな。
周りに触発されて、そう思った矢先だった。
斉藤さんに美咲を紹介されたのは。
「斉藤さん。上がり? いいなあ。帰ったら誰かがいる生活って」
「え? 大輔さん、彼女欲しいんですか? 仕事一筋なのに?」
「そりゃ、まあ。俺ももう30だし? 考えるよ。あ~! 出会いないかなあ」
「じゃあ……今から私の友だちに会います?」
「はっ? え? ちょ……」
斉藤さんには悪いが、俺は全然乗り気じゃなかった。
というのも、結婚もいいなと思ったのは、営業という仕事柄、話のネタになるとチラッと思っただけ。
それに、そろそろ人肌恋しい……なんて単純な性欲が大半かもしれない。
そんな不純な動機だったからこそ、美咲との出会いは衝撃的だった。
「初めまして。美咲です」
控えめに言っても、どストライク。
素朴で可愛い。
化粧品メーカーに勤めているせいか、肌がすごく綺麗だし、凛とした雰囲気が自立した女性……という感じだ。
誰でもいいとかじゃなくて、結婚するならこの子がいい、俺がこの子を守りたい。
そう強く思い、気づけば声をかけていた……。
「良かったら飲み直しませんか?」
「えっ?」
驚いた顔がまた可愛い。
「……すみません。私、男の人に慣れてなくて。飲み直しじゃなくて行ってみたいカフェバーでもいいですか?」
「もちろん! 俺も、女性とこうして2人でどこかに行くのは3年ぶりですよ」
「そうなんですか! 意外」
「俺の方こそ意外ですよ(笑)」
営業でトークスキルを学んでおいてよかったと、これほど強く思ったことはない。
その夜は、終電ギリギリまで話し込んだ。
話せば話すほど好きになるとはこういうこと。
それから、恋人まで発展するのに時間はかからなかった。
告白も、デートも、ケンカした時の仲直りも、そしてプロポーズも……美咲のお気に入りのカフェバーだった。
俺にとって、最高の女性だ。
体の相性も抜群で、初めてしたときはちょっと驚いた。いつでも受け入れ態勢でいてくれるし、ときにはびっくりするほど積極的なところも可愛い。
俺は酒を飲むと性欲が湧くタチだが、そこも快く受け入れてくれ、お互いに満足しているのがわかった。
でも、この頃の俺は、数年後に美咲とあんなことになるなんて予想だにしなかった……。
妊娠は嬉しい。でもセックスは……できない?
1年後、俺たちは結婚した。
「おかえり~!」
帰宅すると、当たり前に美咲がいる。
それが、営業で疲れた俺の唯一の癒しだった。
毎週日曜日は、なんとなく「一週間頑張ろう!」の意味を込めて、セックスしている。
そんな週末の夜、美咲がこう切り出した。
「ねえ、そろそろ赤ちゃん欲しいな」
「この癒しの存在がもう一人増えるのか? 最高じゃん」
「癒しの存在?」
「なんでもない(笑)」
それからというもの、美咲は以前よりもっと積極的に求めてくるようになった。
この頃の俺は、「幸せ過ぎる~」と、美咲の前で心の声が漏れることもしばしば。
最愛の女性と結婚して愛し合い、仕事も充実している。こんな幸せがあるだろうか。
しばらくすると……
「陽性だ! 大輔、赤ちゃんできたよっ!」
「やったな! 美咲!」
俺たちの赤ちゃんはどんな顔なんだろう?
美咲に似て色白な女の子か?
それとも、俺似の男の子か?
どっちに似てもかまわない、絶対に可愛い子が生まれるだろう。
ただ……
妊娠が判明してから、1ヶ月以上ご無沙汰になっている。
妊娠初期はまだ不安定な状態だと聞いた。
まだ見た目には何の変化もないけれど、美咲のお腹には赤ちゃんがいるのだ。
前みたいにセックスして大丈夫なのか? つい心配になってしまう。
思わず、仕事の休憩中に「妊娠中 セックス」で検索していた。
そのときだった。
「赤ちゃんできたんですよね? 美咲から聞きましたよ!」
「うわああっ!」
部下の斉藤優香だ。
急に話しかけるから……
「スマホ落ちましたよ。ん?」
「あ……これはその……」
やば……。
「妊娠中 セックス」の検索結果が表示されたスマホ画面を、斉藤さんが凝視している。
あ~……穴があったら入りたい……!
でも、そこは既婚者で、すでに一児の母である彼女。
しかも、美咲の親友だ。妊娠判明後に美咲はすぐ彼女に報告していたから、秒で察したようだ。
「医学的には大丈夫みたいですよ。妊娠初期の流産は、ほとんど赤ちゃん側の原因が多いっていうし」
「へえ……」
「でも、妊娠初期っていろいろと不安定だから、もしセックスして流産したら“セックスが原因なんだ”って自分を責める人が多いらしいですよ」
「じゃあ、やめとこ。美咲と赤ちゃんにもしものことがあった時、美咲に自分のこと責めて欲しくないし」
「さすが先輩。もう心はパパですね!」
とは言ってみせたものの……見た目には何の変わりもなく可愛い美咲を見ていると、どうしてもソワソワするのが正直なところなのは、黙っておこう。