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2022年01月20日 11:00 更新

育児もキャリアも自分の時間も大切にして生きる。ラミレス美保さんインタビュー

ジム経営者であり三児の母、そして最近はメディア出演も増えているラミレス美保さん。仕事と育児、そして母親が「自分自身であること」のバランスの取り方について、話を聞きました。

「彼がいてくれると助かる」と実感するようになった

ラミレス美保さん
2021年放送の『24時間テレビ44』(日本テレビ系)内のワンコーナー「超ポジティブ!ラミレス大家族に密着 ダウン症の長男と歩んだ6年間」に、家族でご出演されたことが話題になった、ラミレス美保さん。夫は元横浜DeNAベイスターズ監督のアレックス・ラミレスさんですが、引退後の昨年は家庭内の喧嘩が頻発したそう。

ラミレス美保さん(以下、美保) 主人が監督業を離れ、頻繁に自宅にいるようになった昨年初頭が、一番喧嘩が増えた時期でした。彼は家のことに関して何をしていいのかわからず、そして私はそれまで大変だけどすべて一人で見渡せる状況で家事・育児をルーティン化してやっていたのに、彼がいることで段取りが崩されてしまい……お互いに不満や混乱が募って、そして喧嘩になる。「彼が(仕事で)いないときのほうがよかったな」と考えたこともありました。

ーーそれまでのお互いのルーティンが崩れて、どうしていいかわからなくなってしまうんですね。子どもがいると特に、大人だけの生活とは違ってイレギュラーなこともたくさん起こります。

美保 うちも出産前はまったく喧嘩しませんでした。子どもが生まれると、育児に関する価値観の違いや、忙しいがゆえに余裕がなくなりぶつかりあうものなんでしょうね。

ーーその衝突を、どう乗り越えられたのですか?

美保 コミュニケーションを密に取ることと、お互いに期待をしない、ということですね。たとえば、私がキッチンでバタバタ家事していても、彼はゴミ捨てにも行ってくれなかったので、ある日「私がこんなに忙しいのに、なぜあなたはゴミ捨てもしてくれないの!?」と、爆発しました。
でも彼は何をすればいいのかわからなかっただけで、「どうして欲しいのか、言ってほしい。言ってくれたら僕はやるから」と。思えば、それまでずっと忙しく外で働いていた彼に、いきなり家の中の仕事の一部始終を理解しろというのも無理なことで、伝えていく必要があったんです。そもそも文化的な違いもありますし、そこでようやく私は「言わなきゃ伝わらないことがあるんだ」と気づきました。

ーー今では一緒に育児や家事をできるように?

美保 そうですね。もし私が「もういい、家のことは全部私がやるから、あなたは外で働いて」と突き放してしまっていたら、今のようなスタイルは築けなかった。コミュニケーションの大切さをあらためて痛感しました。今では「やっぱり彼がいてくれると助かる」という方向に身を置くことができました。喧嘩をしながらでも、一緒にチームを作ってやってきて、よかったなと思います。価値観の違いは仕方がないことなので、激しい喧嘩に発展しないように、「察して」ではなく「こうしてほしい」と伝えることは大切にしています。

ーー夫婦のチーム感を実感した瞬間はどんなときでしたか?

美保 ふたり同時に、子どもの成長を共有できた瞬間ですね。正直、昨年の初頭くらいの時期は、彼が「子どもたち、あんなことができるんだね」と言うと、「前からやってたよ。あなたが知らなかっただけでしょ」なんてトゲトゲしくなってしまうこともあったんです。でも、ふたりで育児をするうちに、「ね! あんなことができるんだね!」と同じ目線で共感できるようになっていました。

ダウン症児は習い事を受け入れてもらうのも難しく…

ラミレス美保さん
ーーラミレスさんの家族への愛情深い目線は、美保さんが2020年11月に始めたブログ「ラミちゃんファミリーです by嫁」からも伺えます。美保さんはラミレスさんと結婚後も、基本的には一切、メディア出演はされていませんでしたよね。どうしてブログやテレビ出演をするようになったのでしょうか。

美保 私たちは2015年に結婚しましたが、彼が横浜DeNAベイスターズの監督をしていた頃は、メディア出演へのオファーをもらっても私はご遠慮していました。彼のSNSに映りこむことさえもNGを貫いていたんです。投稿前にチェックして「あ! 私の手が写ってるからこの写真はやめて!」とか(笑)。“野球選手の奥さん”って「きれいなモデルさん」というイメージがありますが、私はそうではないですし、監督業をしている彼のイメージを崩したくなかったのもあります。
それなのにある日突然、彼から「君にブログのオファーが来たよ。ブログやりなよ! 担当者と顔合わせをセッティングしたから!」と言われてびっくり。私は何もわからぬままAmebaの担当スタッフとの会食に行って……まあお酒の勢いで「やっちゃいますか!」という感じで始まりました(笑)。

ーータイミング的にも、ラミレスさんが監督業を離れるところでちょうどよかったのかもしれませんね。

美保 そう思います。また、私たちの長男・ケンジはダウン症です。スペシャルニーズの子どもを育てる立場で、2018年に障がい者と健常者の共に生きる社会を目指す「一般社団法人VAMOS TOGETHER」を設立したこともあり、スペシャルニーズの子どもがもっとハッピーに生きられるように発信していくチャンスなのかな、と感じたんです。

ーーテレビ出演のきっかけは?

美保 それもブログでしたね。ケンジのことをはじめ、子育てについてたくさん綴っていましたから、そこから「ラミレス一家について取り上げさせてほしい」と依頼されて、受けるようになりました。最近はブログから話題を拾ってくださるテレビスタッフさんも多いですね。「この記事の話をもう少し深堀りさせてください」とかオファーが来ることもあります。

ーー長男のケンジくんのダウン症については、もっと早い時期に公表されていましたよね。

美保 2016年のことでした。彼がある日「メディアに公表する」と言い出して、私は「公表したらどうなってしまうんだろう」と戸惑いましたが、彼のポジティブマインドに引っ張られまして。公表後には同じくダウン症の子どもを持つ保護者の方たちから「私たちは隠しているんです。公表してくださり、励みになりました」といったメッセージをいただき、公表して良かったと思えました。
ラミレス美保さん
ーーそして「VAMOS TOGETHER」を設立。「VAMOS〜」ではどんな活動をしているのですか。

美保 スペシャルニーズの子どもは習い事も難しいんですよね。たとえばケンジはプールが大好きで、彼と次男のジュリを水泳教室に通わせるべくスクールに行ったんです。すると、空きがあるのにケンジはダメで、ジュリだけが入れる、と。それは子どもたちにとってフェアじゃないので、ふたりとも水泳教室には通わないことにしたんです。一方で、ダウン症の子どもの集まりがあるときは、下の子たちを連れていけないんですよ。そういったことが現実に多くあって。
そこで「VAMOS〜」を立ち上げて、健常者もスペシャルニーズも垣根なく参加できるスポーツイベントなどを開催しています。この活動を通じて、子どものうちから共存していく社会を目指したいと思っています。

ーースペシャルニーズのお子さんを育てる中で、社会側の違和感は他にもありますか?

美保 少なからずありますね。子どもたちが冬休みの間、私も夫も仕事が立て込んでしまい、急遽、1週間だけウインタースクールに入れることにしたのですが、受付時に「長男がダウン症だけど大丈夫ですか?」と聞くと「彼だけ事前に面談が必要」とのことでした。
結果的にはOKだったのですが、「2歳の長女・リアは面談しなくていいのに、6歳のケンジは必要なの?」と不思議に思いました。親からしたら、ケンジはすでにスクールに通っていて健常者のなかでサバイブしていますし。とはいえ、突拍子もないことをする可能性があるのはケンジだということもわかるので……難しいですが、そんなことも愚痴にならないように発信していきたいですね。

ーー大変だったことを綴っていても愚痴ではないというのが、美保さんのブログの特長ですよね。

美保 「大変だった!」で終わらず、「でも、体験できてよかったね」と、必ずポジティブに変換して明日に繋げることを意識しています。

「仕事と母親、どちらを優先してほしいの?」

ラミレス美保さん
ーー美保さんは3人のお子さんを育てながらキャリアウーマンでもあります。どんな時間の使い方を意識していますか?

美保 今は「CrossFit MotomachiBay」というジムを経営していますが、家族>仕事という優先順位だけは揺るがないようにしています。結婚前はアパレルに勤めていましたが、超仕事人間。仕事にのめり込んでバンバン残業するタイプでした。自分がそういうタイプだとわかっているので、出産後に仕事を始めるとき、「16時以降はパソコンを開かない」と決めたんです。
仕事の時間が限られているので、自分だけで何もかもやるわけにはいかない。経営者ではありますが、自分の決定がなければ何も回らないという状況に陥らせないように、社員にはある程度の裁量を持って仕事をしてもらうようにしています。本当は仕事も好きだけれど、「私がもっと仕事しなきゃ!」という欲求を捨てたんです。同時に、任せた仕事には口を挟まない。「人にお願いすること」を大事にするようになりました。

ーーただ、「ちゃんと仕事をしたい」「人に迷惑をかけたくない」といった葛藤も生まれますし、その自制がなかなか難しいものですよね。

美保 わかります。でも線を引かないと、家のことも中途半端になるし、思うように仕事が進まず、イライラして子どもに当たったりしてしまうから。みんながハッピーでいるために、私は子どもと家族を第一優先にしています。

ーー美保さんがライフワークバランスを意識するきっかけがあったのでしょうか。

美保 ジムのオープンと第三子の出産が、ほぼ同時期だったんですよね。私は昔からクロスフィットをやっていて、次男のジュリが生まれた頃、主人から「そんなにクロスフィットが好きなら自分でやろうよ」と言われました。私はそのとき、「できたらいいよね」と返しつつも、「絶対に実現するもんじゃないよな」と思っていたのですが……。
それから数年が経ち、長女リアの出産を数ヶ月後に控えた頃、主人がいきなり「ジムの場所を決めて、契約してきたから。オープンは11月」と言うんですよ。出産予定日は9月ですよ? 一体なんなの! と驚いたけれど、でも「もう走り出してしまったし、3人目だし、なんとかなるか」と腹を括りました。

ーーラミレスさんの突進力がすごいですね(苦笑)。

美保 彼は目についたらすぐに突き進むタイプなんです。そこに不満がありつつも、彼がそういうタイプだからこそ、私自身が前に進めています。ブログもジムも、「子どもがいるから」とセーブしていた部分を彼が取っ払ってくれているんです。でも、やっぱり衝突もありましたよ。

ーーたとえば?

美保 ジムのオープンにはそういう背景があるので、スタート時から「自分で全部をやろうとするのはよそう」と私は思っていました。「もっと自分がやればできるのに」「もっとこうしたいのに」という欲求を一旦置き、自分の仕事に期待しないようして、人にお願いすることを覚えたんです。短い時間で全集中して仕事に取り組み、スパッと切り上げるようにしています。
一方で、彼もジム経営に携わるメンバーの一人なので、「ビジネスとしてこうしたほうがいい」と家でもいろいろ指摘するんですね。あまりのうるささに限界が来て、「お願いだからやめて。あなたは私に、どうなってほしいの?」と聞いたんです。
「私のできる範囲は決まっているし、誰かのサポートが必要なの。あなたがそうやって言うことによってストレスを感じる。あなたは私にビジネスを一番にやってほしいの? それとも子どもの母親であることを第一にやってほしいの? どうしたい?」って。
彼は「子どもの母親」だと言い、私は「じゃあ、もううるさく言わないでね」と。その日から一切、私の仕事について彼は口を挟まなくなりました。

育児してても「自分自身でいられる時間を作ることが大切」

ラミレス美保さん
ーーそのような経緯も含めて、今の家族のバランスに至っているのですね。そうはいっても、美保さんは毎日フル回転ですよね。

美保 でもワーキングマザーは皆さんフル回転。どこか手を抜いてもいいと思います。たとえば食事について、うちは「白米と肉or魚があればよし!」としています。ケンジが野菜を全然食べない偏食で、小さい頃は私も悩んでいたんですね。でもかかりつけの医師に相談したら「野菜から摂れる栄養は肉や魚からも摂れるから。力になる、白米と肉・魚類を食べれば大丈夫」とアドバイスをもらい、「野菜を摂らなきゃ!」という焦りから解放されました。今はブロッコリーやトマトをパパっと添える程度でヨシとしています。

ーー子どもの偏食に心を砕く親は多いです。その医師のアドバイスはありがたいですね。

美保 あとは、食事作りは毎日のことですが、買い物に行く頻度は極力減らしています。肉は月2~3回コストコで調達して冷凍し、野菜は定期便。旬のものは美味しいですし、自分で買わない野菜も入っているので、「わさび菜ってどうすれば……?」なんてチャレンジしたりするのもたまには楽しい(笑)。
子どもたちのお弁当は肉、米、ブロッコリー、卵焼き! の簡単なラインナップ。省ける時間と手間は省いていかないとね!

ーー美保さんがブログを書き始めた当初、「自分自身でいられる時間を作ることが大切」と綴った記事が印象的でした。時短家事も、時間の余裕を持つための一環といえますね。

美保 まず自分が幸せにならないと、子どもを幸せにしてあげられないと思っているんです。母親って、犠牲になりがちですよね。子どものために睡眠時間を削ったり、家族のために家事を頑張ったりで、自由に使える時間が全然持てない女性もいると思います。私はそれをやると自分の心身が持たなくなるとわかっているので、自分と向き合うためのクロスフィットの時間だけは譲れません。ジムにも託児スペースを設けて、小さなお子さんのいるママでも、自分自身と向き合う大切な一時間を確保してもらうようにしています。

ーーところで、ラミレスさんは美保さんのブログを読んでいらっしゃいますか?

美保 日本語が読めないので、読んでいません(笑)。だからこそいろいろ書けちゃいますが、そもそも「何を書いたの?」と聞かれたこともありません。最初から「自由に書きなよ」というスタンスです。裸の写真をアップしても怒られないと思いますし(笑)、信頼関係があるからでしょうか、自由に発信しています。スペシャルニーズの子どもたちと家族がもっとハッピーに生きられるように、これからも発信を続けていきたいですね。

(取材・構成:有山千春、撮影:尾藤能暢、取材協力:株式会社サイバーエージェント)

  • 本記事は公開時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください。

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