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2024年01月11日 06:15 更新

綺麗な月夜におばあさんが手に入れた不思議なめがね、そしてかわいい訪問者の正体は?童話「月夜とめがね」

親子で楽しみたい物語をご紹介している本連載「親子のためのものがたり」。今回は小川未明の「月夜とめがね」を取り上げます。おばあさんが主人公の、ちょっと不思議で美しい物語です。短いお話で登場人物も少ないので、ストーリーを覚えやすいでしょう。静かな夜にゆっくりとした気持ちでお話ししてほしい作品。

「月夜とめがね」を子どもに聞かせよう!

「月夜とめがね」の作者、小川未明は明治から昭和にかけて活躍した小説家・童話作家です。79歳で没するまで1200点以上の童話を生み出しました。没後には小川未明文学賞などが創設されるなど、日本児童文学の父とも呼ばれています。さて、「月夜とめがね」はどんなお話なのでしょうか。

「月夜とめがね」のあらすじ

「月夜とめがね」は月が綺麗なある夜、一人暮らしのおばあさんに起こる不思議なお話です。情景描写が美しく、大人が読んでも味わい深いでしょう。親子で一緒に楽しめる素敵な作品です。

ある夜、おばあさんの元にめがね売りが訪ねてくる

月夜と眼鏡

緑が茂る季節、穏やかな月夜のことです。静かな町の外れに一人のおばあさんが住んでいました。おばあさんは窓の下で針仕事をしていますが、目がかすんでなかなか針の穴に糸が通せません。おばあさんはこうして仕事をしながら、自分の若い時のことや、遠い親戚のこと、離れて暮らしている孫娘のことなどを考えていました。

時計の音がするばかりで、辺りはしんと静まっています。おばあさんはぼんやりと座っていました。と、その時、外の戸を叩く音がしました。耳の遠くなったおばあさんは、こんな時間に誰も訪ねて来るはずがない、これは風の音だろうと思いました。

すると窓の下に小さな足音がしました。「おばあさん、窓を開けてください」と、誰かが言うのです。おばあさんが不思議に思いながら窓の戸を開けると、そこには背のあまり高くない男が立って、上を向いていました。

男は黒いめがねをかけ、ひげの生えた男でした。「どなたですか」と、おばあさんは言いました。

「私はめがね売りです。今夜は月明かりがあるのでこうして売って歩いています」とその男は答えます。ちょうどおばあさんは目が霞んで針仕事に困っていたので、「よく見える眼鏡はありますか」と尋ねました。

男は手にしていた箱の中から、べっ甲ぶちの大きな眼鏡を取り出して、窓から顔を出したおばあさんの手に渡しました。「これなら、何でもよく見えますよ」男の足下には、色々な草花が月の光を受けて咲き、香っていました。

おばあさんがそのめがねをかけてみると、目ざまし時計の数字や、暦の字などがはっきり見えます。おばあさんは大喜びでそのめがねを買いました。

\ココがポイント/
✅ある月が綺麗な晩に目の悪いおばあさんが針仕事をしていた
✅めがね売りがやってきて、おばあさんは「何でもよく見えるめがね」を買った

今度は少女がおばあさんの家にやってきて…

おばあさんは窓を閉めて、また元の所に座りました。早速めがねをかけると、今度は楽々と針の穴に糸を通すことができました。

しばらくするとおばあさんは、もう遅いから休もうと思い、めがねを外して棚の上にのせ、仕事を片付けはじめたのですが、その時、また外の戸をトントンと叩く音がしました。不思議に思っておばあさんが時計を見ると、時刻はだいぶ更けています。「こんなに遅くなってから……」と言いながらおばあさんは戸を開けました。

するとそこには十二、三歳の美しい女の子が立っています。

「どこの子か知らないが、どうしてこんな遅くに訪ねて来たの?」とおばあさん。「私は町の香水製造場で毎日、白ばらで作った香水をびんに詰めています。仕事から帰る途中、石につまずいて指を怪我してしまいました。いたくて、いたくて、血もとまりません。私はおばあさんが親切でやさしいお方だと知っています。それで戸を叩いたのです」と髪の長い女の子とは答えます。少女の体には香水の匂いがしみているのか、いい香りがただよっています。

おばあさんが「あなたは、私を知っているの」と尋ねると、「私はこの家の前をいつも通っていて、おばあさんが窓の下で針仕事をなさっているのを見ていました」と、少女は答えました。

おばあさんは「どれ、怪我をした指を見せなさい、薬をつけてあげよう」と言って、少女をランプの近くまで連れてきました。少女のまっ白な指から赤い血が流れています。しかし、おばあさんは目が霞んで、どこから血が出るのかよくわかりません。

そこでおばあさんはめがねを棚からとってかけました。しかし少女の方を見た時おばあさんはびっくりしてしまいます。それは女の子ではなく綺麗な胡蝶だったからです。

おばあさんは、こんな穏やかな月夜の晩にはよく胡蝶が人間に化けて、夜遅くまで起きている家を尋ねることがあるものだという話を思いだしました。その胡蝶は足を痛めていたのです。

「いい子だから、こちらへおいで」とおばあさんは優しく言うと、戸口から出て裏の花園の方へと回りました。少女は黙っておばあさんの後についてきます。

花園には、色々な花が今を盛りと咲いていました。昼間は蝶や蜜蜂が集まって賑やかですが、今はとても静かです。月の青白い光が流れ、垣根には白い野ばらが雪のように咲いています。

ふいに「娘はどこへ行った?」と、おばあさんは振り向きました。後からついてきた少女はいつの間にか、いなくなっていました。「みんなお休み、どれ私も寝よう」とおばあさんは言って、家の中へ入って行きました。

ほんとうに、いい月夜でした。

(おわり)

\ココがポイント/
✅真夜中に美しい少女が怪我をしたので助けを求めにやってきた
✅薬を塗ってあげようと眼鏡をかけて少女を見ると、少女の正体は胡蝶だった
✅庭の花園に少女を連れていくと、いつのまにか少女はいなくなっていた

子どもと「月夜とめがね」を楽しむには?

ちょっと不思議で美しいお話だった「月夜とめがね」。めがね売りの男性の正体も気になりますね。一人で暮らすおばあさんに訪れた素敵な出会いが描かれています。また、「ほんとうに、いい月夜でした。」という終わりが余韻たっぷりですね。ぜひ、味わいを込めて言ってあげるとよいでしょう。お話の後でお子さんと一緒に月を見るのも楽しそうです。

お子さんとの語らいでは、こんな質問をしてみてはいかがしょうか。
・お月様は好き?
・どうしてめがね売りはおばあさんのところにやってきたのだと思う?
・胡蝶はどうしておばあさんのことをよく知っていたのかな?

まとめ

一人でさみしく暮らしているおばあさんに訪れた不思議な出来事。美しい月夜には何か素敵なことが起きるのではないかと思わせてくれるお話ですね。何かと忙しない世の中ですが、ときにはゆっくり月を見上げてみると、穏やかな気持ちになるものです。お子さんとぜひ、月を眺めながらこのお話を楽しんでみてください。

(文:千羽智美)

※画像はイメージです

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