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2023年11月04日 08:40 更新

芥川龍之介が書いた童話「仙人」のあっと驚く結末!自分の夢を見つけていく子どもに話してあげたい物語

親子で楽しみたい物語をご紹介している本連載「親子のためのものがたり」。今回は芥川龍之介の「仙人」を取り上げます。文豪が書いたちょっと不思議なお話です。結末に大どんでん返しが用意されているので子どもも驚くことでしょう。隠れた名作なのでお子さんとぜ楽しんでくださいね。

「仙人」を子どもに聞かせよう!

「仙人」は芥川龍之介の短編の中でも童話文学に分類される作品の1つです。性格に特徴のある人物が出てくるので子どもでも面白くお話が聞けるでしょう。ラストにはびっくりする展開が待っています。お話の舞台は江戸時代。仙人になりたいという男が田舎から大阪にやってきたのですが……。

「仙人」のあらすじ

仙人

仙人になりたい権助は騙されてタダ働きをする

昔、大阪の町へ奉公へ来た権助(ごんすけ)という男がいました。権助は今でいうお仕事を紹介する場所、口入れ屋(くちいれや)を訪れて、こう言いました。

「番頭さん。私は仙人になりたいのです。そういうところへ住みこませてください」

仙人の口入れなどしたことがない番頭は断ろうとしますが、権助も引きません。仕方なく一時逃れで番頭は権助の頼みを引き受けます。しかし、どこへ奉公させたら仙人になる修業ができるか、もとよりそんなことなどはわかるはずがありません。

そこで番頭は近所に住む医者に権助のことを相談しました。「仙人になる修行をするにはどこに奉公するのが近道なのでしょう?」

医者は困ってしばらくぼんやり腕組みをしながら庭の松ばかり眺めていましたが、医者の女房がすぐに横から口を出しました。古狐というあだ名のある狡猾な女でした。

「それはうちへおよこしよ。うちにいれば二、三年中には、きっと仙人にして見せるから」

それを聞いた番頭は大喜びで帰りました。医者は苦い顔をしたまま見送っていましたが、やがて女房に向かって「お前は何というバカなことを言うのだ? もしその田舎者が何年いても、仙術を教えてくれぬなぞと、不平でも言い出したら、どうする気だ?」と忌々しそうに言いました。

しかし女房は鼻の先でふふんと笑いながら、「まあ、あなたは黙っていらっしゃい。あなたのようにバカ正直では、このせち辛い世の中に、ごはんを食べることもできはしません」と医者をやりこめるのです。

さて、次の日には約束どおり権助が番頭と一緒にやって来ました。医者からどうして仙人になりたいと思うようになったのかを尋ねられた権助は、「あの大阪のお城を見たら、太閤様のように偉い人でも、いつかは死んでしまう。人間というものは儚いものだと思ったのです」と答えました。

狡猾な女房はすかさず「では仙人になれさえすれば、どんな仕事でもするだろうね?」と口をはさみます。「はい。仙人になれさえすれば、どんな仕事でもいたします」と権助。すると女房は二十年間奉公したら、仙人になる術を教えてやると言いました。「その代り向う二十年の間は、一文もお給金はやらないからね」

それから権助は二十年間、その医者の家に使われていました。

\ココがポイント/
✅田舎から大阪にやってきた権助は仙人になれる仕事を探している
✅権助を引き受けたのは医者の家で、妻は狡猾な人間だった
✅医者の妻は二十年奉公すれば仙人になる方法を教えると権助をだます
✅権助は二十年間タダ働きすることになる

二十年後、権助は見事に仙人になる

仙人

とうとう二十年たちました。権助は世話になったお礼を述べたあと、「お約束のとおり、不老不死になる仙人の術を教えてもらいたいと思うのですが」と言います。医者は困りました。お給料を与えずに二十年間も使ったあとで、いまさら仙術は知らないとは言えません。仕方なく「仙人になる術を知っているのは、おれの女房の方だから、女房に教えてもらうがいい」と言ってそっぽを向いてしまいました。

しかし女房は平気な顔で「では仙術を教えてやるから、どんなむずかしいことでも私の言うとおりにするのだよ」と言って、権助にこう言いつけるのです。

「それではあの庭の松にお登り」


女房は権助に出来そうもない、むずかしいことを課して、それができない時にはまた二十年の間、ただで使おうと思ったのでしょう。しかし権助はその言葉を聞くとすぐに庭の松へ登りました。

「もっと高く。もっとずっと高くお登り」
「今度は右の手をお放し」
「それから左の手も放しておしまい」


様子を見ていた医者はとうとう縁先へ顔を出し、「おい。おい。左の手を放そうものなら、あの田舎者は落ちてしまうぜ。落ちれば下には石があるし、とても命はありゃあしない」と心配しました。けれども女房は「まあ、私に任せておきなさい。――さあ、左の手を放すのだよ」と言ってやめようとしません。

権助はその言葉が終らないうちに左手も放しました。そして権助の体が松の木から離れて落ちるかと思われたとき、不思議なことに権助はまるで操り人形のように空中で立ち止まったのです。

どうもありがとうございます。おかげさまで私も一人前の仙人になれました」と言って権助はおじぎをすると、静かに青空を踏みながら高い雲の中へ昇って行ってしまいました。

その後、医者夫婦はどうしたかは誰も知っていません。ただ庭の松はずっと残っていたそうです。

(おわり)

\ココがポイント/
✅権助は20年の奉公をやり遂げた
✅どこまでも狡猾な医者の妻はもう二十年、権助をタダで使おうとする
✅医者の妻は権助に松の木の上で両手を話せと言う
✅権助は木から落ちず空中を歩き高く昇っていった

子どもと「仙人」を楽しむには?

本当に仙人になってしまった権助。なぜ仙人になれたのか不思議ですよね。二十年間のタダ働きで徳を積んだのでしょうか。

子どもには
・二十年間タダ働きをすることをイメージできる?
・権助が仙人になれたのはどうしてだと思う?
・医者夫婦はその後どうなったと思う?

などと聞いてみるとよいと思います。

また、まっすぐな性格の権助と意地悪な妻、そして妻に頭の上がらない医者という三者の声を上手に演じ分けられると、盛り上がりそうですね。

まとめ

「正直者はバカを見る」と考える医者の妻に対して、仙人になりたいというまっすぐな思いで二十年間、まじめに働き続けた権助。二人の対比が鮮やかに描かれています。何者かになるための楽な近道は存在せず、長い年月挫けずに頑張り続けることでその道が開ける、ということを伝えているのかもしれません。将来の夢の話をするときに合わせて話してみるのもよさそうですね。

(文:千羽智美)

※画像はイメージです

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