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2023年08月04日 23:29 更新

妻とギクシャクしたまま参加した会社の飲み会は、思いのほか楽しくて……【運命の人とレスになりました。大輔編vol.5】

最高の相性だと思って結婚した男女が、妊娠・出産を経て親になり、少しずつすれ違ってセックスレスに……これって、よくあること? せつない夫婦の胸のうちを描きます。

「俺の大罪ってなんだろう?」

日曜日、動物園で幸せな家族時間を過ごした大輔。しかしその夜、美咲は大声でこれまでの不満をぶちまけ……。

妻とギクシャクしたまま参加した会社の飲み会は、思いのほか楽しくて……【運命の人とレスになりました。大輔編vol.5】

どこか変だとは思っていた。
でも、動物園では楽しそうだったし、2人目も欲しがっている。回数は少ないながら、定期的に愛し合ってもいる、はずだった。
美咲があんな怖い顔をするほど追い詰められていたなんて……。全然わかっていなかった。
あの日から1ヶ月。さすがに美咲をベッドに誘うことができずにいる。

「先輩、元気ないですね? また小さなモンスタークライアントですか?」
盛大なため息をついた俺に、中野亜美が話しかけてきた。
「いや。強いて言うなら……モンスターは俺かな」
「なんですか、それ。奧さんとケンカでもしたとか?」
「ケンカっていうか、キレられた」
「男の人は鈍感ですからね~。女性がキレる時って、だいたい積もり積もった不満が爆発した時ですよ? 何か心当たりあるんですか?」
心当たり……か。
いつも優しい美咲をあそこまでキレさせた俺の大罪ってなんだろう?
美咲の口ぶりだと、子育てへの不満っぽかったけど、もっと他の原因があるんじゃないのか……?

昔は、ケンカをしてもスキンシップさえしていれば、なんとなくチャラになっていたフシがあったけれど。
今は、セックスは拒否され気味→ゆえにさらに誘いづらい→お互いのことがわからないという悪循環だ。
あの行為の途中で萎えた日から、「美咲としたい」気持ちは、完全には戻らない。
ただ性欲は健在なので、一応義務的に週1で誘ってはいた(4回に3回は断られるが)。
まあ一人で処理する術だってあるし……。
相手が美咲じゃなくても良くなった……ってことだよな……?
これって、夫婦としてどうなんだろう?

「先輩。聞いてます?」
「ああ、ごめん……ていうか、なんか意味深だね。中野さんも心当たりあるの?」
「そりゃ、28年も生きてれば……実は、最近彼氏と別れたんですよ」
「へえ~」

28歳といえば、俺と出会った頃の美咲と同じ年齢だ。
あれから3年か。
時が経つのは早いな……あれ? またこの香りだ。
中野亜美のつけている香水のにおいが、妙に気になる。
元彼もこの香りが好きだったんだろうか……おっと!
何を考えてたんだ、俺。

とにかく!
“失敗しても秒で切り替える”
それがこの仕事で学んだことだろ?
3年前に感じた美咲との運命は嘘じゃない。
失敗しても、リカバリーすればいい。俺なりに頑張らねば。

後輩の意味深な視線

順調に会議をこなし、今日はさほど残業せずに帰れそうだと思っていた18時。部長がデスクにやってきた。
「一ノ瀬! 飲み会、お前もどうだ?」
「え? 俺もですか? 今日ってB課の打ち上げじゃありませんでしたっけ」
「課の垣根をまたいだ交流も大事だからな。一ノ瀬のところは子どもがまだ小さいし、もちろん無理強いはしないが……」

蓮と美咲の顔が思い浮かんだ。
でも美咲は……笑顔じゃない。昨夜のキレた美咲の顔が忘れられない。
これ以上刺激しないために、物理的に距離をとるって方法もアリだよな。

「行きます」
「おっ、いいね! まあそう遅くはならないから。そのあたりも美人な奧さんにちゃんと言っとけよ?」
「はいはい」
「一ノ瀬さんの奧さんって美人なんですか?」
「化粧品メーカーに勤めてるんだよな。結婚式で見たんだが、綺麗な人だったよ」
「そうなんですね……」
中野亜美の意味深な視線に、俺は気づかなかった。

すぐに美咲に電話をした。LINEでも良かったが、なんとなく声を聞いて美咲の機嫌を知りたかった。

「ごめん。営業のメンバーで飲み会で遅くなる。あ、斎藤さんもいるよ」
「いいよ。楽しんできてね」
斎藤さんの話題をスルーするあたり、なんとなく、冷たさを感じる……。
「悪い」
「コミュニケーションもお仕事だもん。仕方ないよ」
「ありがと。じゃあ、帰る時連絡する。今夜は……俺がいなくてゆっくりできるね」
「俺がいなくてって、どういう……」
まだ美咲が話している途中だったけれど、電話を切った。
なんであんなこと言ってしまったんだろう。
わかってる。
美咲と思うようにコミュニケーションが取れない不満と、この間の言葉に対する嫌味だ。
これじゃ、ただのガキだよな……。

「先輩のこと、いつも見てました」

モヤモヤとした気持ちで参加したのに、飲み会は意外と楽しかった。

「中野さん、飲みすぎじゃないです?」
「彼氏と別れたんですよ~! 私は毎日会いたかったのに、あっちは月2デートで十分だって。しかも最後の方はデートしててもエッチなしだったんですよ。結婚もしてないのにレスって! あり得ない!」
中野さん、酔ってんな~。
でも可愛いし、男なんていくらでも……もし結婚してなかったら俺だって……なんて。
俺も飲みすぎたみたいだ。

「ユウキのバカー‼」
「まあまあ、中野さん、落ち着いて」
「これ、黒歴史になるやつ……誰か早めに送ってあげた方がよくないですか?」
「とはいっても、斎藤はさっさと帰ってしまったしな。誰か中野の家、知ってるか?」
「わたしぃー、一ノ瀬先輩がいいです!」
「は? 俺?」
「はい。先輩の家と私の家、近いんで」
「なんで俺の家知ってんの?」
「だって、一ノ瀬先輩のこといつも見てるもん」
「はっ?」
「中野。酔いすぎ。既婚者に色目使っちゃダメだぞ? さ、帰ろうな。悪いけど一ノ瀬、帰るついでにタクシーで中野の送り頼んでもいいか?」
「わかりました」

居酒屋を出てタクシーに乗った。
中野亜美と2人で。
運転手に住所を告げて、一息ついた。中野亜美は俺の肩にもたれかかって、目を閉じている。目を瞑り、やや気分が悪そうだ。酒と煙と香水のまざった匂いが鼻腔をくすぐる。
さっきの元カレとの話、本当かな……?

  「結婚もしてないのにレスって! あり得ない!」

現在、美咲とは月1回あるかないかくらいになっている。
そもそも、したとしても出産前のそれとは濃厚さが段違いだ。
結婚なんてそんなものだ、といえばそうなのかもしれない。
でも1カップルが別れを決断するほど深刻な問題なのも事実だ。
これ以上、頻度を下げないようにしたいけれど、お互いにモチベーションが下がってきているのは確か。
どうすればいいんだろう。
こんな話、誰にも相談できない。
この子ももしかしたら、人知れず悩んでいたのかもしれないな。

「先輩。悩みがあるでしょう?」

唐突に、中野亜美が口を開いた。

「え? なんでわかったの?」
「いつも見てるって言ったじゃないですか。話、聞きますよ?」
「人に話すようなことじゃないから……気持ちだけで嬉しいよ」
「遠慮してるんですか? 私は、一ノ瀬先輩と相談相手どころか、そういう関係になってもいいな」
「そういう関係って……(笑)。中野さん酔いすぎ。俺、既婚者だから」
「既婚者だから何なんです? 私はOKですよ。うちに来ればいいじゃないですか……」
「え?」
中野亜美が腕を絡ませてきた。
いや、この状況って……。

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