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2024年03月15日 07:07 更新

それって約束? 押し付け? 子どもの自尊心を守るために親として出来ること|抱きしめよう、わが子のぜんぶ #3

「ゲームは1時間までと約束したのに全然やめない」「約束の時間を過ぎても宿題に取り掛からない」「注意すると反発される」など、子どもが約束を守らないことにイライラしていませんか? その“約束”は、約束を“押し付けただけ”かも……?

児童精神科医の第一人者である佐々木正美先生は、半世紀以上にわたり、子どもの臨床にたずさわりながら、さまざまな親子に寄り添ってきました。
佐々木先生の著書『【新装版】抱きしめよう、わが子のぜんぶ』(大和出版)では、思春期を迎える前に今から知っておきたい子どもへの接し方について、さまざまな親子のエピソードとともに解説しています。

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今回は「生きる力になる“自尊心”を育む」より、一部抜粋してお届けします。

親の自己保身が子どものプライドを傷つける

「命令」と「約束」はちがうもの

※画像はイメージです

家庭内暴力の青年に苦しんでいるご夫妻が、私のところに相談に来ました。

高校生の息子がパソコンで遊んでばかりいて、学校の勉強が遅れがちになってきた。パソコンを取り上げようとするお父さんと、どうにかしてパソコンを使おうとする息子との格闘の日々が続くなか、お父さんと息子はたいへん険悪な仲になり、今では一触即発の危険な状態にあるということでやって来られたのです。

お父さんは一方的に、「コンピューターは何時間以上しないと約束したのに、あいつは約束を守らない。だからあいつが悪いんだ」と、こうおっしゃるばかりです。

よくよく話をうかがい、私はこんなふうにいいました。

「お父さん、それは約束ではないんじゃありませんか。あなたが押しつけただけ、無理矢理、ウンといわせただけじゃありませんか。強いほうが弱いほうに向かってウンといわせたことを約束といっちゃいけないですね。それは命令しただけです。息子さんが約束を守らなかったというのは、お父さんの一方的ないいぶんですね」

このお父さんは社会的には功成り名遂げた仕事をされている方で、どう収拾していいのかわからないという状態でした。

お母さんは、「もう学校には行かない、将来の希望も夢もなくなった」という息子にただハラハラしているばかりの様子でした。

このままでは何もよくなりません。私は解決策として、もっともよいと思える方法を率直にお話ししました。

「ちゃんと息子さんに謝るのがいいと思います。よく考えたら、私に間違いがあった、行きすぎがあった。約束したなんていったけど、実は命令しただけだった。心から悪かったと思う。謝るよ。こんなふうに、率直に伝えてやり直すのがいちばんではないでしょうか」と。それ以外に、いい方法はないと思えたのです。

※画像はイメージです

よく、みなさん勘ちがいされているのですが、「命令」と「約束」はちがいます。

・命令=一方的に強い者が弱い者に対して力づくでしたがわせること

・約束=お互いに合意のうえ、「こうしよう」というルールを決めること


つい大人は、「親だから」「教師だから」「年上だから」といった理由で、上からものをいうような、強制的なことを子どもに強いてしまいがちです。そして、それを「約束」と勘ちがいしてしまうのです。

大人から強制された偽りの「約束」を、子どもが素直に受け取るわけがありません。むしろ、自立しようとしている思春期の世代は、理不尽なことが大きらいですから、逆に大きく反発することもあるでしょう。

命令では本来人は動きません。相手が納得して受け入れられる条件でなければ、たとえ親の思うとおりになったとしても、子どもの心は不満でいっぱいになるだけです。

ちゃんと子どもと対話をする時間をとってください。意味のある約束、子どものためになる約束だったら、きちんと話せば子どもは必ず理解して、「わかった」とうなずいてくれるはずなのです。

親が自分のプライドを優先させてはいけない

※画像はイメージです

数年前、テレビ朝日の非行少年をテーマにした番組制作のお手伝いしたことがあります。栃木県にある喜連川少年院に、カメラとマイクをもって入らせてもらいました。

10代半ばから後半の少年たちからいろいろな話を聞きました。

当時、キャスターをなさっていた渡辺興二郎氏のインタビューは実に見事でした。誘導尋問はせず、好きに話してもらったのです。みんな率直に語ってくれましたが、彼らは1人残らずといっていいほど家族のことばかり語るのでした。

また、みんな共通して、表現はちがってもこんなことをいいました。

「ぼくにもぼくのプライドや自尊心、世間体、そういうものがある。親にも親の世間体やプライド、自尊心がある。メンツもある。お互いがもっているそれらがぶつかりあったとき、ぼくの親はどんなことがあっても絶対、自分のメンツやプライド、世間体、自尊心を優先して譲らなかった。そういう親だった」

どの少年もいろいろな話のなかのどこかで必ずいうのです。それも、とても強い口調でいいました。先ほどのお父さんにも、この話をしました。

お父さんのとった態度がすべて正しかったとか、息子のほうがすべて悪かったなどということはないのです。反対に、息子が正しく、お父さんが間違っているとも限りません。どちらにも主張すべき点と反省すべき点があるのです。

こんなときには、全面的に両親がプライドを捨ててくださることがいちばんだと私は思っています。

「そんなことできるものか」と思われるかもしれませんが、親が自己のメンツを立てるために、自尊心をつぶされる子どもの気持ちを考えてみてください。

「わたしの親は自分のことしか考えていない。わたしの気持ちなんてどうでもいいんだ」

そんなふうに思い、親への信頼感をなくしてしまうでしょう。

いつも親にプライドを傷つけられ、自尊心を無視されてきた子どもは、親を含めた周囲の人に対する猜疑心が強くなります。他人を信じられなくなってしまうのです。

反対に、子どものいいぶんや主張を受けとめられる懐深い親に対しては、素直になれるはずです。そして人を信じることができるでしょう。

「お父さんは、ぼくのことを尊重してくれる」という安心感は、子どもの情緒を安定させ、親のいうことを素直に聞けるようになり、周囲への信頼感をもてるようになるのです。

非行は親を許せない子どもの行為

※画像はイメージです

プライドを捨てるのは、外に向かってではありません、自分の子どもに対してだけプライドを捨てればいいのです。ほんの少しだけ、大らかに考えてみればできることではないでしょうか。非行というのは案外、喜連川少年院の少年たちがいっていた「子どものプライドを守るために、自分の顔に泥を塗られるなんてことは耐えられない親」の存在に原因があるのかもしれません。

ある自立支援センターの職員の方から、こんなことを聞きました。

少年たちをセンターから送り出すときには、「もう戻ってくるんじゃないぞ」という気持ちで祈りをこめて送り出すけれども、「この子は危ない」「あの子は絶対大丈夫だ」ということは、長年の勘でわかるというのです。何がもっとも重要な鍵かというと、「この子はもう親を許せるようになっている」、この1点にあるのだそうです。

重みのある言葉です。喜連川少年院の方も、「非行というのはある意味、親を許せないと思っている少年の行為」だとおっしゃっていました。それがやがて、社会が許せない気持ちに発展していくのです。やり場のない不満、当たりどころのない怒りがふくらんで、社会に向かっていくのだと思います。

喜連川少年院にいたある少年の言葉が忘れられません。

「ここを出て一人前になったらぼくは少年院で働く人になりたい」

すばらしいと思いました。きっと、少年院でとてもすばらしい教官に出会ったのでしょう。

子どもの気持ちをよく聞いて、自尊心を守り、立ち直っていく姿をじっと見守ってくれる教官に、「自分はあの人のようになりたい」と思ったのです。こういう人に出会うことが大切です。大きくなったらこの人のようになりたい。そんな希望がもてる大人がまわりにいることは、なんてすばらしいことかと思います。

まとめ

子どもの自尊心を守ってあげられるのは親だけです。
どうぞ、わが子のために自分のプライドを捨てられる親でいてください。

この記事は、佐々木正美著『【新装版】抱きしめよう、わが子のぜんぶ』(大和出版)より一部抜粋・再編集したものです。

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