アゲハチョウの蛹(さなぎ)の観察~見つけ方・飼育方法・羽化までの流れ
アゲハチョウの成虫は春や夏によく見かけますが、アゲハチョウの蛹(さなぎ)を見たことがあるお子さんは多くないのではないでしょうか。普段見かけるアゲハチョウの意外な姿を見ることで、お子さんが生物に興味を示すかもしれません。ここでは専門家監修のもと、アゲハチョウの蛹の見つけ方や飼育方法などをご紹介します。
アゲハチョウの蛹(さなぎ)が見たい!
野原や公園で見かけることの多いアゲハチョウ。美しく舞うアゲハチョウを見つけると、お子さんも大喜びしますよね。
そんな美しいアゲハチョウですが、その姿になるまでには「蛹(さなぎ)」という過程があります。
アゲハチョウの蛹について知ることで、お子さんもアゲハチョウの生態に興味を示し、理科が好きになるきっかけにもなるかもしれません。
普段見るアゲハチョウだけでなく、ぜひ蛹の姿も見せてあげましょう。
「蛹(さなぎ)」という姿、物心ついて間もなく私たちはこの姿を見て、今では珍しいものと感じなくなっているかもしれません。
しかし、世界中に様々な生き物がいるなかで、この「蛹」という過程は、昆虫の仲間の一部のものにしかない、とても珍しい神秘的な能力であると言えます。
いつ蛹になる?アゲハチョウの生態
アゲハチョウは、卵から孵化し、幼虫の時期を経て蛹になります。まずはアゲハチョウがいつ頃蛹になるのか、また、蛹からどのように成虫になるのか、全体的な流れを知っておきましょう。生態を知ることで、アゲハチョウへの興味がより高まります。
アゲハチョウの卵が蛹になるまで
アゲハチョウの一生は卵から始まります。
アゲハチョウの成虫から卵が生まれると、その卵は産卵から4~5日で孵化。15日~18日間ほど幼虫の時期を過ごします。
大きく成長した幼虫は糸を張って蛹になり、10~12日間ほどその状態で羽化の準備をします。
ただ、秋に蛹になった場合は例外で、そのまま越冬し、春になってから羽化します。
寿命も短く、体の小さなアゲハチョウにとって、季節の変わり目は命にかかわるとても大変な環境変化です。
季節の変化を敏感に感じ取り対応する姿から、懸命に生きる命の尊さを私たちに感じさせてくれます。
アゲハチョウの蛹が羽化して蝶になるまで
蛹になってから10~12日間ほど経つと、蛹が割れて羽化を開始。
蛹から出てきたアゲハチョウの羽は最初縮れていますが、10分ほどできれいに広がり、私たちがよく知るアゲハチョウの姿になります。
羽を広げたアゲハチョウは半日もすれば体もしっかりし飛べるように。アゲハチョウが、生まれて初めて羽ばたく瞬間です。
羽化のタイミングは一瞬です。帰宅したらすでに羽化が完了してしまっているなんて事も珍しくありません。
日数をしっかり記録し、羽化のタイミングにうまく出会えると、感動もより大きいでしょう。
アゲハチョウの蛹の見つけ方
アゲハチョウの蛹は成虫と違い自分から姿を見せてくれるわけではないため、蛹を見るのであれば蛹を探しに行く必要があります。アゲハチョウの蛹はいつ、どのような場所で見つけられるのでしょうか。見つけ方のポイントをご紹介します。
アゲハチョウの蛹がいる時期
アゲハチョウの産卵時期は春~秋。産卵から20日ほどで蛹になり、そのまま10日ほど蛹の状態でいるため、春~夏に生まれたアゲハチョウの蛹は春~秋の間に見つけられることになります。
また、秋に生まれたアゲハチョウの蛹は、蛹のまま冬を越すため、冬の間も越冬中の蛹を見つけることが可能。
つまり一年を通してアゲハチョウの蛹を見ることができるというわけです。
冬に蛹を見つけた場合は、
・屋外から室内に移動することで、蛹が季節の感覚がくるってしまい、早い季節に羽化してしまう。
・羽化まで時間がかかることで、蛹がぶら下がっている枝や葉っぱが枯れて蛹が地面に落ちてしまう。
などの事に注意し、大きな温度変化や振動をできるだけ避けるよう注意してください。
アゲハチョウの蛹がいる場所
アゲハチョウの幼虫はユズやミカンなど柑橘系の植物の葉をエサにします。幼虫の間の行動範囲はそれほど広くないため、蛹になる場所も、エサとしている植物付近である可能性大。
また、近くに建物や支えなど蛹になりやすい場所があればそちらで見つかる可能性もあります。柑橘系の植物の枝やその付近の建物を探してみましょう。
蛹を採集する場合、枝ごと採集する必要があります。蛹がとまっている木が私有地にある場合などは、必ず持ち主の方に確認してから採集しましょう。
アゲハチョウの蛹の見分け方
蛹を見つけても、その蛹がアゲハチョウの蛹なのか、簡単には見分けられないもの。また、アゲハチョウの中にも種類があり、どの種類のアゲハチョウなのか蛹から判断するのは難しいでしょう。
明確にどの種類のアゲハチョウの蛹が見たいか決まっているのであれば、図鑑で種類別の蛹の写真を確認し、見比べながら採取するのがよいでしょう。
参考に、アゲハチョウの中でもメジャーであるナミアゲハとキアゲハの蛹について写真と特徴をご紹介します。
ナミアゲハの蛹
アゲハチョウの中でもメジャーで一般的にアゲハと呼ばれているのがナミアゲハです。
ナミアゲハの蛹は、蛹になる場所によって色が異なり、緑の蛹や茶色の蛹があります。緑の蛹も、羽化が近いものは少々黒ずんでくるのが特徴です。
キアゲハの蛹
ナミアゲハと並んでよく知られているのがキアゲハ。成虫の姿がナミアゲハと似ており、混同されやすいです。
ナミアゲハの蛹は緑だったり茶色だったりするのに対し、キアゲハの蛹は茶色のみ。アゲハチョウの蛹を見分けるのは難しいものですが、「緑の蛹ならキアゲハではない」と言えます。
アゲハチョウによって蛹の色が違うのには、理由があります。蛹を見つけたときは、その蛹がとまっている木、枝、葉っぱや、その場所の風景などにも注目してみると良いです。
その蛹が、何に擬態しているのか等もわかり、とても面白いです。
蛹も見られる!アゲハチョウを飼育しよう
蛹を探して見つけるのもよいすが、卵や幼虫を採取し飼育すれば、蛹になる様子から見ることができます。アゲハチョウの飼育はそれほど難しくなく、必要なものや環境を用意すれば自宅での飼育も可能。ぜひアゲハチョウを卵や幼虫から飼育して、蛹になるまでの過程も観察してみてください。
アゲハ蝶は卵→幼虫→蛹→成虫と、とても速いペースで多くの変化があり、多感なお子様に、生き物の神秘を様々な形で見せてくれます。
鋭い爪や牙もなく、小さいお子様にケガの心配も少なく、初めての昆虫観察に向いている生き物と言えると思います。
アゲハチョウの飼育に必要なもの
アゲハチョウを卵や幼虫から飼育するために必要なものを紹介。どれも家庭で簡単に用意できます。
飼育するための虫かご、容器
飼育するための容器を用意します。
虫かごなら、蓋が網目になっている水槽型タイプのものがよいでしょう。虫かご全体が網目になっているものだと、幼虫の糞が網目から落ちてしまいます。
虫かごが自宅になければタッパーで代用しても大丈夫です。
タッパーを使用する場合、
密閉してしまわないように、蓋に空気が通るように、数カ所穴を開けておくとよいでしょう。
ティッシュペーパーやキッチンペーパー
容器の底にティッシュペーパーやキッチンペーパーを敷いておくと、ペーパーが湿気を吸い取り、湿度が適度に保たれます。
割りばしなど木の棒
割りばしなど木の棒を入れておくと、蛹になる際の糸を張る場所として役立ちます。
虫かごの壁などで蛹になってしまうと、蛹から出てきたときに足場がなく、落下して羽化に失敗してしまう可能性があります。
エサ
アゲハチョウの幼虫には新鮮なエサが必要。エサはアゲハチョウの種類によって異なります。
ナミアゲハの幼虫はミカンやユズなど柑橘系の植物をエサとして与えましょう。キアゲハの幼虫はニンジンやセリなどセリ科の植物をエサとします。
アゲハチョウの卵・幼虫の見つけ方
アゲハチョウは幼虫の時期、柑橘系の植物の葉をエサとします。ユズやミカンなど柑橘系の木を探すと幼虫が見つけやすいでしょう。
アゲハチョウの卵も、柑橘系の植物の葉に産みつけられていることが多いです。多くは葉の裏側に産みつけられているので、葉の裏をじっくり見ながら探してみましょう。
卵を採集する際は、アゲハチョウではない有害な生き物の卵を誤って室内に持ち込まないよう、持ち帰る前にしっかりと調べましょう。
卵・幼虫~蛹になるまでの飼育方法
見つけた卵や幼虫は、葉ごと採取して容器に入れます。
飼育は室内が原則。ベランダや庭などに置いておくと、寄生虫に寄生されうまく育たないことがあります。
卵を採取した場合は4~5日様子を観察しましょう。その間に孵化し、幼虫になります。
幼虫の飼育中は、エサを切らさないように注意を。新鮮なエサが常にある状態を保ちましょう。糞もこまめに掃除してください。
孵化してから20日ほど経つと幼虫も大きく成長し、蛹になる準備を始めます。
餌の葉は、枝ごとかごに入れておき、枝の切り口を、水につけておくと長持ちします。小さなタッパーなどに水を入れ、そこに枝をさすとよいです。しかし大きすぎる水容器は、幼虫がおちて溺れる危険がありますので注意が必要です。
アゲハチョウの幼虫が蛹になる前兆・準備
アゲハチョウの幼虫が容器内をさかんに動き回るようになったら、蛹になる準備が始まった証拠。蛹になる場所を探して動いているのです。この時期に蓋をあけっぱなしにしておくと幼虫が逃げてしまうことがあるので注意してください。
また、蛹になる前の幼虫は不要なものを体から排出するため、糞が水っぽくなり体が透けてくるのも特徴。
このような前兆が見えたら、数日のうちに糸を張って蛹になります。
アゲハチョウの蛹が容器の壁や蓋で蛹になってしまった場合、羽化したときに足場がなく落下してしまう可能性があります。足場のないところで蛹になってしまったときは、蛹が入る大きさのポケットを紙でつくり、その中に入れてあげると安心です。
蛹は、頑丈そうに見えますが、幼虫の姿から成虫の姿に変わるためにとても複雑な細胞変化を繰り返している段階であり、中身は非常にデリケートです。
ゆすったり掴んだりすると、羽化が出来なくなってしまいます。この時期は特に慎重に扱うよう心掛けてください。
アゲハチョウの蛹が羽化するまでの準備
越冬する蛹を除き、通常の蛹は蛹になってから10~12日ほどで羽化します。
羽化が近くなった蛹はだんだんと色が黒っぽくなってきます。羽化の瞬間を見逃さないよう、蛹の様子はこまめにチェックしましょう。
アゲハチョウの多くは早朝~14時頃までの間に羽化します。
蛹の殻を破り、10分ほどで羽を広げ、その後羽を使って飛ぶように。羽化から飛ぶようになるまでに半日ほどかかります。この間はじっくり観察できる期間です。
十分観察できたら、最後は外に放ってあげましょう。
アゲハチョウの蛹の観察ポイント
アゲハチョウの蛹や羽化を観察できる機会はなかなかありません。せっかく観察するなら、重要な変化はしっかり見ておきたいですね。変化を見逃さないための観察ポイントを掴んでおきましょう。
蛹の色の変化を見よう
アゲハチョウの蛹は、羽化が近くなると黒っぽく色が変化します。これは、中が透けてくるため。羽化の瞬間を見逃さないためにも、蛹の色の変化は意識して観察しましょう。
毎日こまめに観察しよう
蛹から羽化までの期間は10~12日間が一般的ですが、これよりも早く羽化する可能性もゼロではありません。毎日こまめに観察することで、予期せぬ早い羽化にも気づきやすくなります。
蛹から羽化する瞬間を動画に収めよう
蛹が殻を破って出てくるまではあっという間です。
あとあと細かな様子も観察できるよう、羽化の様子を動画に収めておくのがおすすめ。貴重な記録映像になりますよ。
まとめ
華麗に舞うアゲハチョウ。蛹は、そんなアゲハチョウの意外な一面ともいえるでしょう。アゲハチョウの思わぬ姿を見ることで、お子さんも多角的にものごとをとらえる能力がつくかもしれません。ぜひお子さんと一緒に、アゲハチョウの蛹を観察してみてください。
お子さん主体でお世話をするときも、保護者の方が毎日監督してあげてください。蛹の間は大きな変化もなく、小さなお子さんは、リアクションの無さに退屈してしまい、世話を続けたがらないことも多いです。
それでも、羽化した時の感動は、なかなかほかの生き物では味わえない感動をくれます。