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2023年12月28日 11:30 更新

言語学者が子どもたちに伝えたい。SNSで生じる「言葉のすれ違い」|川原繁人さんインタビュー<第一回>

普段何気なく使っている言葉ですが、改めて考えてみたら面白いこと、不思議なことがいっぱいあります。そんな言葉の魅力や発見について、『なぜ、おかしの名前はパピプペポが多いのか? 言語学者、小学生の質問に本気で答える』の著者で言語学者の川原繁人先生にうかがいました。

子どもたちだからこそ知ってほしい、言葉の不思議

※写真はイメージです
※写真はイメージです

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――ご著書『なぜ、おかしの名前はパピプペポが多いのか?』は、実際に行われた小学校での授業をベースに書かれていますが、小学生ならではの言葉の発見、気づきはあったのでしょうか?
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川原繁人さん(以下、川原) タイトルにもある「お菓子の商品名にパとかピが付けられていることが多い」という観察はまさにその一例ですね。ほかにも、「『ぐろっ』『きしょっ』『うまっ』など、感情を言葉にすると2文字が多い」という発見を、小学生がしてくれたのは驚いたし嬉しかったです。

「2文字」と言ってしまうと「きしょっ」と言った時には「3文字」になってしまうので、より正確には「ゃゅょ」をカウントしない「拍」という単位を使った方が正解ですが……。そういう細かいことはおいておいて、この指摘をうけて形容詞に詳しい知り合いの先生が調べたところ、少なくとも歴史的に見みると「感情を表す形容詞は基本的に2拍」という考えは正しいらしいとわかりました。

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――小学生の感性、すごいですね。
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川原 専門家が気づかなかったようなことを、小学生の感覚がぱっと暴くことがあるわけですからね。

たぶん子どもたちにとっては、言葉ってまだ不思議に溢れてるんじゃないかな。だからこそ、彼ら彼女らなりの新発見があるんだと思います。

メール、SNS……「書き言葉」で生じるリスク

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――先生は言語学を専門とされていますが、学者ではない一般の大人や子どもたちが、日本語や言葉について考えることに、どんな期待をされているのでしょうか?
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川原 まず、言葉でのすれ違いが減るといいな、と期待しています。

最近はインターネットが盛んになって「書き言葉」でやり取りする割合が急激に増えました。昔は向かい合って話したり電話で話していたことが、メールやSNSを通して文字で伝えるようになった。それとともに、すれ違うことが多くなったと感じるんです。これは私だけでなく、多くの言語学者が問題意識として持っていることです。

一般の方々が言葉についてもう少し意識を向けられたら、そうやってすれ違いが起きた時に、話し言葉じゃなくて書き言葉でやり取りしたせいなのかも、と気づく可能性があるんじゃないかと思うんです。

情報量の違いがすれ違いを生む

※写真はイメージです
※写真はイメージです

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――書き言葉だと、すれ違いが増えるものなのでしょうか?
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川原 SNSやメールを使った、短い書き言葉でのコミュニケーションでは、誤解やすれ違いの危険性が増す、というのは十分に考えられることだと思います。

というのも、そもそも話し言葉と書き言葉では、だいぶ情報量が違う。話す時には表情や言葉の抑揚や微妙な声色なども付け加えられるけれど、書き言葉は文字だけです。

だから、書き言葉だけで相手とコミュニケーションを取れると思い込む前に、一歩立ち止まって「言葉ってどういうものなんだろう」って考えてみると、すれ違いも減るんじゃないかと思います。

微妙な異なりで、言葉の意味は違ってくる

川原 「にせたぬきじる」という表現と「にせだぬきじる」という表現をゆっくり考えてみて。この二つの意味の違いは感じられる?

みあ 「にせたぬきじる」というのは、「たぬきじる」に「にせ」を付けたもので、「にせだぬきじる」っていうのは「だぬき」に「にせ」を付けたもの。

川原 そうだね、「だぬき」まぁ「たぬき」だね。つまり、「にせたぬきじる」で、にせものなのは何?

―― たぬきじる!

(中略)
川原 ここで不思議なのは、「た」に「゛」が一つ付くか付かないかだけで意味が違ってしまうってこと。「た」と「だ」が違うだけで、意味が大きく違っちゃう。
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『なぜ、おかしの名前はパピプペポが多いのか?』(川原繁人 著、ディスカヴァー・トゥエンティワン 刊)より

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――本の中で、「言葉の研究の面白さ」を子どもたちに説明する時に、「にせたぬきじる」と「にせだぬきじる」の意味の違いについて問われていました。とても興味深いですが、今まであまり意識していませんでした。このような言葉の理解は、どのようにして身につくものなのでしょうか?
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川原 こういう知識をどのように身につけるかを解明することが、現代言語学の最終的な目標なんですよね。この意味の違いって、日本語話者なら小さい子でも「“感覚的”にわかる」ということが実際の小学生を相手にした講義を通してわかった。これは、私の中でも収穫です。ただし、その感覚をしっかりと言葉で説明できるかどうかは、また別問題かもしれない。子どもたちがそういう言語感覚を磨くお手伝いを言語学ができれば嬉しいなと思っています。

似たような例は他にもたくさんあって「頭のいいお姉さんとお兄さん」という表現を考えてみると、「頭のいい」が「お姉さん」だけにかかっているようにも、「お姉さんとお兄さん」の両方にかかるようにも受け取れます。

日本語は濁音のつき方で意味が変わったり、2通りの意味に受け取れる表現がある。こういうことも知っていると、さらに言葉のやり取りでもめることも減らせるかもしれませんね。

(解説:川原繁人、聞き手・文:大崎典子、構成:マイナビ子育て編集部)

著書『なぜ、おかしの名前はパピプペポが多いのか? 言語学者、小学生の質問に本気で答える』

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