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2023年12月01日 07:07 更新

R-1グランプリ出場の舞台裏エピソード「竹田こもちこんぶ誕生」|皆様、本日も家事育児お疲れ様です。#1

5人の男の子を育てながら毎日家事育児に大奮闘する竹田こもちこんぶさんのお家は、毎日がネタの宝庫。“子育ての大変さ”にフォーカスされがちな今、“子育ての魅力”を伝えたい!と、日常に転がる子育ての魅力と面白エピソードを詰め込んだ書籍、『皆様、本日も家事育児お疲れ様です。』(KADOKAWA)からお届けします。

竹田こもちこんぶ誕生

▲R-1グランプリ2015出場前の一枚(写真:竹田こもちこんぶさん提供)

 34歳で挫折して「舞台に立ちたい」という欲をドブに捨ててお母さんになった私は、結構早い段階でまたドブに手を突っ込み、捨てたはずの欲を拾い上げた。そう、つまり、まったくもって未練を断ち切ることができなかったというわけなのだ。

 いや、後ろ髪を引かれるどころか、産後間もない時から前髪ごと全力で後ろになびいていた。何度手櫛で元に戻しても『ドラゴンボール』のベジータと化し、いよいよ生え際から根こそぎ持っていかれそうになった時、ついに私は『Rー1グランプリ』(フジテレビ系)に出ることを決心した。

 Rー1グランプリ、それはピン芸人の大会であり、かつて私も何度か挑んだ舞台。年に一度のたった2分の舞台だから、これなら産後の私にも十分挑戦可能だろうと思い、私は当日長男を旦那に預けて出ることにした。

 そうと決まれば早速ネタ作り開始だ。ところがどういうわけか、これがちっともはかどらないのである。以前ネタ作りをしていた時には存在しなかった息子が一人いるだけでことごとく計画通りに進まない。

 おっぱい、うんこ、寝る、起きる、泣く、抱っこ。つまりげんこつやまのたぬきさんがいる横で新ネタを考え稽古するなんてとても無理だった。

「クソッ! こうなったらこの子育て中の不自由そのものをネタにしてやろうか!」

 半ばヤケクソになった私はついに息子を抱っこして舞台に上がることを決意した。もはやげんこつやまのたぬきさんとタッグを組み勝負に出るというわけだ。しかし「タッグを組む」と言ってる時点でピン芸ではなくコンビ芸なのだが、そこは全力で誤魔化してやろうじゃない。だって365日24時間一心同体。これが子どもを育てるお母さんのリアルな日常の姿なのだから。このまま出るのが妥当なのだ。私は一人脳内会議を行い、賛成多数で「げんこつやま議案」を可決させた。

 こうして私は子育てのリアルな日常をネタに漫談化し、息子を抱っこ紐に収めたスタイルでRー1グランプリの大舞台へと挑むことにしたのである。

 大会の1回戦の舞台は名古屋。当日、私は会場へ向かうべく、生後11ヶ月の息子と2人で新幹線に乗り込んだ。鞄は小道具と衣装でパンパン、ではなく息子の「おむつ」と「着替え」と「離乳食」でパンパンだった。しかし準備万端で息子と家を出たものの、我々がコンビと見なされ受付ではじかれる可能性は大いにあった。そうなった場合は名古屋観光でもして帰るしかないだろう。いや、たとえルール違反で失格になろうとも、全世界の育児に奮闘するお母さん代表芸人として「息子を抱えて舞台に上がる」という使命だけは果たさねばなるまい! 誰にも頼まれていないのに、私は意味不明な使命感に駆られ、なんとか受付だけクリアできないものかと作戦を練った。

 ①「あとで旦那が息子を預かりにくるんで、今だけこの状態です!」と嘘をつく
 ②「静岡から来たんです! 出してくださいよ!」と泣きながら逆ギレで懇願する
 ③あたかも1人だと見せかける

 いずれの作戦もかなりギリな感じではあったが、私は③を選択した。なぜなら受付エントリー直前に息子が寝たからだ。私はフードカバーと自分のコートで息子を隠した。そうして我々は怪しまれることなく無事受付を突破したのであった。

 危機一髪! というよりも、受付の人は多くの奇抜な格好をした芸人をさばくためにいちいち細かくチェックをしていなかったのだろう。とりあえず第一関門「受付」を突破した我々は、さらなる難関「THE待機時間」へとコマを進めた。

 芸人は自分の出番まで待機するのだが、我々の出番まではあと1時間半もあった。とはいえ、この時点ですでに息子は1時間寝ていたため、ここからあと1時間半寝続ける可能性はない! 絶対起きる。ほんで起きたら泣く。絶対泣く! んでバレる!!
 
「はい、退場ーーーーー!」

 しかし奇跡的に息子は1時間を過ぎても起きなかった。代わりに一人を装って立ち続けている私の腰が砕け散っていた。でも……あと少しだ。あと少しで我々の出番だ!このままコマよ、最終関門「舞台」に進めぇー!

 だが残すところあと数分のところで息子は目覚めた。

「んぎーーんぎぎぎぎーーーー」
 
ぎゃぁあああああ!! ついにモンスター開眼!! 裏で待機していた芸人が一斉に戦慄の眼差しを私に向けた。「なになに! あんた、なに持ってんの!?」と言わんばかりに、そこにいた全芸人の目が泳ぎ出し、まるで私が猛獣でも隠し持っているかのように、その場が一瞬にして混乱に包まれた。「あぁ、もうこれ以上は誤魔化せない」。私はもはやこれまでと息子を公開し、あとは全力であやすのみだった。芸人たちはみなざわついていた。赤子と共に舞台に上がろうとしているこの女に、前代未聞の驚きと不可解な思いを隠せずに。

 それでも私はまだスタッフに見つかっていないことをいいことに、強引にコマを進めた。しかし、いよいよ「次が我々の出番!」というところで、見つかってしまった。「あと少しだったのに、クソッ!!」と毒づきながらも、なんとか誤魔化せないかと焦っている私に、スタッフは驚いた様子でゆっくりと我々に近づいてきてこう言った。

「いないいないばぁ〜」

 彼が発したそのひと言はすべてを許す合図だった。私は押し潰されていた心臓の鼓動がよみがえるのを感じながら、これまでの萎縮を投げ捨て堂々と息子を抱いて舞台に上がった。

 こうして我々の冒険は奇跡的に最後までコマを進めることに成功した。帰りの新幹線の中、私の身体は張り詰めていた緊張と疲労のため激しい倦怠感に襲われていたが、心は裏腹に、成し遂げた爽快さの中で満ち満ちていくようだった。

「1回戦突破」の知らせを聞いたのは帰宅後、息子と風呂に入っている時だった。一人の時より何倍もうれしいのは「子持ち」で挑んだ壮絶な大変さがあったからに違いない。

 これからも子持ちで挑んでやろうじゃない。子を持ちながら舞台に臨む。だから私は芸名を「竹田こもちこんぶ」にしたというわけなのである。

Lazy dummy

の時に「R-1グランプリに出る」という選択をしていなかったら、私はネタを作ることも、TikTokをやることも、本を書くこともなかっただろう。
当日までネタを考える暇がなくて、行きの新幹線の中でネタを作った年もあったなぁ。あの時ヤケクソで蒔いた種が10年後の今、芽を出し始めたのかな。

(著:竹田こもちこんぶ『皆様、本日も家事育児お疲れ様です。』(‎KADOKAWA)より再編集/マイナビ子育て編集部)

書籍『皆様、本日も家事育児お疲れ様です。』について

皆様、本日も家事育児お疲れ様です。(‎KADOKAWA)
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\全ての母に捧げる応援歌/

「子育てから抜け出して自由になりたかった私よ、ひたすら育ててごらんなさい。いずれその我儘も粗相もずるさも泣き顔も、全て愛しく思えるから」
(『 皆様、本日も家事育児お疲れ様です。』本文より)

TikTokフォロワー数35万人超、2023年の「おもしろ荘」出演でも大注目されたママ芸人・竹田こもちこんぶさんの初書籍!
4児のママ(現在は5児のママ)として毎日家事育児に大奮闘する竹田こもちこんぶさんのお家は、ネタの宝庫! 
「道草をしまくる三男」
「抱っこ紐をしていないのに揺れてしまう抱っこ紐シンドローム」
「コロナ禍に乳幼児のいる家族全員が濃厚接触者になったら…」

など、子育て世代から共感しかない子育てあるあるが満載です。

また、ネタ動画の中でたびたび登場する自宅の全貌、間取りなどをフルカラーで本邦初公開! 賑やかすぎる竹田家の様子を撮りおろし写真をたっぷり見れちゃいます。

笑って泣けて、子育ての参考にもなる超お得な1冊です!

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