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2022年01月31日 20:01 更新

保育園の送迎のために自転車は買わないと決めた 井田夫妻の場合 #共働き夫婦のセブンルール

世の共働き夫婦は、どう家事を分担して、どんな方針で育児をしているんだろう。うまくこなしている夫婦にインタビューして、その秘訣を探りたい。そんな想いから、今回の企画はスタートした。それぞれの家庭のルールやこだわりを7つにまとめ、その夫婦の価値観を紐解いていく。第9回目は、社内恋愛を経て結婚した井田夫妻のお話。

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【左】井田真紀さん(仮名/39歳/人材/経理) 【右】井田謙治さん(仮名/47歳/出版/編集)

社内恋愛を経て結婚した井田さん夫婦。雑誌編集長を務める謙治さんは穏やかそうに見えて、一度フラれた真紀さんのために2ヵ月で17kgのダイエットに成功し、再アタックして付き合うことになったという熱いエピソードの持ち主だ。

そんな謙治さんは、8歳年下の真紀さんについて、出産してから「目を見張るくらい、人として成長しました」と目を細める。

優しく控えめな印象の真紀さんは、「実は許容範囲が結構、狭くて」と照れ笑い。出産前は、歯ブラシの置き方が違う、洗面台の水はねを雑巾ではなく手拭き用のタオルで拭く、といった謙治さんの行動がいちいち気になって、執拗に責めてしまっていたという。

それが「今は、もちろん注意はしますけど、タオルを洗濯すればいいと思えるようになりました」と真紀さん。

求めるのは、「子どもと家族の幸せ」だけ。お互いにそう思う中で自然と形成されてきた、夫婦ならではのセブンルールについて聞いた。

7ルール-1 子どもにもパートナーにも心の許容範囲を広く持つ

まずは、冒頭でも触れたこのルールから。

「とにかく、大勢に影響がなければ細かいことは気にしない! 怒るのも疲れるし、部屋がちょっと汚れていたり、ときどき買った食事だったりしてもすぐに病気になるわけではないですから」と真紀さん。

経理という職業柄もあり、もともとは小さなことも見過ごせない性格だった。心境が変化した理由を聞くと、「単純に、子どもが産まれて、さらに仕事に復帰してからは、やることが多すぎていちいち捉われている時間がないからですね」と言う。

「喧嘩も昔は翌日まで引きずっていたけど、今は言いたいことを伝えたらさっさと終わらせるようになりました。家族で過ごせる貴重な時間を、険悪にしてしまってはもったいない! と思うようになったんです」と真紀さん。

「引きずらないようになったし、すごく精神的に強くなったよね」と謙治さんもしみじみ。

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パートナーに対しても子どもに対しても、「最小限に怒る」ということは決して一朝一夕にはできないこと。2人の間に流れる穏やかな空気は、その賜物だと感じた。

一緒にいる時間が長いこともあって、息子さんを叱るのは真紀さんの役。謙治さんも危険なときなどは叱るが、主にフォロー役にまわり、役割分担ができている。

お互いに認め合い、許容範囲を広くもつことで、家族が笑顔でいられる時間が増えたという。

7ルール-2 貯金は「自動」で!

謙治さんのおおらかさは長所だが、細かいことは気にしない性格が、お金の管理という面ではマイナスになる。無駄遣いはしないものの、危機感が薄いのだ。

その点、経理畑の真紀さんは、今後、何にどれだけのお金が必要で、家庭の収支がどうなるか、細かく理解することができる。

しかし、共働きで時間はない。だからこそ、自動で貯金できる仕組みを真紀さん主導で作っている。

「教育資金用の口座を作り、児童手当や養育手当はそちらの口座へ入金されるようにしています。その他、積立型保険に加入して貯蓄に充てたり財形貯蓄を自動引落としにするなど、できるだけ手間を省くというのがコンセプトですね」と真紀さん。

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「老後にいくらくらい必要かも、すでに概算を出しています」と話していた真紀さん。自宅に専属のファイナンシャルプランナーがいるようで、これは心強い!

「将来の教育費はもちろん必要なのですが、それ以上に子どもが産まれたことで『子どもに迷惑をかけないように生きていかなくちゃ!』という気持ちが強くなりました」と真紀さん。

謙治さんに、真紀さんが家計管理をしていることをどう思っているのか尋ねると、「妻がいろいろ決めてくれるので、僕はすごく助かっています。お互いお小遣い制ですが、特に賃上げ交渉もせず従っています」と笑った。

7ルール-3 休みの土日は、ママは昼まで寝てもOK!

謙治さんは編集者という職業柄、結婚前は深夜帰りが大半だったが、子どもができてから20時には帰宅するようになった。とはいえ、平日は時短勤務の真紀さんが中心になって家事・育児を担当している。

「その分、休みの土日は僕ができる限り対応します。土日の朝は、妻が寝ている間に息子とたっぷり遊んで、朝食作りや洗濯なども済ませています」と謙治さん。謙治さんがお疲れのときは「もちろん昼寝してOK!」と真紀さんは言う。

このルールが本当に、心からすばらしいと思う理由は、土日の午前中だけでも時間を気にせずにゆっくり休むことで、真紀さんが疲れを溜めずにリフレッシュできることだ。家事・育児と仕事の両立で一番こたえるのは、タスクに切れ目がないことだから。疲れと、その先にあるイライラを解消させるには、週2で半休くらいは最低限必要なのだ(心の叫び)。

だが、いくら夫が妻を休ませてあげようと思っても、子どもが許してくれないことも多い。小さいころは特にママべったりになりやすいというのもよく聞く話で、休みの日は子どもが真っ先にママを起こしに来てしまう、という家庭も多いだろう。

そこで発揮されているのが、謙治さんの想像力だ。

「子どもの意識を妻に向けさせないために、がんばって遊びを考えています。最近の息子のブームは、ゴリラのフィギュアがYouTube番組を作っているという設定の『ゴリラTV』ごっこや、ゲームの『にゃんこ大戦争』を紙で再現する遊びですね」(謙治さん)

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謙治さんオリジナルの仮想YouTuber、『ゴリラTV』のゴリラくん。毎回、トリケラトプスや原始人に遭遇して大変な目に遭うのだとか。
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謙治さんお手製の『にゃんこ大戦争』のイラスト。「実際のゲームをするにはまだ早いから」と、イラストで戦いを繰り広げる。

これには「さすが、編集長」としか言いようがない。

全国のこれからパパになる人へ、声を大にして言いたいのは、ママは出産した瞬間から授乳やら何やらで子どもと一緒にいる時間が長いぶん、子どもとの関係性を築きやすいが、パパが子どもから信頼や安心を感じてもらうにはそれなりの努力が必要になる場合もある、ということだ。

そのときに、必要なのが想像力である。我が子の性格や成長に合わせて、ママを忘れさせるくらい熱中させる遊びを思いつけるパパは、強い。

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真紀さんが、謙治さんと息子さんがゴリラくんになり切ったときの写真を見せてくれた。息子さんの弾けるような笑顔を見れば、どれだけ楽しんでいるかが容易に想像できる。

7ルール-4 自転車は買わない!

そして、取材中に思わず感嘆のため息が出てしまったのがこのルール。

井田家から保育園へは徒歩15分、そこから駅まで行くと合計で30分ほどかかるが、朝は謙治さんが、夕方には真紀さんが、子連れで日々歩いているという。

「保育園の送迎の時間は、息子と1対1で手をつなぎながらゆっくり話せる貴重な時間なんです。家にいると私は家事があって、息子にはテレビもあるしで、なかなか集中して話す時間はとれないので」(真紀さん)
子どもと手をつないぎ、道々で季節を感じながら歩くのは楽しい。いつもは話してくれない、園でのお友だちの話なんかも聞けたりする。私自身、歩いて10分ほどの保育園まで、何度子どもと歩いてみようと思ったことか。

でも、挫折した。だって、大変だから! 雨の日も風の日も、寝坊して遅刻ギリギリの日だってある。そういう日に限って、子どもがなかなか歩いてくれなくて、イライラして叱ってしまい、本末転倒になったりするのだから。

「子どもが楽しく歩いてくれるように、こっちも毎朝、必死に頭を回転させてますよ。ドラクエ風の物語を作って、クレーン車をラスボスに仕立てて、とかね(笑)」と謙治さん。

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保育園へ送迎中。謙治さんのロールプレイングゲームさながらのごっこ遊びが、2人の定番だ。

自宅へと帰る夕方はすんなり歩いてくれるものの、スーパーでの買い出しの品と仕事のバッグを持った上で、子連れで歩く真紀さんにとっても重労働だ。

「大変なので年に1度くらいは『自転車、買う?』なんて話していますが、保育園生活もあと2年もないので、最後まで楽しみたいと思います」(真紀さん)

いやはや、頭が下がります。私も来春から、送迎が末っ子ひとりになったら歩こう、歩きたいな、週1、いや隔週なら……と、いろいろ考えてしまった。

7ルール-5 みんなで「好き好き」言い合う

出産したときから我が子に日々「大好きだよ」、「かわいいね」、「宝物だよ」と伝えてきたという真紀さん。先輩ママがこの声掛けを実践していると聞いて、「なんて素敵なんだろう!」と感じたことがきっかけだそう。

謙治さんも、息子さんと2人で遊んでいるときなどによく「かわいいなー、お前!」と頬ずりしているそう。あまりやると嫌がられるそうだが、離れると息子さんのほうから謙治さんにくっついてきたりする。

「本人も言われ慣れているので、よく僕たちに『好き』と伝えてくれます。僕らもうれしいですし、家族みんなが良い雰囲気になれる気がします」(謙治さん)

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絵本を読むときも、真紀さんと息子さんはぴったりくっついて読んでいるそう。

愛されている自信があるからか、言葉で伝えることに慣れているからか、最近では息子さんの表現力がすごく伸びている、と謙治さん。

「オレンジジュースが飲みたい」とは言わずに、「のどが渇いたな~、パパもそろそろ何か飲みたいんじゃない? でも、麦茶じゃないんだよな~」と、あれこれ言い方を変えて交渉してくるという。

我が家も「好き好き」言うほうだが、3人子育てしていて感じるのは、子どもは叱られると「パパやママに愛されていないんじゃないか」と不安に思うことがあるということだ。それが「スーパーでは走ってはいけない」「人にぶつかったら危ないんだよ」など、どんなに当たり前のことだとしても、だ。

だからこそ、親子でも、夫婦でも、日頃から愛情を言葉で伝えるのは重要だと思う。にこやかに笑い合う井田さん夫婦を見ていて、改めてそう感じた。

7ルール-6 【夫】イライラしたら、子どもの顔を見て話す

そうはいっても、イライラしてしまうことは謙治さんにだって、ある。

「子どもが全然言うことを聞いてくれないときとか、どうしてもピリピリしてしまうときがあるんです。ただ、冷静になると、原因は自分の仕事が忙しくて余裕がないからだったりして、息子のせいばかりではないことも多いな、と反省しました」と謙治さん。

……思い当たる節はある。家事が山ほど残っているのに子どもがなかなか寝ないとき、時間がないときに限って「お着替えヤダ!」とイヤイヤするとき。確かに、イライラするのは、親側の余裕のなさが根底にありそうな気がする。

「それ以来、子どもに対してイライラしたら、意識的に子どもの顔をしっかり見るようにしました。そうするとやっぱりかわいいですし、子どもが不安そうな顔をしているので冷静になれます」(謙治さん)

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「コミュニケーションの基本だからこそ、我が子にも想像力を身につけてほしい」と語る謙治さん。

これには思わず、「素晴らしいです!」と拍手。

子どもはトライアンドエラーを繰り返して成長する。そんなことはわかっていても、どうしてもイライラしてしまうことは親ならある。

そして子どもを叱り、「強く言い過ぎた」と反省した涙の跡が乾かないうちに子どもが牛乳をひっくり返して頭に血が上り……と、繰り返しては疲弊していくのが親と子のエンドレスゲームの常套だろう。

そんな負のスパイラルを断ち切るために、謙治さんが決めたのがこのルールだ。アンガーマネジメントの本を読む時間がとれない人も、これなら簡単に取り入れられて、抜群の効果を発揮しそうだ。

7ルール-7 【妻】 子どもとの遊びは真剣に!

最後に、真紀さんが自身で決めているルールを聞いてみた。

「UNOもトランプもじゃんけんも、わざと負けてあげることはしません。やるなら真剣勝負です。子どもといられる限られた時間に、ヘラヘラと相手をしている暇はありません!」と真紀さん。

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最近、家族でよくするというUNO。息子さんは保育園でルールを覚えてきたそう。

もちろん、負け続けて子どもが泣きそうになったら、楽しく続けるために手加減をすることはある。「いい気分になってもらって、『じゃあ、そろそろお風呂にしようか』と誘導するときには有効ですね」。

もともと負けず嫌いな真紀さんは、学校でもあまり優劣をつけない教育方針に疑問を抱いているという。

「もしきょうだいがいたら、子ども同士が本気で勝負しているでしょう。でもウチは一人っ子。だから、私がきょうだいの代わりに、息子と本気でかけっこをします(笑)」(真紀さん)

鬼ごっこには謙治さんも加わって、全速力で真紀さんを追いかけてくることもある。「ゾンビみたいな気持ち悪い追いかけ方をするから怖くて、キャーキャー言いながら逃げています(笑)」と真紀さん。

親が本気で遊んでくれた記憶は、子どもの中にもきっと残る。楽しそうに鬼ごっこをする井田家の様子が、目に見えたような気がした。

彼らの7ルールを一言で言うと……?

印象的だったのは、「とにかく、家族みんなで笑って過ごせれば満足です!」という真紀さんのおおらかな笑顔だ。結婚前は、謙治さんの歯ブラシの置き方ひとつにも注文をつけていた女性とは思えない。

息子さんを妊娠中に切迫早産で入院したときには、会社に近い病院だったこともあり、謙治さんが昼休みのたびに毎日、真紀さんの様子を見に通ったという。

息子さんが産まれてからは、とにかく「第一ミッションが仕事から家族に変わりました」と謙治さん。真紀さんから「今日はどうしても大変だから帰ってきて」とメールがあれば、とにかく早く帰宅した。

「夫の顔を見るだけで、ほっとして気持ちが落ち着きました」と真紀さん。夫婦の信頼関係は、このころから着実に築かれてきた。

結婚生活も、育児も、長丁場だ。そこに近道はなく、ひとつひとつ信頼を積み重ねて、お互いが納得できる仕組みを作っていくしかない。

そして家族のセブンルールが整ったころ、忙しい毎日とは裏腹に、晴れやかな春のような、芯を感じさせる笑顔になる。真紀さんの笑顔を見て、そう思った。

(取材・文:中島 理恵、撮影:梅沢 香織、イラスト:二階堂 ちはる)

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