教育 教育
2023年09月24日 07:07 更新

数学力を育てるなら何歳から?「先取り学習」より大事なこととは|植野義明氏インタビュー<後編>

書籍『子どもの「数学力」が自然に育つ2歳からの言葉がけ』の著者・植野義明先生に、幼児のうちに伸ばしておきたい「数学力」についてうかがうインタビューの後編です。前編では、数学力とは何か、数学力が発達する時期はいつか教えていただきました。後編の今回は、幼児期の声かけのポイントや小学生以降の働きかけについてうかがいました。

大切なのは「先取り学習」ではない!?

---------------------------
【前の記事】生きる力になる数学力って?『子どもの「数学力」が自然に育つ2歳からの言葉がけ』著者・植野義明先生インタビュー前編
---------------------------

――前編では、数学力は生まれながらに持っているもので、幼児期の生活や親との会話の中で育まれていくことを教えていただきました。

植野先生 子どもが生まれながらにしてもっている数学力の存在と、それを自然に育てていく環境を整えるために、幼児期における言葉がけがいかに大切かを、できるだけたくさんのお母さん、お父さんたちに知ってもらいたいと思ったことがこの本を書いたきっかけです。

子どもの数学力を伸ばすことは、塾などで行われている先取り学習とはまったく違います。先取り学習によって子どもの数学力が育まれることはなく、かえって子どもの数学力は無理な先取り学習によって潰されていきます。より多くの保護者のみなさんに、このことも知ってほしいと思いました。

――無理な先取り学習ではなく、日常の中での自然な声かけが大切ということですね。

植野先生 これまで教室で教えてきた経験から、幼児期に十分に数学力を育てられた子どもは、その後の数学の学習に楽しく進んでいけるだけでなく、空間的な位置関係の把握能力、自分の頭で粘り強く考える力、リジリエンス、ワーキングメモリーの容量が優れていると感じます。

※リジリエンス:ストレス耐性、復元力
※ワーキングメモリー:作業用の短期記憶

▲鏡を使った授業。「さあ、鏡の中にキューピーちゃんは何人いる?」「1、2……」「角度を変えると……」「あ! ふえた!」 問いかけと答え、遊んでいるかのような会話は考える力を引き出し、子どもの発見がどんどん生まれていく。


――逆に働きかけができていなかったら、どうなるのでしょうか。

植野先生 幼少期から数学の力を育てる習慣を持たず、自分の数学の世界をもつこともなかった子どもは、自分から知識を求めることをせず、学校で習ったことだけがすべてで、習っていないことに対しては初めからあきらめてしまう行動傾向が見られます。

――積極的に知識を求めたり、追及しようという姿勢がなくなってしまうのは残念ですね。

幼児期は、偏りなく数学のいろいろな面に触れさせよう

――書籍では、「数への興味」「形への関心」「規則性」「考える力」の4つの言葉がけが紹介されていました。この中でも特に重要なものや、優先的に取り組みたいものはありますか?

植野先生 数、形、規則性への興味・関心がバランスよく育つように環境を整えることをお勧めします。数学にはさまざまな分野があり、また数学を応用してできることも多様です。そのすべてを知る必要はなく、その中で得意な道に進めばよいのです。しかし、幼児期においては、子どもによって適性の違いはあるでしょうが、得意分野を伸ばすよりは、偏りなく数学のいろいろな側面に触れておくことを勧めたいですね。

造形物
▲教室の授業で使った立体工作。植野先生が主宰する『くにたち数学クラブ』には、「これも数学?工作?遊び?」と思えるようなワクワクするものが至る所に。その全てが、子どもたちの数学力につながっている。

小学生以降も続けたい働きかけ

――幼児期に数学力を育てることができたら、小学生以降はどう接していけば良いでしょうか。

植野先生 子どもへの言葉がけや働きかけは幼児のときにやっておけばそれで終わりではなく、その後もそれぞれの発達段階に応じてすべきことがあると考えます。重要なのは、子どもをひとりの人格として捉え、ほかの子どもと比較しないこと。そして、結果ではなく、努力したプロセスを褒めることです。この基本は、幼児に対する言葉がけの場合とまったく変わりません。

また、疑問や問題に出会ったときは、必ず予想を口に出して言わせることは、小学生以降も続けてほしいです。親はいつでも子どもの伴走者です。役割は異なっても、ともに生きる仲間として、精神的にもユーモアをもって互いに明るく支え合っていけたらと思います。

まだ間に合う?小学生への働きかけのポイント

――すでに算数が苦手な小学生でも、今から家庭で働きかけることで変えられることはできるでしょうか?

植野先生 算数といってもその分野は多様です。算数が苦手でも、よく探せばその中にはお子さまに興味をもてる部分があるはずです。それを探して楽しむようにすれば、苦手な気持ちも少し和らぐかもしれません。

また、算数が苦手でも、数学は好きという大人は案外多くいます。算数の問題を算数で解くことにこだわらず、数学で解いてみると、案外簡単に解けることがわかり、好きになるかもしれません。

家庭では、学校の算数では出会うことない面白い数学の世界に触れる実験や工作の活動をすることができます。たとえば、本書では台所でできる実験例として、ニンジンやダイコンを平面で切ると、切り口にどんな形が現われるか予想してみようという実験を載せています。小学生以上の児童には、工作用紙で立方体を作り、それを斜めの平面で切ったときに断面にどんな形が現われるかを考え、実際に切ってみることをお勧めします。意外なことに、断面には三角形から六角形までの様々な形が現われます。これには、親御さんもびっくりされることでしょう。

また、ビー玉を坂道に沿って転がすとき、まっすぐな坂道と円形に曲げた坂道とでは、どちらのビー玉が早く終着点に着くでしょうか。これにも意外な結果が待ち受けています。まず予想を立て、そして、ぜひ、実際にやってみることとお勧めします。

――算数の中でも興味を持てる部分を探すこと、幼児期と同じように予想を立てて実験をすることがいいのですね。

数学力は一生役立つプレゼント

植野先生
▲「数学の楽しさを知り、数学の美しさに触れ、対話を通して深く・じっくりと考える」という“植野メソッド”。教室では、幼児から大人まで幅広い年齢層の人たちが数学に親しみ、深める時間を過ごしている。

植野先生 幼児期に数学力を育んでおくことは、学校の数学の成績のためでも入試準備のためでもありません。子どもが自分だけの数学の世界をもち、それを広げていくことから生まれるのは、子どもの想像力、表現力、感受性、協調性などの生きる上で必要な、柔軟で多様な能力です。それらの能力は子どもが豊かな人生を歩むことを助け、一生の宝物となります。

――数学力は生きるうえで大事な力ですね。後回しにせず、幼児のうちに存分に働きかけていきたいですね。貴重なお話をありがとうございました。

まとめ

後編では、幼児期からの習慣の大切さや、小学生以降の働きかけのポイントを教えていただきました。
幼児期は何かと手一杯になる時期ですが、数学力もこの時期にしか伸ばせない大切な力のひとつ。基本的なことはほかの分野の幼児への声かけと共通するので、できる範囲で数学力も意識して声をかけていきたいですね。「数学力=勉強」と気負わず、ぜひ書籍を手にとって、子どもと楽しむ時間の中に数学的な実験を取り入れてみてください。

(マイナビ子育て編集部)

▶︎『子どもの「数学力」が自然に育つ2歳からの言葉がけ』の記事を読む

書籍『子どもの「数学力」が自然に育つ2歳からの言葉がけ』

子どもの「数学力」が自然に育つ2歳からの言葉がけ(日本実業出版社)
¥ 1650 (2023/09/24時点)
(2023/9/20 現在)

\「考える力・見つける力」の芽を育てよう/

いつでもできる簡単な言葉がけで子どもの数学力(算数力)は大きく伸びます。

■子どもの数学的な力を育む「言葉のかけ方」をお教えします
子育てでは、子どもへの声がけや話しかけが、とても大切です。子どもを伸ばす、子どもが変わるなど、様々な話しかけ方の書籍があります。本書は、子どもの数学的な力が自然と育つ、言葉のかけ方、話しかけ方を紹介する初めての本です。

■考える力の「芽」を育てよう
小さな子どもの能力は無限大。幼少時にちょっとした声がけをしながら一緒に遊んだり、ゲームをしたり、実験をしたりすることで、考える力の「芽」はどんどん育ちます。
「こっちには何個入っているかな?」
「点をつないだら、何に見える?」
「これと同じ形はできるかな?」
「どうしたらいいと思う?」……などなど、
少しのきっかけを作ってあげるだけで、子どもの頭はフル回転しはじめます。

■2~6歳のいまだから渡せる一生モノのギフト
著者の植野氏は、数学を教えて35年の経験から、幼少時の習慣が数学(算数)の力を育てることを実感しています。日々、いつでもできる話しかけで、お子さんに生涯使える大きなギフトを贈ってあげてください。

  • 本記事は公開時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください。

PICK UP -PR-

関連記事 RELATED ARTICLE

新着記事 LATEST ARTICLE

PICK UP -PR-