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報道が過熱中! 富士山の世界遺産登録ってホントは何がすごいの?

世界遺産への登録可否を調査する「国際記念物遺跡会議」という諮問機関が、ユネスコへ「富士山」(山梨県と静岡県)を登録するよう30日に勧告を出しました。これを受けて、富士山が世界遺産への仲間入りに向けて大きく前進したというニュースが、新聞やテレビなどのメディアで大々的に報道されています。

でもちょっと待って、まだ本当に世界遺産に決まった訳ではないのに、この騒ぎぶり。なんか変じゃない? そもそも、世界遺産になるのってそんなにすごいことなの? そこで、世界遺産に詳しいNPO法人 世界遺産アカデミー/世界遺産検定事務局の研究員・宮澤光さんに聞きました。

◆自然遺産と文化遺産では、どうちがうのか?

―まだ登録が決まった訳でもないのに、すでに報道がヒートアップしていますね。なぜこんなに騒がれているのですか。

「諮問機関からユネスコに対して、富士山の世界遺産登録を勧告する報告が出されました。過去のケースで、この勧告を受けて不登録になったことはありませんので、世界遺産入りはほぼ確実な情勢だからです。それと、連休に入りニュースがほかにあまりなかったことも影響しているのかも(笑)」

―世界遺産入りがほぼ決定だから、ということですね。それにしても、世界遺産になるってそんなにすごいことなのですか?

「世界遺産自体がすごいのかと言われれば、そんなことはありませんよ。でも世界遺産に申請するにあたっては、遺産を保全するための法整備が不可欠だったり、遺産の必要性や存在意義を突き詰めたりする作業がある訳ですから、そうした過程で、遺産の保全が進み、存在と向き合うということも重要な意味を持つと考えられます」

―今回富士山は「文化遺産」での登録を目指していますが、「自然遺産」とのちがいは何ですか?

「どちらで登録されても、同じ世界遺産に代わりはありません。世界遺産の登録条件は10項目あり、このうち1つでも満たせば世界遺産となります。基準の1~6で登録された物件は文化遺産となり、基準の7~10で登録された物件は自然遺産となります。それぞれにまたがる物件は複合遺産となります。かつて富士山は自然遺産での登録を目指して挫折した経験があります。すでに人の手が加わっていたり道が整備されていたことが理由でしたので、今回は文化遺産としての登録を目指していました」

―富士山は世界遺産になる前からすでに有名ですから、今さら世界遺産に登録される必要性はあるのでしょうか。

「世界遺産というブランド効果で、世界中から訪れる人が増えますよ。今回の立候補には山梨県と静岡県が関わっていますが、富士山をめぐる観光としてはこれまで静岡県を山梨県がリードする格好でした。それが登録によって静岡県側も盛り上がるでしょう。ただ有名な山だというだけでなく、世界遺産の山を見るという響きが、国内だけでなく世界中から人を呼びます。あと、世界遺産の山なんだというと、ちょっとうれしくなりますよね」

◆過去に2例、世界遺産登録が抹消されたケースも!?

―日本側は三保松原(みほのまつばら)を含めての世界遺産入りを目指していましたが、今回の勧告では三保松原を除外するよう求められたのは?

「信仰と芸術の両面で富士山の価値を主張していましたが、富士山から距離が離れていることがネックになっているようです。このまま含めて申請しても、登録される可能性は十分あるとは思うのですが、今年6月の登録を決定するユネスコの会議で、もめる可能性がありますので、日本側の対応が注目されます」

―世界遺産入りすると永久にそのままなのですか。

「いえ、定期的に保全報告書をユネスコに提出することになり、保全状況を見て経過を判断されます。過去に2例ほど登録抹消されたケースがあります。ドイツにあるドレスデン・エルベ渓谷と、オマーンのアラビアオリックス保護区です。エルベ渓谷は、旧市街地と新市街地に橋を架けたことによって、世界遺産周辺の開発をしたとされ除外されました。アラビアオリックス保護区は、該当地域の油田開発のため、アラビアオリックスの生息地の9割にあたる面積を破壊したとして除外されています」

―世界遺産は現在どれくらいあるのですか?

「世界中で962件、日本では16件です。ヨーロッバが特に多くイタリア、スペイン、フランス、アジアなら中国が多いです。石造りの建造物が多いことが大きいですね。世界遺産のはじまりは1972年。国連のユネスコ総会で採択された世界遺産条約に基づいて物件の登録がはじまりました」

―今回は、同時に登録を目指していた「鎌倉」(神奈川県)には不登録勧告という厳しい結果が突き付けられました。

「このまま本会議で不登録となってしまうと、今後の復活もやや厳しいでしょう。今年6月に向けてが正念場ですね。鎌倉が不登録となった理由のひとつに、建造物が残っていないことが挙げられます。日本は木造建築が多いので、なかなか形として残らないので、評価されにくいのです」

今年6月、ぜひ世界遺産に登録されるといいですね!

 (小池直穂/マイナビウーマン編集部)

※この記事は2013年05月01日に公開されたものです

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